雪の花-十七
-青龍- 「あれ…?」 掃除と洗濯、自分の役割の仕事を終え、庭へやってくると、 いつもはすぐに目にする存在が居なくて、は首を傾げた。 「金さん?金さ〜ん?」 呼んでみたが返事もない。 「またどこか…お一人で出られたんでしょうか…。」 然程めずらしいことなわけではないが、 一応いつもこの時間はいてくれるのに…と、 少し気になったは金を探しに出かけることにした。 *** 「金さん?」 「金さ〜ん!」 二人で良く散歩に行く場所を見て回っては呼び掛けてみるが、 やっぱり姿はなく…は最終目的地(?)であるお寺の境内に到着した。 境内もあちこち見回ったが姿はない。 「金さ〜ん?」 は本堂の床下を覗き込み、名前を呼んでみた。 「何やってんだ?お前…?」 「え?」 そんなの呼び掛けに答えたのは男性の声。 驚いて振り向いただったが…… ゴッ!! 「!!」 「〜〜〜〜っ!?」 床下に潜り込んでいたため、振り向きざまに頭をぶつけてしまった…。 あまりの痛さに声も出ず、その場に崩れたに、声の主が慌てて駆け寄った。 「何やってんだよ;大丈夫か?」 「〜〜〜はい…;」 屈み込んだまま、頭を押さえて答えたに男性は苦笑いした。 そしてそっとの頭に手を乗せると、 「痛いの痛いの〜飛んでけ〜。」 と言ってポンと頭を撫でた。 「………」 「な、もう平気だろ?」 そんな言葉で怪我が治るわけではないのだが、 その優しい声に安心し、痛みがひいた気がしたのは事実だった。 「………ありがとうございます…。」 苦笑いして顔を上げ、お礼を言ったに 笑顔を返してくれたのは、地の青龍将臣殿だった。 *** 「何やってたんだ?」 蹲っていたを立たせ、 お寺から帰る道を同行しながら将臣殿がに尋ね、 「金さんが…」 と、は金の姿が見当たらず、探して歩いていたことを話した。 「あ〜…大丈夫だろ?犬だってたまには一人でふらふらしたいんだろうさ…。」 「それはそうですが…金さんに何かあったら泰衡様が心配されます…。」 しゅんと暗い顔になり、本気で心配していることが見て取れるの顔。 将臣殿は苦笑いしてまたの頭を撫でた。 「大丈夫だって!ってか、アイツがそんなことでそんなに心配するか?」 常時厳しい顔をしている藤原の総領殿の顔を思い出し、将臣殿は笑って尋ねた。 将臣殿の言葉に顔を上げたは少し考えるように首を捻ったが、じっと将臣殿の顔を見ると、 「心配しますよ…。」 と言った。 「泰衡様は金さんのこと、とても大切に思っておいでですよ?」 「そうか?」 「はい!金さんも泰衡様のことをとっても信頼していますし、すごく好きですから。」 「……そっか。」 「はい。」 真っすぐ顔を見返し、熱心に答えるに、将臣殿は微笑ましく笑った。 こうしていつも一生懸命で真っすぐな所が、この素直な心が、 あの堅物の総領殿の心を解している要因なのだろう…と。 「なら、俺も探すのを手伝ってやるか…。」 「え…?」 一生懸命なに心打たれたのか、将臣殿はそう言った。 「……よろしいのですか?」 「ああ、どうせ退屈していたからな。」 「………ありがとうございます。」 恐縮し、少し躊躇うような素振りをしただったが、 将臣殿がを見て、パチッと片目を閉じてみせると、 は笑顔でお礼を言った。 *** 「しかしな〜、何処をどうやって探せば良いんだ?」 てくてくと、とりあえずと連れ立ち、 町を歩いていた将臣殿だったが、ふと気付いて呟いた。 既にが心当たりの場所は見て回った後なのだから 見る場所も思い当たらず、ただ歩いているだけのようなものだった。 「いつも散歩に行く場所はもう見たんですけど……あっ!」 も困ったように答えたが、何かに気付き声を上げた。 「何だ、いたのか?」 「金さん!……痛っ!」 金の姿を見つけたのか、は慌てて駆け出そうとしたが、 誰かにぶつかってしまった。 がぶつかったのは強面の男で、 に気付くと男は不機嫌そうにを睨み付け、 「気を付けろ、糞餓鬼!」 と言ってを突き飛ばした。 「…きゃ!?」 「!…おっと…大丈夫か?」 「……っ…大丈夫です…」 突き飛ばされたを将臣殿は慌てて支え、 キッと男を睨み付けた。 「待てよ、てめーそりゃひでぇんじゃねぇか?」 「ぶつかってきたのはそっちだろ?」 「だからって、子供相手に手あげなくてもいいだろ?」 「何だ?小僧…やるのか?」 男は相当機嫌が悪いのか、 将臣殿にも鋭い視線を向け突っ掛かってきた。 「あの!すみませんでした。 ぶつかったのは私ですから、ご無礼お許し下さい!」 一触即発の二人の雰囲気には焦り、自分のせいで二人が揉めてはと、 慌てて二人を止めようとし、男に頭を下げた。 深々と頭を下げたに、将臣殿は納得がいかないように 苦い顔をしたが、男は面白そうにを見下ろした。 「ふ……ん…。」 そしてジロジロとを眺め回すと、ガッとの腕を掴んだ。 「!?」 「何すんだ!」 驚くと将臣殿。 だが、男は悪怯れた様子もなく意地悪く笑うと、 「無礼だと思っているならきちんと詫びを入れてもらおうか?」 と言ってを引きずっていこうとした。 「テメェ…いい加減にしろよ…」 「貴様こそ手を放さなければ痛い目を見るぞ?」 険悪な雰囲気になってしまい、はオロオロと慌て、 将臣殿は男にかかって行こうとしたが、丁度その時、 先に男に攻撃したのは別のものだった。 「わん!」 「痛ェ!?」 「金さん!」 金が男の腕に噛み付き、たまらず男はを放した。 「金!どうした!」 金に続き、駆け寄ってきたのは九郎殿。 「九郎。」 「糞!放せ!この犬が!」 男は腕を振り上げ、金を振り払おうとしたが金は噛み付いたまま離れず、 苛立った男は反対の腕で金を殴り付けようとした。 「金!」 「やめろ!」 そんな男の行為に九郎殿は慌てたが、 寸での所で将臣殿が男の腕を掴んで止めた。 「放せ!」 「今度は犬相手に…大人気ねぇな。」 「金!離してやれ!」 金は怒っていたが、九郎殿がそう言うと止めて男から離れた。 「金さん!……ありがとうございます…!」 は慌てて金に駆け寄ると男から離れた金を抱き締め、 金も嬉しそうにの顔を舐めた。 二人の様子に将臣殿と九郎殿は安心したように息をついたが、 腹の虫が納まらないのは男でと金を睨んでいたが、 将臣殿と九郎殿の二人に睨まれ少し怯んだ。 その上… 「何を騒いでいる…。」 男の背後から低い声が。 「「泰衡」」 「泰衡様!」 「わん!」 男の後ろには泰衡様と銀が立っていた。 「…泰衡…?」 男は振り返り、訝しげな様子で泰衡様を眺めていたが、 何かに気付き少し慌てた様子になった。 そして、そこをチャンスとばかりに将臣殿が口を開いた。 「こいつや金にいちゃもんつけて、手あげようとしたんだぜ?」 の頭に手を乗せ、将臣殿は男を見、泰衡様を見た。 「何…?」 途端に泰衡様の表情が険しくなる。 や金に手を出そうとした。などと聞けば当然だろう。 「…………」 無言で男を睨み付ける泰衡様の迫力と威圧感は将臣殿たちの比ではない…。 やがて泰衡様は、 「……銀」 と低く呟いた。 「はい、泰衡様。」 泰衡様に名を呼ばれた銀はすべてを了承した。 と言う風に頷き、男を従えて場を離れた。 もちろん男は抵抗したが、有無を言わせない泰衡様の迫力勝ち…とでも言うべきか。 「…大丈夫か?」 男が去っていくと泰衡様はに近付き尋ねた。 「はい、金さんが助けてくれましたから!」 「わん!」 が笑ってそう言うと、返事をするように金が鳴き、 泰衡様はが抱いている金の頭に手を乗せ、 「よくやった…。」 と言った。 「わん!」 泰衡様の言葉に金が嬉しそうにもう一度鳴いた。 「「…………」」 驚く程優しい声音の泰衡様の声と言葉に、将臣殿と九郎殿が驚いていると、 二人の視線に気付いた泰衡様が顔を上げた。いつもと変わらない仏頂面。 そして… 「白龍の神子を守る八葉が犬に遅れを取るとはな…」 将臣殿と九郎殿の二人を見、皮肉をこめた口調でそうはき捨てた。 「…な!」 泰衡様の言葉に九郎殿は眉をしかめ反論しようとしたが、将臣殿が制止した。 言いたい事を言い、ふいっと顔を背けた泰衡様に苦笑いしながら。 「ところで…。」 「はい。」 「こんな所で何をしている…一人で出歩くなと言っているだろう…」 少し厳しい表情になり、泰衡様はそう言ってを諫めた。 「は、はい!すみません…でも…金さんが…」 「金?金がどうした?」 「えっと…金さんがいなくて…心配で…」 反省してはいるが、一応出歩いたことの言い訳(?)を、 はしどろもどろになりつつ呟いた。 の話を聞いて泰衡様は盛大なため息…。 「金が出歩いているのはいつものことだろう…。」 「はぁ…そうなんですけど…、でも…」 呆れた様子で言った泰衡様には肩を竦めて小さくなった。 金のことは心配なくないがいつものこと、ならそれよりも…。 「お前のことが心配なんだってよ。」 将臣殿はポンとの肩を叩いてそう言った。 「え?」 その言葉に、は不思議そうな顔を将臣殿に向ける。 同時に泰衡様は眉をしかめたが、丁度銀が戻ってきた。 「お待たせ致しました泰衡様。」 「…………」 銀が戻ってきたことで、もう行かなければならなくなった 泰衡様は何とも複雑な顔でを見下ろした。 「…」 「はい。」 「金も見つかったのなら、もう屋敷に戻れ。」 「はい。」 「銀…お前はを屋敷に送れ。」 「え?」 に言い付け、続けて銀を振り返り言った泰衡様には驚いた声を上げた。 「泰衡様…あの…別に銀さんに送って頂かなくとも私一人で戻れますよ?」 屋敷に戻るだけなのに、わざわざ銀さんの手を煩わせる必要は… は不思議そうに首を傾げたが、泰衡様は納得しかねるとでも言うような、 憮然とした表情で答えた。 「先のことを忘れたのか?…お前一人では…また面倒を起こすだろう…。」 「……う…;」 仏頂面で睨まれ、先の失態のことを指摘され、は言葉に詰まった。 将臣殿や九郎殿、そして金に迷惑をかけたことは事実なのだ…。 泰衡様は決して責めているわけではないが、…表情と口調がどうもキツイ泰衡様。 は申し訳なさそうに俯き、銀は苦笑いした。 「俺は先に行く。お前は後から顔を出せ銀。」 「はい、かしこまりました。さあ、さん…。」 ふいっと背を向け、立ち去ろうとした泰衡様。 とそこへ、 「待てよ、俺たちの存在は無視かよ。」 苦笑いと共に漏れたような声。 「わざわざ銀使わなくても俺たちがいるだろ。 こいつは俺たちが屋敷に送ってやるよ。な?九郎?」 九郎殿を振り返り、そう言ったのは将臣殿。 「え?あ、ああ…。」 声をかけられた九郎殿は突然で驚いていたが、首を縦に振った。 二人の提案に銀は、如何致しますか?と尋ねるような視線を泰衡様に向けた。 「…………」 泰衡様は歩みを止めたが振り返ることはせず、返事もしないで黙り込んでしまった。 「泰衡?」 九郎殿は不思議そうな顔をし、将臣殿は楽しそうに笑った。 二人の提案、泰衡様とて考えないわけではなかった。 が、やはりを二人に預けるのは抵抗があるらしい。 なかなか返事をしない泰衡様に痺れを切らせた将臣殿はの手を引き駆け出した。 「心配しなくともちゃんと送ってやるよ!じゃあな!行くぞ、九郎。」 「な!ま、待て!まだ返事は…」 「あ、おい!将臣。」 足の早い将臣殿と後を追って行った九郎殿はあっと言う間に行ってしまい、 「おい!銀!!」 泰衡様はキッと銀を睨み付けた。 「まあまあ泰衡様。あのお二人なら心配せずとも無事に送り届けて下さいますよ。」 「そういう問題ではない!!」 「…ならどういう問題ですか?」 「……ぐっ;」 泰衡様の心境、わかっているのに尋ねた銀に、泰衡様は返事に詰まった。 「…………もういい…行くぞ…。」 「はい♪」 泰衡様完敗…。 朱雀の二人よりはマシではあれど、 青龍の二人も泰衡様にとっては厄介な存在であるようである…。 Back Next Top 2008.01.10
第二段は青龍コンビ!九郎殿と将臣君です〜!
…と言っても九郎さん出番少な過ぎ;台詞少なすぎ; 将臣君も絶対なんか違う!非似だし〜偽者全開だ〜(@△@) う〜ごめんなさ;ごめんなさい〜!難しいです…!(泣) 泰衡様と銀は相変わらずで…。 泰衡様はホント主人公が八葉と関わるの嫌みたいですね…;(笑) |