「めりー…くりすます…?」

「クリスマスおめでとう!って感じかな♪」

「おめでたい日なのですか?くりすます…と言うのは?」





-Merry Christmas!-前編




今日も特にいつもと変わらないはずの日。

いつもと同じように高館へやってきたが見たのは、
綺麗に飾り付けられた庭の木や部屋。
一体何があったのかと神子様に尋ねると、そんな返事を貰った。

何でも「クリスマス」と言うものらしいのだが…。


「まあ、キリストの誕生日だとかいろいろあるんだけど。
 難しいことは考えなくても、とりあえずお祭りの日なの♪」

「……適当すぎるだろう。望美。」

「何か言った?将臣君。」

「いや。何も。」


とりあえず、何もわからないに神子様や将臣殿が説明をしてくれた。
「クリスマス」を知っているのは神子様と将臣殿と譲殿の三人で、
どうやら神子様たちの世界のお祭りらしい。


「へぇ…それで、その『くりすます』にはこうしてお家の中や木を飾るのですか?」

「うん!あの飾り付けた木は『クリスマスツリー』って言って、
 あそこに飾ってるのは『クリスマスリース』って言うんだよ!譲君が作ってくれたの!」

「譲様がですか!譲様は本当に器用でいらっしゃいますね。」

「い、いや、別に…それ程のことじゃないよ///


庭の飾り付けた木を指差し、部屋に飾っている飾を指差し、
神子様はそれは楽しそうにに説明をした。

もちろん、神子様以外の人たちも『クリスマス』のためにいろいろ準備し、
明日には『クリスマスパーティー』を開くつもりらしい。

それで…


「それで、もちろんちゃんにも参加して欲しいんだけど♪」

「え?私ですか?」


にっこりと笑顔で言った神子様には目を丸くした。
神子様は当然とばかりに頷き、八葉の面々ももちろんと誘ってくれたが、
は突然のことで困惑したような顔をした。

もちろん嫌なわけではないし、断るなんてとんでもないのだが…。


「あの…泰衡様は…?」


やはりの口から出るのはあの人物の名前。
いろんな意味でにとっては特別な人物なので必然のことと皆思っているので、それにも大きく頷いた。


「もちろん!泰衡さんも誘ってね!」

「というか、貴方でなければ彼を連れてはこれないでしょうからね。」

「そうそう、もう定番ってやつだね。」

「?」


皆何やら可笑しそうに笑い、はよくはわからなかったのだが、
とりあえず泰衡様も…といわれて安心したように微笑んだ。



***



「泰衡様!」


神子様たちと別れ、高館へ戻ったは早速泰衡様の元に参上した。
そしていつものやり取りの後、用件を告げる。
『クリスマスパーティー』のことを…。


「くりすます…??」

「はい!神子様たちがそのお祝いを明日されるそうで、泰衡様も是非いらして欲しいと。」


まだ『クリスマス』についてはよくわかっていないだったが、
とりあえずお祝い事で、それを皆で祝うから泰衡様も是非来て欲しいと、
神子様たちが言っていたと伝えた。

それに泰衡様は当然渋い顔になる。

元々皆で騒ぐようなことが泰衡様は好きではなく、
特に、神子様たちに誘われると碌な事がない…と思っている泰衡様。

それでも付き合ってくれることもあるのは神子様たちの言うとおり、
泰衡様にそのことを頼むのが『だから』である。

泰衡様とて、の頼みだと断りきれない自分自身にも気づいているし、
それをわかっていて、神子様や銀がを利用していることもわかっている。

わかっている…が…。


「あの…如何ですか…?」

「………」


やはりこの眼に頼まれると無下に断ることなどできなかった。


「……都合がつけば…と言っておけ。」


最高でも言えるのはこれぐらいだった。
否定したい気持ちがあるため、確実に肯定する言葉は口にはできない。
が、それでも否定することも出来ないため、どちらとも取れるような答えを、
は肯定と取るような答えを、口にするしかなかった。

言ってからいつも複雑な思いに囚われるのだが、


「…はい!」


ほっとしたように、嬉しそうにが笑うとそれでも良いと思ってしまうから…。


(もうどうしようもないな…。)


結果、神子様や銀の思惑通りになっていることに、
泰衡様はいつも複雑だが天秤にかけるとどうしてもが勝ってしまうらしい…。

とりあえず、『クリスマス』の話をある程度聞いた泰衡様は、
神子たちには『都合が付けば』行くと返事を伝えるようにに返した。


「くりすます…か…。」


が下がって行った後、泰衡様は窓の外を眺めて呟いた。

もよくわかっていないらしく、詳しいことはわからなかったが、
何か贈り物をしたりもする日らしい、とが言っていたことを泰衡様は考えていた。

今まで自分はに何か正式に贈ったことはないな、と。

軽いものならあるかもしれない、貰い物の菓子や何気なく手にした花。
ただ、それは贈ったというよりは自分が必要ないからに押し付けただけとも言える。

一番正式にに贈った物といえば、あの『腕輪』かもしれないが…、
あれは贈り物と言うよりは必要に迫られた必要なものだろう。

心を籠めた贈り物とは違う気がする。


(心を籠めた…か…。)


何気なく考えた、何気なく頭を過ぎった言葉に泰衡様は冷たく笑った。

思えば今まで心を籠めた贈り物などしたことがあっただろうか?
相手が誰であろうとも。
品物の価値や質の問題ではなく、気持ちのある贈り物を誰かに。


(あるわけがないな。)


考えるまもなく出た答えは「否」だった。
立場や関係上、あちこちに贈り物をしたことはある、何度となく。
だが、その贈り物に心など篭っているわけがない。

藤原の立場、平泉の立場、総領としての地位。
全てはそれらが用意し、贈ったもの。

泰衡様個人の意思や感情が入ったものなどあるわけがないのだ。

そして贈られたものも同様に…。


「…いや…そんなことはないか…。」


立ち上がって窓際に寄った泰衡様は、少し考え、後半の言葉は否定した。
それは窓辺に置いてあった不恰好な木彫りの犬を目に止めたから。

それは昔、九郎殿が自分にとくれたもの…。

これには心があるかもしれないと…柄にもなく思ったから。
それと銀が持ってきてくれて、自分にとくれたものなど。
それらはきっと泰衡様に宛てたもの、藤原の総領ではなく、泰衡様に…。


「………」


きっと二人にとっては何気ないものだっただろう。
難しく考えることはない。
銀も、九郎殿も、きっと何を考えるでもなくただ自分の為に…。


「こんな…物でいいんだがな…。」


そう…別に高価なものではなくて良い。
他愛ないものだからこそこんなにも温かいのだ。


(こういうものを…アイツに…。)


普段の感謝の気持ちや、心に持っている想いを籠めたものを…。

泰衡様は九郎殿の犬を見つめて考えていた。

普段、何もない日に贈り物をするのは難しいが、
その『クリスマス』と言うものを使えば、に何か…。

今までも、泰衡様はに贈り物をしたいと思ったことは何度かあった。
だが、突然何か贈ると言ってもそれは容易ではなく…理由を作ることすら難しかった。

だから『贈り物』というより、『押し付けたもの』になってしまい、
いまいち気持ちが伝わっていないような気がしたのだ。

もちろん、理由などなくとも、普段の感謝の気持ちや好意から
そう言えば良いのだが…、泰衡様にそんなこと言える訳はなかった。

それに、泰衡様とは主従関係だ。
逆ならまだしも泰衡様がに贈り物をするのはやはりいろいろ問題がある。

だが…それでも…。

泰衡様は密かに決意し、明日のクリスマスを迎えることにした…。




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2009.12.24