翌日クリスマス。

泰衡様は銀と一緒に高館へ向かった。
はというと、神子様に呼ばれて先に高館へ行ったらしい。

当然泰衡様はまた不機嫌になったが、
もういつものことなので銀も慣れたもの。
向こうへ行けばがいるので、とりあえず高館へ行くことにした。





-Merry Christmas!-後編




「泰衡様がいらっしゃると言うことで皆喜んでいましたよ。」


銀は、いつもの爽やかな笑顔でそう言った。

それはどういう意味なのか。どういう意味で喜ぶのか。
と、すっかり用心深くなり、疑念が絶えない泰衡様だったが、
口には出さず、黙々と銀について歩いていた。

さく さく さく

今は止んでいるが、積もっている足元の雪が音を立てている。


(今日は冷えるな…)


常々雪に覆われたこの地が生まれ故郷である泰衡様は寒さには強い方。
それでも少しひんやりとした空気に身を震わせた。


(だが、この冷たい空気と雪景色には浮かれているだろうな…。)



***



「「メリークリスマス!!」」


泰衡様が高館へ到着し、玄関に入ると、
待ってましたとばかりに現れた神子様たちに歓迎された。

何やら音のなる騒がしいもので歓迎され、
飛び出した紙くずまみれにされて、思わず眉間に皺を寄せる泰衡様。
銀も驚いた顔をしたが、銀は直ぐ笑顔になり神子様の傍へ寄った。


「メリークリスマス、神子様。
 今日は一段とお美しい。貴方にそのように歓迎されて感激です。」

「あ…ありがとう銀…;///

「………」


いつもの事とはいえ、相変らずの銀に思わず赤くなる神子様。
泰衡様はそんな二人を冷ややかな目で眺めていたが、
そのまま二人を放って屋敷の中に入っていった。


ガラッ


「…おや、泰衡殿いらっしゃい。」

「やあ、来てくれたんだね〜♪」

「まったく、待たせてくれたね。」


…バタン。


「…人の顔を見るなり閉めるんて失礼ですよ、泰衡殿。」

「………フン…。」


とりあえずいつもの居間に顔を出したが、生憎探していた人物はおらず、
泰衡様はあっさり引き返そうとしたがガシッと肩を掴まれた。

泰衡様は当然相手を睨み返そうとしたが、

さんなら賄い場で譲君と将臣君、それに九郎を手伝っているはずですよ。」

相手はそう言って泰衡様に耳打ちし、

「そうそう。心配なら行ってみれば?」

ヒノエ殿まで居間から顔を出し、ニヤニヤと泰衡様に言った。


「………」


二人の言葉を聞いて、泰衡様は賄い場に足を向けた。
もちろん返事をすることはなく、二人の言葉も聞いてないフリをして。


「本当、素直じゃないよね。」

「いえいえ、行動は素直ですから。」

「まあまあ二人とも;」


泰衡様を見送ってた後、
アドバイスした朱雀八葉二人が零した言葉に地の白虎が苦笑いして窘めた。



***



賄い場へやってくると何やら中で話し声が聞こえる。
確かにいるのは先に聞いた人物のようだ。


「はぁ…凄いな譲は。どうしてこの材料がこんなものになるんだ。」

「ホント…不思議ですね。」

「だってさ、譲。」

「兄さん、からわかないで下さい。」


場所と会話の内容からして恐らくまた何か料理を作っているのだろう。
今日はお祝いだと言っていたし…。


「でも凄いです!譲様!きっと神子様もお喜びになりますよ!」


ふと、外で聞いている泰衡様の耳に、のそんな声が聞こえた。
それに対して照れて弁解している譲殿の声も。

「………」

明らかに機嫌が悪くなる泰衡様。

譲殿は料理が上手く、否、料理以外も手先が器用で
いろいろできるため、は非常に慕っていた。

最も譲殿は誰が見てもわかるぐらい
神子殿に好意を寄せているので、何も心配することはないのだが…。


!!」

「「!!?」」


結局…、耐えられなくなった泰衡様が顔を出し、
皆が驚いて一斉に泰衡様の方を向いた。


「泰衡様!」


ただ、だけは驚いた顔をしたものの、直ぐ笑顔になり、泰衡様に駆け寄った。


「来て下さったんですね…。」

「あ、ああ…。」

「すみません、ご同行できなくて…。」


ただ、先に来ていたこと、申し訳なく思ったのか頭を垂れた。
そんなに泰衡様も言葉をかけようとしたのだが…、


「いや…」

「何、別に遊んでたわけじゃねぇんだ。そんな固くならなくて良いだろ。」

「……」


一足先に将臣殿がに声をかけ、
に笑顔が戻ると、逆に泰衡様がまた不機嫌になってしまった。


…」

「はい?」

「用事は済んだのか?」

「あ、はい。譲様のおかげでこうしてお料理も。
 神子様もきっと喜んで頂けるかと…」

「そうか、なら帰るぞ。」

「「え?」」


突然の爆弾発言に固まる一同。


「え…帰るって…。」

「何のために来たんだよ…;」

「用件が終ったなら帰るのは当然だ。
 俺はそんなに暇ではない。それにこの宴に付き合うといった覚えはない。」

「お、おい、泰衡せっかく来たんだから…」

「悪いな、九郎。、帰るぞ。」

「え;ちょ、ちょっと待って下さい泰衡様…;」


もはや言っていることはむちゃくちゃだが、
一度機嫌を損ねると意外と回復が難しい泰衡様。

九郎殿、譲殿、将臣殿で必死に引き止めたが中々上手くいかない。
まして、有川兄弟はある面で朱雀八葉並に泰衡様の評価が低かった。


「や、泰衡様…」


頼みの綱のも流石にこういう状態の泰衡様を止めるのは至難だった。
おまけにが他の人を庇えば逆に泰衡様の機嫌は悪化してしまうし…。

こういう時は…。


「何揉めてるんですか。」

「如何致しましたか泰衡様?」


もはや切り札最終兵器の二人。


「神子様。」

「銀…」

「あ、皆料理できたの?」

「え…あ、ああ…。」

「そうですか、それは楽しみですね。」

「よし、じゃあちゃん来て来て

「なっ!お、おい神子殿!?」

「じゃあ、後お願いね〜♪」


泰衡様に連れ帰られそうになったは神子殿が奪取した。
もちろん、残された面々は気まずいが、ここは銀の出番。

何とか泰衡様を宥め倒し、皆のいる居間に留まらせることに成功した。



***



「その仏頂面を何とかしろよ、泰衡。」

「…煩い。」


とはいえ、やっぱり不機嫌なのは変わらず。
おまけに神子殿、はまだ戻ってきていない。

流石に少し(いやかなり)重い空気である。

天地白虎は必死に場を和ませようとしているが、
天地朱雀が口を開くと泰衡様は激怒し、中々上手くはいかなかった…。


「お待たせ〜♪」


そこへ上機嫌の明るい声が。


「やあ、本当に待ったよ。俺の神子姫?」

「ごめんねヒノエ君。でも待たせた分のBIGプレゼントだよ〜。」

「ん?」


いまいち言っていることはよくわからなかったが、
自信満々に手を広げる神子殿に、ヒノエ殿は振り向き、泰衡様も釣られて振り向いた。

すると、神子様の後ろからおずおずと出てきたのは…。


「!?…っ!!?」

「へぇ…♪」


サンタルックだった。
(しかもミニスカ。っていつもですが。)


「あ…泰衡様すみません…あの…;」


は衣装については然して気にしていないようだが、
泰衡様を待たせたこと、話の途中で勝手に場を離れたことで、
怒られると思っているのか不安そうな顔で泰衡様を見つめた。

だが、今の泰衡様はそれ所ではない。
しかも…。


「おや、随分可愛らしいですね。
 それが望美さんの言っていた『さんたくろーす』ですか?」

「本来はサンタっておじいさんなんだけどね、この方が可愛いでしょ?」

「ホントね、よく似合うわちゃん。」

「うん、可愛いね。


サンタ姿のを見て、皆口々にを褒め、


「あ、あの…えっと…あ、ありがとうございます…///


は恥ずかしそうに真っ赤になってお礼を言った。


ブチッ


と、そんなを見て泰衡様の中の何かが切れた。
いきなり立ち上がり、を抱き上げると、
もう皆が止めるのもガン無視して部屋を、高館を出て行った。


「あー!ちょっと泰衡さん!」

「…泰衡殿は本当に独占欲が強いですね…。」

「それだけアイツに惚れてるってことだろ…。」

「でも自覚ないんだよね。と言うか認めてないと言うか…。」


残された面々は唖然とした後あきれ返り、好き勝手言っていたが、
銀だけは微笑ましく笑い、


「ですが…私はいつかお二人が幸せになって下さること…心より願っています。」


そう言って皆を見つめた。



***



「泰衡様、泰衡様!」


勢い余って高館を飛び出した泰衡様。
も何も言うことはできず、しばらく黙っていたのだが、
すっかり頭に血が上っていて、我を忘れているのか、
眼も据わっている泰衡様が流石に心配になり声をかけた。

「!」

抱き上げられているため顔も近く、
声も必要以上に大きく聞こえたのだろう、
泰衡様は直ぐに気がつき足を止めた。

ただ…やはり現状はよくわかっていない様子。
しばらく直立不動で固まっていた。


「泰衡様…?」

「……っ!」


だが再度が声をかけると明らかにうろたえた。
どうやら思い出したらしい。

思わずのことも落っことしそうになったが、
辛うじて堪え、どうするべきか頭をフル回転させた。


「………;」


だが、頭に血が上ったとはいえとんでもない行動をしてしまった。
と、言い訳の余地もない現状に、泰衡様は本気で青くなっていた。


「あの…泰衡様…すみません…。」


そんな時、が口を開いたので泰衡様が顔を向けると、
視界には赤い帽子が入った。
うつむいているため、顔ではなく頭の帽子が目に付いたようだ。
は相変らずぽつぽつ言葉を続けた。


「その…私が勝手なことばかり…して…泰衡様に…」

「ち、違う!!」

「!?」


が、思わぬ言葉に思わず泰衡様は声を張り上げ、も驚いて顔を上げた。
思わず叫んだ泰衡様だったがそれ以上は言えず…。

とりあえずを下ろすと、自分の着ていた藤の肩掛けをに着せて抱きしめた。


「泰衡様…?」

「その…そんなはしたない格好で人前に出るな…///

「………」


を抱きしめる腕には力が入ったが、それは顔を見られたくないから。
泰衡様は真っ赤な顔で、切れ切れの声で、それだけ呟いた。

結局…つい暴挙に出てしまった理由は…。


「……言っておくが、似合わないとかそういう意味ではないからな…。」

「…え?」


泰衡様の言葉に少し複雑そうな顔をした
抱きしめているため顔は見えないが、落胆したように肩を落とした反応に、
泰衡様は慌てて付け加えた。

それには顔を上げようとしたが、泰衡様はそれを許さずの頭を抑えた。


「…お前は仮にも俺の…い、いや、俺に仕えている身だ。
 それなりの態度や礼儀は弁えて行動しろと言っているだけだ。」


それからそれに見合う答えを。
とりあえず本心は言えないが、が迂曲して受けないように一応言葉を選んだ。

「…はい。」

は頷き、一先ず納得したのか小さく答え、それからまたしばらく沈黙が落ちた。
泰衡様はただ黙ってを抱きしめ、もしばらく大人しくしていたが…、
段々と沈黙に耐えられなくなり、ふと顔を上げると泰衡様と目が合った。

「…っ!」

泰衡様は一瞬怯んだが、の肩を掴み身体を離すと、
懐から何か取り出し、徐にに突きつけた。


「?…これは…?」

「今日は…何か人に贈る日だと言ったのはお前だろう。…たまにはな…。」

「…え…私に…下さるのですか…?」

「ああ…、この俺がわざわざ用意したんだよもや受けとれんとは言わぬだろう?」


驚いて目を丸くしているに、泰衡様はあえてキツイ口調で言った。
いつもは他から貰ったもの、銀が用意したもの、
等と言い訳をするが今回は自分からときっぱり言い切ったため、それを誤魔化すためだろう。

だが、…。


「は、はい!も、もちろんです!」


何だか必死の形相で受け取った

泰衡様からの贈り物だと言うことは伝わったが、心よりの気持ち、
誰よりの為に…そんな気持ちは伝わったのか、非常に微妙な気がする…。


「ありがとうございます…泰衡様…。」


それでも、はやっぱり嬉しそうに微笑み、
泰衡様はほっとしたように笑った。

は泰衡様から貰ったプレゼントを大切そうに抱きしめると、
思い出したように顔を上げた。


「あの…!泰衡様!」

「…何だ?」

「私…私も泰衡様に『くりすますぷれぜんと』用意したんです!」

「…そ、そうか。」

「はい、でも…神子様のところに…。」

「………」


本日クリスマス。
も、大切な泰衡様の為にちゃんとプレゼントを用意していたらしい。
だが、プレゼントは高館に…。

「あの、すぐ取ってきますので…。」

は当然、プレゼントを取りに戻ると言ったが泰衡様がそれを止めた。

「?」

そして不思議そうな顔をしているに顔を寄せると、そっと耳打ちした。
真っ赤な顔で、消えそうな声で。

年に一度の聖夜。

心よりの贈り物より魅力的なのは、誰より愛しい人と共に過ごす時間。
急ぐ必要はない。

もう今日はどうか自分の傍にだけ…。

…結局。
と泰衡様は高館には戻らず、クリスマスは二人で過ごすことにしました。

せめて今夜だけは、愛しい人と過ごす甘いひと時を…。





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2009.12.25