雪の花-十三
-涙の花、雪の花- 「頭!」 とある部屋の前まで行くと、部屋の前に座り込んでいた男が 慌てて立ち上がり、先の男に駆け寄った。 俺を見て不審そうな顔をし、何事か耳打ちした。 だが男は構わず部屋の扉を開けるように男に指示した。 男はまだ納得のいかない顔をしていたが、渋々といった感じで扉に 鍵を差し込み扉を押した。重みを感じる音がし、ゆっくりと扉が開いた。 部屋の中は真っ暗で、どこまでも深い闇が続いているようにさえ感じた。 だが、じっと先を見つめると白い影が浮かび上がった。 次第に目が慣れてくると、その姿に唖然とした。 「……っ!!!」 たまらず声をかけると、は俺の声に驚き、顔を上げた。 「や、泰衡様…!?……ど、どうして……。」 驚き目を見開いているだったが、驚いて動揺しているのは俺の方だった。 は暗い部屋の奥、手足を鎖に繋がれ、額からは血が流れ白い着物が紅く染まっていた。 その痛ましい姿にさすがに動揺し、俺は思わずに駆け寄ろうとした。 「泰衡様!!」 するとが慌てて叫んだ。 と同時に、背に衝撃が走り俺はその場に膝をついた。 「…っ」 油断してはならないと頭では理解していたが、 ボロボロのを目の前にして奴らに対する注意がそれてしまったのだ。 「くくく…まさかここまでとはね…さっきまでの冷静さはどこへやら …こうも巧くいくとは…。」 先の男は嬉しそうに俺を見下ろし、隣にいる男に目で合図した。 どうやら俺を殴ったのはもう一人の男のようだ。 先の男の合図を受けて、もう一人の男は再び俺に攻撃しようとした。 避けようとしたが、先の傷が思いの外深く、動きが鈍っていたため 俺は再び殴り付けられその場に倒れた。 「やめてぇ!!」 必死の思いでが叫び、ジャラジャラと鎖が音をたてた。 は繋がれた状態で立ち上がり必死の思いで懇願した。 「お願いです!これ以上は…泰衡様には……」 は泣いていた。するとの足元の草が真っ白な花を咲かせた。 この部屋がおそらく雪の花を作る部屋なのだろう、 よく見ると床には雑草が所狭しと生えている。 の涙があたると草が次々と花を咲かせた。 そういうことか…。 俺はまんまと奴らの罠にかかってしまったのだ。 に会わせたのは俺の動揺を誘うためと、 に涙を流させるのが目的だったのだ。 目の前で俺を痛め付けることで…。 「………。」 「泰衡様!……ごめんなさい…ごめんなさい泰衡様。…っ」 は鎖に縛られながらも懸命に俺の元へ来ようとした。 そして必死に謝っている。そんなにあの男が声をかけた。 「……お前が一人で泣かないから、お前の主が辛い目に合うのだ。」 そう言い、俺の傍へ近付き腰の刀を抜いた。 「!!や、やめて!なにを…っ!」 はぽろぽろと涙を零し、必死に抵抗した。 腕も足も鎖が食い込み血塗れになっている。 男はそんな必死のに畳み掛けるように言葉を発した。 「ここで主の命を尽きさせたくないのなら、我らに忠誠を誓え。 二度と逃げ出したりはしないとな!」 俺の首元に刀を突き付けの返事を待っている。 俺は激しい怒りを抑え静かに口を開いた。 「俺もなめられたものだな……。」 「なに……?」 次の瞬間、男が刀を突き付けていた俺の姿は消えていた。 ほんの一瞬の出来事、俺が背後から男に斬り付け立場は逆転していた。 床に倒れていたのは陰陽術で作り出した残像だったのだ。 「ぐっ!」 男は刀を落とし床に倒れた。 「貴様!」 もう一人の男も俺にかかってきたが、俺に届く前に終わっていた。 「わんわん!」 「泰衡様!ご無事ですか?」 金と銀が部屋に駆け込んできた。 男は銀によって切り捨てられたのだ。 「問題ない。」 銀に返事をすると、俺は急いでの元へ向かった。 「、大丈夫か?」 俺がの手足に繋がれている鎖を切り離すと、 はへたりとその場に座り込んだ。 「?」 はぼろぼろと泣きだし、顔を手で覆うと、 「ごめんなさい、ごめんなさい…泰衡様…!」 と繰り返した。 「俺は大丈夫だ。怪我もない、心配はいらん。」 「でもっ!……私のせいで…っ!」 は堰を切ったように泣きだし繰り返し謝った。 「もういい…もう大丈夫だ。」 俺はそう言い、の肩に手を掛けると静かに抱き寄せた。 その時、あの男がゆっくりと起きだし落とした刀を拾い上げると俺の方へ刀を向けた。 俺は後ろ手にかまえたが、銀が先に動き男の刀を薙払った。 驚いたが顔を上げたので俺は振り返り、男に止めを刺そうとした。 「!!やめてください!泰衡様!」 その時が俺の着物を掴んで慌てて叫んだ。 「なに…?何故だ?今までお前を苦しめた奴だろう…!」 俺はの行動の意味がわからず、不審に思いを振り返った。 は泣きながら必死の表情で口を開いた。 「そう、ですけど……でもっ! 私…もうこれ以上、誰かが傷つくところを見たくないんです……!」 はそう言うとまた顔を伏せた。
「お願いします…泰衡様…。」 微かにそう聞こえた……。 の言葉に俺は男に向けていた刀を下ろした。 「くく……相変わらず甘い女だ…。」 男はゆっくり体を起こすとぼそっと呟いた。 腹立たしかったが、がこう言っている以上ここにいる必要もない、 早く戻っての手当てをするのが先決だと思い、床に座り込んでいるに声をかけた。 「、帰るぞ。」 「え?」 「?」 俺が声をかけるとは驚いたような顔になった。 「どうした?」 「え…あの、私…。」 何故かひどく不安そうな顔をしている。 「…屋敷に戻らないつもりなのか?」 俺がもう一度問い掛けると、 「…よろしいのですか?」 躊躇いがちに俺を見てそう言った。 「なにがだ?」 訳が分からない俺が再び問うと、 「鈍いな…総領殿。」 あの男が口を開いた。 苛立ちつつもあの男に視線を向けると、男が続けた。 「その女は人間ではないんだ…、 そんな奴を屋敷においておくつもりなのか?」 「…………っ」 男の言葉にが下を向いた。 ……なるほど。そう言うことか。 「何を今更。そのつもりがなければわざわざこんな所へ出向くものか。」 さも当然だと言う風に口にした俺の言葉に、も男もきょとんとした顔になった。 「帰るぞ、。」 俺は素っ頓狂な顔をしていたの手を取るとそのまま部屋を後にした。 「……ありがとうございます…泰衡様。」 部屋を出た時聞こえた声、ふと後ろに目をやると、が嬉しそうに笑っていた。 今まで見た中で一番の笑顔だった。 お前が何者かなど関係はない、お前はお前だ。 これからも……俺の傍にいろ…。 口にはできなかった言葉。 だが、はっきりと心には刻まれていた。 今はもう、こいつは俺にとってはなくてはならない存在になっていたのだな。 『 微かにあの音が聞こえた気がした。 を助けられたのはあの音のおかげか…。 銀、金も屋敷から出てきたのを確かめると、 しっかりとの右手を握りしめ、そのまま屋敷への道を歩いた。 Back Next Top 2007.07.25
はい!何とか主人公救出!
オリジナル要素濃い目のシリアスなお話お付き合いありがとう御座いました! どうでしょう?泰衡様…かっこよかったですか? 少しでもそう思って頂けたら嬉しいですv さて!重大なお話(?)は済みましたので、次はいよいよ! 神子様一行が登場する…かもしれません。 |