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強奪戦!かくれんぼ‐前編




「あ、鬼部さん!」


呼ばれて振り返ると、沖田さんがお寺の境内で手を振っていた。


「お姉ちゃん!」


子供たちも気付いて手を振ったので、愛花はお寺の境内に入っていった。


「こんにちは、どうしたんですか?」

「いえ、みんなでかくれんぼをしていたんですよ。鬼部さんもどうですか?」


沖田さんがそう言うと、子供たちも大喜びで愛花を誘った。
一応用事は済ませた後で、もう屯所に戻るところだったし、
戻っても特に予定のなかった愛花は、


「いいですよ。」


と、笑顔で答えかくれんぼの仲間に加わった。
これが後で大変なことになるとは知らずに……。



***



「う~ん、沖田さんいないね。」


何度目かで鬼になった愛花は子供たちと沖田さんを探していた。
子供たちはみんな見つけたのに沖田さんだけ見つからない。


「総司兄ちゃんは隠れるの上手だからね~。」

「見つけるのも上手だけどね!」


子供たちはいつものことだから慣れているのかゆっくり探していた。


「いつも違うところに隠れてるのよ~。」


子供たちの言葉を後ろ手に聞きながら愛花は沖田さんを探していた。
一番最初とさっきの二回、沖田さんが鬼の時、愛花は最初に見つけられたのに、
愛花が鬼の時はいつも沖田さんを見つけることができず、いつも子供たちが発見していた。
故に今度こそは!と気合いの入る愛花。


(沖田さんは気配がわかりにくいのかな……?)


そんなことを考えながらガサガサと植え込みの中を探していた。
すると…。


「何やってんだ?鬼部?」


不意に呼ばれて顔を上げると、


「あ、永倉さん、斎藤さん、原田さん、藤堂さん。こんにちは。」


四人が不思議そうな顔で愛花を見ていた。


「どうしたの?何か捜し物?」


藤堂さんがそう尋ねると、愛花はどう言うべきかちょっと困ったが、


「沖田さんを……」


と返事。


「は?」


その返事に不思議そうに永倉さんがそう呟くと、ほぼ同時に子供達の声が。


「お姉ちゃ~ん」

「総司兄ちゃんいたよ~!」


気合は入れていたが…結局また見つけることが出来なかった。


「あ…また見つけられなかった…。」

「なんだ、総司たちとかくれんぼしてたのか?」


落ち込む愛花の言葉に、現状を理解した永倉さんは苦笑いして尋ねた。


「そうなんですけど…沖田さんだけいつも見つけられなくて…。」


がっかりしたように愛花がそう言うと、


「まあ、総司が本気で隠れたらお前が見つけんのは無理だな。」


と笑う原田さん。


「う…;……ひどいですよ!」


それに愛花がむくれて振り向くと、今度は斎藤さんが、


鬼部、同じ所ばかり探してるからじゃないか。」


そんなことを。


「そうですか?」


言われて考える愛花に次に意見したのは、藤堂さん。


「確かに、声かける前少し見てたけど、同じ所をうろうろしてたよ。」

「え!そうでした?」

「うん、だからなんか落としたのかと思ってたよ。」

「うっ……じゃあ、探し方が悪かったんですかね…。」


四人皆に助言を貰いながら、愛花は結局四人と一緒に沖田さんと子供たちの所に戻った。


「お姉ちゃんまたダメだったね~。」


戻ると子供たちにも早速言われ、それに少し落ち込み、
悔しく思いながら、愛花は沖田さん向き直った。


「沖田さんどこに隠れてたんですか?」


不満そうな愛花に楽しげに笑う沖田さん。


「始めは鬼部さんが探していた辺りにいたんですが、あなたが来たんで移動したんですよ。」

「ええ!そんなのずるいですよ!移動するなんて!」


楽しそうに話す沖田さんとは対照的に愛花はますます不服そうだ。


「まあまあ、鬼が来たら逃げんのは当然だぜ~。」


その様子に永倉さんがぽんぽんと愛花の頭を叩く。


「まあ、動けばその時見つかりやすいから賭けだがな…。」


斎藤さんもフォローするように言い、ちょっと納得した愛花だが、


「でも…くやしいです…。」


やはり悔しいものは悔しい。
実は近くにいたのに見つけられなかったこと、
それに、沖田さんが移動した気配に気付かなかった自分の力の無さも。

そんな心境のため、複雑な表情だが、
珍しく拗ねたような顔をする愛花を、沖田さんは嬉しそうに見ながら言った。


鬼部さんが一生懸命僕を探してくれてると思うと嬉しくて、つい真剣に隠れちゃうんですよ♪」

「「「「………………」」」」

「う~、でも納得いきません!もう一回です!」


悔しさのあまり、沖田さんの話も聞いていない愛花。
握りこぶしを作ると、今度こそは…!と、気合いを入れた。


「わーい!じゃ、今度は誰が鬼をやる?」


愛花の再戦宣言に子供たちが喜んでいると、お寺の外から声が聞こえた。


「お~い、一平いるのか?もう夕飯だから帰ってこ~い!」

「あ!お兄ちゃんだ!は~い!ごめん、僕もう帰らなきゃ!
 バイバイ、総司兄ちゃん、またね!お姉ちゃんもね~!」


どうやらもうそろそろ、子供たちは帰らなければいけない時間のようだ。


「もうみんな帰らないといけない時間ですかね?」


一平君が帰り、愛花が子供たちに尋ねると、他の子供たちも顔を見合わせて頷いた。


「うん、私もそろそろ帰る。」

「僕も。ごめんね、お姉ちゃん。」

「また遊んでね!お姉ちゃん!」

「はい、また遊びましょうね!」


ちょっと残念だが仕方ない。
愛花は子供たちを見送り、手を振った。

子供たちが帰っていくと、すっかり静かになってしまったお寺の境内。

もうそろそろお開きか…という空気の中、明るい口調で口を開いたのは沖田さんだった。


「じゃ、もう一勝負しますか?」


にこにこと笑顔で愛花を見て意外な一言。


「え?でも、みんな帰っちゃいましたけど…。」


驚く愛花に変わらず笑顔の沖田さんは、


「でも鬼部さん、このままじゃ悔しいでしょ?それに、みんないるじゃないですか♪」


と言って、四人に目をやった。
視線を向けられ、驚く四人。
最初に理解して言葉を返したのは永倉さん。


「は?俺らがやるのかよ!」

「もちろん!まあ、別に僕は鬼部さんと二人でもいいんですけどね♪」

「う……。」


沖田さんの言葉につまった永倉さんはどうするよ?
という感じで他の三人を見た。三人も難しい顔をしている。
四人を困らせていることに気付いた愛花は慌てて沖田さんに声をかけた。


「あ、あの…別にまた今度でいいですよ、私たちも遅くなってもいけませんし…。」


愛花がそう言うと、沖田さんはにこにこと笑ったまま、


「大丈夫ですよ、あと一度ぐらい。それに次は賞品つけましょう!」


と提案した。


「「「「「賞品?」」」」」


沖田さんの言葉に不思議そうな顔になる皆。


「なんだよ、賞品って…。」


原田さんがそう言うと、沖田さんはにっこり笑って、ぽんっと愛花の肩に手をかけた。


もちろん、彼女です。


そして爆弾発言を一言。


「「はあ!?」」


それに驚いて皆沖田さんを見たが、一番驚いているのはもちろん愛花だった。


「え!?」


びっくりして沖田さんを振り返ると、沖田さんはなにくわぬ顔をで愛花に尋ねた。


鬼部さん明日非番ですよね?」

「え?そ、そうですけど…。」


わけがわからないがとりあえず返事した愛花に沖田さんは上機嫌で続ける。


「というわけで、勝った人は明日一日彼女の非番をもらうと♪」

「え!私、明日非番じゃなくなっちゃうんですか!?」

「いえ、そうじゃなくて。明日一日勝った人に付き合うってことです。」

「え、で、でも…」


愛花が何か言い掛けた時、永倉さんが口を開いた。


「けど、明日非番じゃないやつはどうすんだよ?」

「非番の人と交替してもらったらいいですよ、僕と斎藤さんは明日非番ですから。」

「あ、あの~。」


あっさり答えた沖田さんに愛花は焦り、
再度口を開いた…が今度は藤堂さんに遮られた。


「でもさ、もし愛花さんが勝ったらどうするのさ。」

「その時は鬼部さんに好きな相手を選んでもらいましょう。」


何故かみんなやる気になっているようだ…。


「あ、あの~本当にやるんですか;
 それに、明日もともと非番の沖田さんや斎藤さんはお得なことは何もないじゃないですか…;」


焦りまくっている愛花をよそに沖田さんは楽しそうだ。


「そんなことありませんよ。
 まあ、僕は負ける気しませんし非番じゃなくなることはないです。」

「言ったな、総司。だったら俺が勝ったらお前の非番を貰うからな!」


沖田さんの言葉に永倉さんはやる気満々だ。


「ええ、構いませんよ。永倉さんが勝ったら…ですけどね。」

「…さ、斎藤さん!斎藤さんはどうですか!
 せっかくの明日のお休みを賭けるなんて…。」


すっかりやる気の二人に困って、
愛花は今まで特に発言していなかった斎藤さんに助けを求めた。
斎藤さんは愛花と目が合うと少し考えるような顔をしたが、永倉さんが、


「ハジメ、オメーはどうする?」


と聞くと、


もちろんやります。


と一言。顔色も変えずに。


「ええぇ!?」


と、言うわけで賞品(愛花)を賭けて、かくれんぼすることになった。



***



さて、このかくれんぼ、最後まで見つからなかった人の勝ちで、
時間内に全員見つけたら鬼の勝ち。ちなみに鬼は永倉さんになった。


「うう~、どうしよ~;」


なので、一先ず隠れる所を捜し回っている愛花。


「明日の非番…。」


別に誰と過ごすことになっても普段は構わない愛花だが、
実は今回はどうしても勝たなければいけない理由があった。
なのでかなり真剣である。

幸い今まですぐに見つけられてしまった沖田さんが鬼ではないので少し安心はしたが、
さっきまでと違い、今回は全員が新選組隊士、そして組長格なのだ。

油断はできない。

かなり悩んでいた愛花だが、ふと大きな木の前に来た時にひらめいた。


「そうだ!今までずっと下にいたし、
 鬼の時も下ばかり探してたから今度は上に隠れましょう!それなら見つからないかも♪」


そう言うと、愛花は目の前の木に登った。
高いところが好きな愛花は実は木登りが得意なのだ。


(ふふ…ここならそんな簡単に見つからないよね!
 それにここなら鬼(永倉さん)が来たら見えるだろうし♪)


見えても木の上じゃ移動できないだろう…。
と言う事に愛花は気付いてなかった…。

とにかく、下から見えないように上手く葉で体を隠すと、じっと気配を消すように小さくなって隠れた。




後編

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2009.09.04