「凄い!凄く積もってますよ!」 一面真っ白の屯所の庭を大喜びで駆け回る人物を、 縁側にいる面々は微笑ましく眺めていた。 お騒がせバトル‐前編 「斎藤さん!山崎さん!永倉さん!原田さん!凄い雪ですよ!」 屯所の入り口辺りで足を止めたは振り返り、 満面の笑顔で手を振った。 「ああ、見りゃわかるって。」 「ちゃん元気ね〜寒くないのかしら…」 「年寄りくせぇぞ山崎。」 「なんですって!?」 「、気を付けないと転ぶぞ。」 縁側にいる面々もそれぞれ返事をし、 寒いながらものんびりとした穏やかな朝だった。 昨夜のうちに随分降ったらしく、朝には一面雪景色になっていて、 雪が好きなは大喜びではしゃいでいて… 「あっ…!」 斎藤さんの忠告どおり転びそうになった。 「!」 「!」 皆慌て、斎藤さんは直ぐ様駆け寄ろうとしたが、 その前に入り口から入ってきた人影がの腕を掴んだ。 「……」 「……」 お陰では転ばずに済んだが、 を助けた人物は黒い布を羽織り、 頭にも目深に布を被っているので顔は見えない。 ただ、背がかなり高いことから男性と思われた。 皆少し不振に思いながらも、 助けてくれたのだからと黙って様子を伺っていたが、 男は振り向いてお礼を言ったを抱き締めた。 「「「「なっ!!?」」」」 その行動に一同一瞬言葉を失い、斎藤さんは殺気立ち、 すかさず刀に手をかけ二人に近づいたが、 男がの耳元に口を寄せ、何事か囁くと、 はぱっと嬉しそうな顔をし、今度はの方が男に抱きついた。 「「「「!!?」」」」 再び一同は絶句したが、感の良い山崎さんだけは気付いたようだ。 そもそもがそんなことをする相手は一人だけ…。 「おかえりなさい、兄上…!」 「ただいま、。」 「…え」 一番近くにいた斎藤さんには二人の会話が聞こえたらしく、 斎藤さんが刀にかけていた手を離すと、男は頭の布を取った。 すると現われたのはと同じ、橙色の茶髪の髪。 「やあ、久しぶりだな。」 男、はそう言って皆に笑顔を見せた。 *** 「ホント、いつものことながらいきなりだよね。は…。」 「……悪いか?」 「別に。」 正体が明らかになった客人は、いつもの如く近藤さんの部屋にいた。 唐突にやって来るのはいつものこと。そしてまたいつもの会話をしている。 「でも、兄上に会えて嬉しいです。」 そこへお茶を持ってきたがそう言った。 その言葉を聞いては嬉しそうに笑う。 「大分寒くなって…雪が降ってきたからな。 雪を見て喜んでいるお前の顔が見たくなったんだ。」 そしてそう答えてを手招きし、 傍へ来たを再度抱きしめた。 「それに……寒い時はやっぱり暖かい人に逢いたいだろう?」 そっと優しく髪を撫で、顔を埋めて、 はそう言ってに囁いた。 「………///」 いつもの事ながら少し過剰とも思えるスキンシップに 見ている近藤さんの方が照れた。 「お〜い、。誠のやつが…」 「にゃ〜」 「お前でないと…」 とそこへ、誠を連れた永倉さんと斎藤さんがやって来た…が… 「「…………」」 抱き合っているとを見て固まった。 「にゃー!」 唯一抗議の声を上げたのは誠で、威嚇しながらに近づいて行ったが、 が手を伸ばし、喉を撫でてやると大人しくなり、ゴロゴロとに懐いた。 「が拾った猫ってこいつか?」 「はい」 「可愛いじゃないか。な、誠?」 「にゃ〜ん♪」 以外には(鈴花さんや才谷さんはマシだが) あまり懐いてくれない誠。 特にに近づく男性には厳しいのに、にはあっさり懐いた。 やっぱり兄妹だと言うことが誠には分かるのだろうか…。 「「………っ…;」」 ゴロゴロとに甘えている誠を見て、 永倉さんと斎藤さんは複雑そうな顔をした。 正直…永倉さんも斎藤さんも誠に期待していたのに…。 いくら兄妹とわかっていても、にベタベタしている の行動を見ているのは結構キツイものがあるのだ。 むしろ兄妹だから、も抵抗しないし、嫌がらないから、余計にたちが悪い。 はの兄だから、自分達は下手なことも言えないし…、誠に期待していたのに…。 永倉さんと斎藤さんはため息をつき、 の膝の上で気持ちよさそうに目を細めている誠を恨めしげに見つめた。 「凄い…あっさりなついてくれたんだね…。」 「ん?」 誠の様子に近藤さんが感心したように呟いて、は顔を上げた。 「いや…誠…君以外には中々なついてくれなかったのに…」 「そうなのか?」 「うん、やっぱりわかるのかな…。」 「へぇ…」 近藤さんの言葉に、はしばらく何か考えているような顔をしていたが、 ひょいと誠を抱き上げるとにこっと笑って誠を見た。 「そりゃ頼もしい用心棒だな。これからもをよろしくな、誠?」 「にゃあ!」 の言葉に誠は元気よく返事した。 『任せて!』とでも言っているように。 どうやら厄介な用心棒が誕生してしまったようだ。 永倉さんと斎藤さんは再度ため息を漏らしたのだった。 *** 「さんは今日は屯所に泊まるのか?」 「どうでしょう…?」 まだしばらく近藤さんと話をする様子のを置いて、 は誠と斎藤さんと永倉さんと一緒に近藤さんの部屋を後にした。 誠に食事をさせるためだ。 やはり拾い主なので、誠の面倒はが見ている。 (誠がにしか懐いていないからでもあるが) 賄い場に行き、誠に食事を用意してやる間も、 何故か永倉さんと斎藤さんはに付き合ってくれて、 話は先程の会話が続いていた。 「私は兄上が居てくれる方が嬉しいですけど…。」 「それは…まあな。」 「だが、今は部屋の空きがあるかわからないな…。」 「そういえばそうだな。 大掃除とかで空いてる部屋にいらないものを集めてたんだっけか…。」 「あ、そういえばそうでしたね…。」 二人に言われて、は思い出したように呟いた。 に会えてすっかり上機嫌になって忘れていたが、 年末で一応屯所内も大掃除をすることになったので、 今はそのためにいろいろと忙しかったのだ。 「バタバタと慌しい中じゃ休めねェんじゃねェか?」 「兄上はあまり気にしないと思いますけど。」 「だが、一応客だからな。 物置にしているような場所で休ませるわけにもいかないだろう。」 との事は複雑に思いながらも、 やはり気を使う相手であることは変わりないのか、 永倉さんは困ったような顔をし、の返事に斎藤さんも苦笑いした。 いつも突然やってくる兄上、今回も忙しい時に…と、 皆の迷惑になっているのではないかと、少し不安に思っただったが、 永倉さんも斎藤さんも兄上のことを気遣ってくれているようで、 は嬉しそうに微笑んだ。 どんなことがあっても、にとって兄上はかけがえのない大切な人なのだ。 「ありがとうございます、斎藤さん、永倉さん。」 「「ん?」」 考え込んでいた二人は、の声に振り向いた。 見ればは満面の笑顔で二人を見つめていた。 「…ど、どうかしたのか?///」 そんな最高の笑顔を向けられ、 流石の二人も少し照れて尋ね返すと、 は嬉しそうな笑顔のままもう一度お礼を言った。 「いえ、兄上のことそんなに気にして頂いて…。」 「ああ…」 「それは…お前の兄貴だしな…。」 「…ありがとうございます。」 本当に嬉しそうな顔をしているに、 やっぱりがそれだけの人物であることを再確認し、二人は苦笑いした。 もちろんのことを好人物であると思っていることは事実だが、 それはの存在があるからこそだと言うことを、この少女はわかっていない…。 その証拠には悩んでいる二人にとんでもない爆弾発言をした。 「兄上が休む所なら別に、私の部屋でも構いませんし。」 「「……え!?」」 「…え?」 上機嫌な笑顔のまま、さらりと言ったの台詞。 危うくそのまま聞き流しそうだったが、二人は目を見開いて驚いた顔をし、 対するは驚く二人を見てきょとんとした顔をした。 「お、お前の部屋…って…;」 「…一緒に寝る気なのか…?」 「え?…はあ、まあ別に一緒寝るんでもいいですけど…。」 「「…!!」」 「い、良いわけねぇだろ!」 「そうだぞ、それは不味い…!」 「は?え?そ、そうですか…?」 何故か必死の形相になって詰め寄る二人に思わず怯んだ。 後ずさり、賄い場の入り口まで行くと、同時に戸が開いた。 「何だ、こんな所にいたのか。」 戸を開け、そう言って顔を覗かせたのは話題になっている人物。 「兄上。」 「…さん…;」 「?どうかしたのか?…ん?」 「にゃ〜♪」 何故か複雑そうな顔で自分を見つめる斎藤さんと永倉さんに、 は首を傾げたが、足元に擦り寄ってきた誠に気づくと笑顔で抱き上げた。 誠はすっかりになついたようだ。 「で、どうかしたのか?」 誠を抱いてあやしながら、再度尋ねるに、 三人は今日どうするつもりなのかを尋ねた。 大掃除のため、部屋がないかもしれないと言うことも踏まえて。 「何だ、そんなことか。」 話を聞いたは然程気にした様子もなくあっけらかんと答えた。 何か宛があるのだろうか? 斎藤さんと永倉さんはのあまりにあっさりした返事に少し拍子抜けしたが… 「別に、俺はの部屋に泊まるから…。」 続いた言葉にビシッと空気に亀裂が入った。 「何考えてんですか!」 「さん!」 「は?な、何か?」 慌てどよめく二人にもまたと同じ反応をした。 この兄妹は……。 「いくら兄妹でも…」 「やっぱ不味いって…;」 「「?」」 動揺する二人に、 とは不思議そうに顔を見合わせた。 後編へ 戻る 2007.12.29
年末のお話だったので!急遽UPすることにしました!
今回も兄上大暴走、シスコンっぷり爆発ですね〜(滝汗) …かっこいい兄上は一体いつ…(泣) まあ、今回は終始ギャグで主人公より兄上が活躍(?)している 話だと思われますので!兄上のシスコンぶりを堪能下さい! (……どういうことだよ…;) |