雪の花-弐
-咲いた花は小さく- 庭であの女と金がじゃれあっている。 …どうしてこうなったのか? *** 「ならば、この屋敷で働くか?」 その言葉に女は驚いて、大きな眼をさらに見開いた。 実際、口にした俺も驚いていた。 何故こんなことを言ったのか、口が勝手に言っていたのだ。 「…丁度、賄いの女が一人里帰りをしている、替りにお前を雇っても構わないが?」 これは本当だ。それを聞いて銀も納得したのか、 少し驚いたような表情だったのがいつもの笑顔になり 女に優しく声を掛けた。 「悪い話ではありませんよ。ここにいた方が貴女も安全でしょう?」 「…」 女はどう答えたらいいのか悩んでいるのか、複雑な顔だ。 「でも…私…」 シュンと俯いて絞りだすような声で呟いた。 「家事は苦手か?」 「いえ…そんなこと…ない…です?」 俺が問うと女は顔をあげ、小首を傾げとりあえず否定した。 「そうか、なら問題はない。銀。」 「はい、泰衡様。」 「一先ず、俺の部屋に連れていけ。」 「はい。ではこちらです、どうぞ。」 「え?え!」 銀に手を差し出されて女は困惑したように俺の方を見た。 まだ、確実な返事もしていないのに決定しているのか? と、尋ねるような眼だ。確かに多少強引かもしれないが、こうでもしないと、 いつまでもここで押し問答することになりそうなので連れていくことにしたのだ。 「お前、名はなんという?」 「え、え…っと」 *** 「」 「あ、は、はい!」 「なにを遊んでいる。」 「す、すみません。」 俺が呼ぶと、は慌てて駈けてきた。 金も後ろからついてきている。“”それがこの女の名前だ。 結局、は困惑していたものの、銀に連れられ言われるままに屋敷へ入って行った。 強引に連れ込む形になったが、 は結局特に抵抗もしなかった。 そして今、少し遅れて俺が部屋へ行くと、 は庭で金とじゃれていた、と言うわけだ。 ** 慌てて駈けてきたは、不安そうに俺を見上げた。 金とじゃれていた時は笑っていたのに、俺を見るときは 怯えたような不安そうな顔になるに少し苛立った。 …そんなに俺が恐いのか? イライラした気分が顔に出ているのか、 がますます不安そうな顔になる。 「…」 がなにも言わないので、俺が口を開こうとした時… 「わん!」 金がに飛び付いた。 「わっ!?」 金が背中に飛び付いたので は前に押されるように倒れ、 前のものにぶつかった。 …即ち、俺に。 「すみません!すみません!」 は何度も頭を下げて謝った。すでに半泣き状態だ。 俺にしがみ付いた状態でひたすら頭を下げて謝っている。 「金…、おとなしくしていろ。」 の背中に乗っている金に向かって言うと、 金はしぶしぶと言ったように下りていった。 「大丈夫か?」 俺はの腕をつかむと立たせた。 「は、はい!」 は驚いたように俺を見ると、次の瞬間 「ありがとうございます。」 にっこりと微笑んだ。 今まで、俺の方を向いている時はずっと不安そうな 顔だったの突然の笑顔に、俺は少し狼狽えた。 「…今のは金の責任だ…お前が気にすることはない…。」 何かわけのわからないことを言って、から少し離れ顔を背けた。 なんとなく、顔を見られたくなかった。 「それで…ここで働く気はあるのか?」 庭の方を眺めながら、にそう尋ねた。 ここまで連れてきて、今更聞くこともないかもしれないが、 に無理強いはしたくなかった。 「…本当によろしいのですか? 私、そんなに何もできないかもしれませんし、 さっきの…ことも。…このお屋敷に迷惑がかかるかも…」 また段々と声が小さくなっていくを見ると不安そうな顔で俯いている。 「迷惑かはお前の働きを見てから判断する。」 俺がそう言うと、は顔を上げた。 「雇えぬのなら始めからここまで連れてはこぬ。」 はじっと俺の顔を見ていたがそれを聞くと、 さっきと同じ嬉しそうな顔で笑うと、もう一度 「ありがとうございます!」 と今度は元気よく言った。 真っすぐ向けられた笑顔に顔が熱くなるのがわかった。 さっきは突然で驚き狼狽しただけだと思っていたが、 今度は自分でも照れているのがわかった。 そんな顔を向けられることがないから、慣れていないだけだ。 そう自分に言い聞かせると、に背を向けた。 「ならば、あとのことは銀に聞け。」 それだけ言うとその場を立ち去ろうとしたが 「あ、あの…」 が何か言おうと口を開いたので、顔だけ少し後ろを向いた。 「…ありがとうございます。…藤原様?」 は尋ねるような口調でそう言った。 「……泰衡」 「はい?」 「お前のことは俺が連れてきた。 仕える主の名ぐらいは覚えてほしいものだな…。」 少々皮肉を込めたような言い方をすると、 は少し慌てたが、 「は、はい!よろしくお願いします!泰衡様!」 ペコリと頭を下げた。 「まあ精々がんばることだな…。」 最後まで皮肉な言い方しかできなかったが、 俺を見送るの表情はずっと笑顔だった。 その顔を見て安堵し、今後が楽しみだと思ったことを この時の俺は気付いていなかった。 Back Next Top 2006.10.17
第二話です。
一話目と一応繋がっている感じですかね? 主人公が泰衡様のお屋敷で仕えるまでの経緯です。 というか!!泰衡様こんなんかな〜(><) と、慌てまくった作品ですね〜うう〜かっこよく書けてるのかな?? 泰衡様ファンの方々すみません!!本物はもっとかっこいいですよね! まあ、お許しください〜m(__;)mまだ二つめだし…(^ ^;Δ さてさて、今回は結構きりが良いと思います! でも、短いですよね…がんばらないと!この先! でわでわ!読んでくださった方々ありがとうございます!(^-^)/ |