「…………」


どれくらい時間が経っただろうか…。
じっと息を殺しているのも疲れてきたがちょっと気をぬいた時……。


「うわー!くそー!!」

「!!??」


突然大声が響いて驚いたは木から落ちそうになった。


「あわわわ!?」


ガシッ!!


辛うじて・・・間一髪でなんとか木にしがみ付いたは、
冷や汗を流しつつ安堵のため息をつき、


(びびびっくりしました……;
 今の声は…原田さん?見つかっちゃったんですかね…?)


今だ激しい動悸を整えるようにゆっくり息をつくと、
そんなことを考えながら周りを見回した。





強奪戦!かくれんぼ‐後編




その頃の読みどおり、原田さんが永倉さんに見つかっていた。

今声を出してしまったこと、慌てて木にしがみ付いたことで、
木が揺れて葉が落ちたことなどにちょっと焦ってしまった

それでも、人の気配はないし…、
原田さんが見つかったのなら、永倉さんは今はこの辺にはいないだろう、
と少し安堵し、再び隠れ直した。

と、そこへ誰か近づいてくる人影が。


(!!)


ぐっと息を殺して、が様子を伺うと……やってきたのは斎藤さんだった。


(なんだ……斎藤さんでしたか。)


一先ず永倉さんではなかったことに安堵したが、それでも見つかるわけにはいかない。
は見つからないようにじっと身を潜めた。


斎藤さんは特に辺りを警戒する風でもなければ、
隠れる気配もなくのいる木の下まで来るとそのままそこに腰を下ろした。


(…………;)


木の下に座り込み、じっと動かない斎藤さんに焦る


(うっ……斎藤さん隠れないんですかね…?それとも寝てる…?)


斎藤さんは自分を探しているわけではないようなので安心しただったが、
ずっとここにいられるのはさすがに困る。
特に斎藤さんには気を抜いたらすぐに見つかってしまいそうだ。

ヒヤヒヤしながらも、動かない斎藤さんになす術はなく…。
仕方ないので、は神経を研ぎ澄まし、そのまま隠れることにした。



***



斎藤さんが来てからしばらくして……。

「ハジメ!」


斎藤さんを呼ぶ声が、あれは…。


(永倉さん!?)


ついにやってきた鬼、永倉さん。
とは言え、隠れている以上やることは同じ。
は慌てたが、今まで以上に息を潜めて様子を伺った。


「オメーなにやってんだよ。誰か見つけたか?」


斎藤さんを見つけて近づいて来た永倉さんが斎藤さんに話しかけ、
はドキドキしながら話を聞いていた。


「いえ、特に…まだ見つかっていないのは誰ですか?」

「あとはと総司だけだ。」

「そうですか……。」

今回はがんばってるみてーだな。」

「そうですね……。」

「まあ、ともかくこのままじゃ総司が勝っちまう。
 ハジメ、お前も協力しろよ!が勝ったらオメーにもまだ機会があるんだからよ!」

「そうですね…わかりました…行きましょう。」


そう言うと、斎藤さんは永倉さんを伴ってその場を離れ、
二人が去っていくのを眺めながらは盛大に息をついた。


(よかった…見つからなくて…;)


今の感じだと、斎藤さんはもう見つかっていたようだ。
なんとなく、永倉さんを連れていってくれた感じがして、は斎藤さんの後ろ姿にお礼を言った。


(…ありがとうごさいます…斎藤さん。)


すると、不意に斎藤さんが振り向いた。


「!」

一瞬心臓が止まりそうになった
おまけに、斎藤さんと目が合ったような気もする…。

ただ…斎藤さんは何も言わずにすぐに背を向け歩き出し、
結局、気のせいだと思い直したは再び大人しく隠れることにした。

その後も気を緩めることなく隠れていただったが、誰もやってくる気配はなかった。
どうやら斎藤さんが永倉さんを連れていってくれたおかげで、この辺りは探す範疇ではなくなったようだ。


刻限までもう少し…はあと一頑張り!と、気合いを入れ直した。



***



それからしばらく時間が経ち、また誰かやってきた。
は先程と同じように身を隠し、息を潜める。
やってきたのは斎藤さんだったが、どうやら他にもいる様子……。


「いや〜、残念。見つかっちゃいましたね〜。」


笑いながらそう言ったのは沖田さんだった。


(あ、沖田さん。見つかったんですね…。)


どうやら以外はみんな見つかったようだ。


「斎藤さんはやはり鋭いですね。まさか気付かれるとは思いませんでしたよ。」


沖田さんを見つけたのはどうやら斎藤さんらしい。


「平助も実は斎藤が気付いたらしいぜ。」


原田さんがそう言ったのが聞こえた。


「別に……。」


斎藤さんは普段と変わらぬ様子で、また木の下にやってきた。
なんとなく、みんな木の下に集まっているのでは焦ったが、
逆にみんながいるので永倉さんはここは探さないようだ。


「あ”ー!!どこだよ!のやつ!」


そのことにホッとしていると聞こえたのは、永倉さんのイライラした声。


(ここにいるんですけどね……;)


思わず声が出そうになったが寸でで止めた。
刻限まであとわずか……。



***



「は〜い!時間切れ〜!残念だったね。新八さん。」


藤堂さんの楽しそうな声とは対照的に、


「あ”あ”あ”〜〜〜!!くそっ!」


永倉さんの落ち込んだ声が辺りに響いた。
申し訳なくなるほど永倉さんは落ち込んでいる。


(ごめんなさい…永倉さん…。)


は思わず心の中で謝罪した。

なんせ必死になって探してるのをずっと見ていたのだ、
隠れているのがなんだか悪いことのように思ってしまうぐらいの必死さだった。


「くそ!のやつ!どこにいんだよ!」


永倉さんがぶつぶつ言いながらみんなのとこへやってきた。
すなわちの下に。

皆は楽しげに永倉さんを迎えたが、 はいつ出ていけば良いかと、すっかり困ってしまった。
みんなが下にいたのでは飛び降りることもできないし…。


「それにしても、本当さんどこに隠れてるんだろう?」


そんなの状態には気付かず、藤堂さんもきょろきょろと辺りを見回していた。


「おーい!!おめーの勝ちだぞ!出てこーい!」


原田さんも大声で呼んだが…どうやって出て行けば良いのか…。


(う〜、こ、こうなったら覚悟を決めて出ていくしかない…。)


がぐっと拳を振り上げたとき、


「斎藤さん、実はさんが隠れてる場所もご存じとか……。」


沖田さんがそう言って斎藤さんを見た。


「なに!?そうなのか!ハジメ?」


その言葉に、永倉さんも驚いて斎藤さんを見る。
斎藤さんはしばらく黙っていたが、ぼそりと一言…。


「ええ…まあ。」


「なに〜!?何で言わねえんだ!」


驚く皆の中で、やはり納得できないのは永倉さん。
斎藤さんに詰め寄ったが、


「言うわけないじゃないですか、さんだけは
 永倉さん以外にとっては見つからない方が都合が良いんですから。」


あっさり言った沖田さんに一瞬怯み、悔しそうな顔になってしまった。
そう言われると永倉さんも返す言葉がないから…。


「で、どこにいんだよ。の奴は?」


仕方なくそう聞き返すのが精一杯だった。


(斎藤さん…本当に気付いてるんですかね?)


そう言うも、斎藤さんの言葉には半信半疑で下の様子を伺っていた。
隠れていること、微妙に忘れてきている…。

斎藤さんは皆に注目され、少し思案した様子だったが、
原田さんに視線を向けると、


「原田さん、すみません。この木、揺すってみてくれませんか?」


と言った。


(…………?)

「ん?ああ、いいぜ?」


イマイチ理解できない。そして、原田さん。
原田さんはよくわからないが、という風な感じで木に手をかけたが…。

その行動により、さっきの斎藤さんの言葉の意味を理解したは慌てた。


(……え”!?まさか!?)

ま、待って!きゃぁああ!!


下りる覚悟を決めて、木から手を放し、
握り締めて構えていたは木を揺らされバランスを崩し、あっさり木から落ちてしまった。


「……大丈夫か?」


突然のことで全く受身が取れず、恐怖のあまり目を閉じただったが、
特に衝撃はなく、聞こえたのは落ち着いた声。
声は落ちたを受けとめたのは斎藤さんのものだった。


「ひどいですよ……斎藤さん。」


助けてくれたのは事実だが、元々落としたのも斎藤さん。
流石に少し恨めしい目で斎藤さんを見ただったが、斎藤さんはいつもの表情のままだった。


さん!?」

〜!!お前どこにいんだよ!」


とは言え、落ち着いていられるのは結果がわかっていた斎藤さんだけ。
驚き慌てるその他の皆の反応、そして注目されていることには焦り狼狽するしかなかった。


「あ、あ、あの、すみません…。」


そして謝罪するぐらいしか…。


「これは盲点でしたね…。」


流石の沖田さんも驚いている。


「で、斎藤さん。そろそろ下ろしてあげてください。」


とは言え、重要なことは忘れていないらしく、沖田さんはにっこり笑った。
笑顔なのに何か恐いオーラが漂っている。


「あわわ、すみません!ありがとうごさいました、斎藤さん!」


それには気付かなかったが、現状に慌てたは慌てて斎藤さんにお礼を言って下ろしてもらった。
木から落ちたのは、斎藤さんのせいなのだが……。


「で、さん。」

「はい?」

「貴方の勝ちですね♪誰が良いんですか?」


とりあえずかくれんぼは終了。
だが、重要なのはここから。

ようやく落ち着いたの正面へ来ると、沖田さんはそう言って笑顔になった。


「あ……え、っと…;」

「どうなんだ!!」

さん!!」


みんなに詰め寄られてすっかり困ってしまっただったが、
ここまで必死になっていたのは理由があるのだ。
言わないわけにもいかない。
は一息つくと思い切って口を開いた。


「あの……実は…」


みんなの期待に満ちた眼差しに、は申し訳なさそうに続けた。


「明日は鈴花さんと甘味処に行く約束をしてるんです……。」


消え入りそうな声でそう言ったにみんながっくりと肩を落とした。




***おまけ

屯所への帰り道……。

「斎藤さん。」

「…なんだ?」

「いつから私が木の上にいるってわかってたんですか?」

「……最初から。」

「え?」

「最初からわかっていた。お前、よく屯所の屋根の上にいるだろう?
 だから、高い所に隠れると思っていたしな。」

「う…そうですか…じゃあ今度からはもっと隠れる所を考えないといけませんね……。」


う〜ん、と唸っているを斎藤さんは優しい表情で見つめていた。

斎藤さん以外には気付かれなかったのだから、よい隠れ場所だったと言えるのだが……
の行動パターンをよくわかっている斎藤さんだからこそ見つけられたと言えよう。

実は斎藤さん、が見つからないようにするために自分は一番最初に見つかってを探していたのだ。
そして、始めにの所へ来たとき、そして最後も、
わざわざあの木の下にいたのは実は永倉さんにあの場所を探させないためである……。

そのことにあとで気付いたのは沖田さんだけだったとか……。




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2009.10.10