お騒がせバトル‐後編




「……何か不味いか?」


近藤さんの部屋。
ぽいっとゴミを箱に投げ入れ、は近藤さんに尋ねた。

が泊まる場所は大掃除が終わればなんとかなる!
と気合いの入った面々に押され、も掃除を手伝うことになったのだ。


「まあ…なんとなくだよ…。」


あまり掃除をする気はなかった近藤さんも、
皆に言われて仕方なく手を動かしながらに答えた。

は一先ず近藤さんの部屋の掃除を手伝っていた。
一人だと中々真面目に掃除をしない近藤さんの見張りを兼ねてと。
だが、当のもあまりやる気がない様子…。


「なんとなく…って言われてもな…。」


またゴミを箱に投げ、ポツと呟いた。
一応ゴミの分別をしているらしい。


「兄妹ってわかってても、
 やっぱり好きな子が他の男と一緒に寝るのは皆嫌なんだよ…;」

「…………」


近藤さんは宥めるように説明をしたが、
それを聞いては不服そうな顔をした。


「んなこと言ったって、俺はとはたまにしか会えないんだ。
 新選組の隊士達はいつも顔を合わせているんだし、
 別に俺が一晩ぐらい一緒にいたって良いだろ。」


むーっと眉を寄せて文句を言うに、近藤さんは苦笑いするしかなかった。
の言い分は決して間違ってはいない、と言うか気持ちはわかる。
溺愛している妹にたまにしか会えないなら、その会える時一緒にいたいと思うのは普通だ。

でも…。


「まあ、気持ちはわかるけどね…。」


これ以上が拗ねると厄介なので、
近藤さんはやんわりと説得を続けていた。

とそこへ、


「お〜い!近藤さん!
 さんが来ちょるちゅうんはまことやか?」


と元気な声の持ち主がやってきた。


「ああ、才谷さん。」

「おお!さん久しぶりやか!」


の顔を見ると、才谷さんは嬉しそうに笑い、
唐突に話を切り出した。


「実はさんにお願いがあるき。」

「お願い?」


の存在を確認した才谷さんはそう言って、
持ってきた荷物の中から何やら取り出した。


「あ、ヴァイオリン?それ?」

「おお!さんはやっぱり知っちょるきに?」

「あ、ああ…。」


の返事に嬉しそうに笑った才谷さんは、
にヴァイオリンを渡しながら話を続けた。


「実はこれを弾いて欲しいんじゃが。」

「え?俺が?」

「そうじゃき。わしも弾いてみたんじゃが、
 いまいち上手く弾けんき、皆にこれが外国の武器じゃと思われたんじゃき。」

「……武器?;」

「じゃから、楽器じゃっちゅうことを証明したいんぜよ。頼むき、さん!」

「……え…けどなんで俺に…?;」

さんが確かさんはヴァイオリンが弾けたって言うちょったき。」

「………」

「頼むぜよ〜わしん面目立てて欲しいき!」

「わ…わかったよ…;」


困惑気味のだったが、
才谷さんの必死の説得に折れ結局はヴァイオリンを受け取った。


、そんな楽器弾けたの?」

「弾けるって言える程じゃ…ちょっとだけだよ。」


渋々ヴァイオリンを構えるに近藤さんは少し驚いたような顔をし、
は複雑そうな顔で答えた。そして弓を構える。

以前才谷さんの演奏(?)を聞いている近藤さんは
少し焦って反射的に耳を塞いだが、が奏でたヴァイオリンの音色は
才谷さんの時とは全く別物だった。


「………」

「おお!凄いぜよ!さん!」


の見事な演奏に才谷さんも思わず拍手。
近藤さんも驚きはしたが、の演奏に正直聞き惚れ、


(……ホント…芸達者だね……)


何でもそつなくこなすに、感心したように心の中で呟いた。


「何の音?」

「聞いたことのない音楽ですね。」


のヴァイオリンが聞こえたのか、
近藤さんの部屋に皆が顔を出した。


「おお!皆ちゃんと聞くぜよ。これが本来のヴァイオリンの音色ぜよ!」


皆がやってきたこと、これ幸いとばかりに、
才谷さんはヴァイオリンの凄さを語りまくった。


「え!これが『あのヴァイオリン』の音!?」

「才谷君の時は凄い威力だったのに…」

「威力ったってあれは失敗だったんですよね。」

「ありゃ、聞けたじゃなかったもんな。」

「そうですね…。」


のヴァイオリンを聴いて、
皆驚きつつも賞賛の言葉を口にし、才谷さんは満足そうだったが、
段々と才谷さんの演奏の酷さに対する言葉にもなっていき少し凹んでいた。


「どうせわしの演奏は聞けたもんじゃなか…酷いもんじゃき…。」


部屋の隅に行ってしまい、
いじけている才谷さんに演奏を終えたは慌てて声をかけた。


「さ、才谷さん;ヴァイオリンは難しい楽器だから…;
 いきなり演奏できるようなものでもないし。
 けど、練習すれば誰でも弾けるようになるよ。」

「まこつぜよ?」

「ああ、ホントホント。俺で良ければ、教えられることは教えるし…。」

「あ〜、さんは優しいのう!さすがさんの兄上じゃき!」

「はは…;」

「おお!そうじゃき、忘れちゅうとこじゃった!」

「何?」


のフォローで何とか元気を取り戻した才谷さんは、
思い出したように手を叩き、慌てて部屋を出ていくと、
部屋の外に置いてあった他のお土産を持って戻ってきた。

他のお土産、それは…。


「いい酒を貰ったんで持ってきたぜよ。
 さんが来た歓迎に皆で飲もうかと思ったき。
 さっきのヴァイオリンのお礼もあるき、さん遠慮なく飲んだらええがや。」

「え…酒…?」

「お!梅さん気が利く〜♪」

「しかも結構上物だしな。」

「しかし凄い量だな…。」


才谷さんの持ってきたお酒を見て、
酒豪の新選組の皆は喜んだが、は少し焦った顔をした。


「いや、俺は…;」


そして口籠もったに、才谷さんは首を傾げた。


「ん?何じゃ、さんは酒豪じゃと近藤さんから聞いちょったんじゃが…嫌いなんじゃか?」


不思議そうに言った才谷さんの言葉に
はギロッと近藤さんを睨んだ。


「勇…」

「いや;…はは;酒豪だなんて言ってないよ;結構酒には強いって言ったの…;」

「同じだろ!馬鹿!それに俺のは強い弱いの問題じゃないし!」

「ご、ごめん;」

「「「?」」」


コソコソと揉めている二人に
才谷さんや皆は不思議そうに顔を見合わせた。


「まあ、とにかく折角梅さんが持って来てくれたんだから飲もうぜ♪」

「まだ掃除は済んでませんが…。」

「ま、中休みってことで。」

さんと鈴花さんは買い物に行ってるし、今のうちに飲んじゃえば…。」

「まあ…二人は飲めませんしね…。」


少し迷っていた面々だったが、
お酒の飲めない女性陣二人がいない今が好機、
とさっさと飲んでしまおうと言う結論に達した。

中々高価なお酒。
大掃除に疲れてしまった皆には我慢も限界だったようだ…。


「あ!じゃあこうしようぜ!」

「ん?」


と、お酒を飲む準備をしていると何か閃いたのか、
永倉さんはポンと手を叩いた。


さん、酒強いんだろ?だったら、勝負しようぜ?誰が一番飲めるか?」

「いや…だから俺は…。」

「もし、さんが勝ったら今日はのとこに泊まってもいいぜ?」

「え?」

「で、俺らの誰かが勝ったら、掃除終わってなくても誰か以外の奴の部屋で寝る…と。」

「…なんでわざわざそんな勝負しなきゃいけねぇんだよ…。」


永倉さんの提案にちょっと機嫌が悪くなったのか、
はキツイ口調で返した。


「いや、まあ、せっかく梅さんがお酒を持ってきてくれたんだし…。」

「近藤さんが酒豪だっていうぐらいだから、相当だろ?」


少し怯んだ永倉さんだったが、
やっぱりの部屋で休ませるのは抵抗があり、
何とか話を上手くまとめようと、原田さんも口を出した。

もそれなりに飲めるようだが、本人が嫌がっているようなら、
自分たちが負けるはずはないという自信もあり…これはチャンスだと。


「まさか負けるわけはないですよね〜?」


そして平助君が少し意地悪くそういうと…。


「………わかった、やろう。」


はボソリと了解の意を口にした。


「え;…?」

「その代わり…手加減はしないからな。後悔するなよ?」


心配する近藤さんを無視し、
はすっかりやる気になってしまった…。






全員参加の酒飲み対決…数時間後…。






「俺もう無理…。」

「しっかりしろ平助!」

「…は、原田君大丈夫かい?」

「●×▲□◎…」

「ちょっと…これ以上は…僕も…。」

「……ちゃん強すぎるわ…;」

「………」

「……くっ…;」

「わしももう飲めんぜよ…。」


「あ〜あ…やっぱりこうなっちゃった…。」

「……手加減しないって…言っただろう…。」


ぐったりしている皆を尻目に、まったく顔色も変化なく、
平然と未だお酒を口にするは近藤さんの言葉に、フンと冷たく答えた。

唯一参戦という形ではなく、自分のペースでお酒を飲んでいた
近藤さんだけは何とか平気のようだが、
その他新撰組幹部はなんとも悲惨な状態…まさに地獄絵図…。

空になった酒瓶や酒樽の転げまわっているのを見れば良くわかるが、
みんなかなりの量を口にした。一応みんなそれなりに飲めるはずの新撰組幹部。
……それがこんなになる程飲んで顔色も変わらないは一体……。


「俺の勝ちだなぁ?新選組組長諸君?」


フッと冷たく笑い、が皆にそう宣言した時。


ガラッ!


「な!何やってるんですか!?」


部屋の戸が開かれ、買い出しに出ていた女性二人が帰ってきた。


「さ、桜庭君;君;」

「兄上…これは…?」

……;;」


が帰ってきたことに、は慌てて杯を背中に隠したが、
手に持っていた杯を隠した所で部屋中に酒瓶や酒樽が転がっていれば全く無駄なこと…。


「兄上…こんなにお酒を飲まれたんですか?」


珍しく怒った顔をしているも近藤さんも焦った。


「いや…これは…その…;」

「近藤さんも!皆がこんなになってるのに何で止めないんですか!」

「な、成り行きって言うか…;」


鈴花さんもすっかりご立腹。


「せっかく今日はさんのお兄さんもいるし、
 私たちでご馳走でも作ろうと思っていたのに…。」

「「……え」」


買ってきた荷物に目を落とし、鈴花さんは残念そうに呟き、
もがっかりしたように肩を落とした。

二人の機嫌を損ねてしまったことに、
も近藤さんも慌てて弁解しようとしたが、
二人が口を開く前に鈴花さんはキッと二人を睨み付け、


「でももうこんな酔っ払いの人たちのことなんて知りません!行きましょうさん!」


と言い切り、スタスタと行ってしまった。


「わぁ!さ、桜庭くん!」


近藤さんは慌てて引き止めたが聞く耳もない…。

一方は…、


「…あ、…?」

「……私…」

「…………;;」

「お酒飲みの人は嫌いです!!」

「…………!!」


に向かってスバッと言い切ると、
ぱたぱたと鈴花さんの後を追っていった。


!!ご、ごめん!兄ちゃんが悪かったって!」


『嫌い』と言われ、大ダメージ。


必死に二人の機嫌を直そうとと近藤さんは謝りまくったが、
も鈴花さんもその日は許してはくれず、は結局近藤さんの部屋に泊まった。



***



「……っ……何でこんなことに…。」

「だから俺は飲み比べなんてやめた方が良いって言ったじゃないか…;」

「勇…!お前がいつそんなこと言った!大体元はと言えばお前のせいだろ!
 俺が酒飲みだなんて周りに言い触らすから!!」

「いや、が飲めるのは事実…」

「飲めても俺は酒が好きなわけじゃない!!

 酒なんて大嫌いだあぁぁぁ!!」


そして一晩中近藤さん相手には愚痴りまくり、
近藤さんは長い夜を過ごした…。


(……勘弁してよ…;)




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2007.12.29