雪の花-二十四
-願い、想い、最後に…- 瞬間、何が起きたか理解できなかった。 伽羅御所の者が父上の仇に来たとわかった時、 やはりかと思い覚悟した。 だがその時、 「泰衡様!!」 必死の叫び声と共に、目の前に白いものが。 そしてそのまま紅く染まった。 *** 「…っ!!、お前!」 俺の目の前を赤く染めたもの…それはの血だった。 は俺を庇い、斬られたのだ。 そしてそのまま崩れるように倒れた。 「!!」 慌てて抱き起こしたが、その鮮血の量は凄まじく、 の白い着物は見る見るうちに紅くなっていった。 「!!」 俺が再度、必死の思いで名を呼ぶと はうっすらと目を開き、俺を見、そして伽羅御所の者達を見た。 生気は失われてはいないが弱々しい瞳だった。 そんなの様子に伽羅御所の者も慌てている。 俺を始末するつもりだったのにこんなことになってしまったのだ、 無理もないだろう。青い顔で立ち尽くしていた。 すると、がゆっくり口を開いた。 「伽羅御所の方達…お願いです。どうか泰衡様を恨まないで。 貴方がたのお気持ちはわかります…。 御館様…秀衡様のことが大切なら許せないのは当然です…。」 ゆっくりと紡がれた言葉…、 は一瞬苦しそうに顔を顰めたが、それでも言葉を続けた。 「でも、泰衡様は決して私利私欲のために…こんなことをしたわけではありません。 …泰衡様は、泰衡様なりに平泉を思っての行為です。 たとえ、許されないとわかっていても、たとえ、ご自分の手を汚す事になっても…。 ……たとえ、ご自分の命を…狙われることになっても。平泉を…守りたかったんです。」 「「……………」」 切れ切れに紡がれるの言葉に、 伽羅御所の者も俺も言葉が出なかった。 「泰衡様は…きっと誰より…平泉の地を愛しているんです。 そして、秀衡様も…。――っ!!」 そこまで言うと、は激しく咳き込み、吐血した。 「!!」 「泰衡様…すみません。わしら…」 「っ!すぐに薬師を!」 伽羅御所の者たちはそういうと急いでその場を立ち去った。 血まみれで苦しそうなを見ていられなくなったのか…、それともの言葉が…。 「…何故俺を庇った…。」 俺は息も絶え絶えのを見下ろすと静かにそう呟いた。 もう神子の見送りに行っているものとばかり思っていたのに…。 「泰衡様…。」 苦しそうに目を閉じていたが再び目を開け、口を開いた。 「伽羅御所の方達を怒らないであげてくださいね…。 あの方達も御館様のことを大切に思っているから…やったことです。」 「……。」 自分がこんな目にあっても…の口から出る言葉は、先の者達を庇う言葉…。 本当にお前は…。 半ば呆れつつも、俺が言葉を続けられないでいると、 は再び苦しそうに口を押さえた。 「っ、うっ!」 「っ!!!もう話すな!」 焦る気持ちばかりで俺はどうすることも出来ず、ただの体を抱きしめた。 さっきの奴らはまだ戻ってこないのか…! このままでは…! 最悪のことが頭を過ぎる…。 すると、はふっと微かに笑顔になり、真っ直ぐ俺の顔を見た。 「泰衡様がご無事でよかった…。 今までずっと…ご迷惑ばかりかけていて、…すみませんでした。 でも…最後にご恩返しができてよかった…。」 そして…消えそうな声で言ったのはそんな言葉。 「………最後…。」 「泰衡様…こんな私を…お側に置いて下って…ありがとうごさいました。 …は…泰衡様にお仕えできて幸せでした…。」 「…お前、なにを……。」 「泰衡様…どうか…生きて、幸せに……。」 ふっと風が吹いて、の姿は消え、腕の中で雪が舞った。 そして同時に白い雪の花が紅い血の上にふわりと落ちた。 駆けつけたのは…神子様? それとも… Back Top 2008.11.18
次が最終話になります!
最後は分岐になっていますので、二通りのEDをお楽しみ下さい! |