激闘!バレンタイン!‐前日




「「ばれんたいん?」」



***



「そうじゃき、異国ではその日に女子から
 好いとう相手に『ちょこらうと』を贈るそうぜよ。」

「へ〜そうなんですか…。」

「まあ、それは『本命ちょこ』と言って、
 他にもお世話になっちゅう相手に贈る『義理ちょこ』と言うのもあるそうぜよ。」

「なるほど…でも、いいですね。男の人はもらう側なんて…。」

「ふふ、本当ですね。才谷さんに頂いた『ちょこらうと』美味しかったですもんね。」


新選組に遊びにやってきた梅さんは鈴花さんとにそんな話をした。


「でも、日本には『ちょこらうと』はないですし…この行事は残念ながらないですよね。」


ちょっと残念そうにそう言った鈴花さんに、
梅さんは待ってました!と言わんばかりの笑顔になり、
どさっと大きな荷物を二人の前に置いた。


「……なんです?これ?」

「そう言うと思って、鈴花さんのために用意した『ちょこらうと』の材料ぜよ!」

「ざ、材料?」

「これでわしのために『本命ちょこ』を作ってほしいぜよ!」

「な!なんでそうなるんですか!?」

「わしは鈴花さんから『本命ちょこ』が欲しいき、
 石川に頼んで材料を用意してもらったんぜよ!」

「な……;」


きらきらと満面の笑顔で言い放った梅さんに、
鈴花さんは真っ赤になって、半ば呆れ言葉に詰まった。
そんな鈴花さんにもにっこり笑って後押しした。


「いいじゃないですか鈴花さん、せっかくですし。」

「……で、でも;」

「そうじゃき、鈴花さん!せっかくなんじゃ!愛を込めて欲しいぜよ!」

「も〜!梅さん!!///


鈴花さんは照れて真っ赤になって梅さんを怒鳴ったが、
万更でもない様子をは微笑ましく思いながら眺めていた。

鈴花さんは湯でダコのように真っ赤になってしまったが、
観念したように小さく頷いた。


「わかりましたよ。作ります…。」

「おお本当じゃか!」

「よかったですね、才谷さん。」


鈴花さんの返事に梅さんは飛び上がるほど喜んで、
もほっとしたように笑った。
が、鈴花さんはゆっくり顔を上げると、


「その代わり……さんもですよ?」


と低く呟いた。


「……はい?」

さんも一緒に作りましょう?」

「え…私もですか?」

「そうです。せっかくなんですからv
 それに作ったこともないものだから上手くできるか…、 さんがいるなら安心だしv

「はあ…まあ、お手伝いできることがあるなら…。」


にっこり笑った鈴花さんには少し考えつつも、
首を縦に振った。


「よかった!じゃあさんも当日には『本命ちょこ』を誰かに贈るんですね!」

ええ!?…そ、そんなことは…私はお手伝いするだけで…;;」

「作ったからには告白ですよ!」

「こ!告…!?だ、誰にですか〜!?」

「そ、それは私に言われても…;」


鈴花さんの言葉にすっかりパニック状態になってしまった
さっきの鈴花さんに負けないぐらい赤くなっている…。


「私は別に…///作るのは鈴花さんが才谷さんに差し上げるちょこでしょう?」


すっかり真っ赤になって俯いていたは縋るような目で鈴花さんに尋ね返した。


「なに、材料はたくさんあるき。 せっかくじゃきさんも誰かにあげたらいいぜよ。」

「さ、才谷さんまで…そんな///


困っているに追い打ちをかけた梅さん。
鈴花さんもしっかり同意し、結局当日目指して、
鈴花さんとは『ちょこらうと』作りに励むことになったのでした…。



***



「なんか最近桜庭とが賄い場に入り浸ってることが多いよな?」

「何か作ってるみたいでしたね。」

「けど、完成品を貰った事ないよね〜。」

「甘い匂いがするからお菓子じゃないかしら?」

「ハジメのやつが体調を崩し気味なんだよ…;」

「いえ…大丈夫……です…………。」

「無理しなくていいよ、斎藤くん;」

「まあ、こう頻繁だと夕食とかに支障が出るかもしれないから少し話してくるよ。」

「まったく…しょうがねぇな…。」



***



そんなこんなで、初挑戦の『ちょこ作り』は中々苦戦を強いられてしまい、
ばれんたいん当日までにみんなに知れ渡るところとなってしまいました。

そして『ちょこらうと』のことを説明するとき、
も鈴花さんも当たり障りのないことを言ったのに、
すっかり上機嫌の梅さんが不覚にも山崎さんに
『ばれんたいん』のことを洩らしてしまい……そうなると、
当然新選組幹部で静かなる冷戦が始まることになってしまいます。
すなわち…

の『本命ちょこ』は誰が!?

と言うことです…。



***



「よ、よお。!」

「おはようございます。原田さん。どうかしました?」

「い、いや…あのさ…。」

「はい?」

「俺は結構甘いものはいけるからな!」

「え?…あ、そうなんですか?」

「ああ。ま、まあ話はそれだけだ!じゃあな!」

「は、はい……??」



***



さん!」

「藤堂さん?なんですか?」

「いや、一言言っておこうと思ってv

「な、なんでしょう?」

「オレ甘いもの好きだからね!」

「え?…はい。」

「だから遠慮しないでね!」

「??」

「じゃあ!」



***



「…

「あ、斎藤さん!おはようございます。」

「ああ……。」

「?どうかしました?」

「いや…その…。」

「はい。」

、俺は甘いものは苦手なんだが…。」

「はい、知ってます。」

「ああ…だが、お前が作ったものなら何でもいいからな。」

「へ?」

「…俺が言いたいことはそれだけだ。邪魔したな。」

「え、あ、あの…;……みなさん最近どうしたんでしょう…?」



***



さん!」

「あ、鈴花さん…。」

「どうしたんですか?変な顔して?」

「あ、いえ…実は…。」


がみんなが言ってきたことを話すと、鈴花さんは苦笑いした。
みんな必死にアピールしているのに、当人のはわかっていない様子…。
まあ、そこがこの少女の魅力(?)でもあるのだが…。


「みんなさんの『ちょこ』が欲しいんですよ。」


鈴花さんが笑って言うと、は首を傾げたがにっこり笑い返して、


「みなさんは『ちょこらうと』食べたことがないかもしれませんしね。
 やっぱり食べてみたいんですね。」


と言った。


(そうじゃない!!)


的外れなの返事に鈴花さんは心の中でツッコミを入れ、激しく肩を落とした……。


「?」



***



さてさて、そんなこんなで、
いよいよ明日に迫った『ばれんたいん』。

今日は朝から賄い場を貸してもらって 『ちょこ作り』に励んだと鈴花さん。

一生懸命練習し、なんとか見目もまともな『ちょこらうと』を作ることに成功した。

味見をしっかりしているので、もちろん味もばっちりだ。
最初は鈴花さんから梅さんに、そしても本命に、
と言う事だったが、新選組内にすっかり知れ渡ってしまった『ばれんたいん』。

みんなに迷惑もかけてしまったので、二人は全員分のちょこらうとを用意した。
『義理ちょこ』と言うことになる。

鈴花さんは幹部九人のちょこと梅さん用の本命ちょこを別の袋に入れて用意した。
外見で違いがわかるようにだ。そしてはというと…。


「少し多くないですか?」


鈴花さんにそう言われはにっこり笑って鈴花さんを見返した。


「こっちのは新選組のみなさんに配る分ですよ。
 鈴花さんと私からで。残すのも勿体ないですから、
 みなさんにも食べてもらいましょう。あと、松本先生とかにも…。」


はそういいながら、小さい袋に入れたちょこを箱に詰めた。


「これは山崎さんがみなさんに配ってくれるそうですから。」

「あ、そうなんですか。……じゃあこっちが。」

「近藤さんたちに渡す分です。」


別に包まれた包みを指差して鈴花さんが聞くとはそう返事した。


「…あれ?それでも多くないですか?」


の用意したちょこを数えて鈴花さんは首を傾げた。
の用意していたちょこは、赤い飾りがついたものが九つと、
橙の飾りがついたものが二つ、そして青い飾りがついたものが一つだった。


「これは鈴花さんと才谷さんの分です。」


はにっこり笑うと、橙の飾りがついた二つのちょこを手に取った。


「え!私にもですか?」

「はい。」


鈴花さんは驚いたが、はあっさり即答し微笑んだ。


「もともと『ちょこらうと』を作ることになったのはお二人のお陰ですし、
 お礼の意味も込めてです。それに、鈴花さんと才谷さんにはお世話になっていますし、
 これからもよろしくお願いします。」


笑ってそう言ったを鈴花さんは歓喜あまって抱き締めた。


「ありがとう!さん!こちらこそ!よろしくね!」

「はい!」


と鈴花さんはにっこり顔を見合わせたが、
鈴花さんはふと気になってもう一度、のちょこに目をやった。


「ねえ?さん。」

「はい。」

「それじゃあこの赤いの九つがみんな用なんですね?」

「はい、そうです。」

「この一つ飾りに印みたいなのがあるのは何ですか?」

「あ、それは斎藤さんの分です。」

「斎藤さん?」

「斎藤さんは甘いものがお好きじゃないので…
 一応食べて頂けるように、他とは違うようにしたので…。」

「ああ、なるほど…。」


鈴花さんはの返事に頷き、


(…ということは、包みは同じだしこれは別に…。なら、やっぱり…。)


「こっちの青い飾りが本命ですね!」


少し考え、全開笑顔で言った。
は微妙な苦笑いになると、


「いえ、これは…」


と言ったが、


「みんなと同じのもあって、且つ別にも用意するなんてばっちりですね!」


鈴花さんはすっかり上機嫌になって、
はそれ以上は言えなくなってしまった…。

さて、果たして明日のバレンタイン。
の本命ちょこは誰の手に!
はたまた、この青い飾りのちょこは本命なのか?


つづく…。




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2007.02.13