-陰陽術-



「ふん〜♪ふ〜ん♪」


庭の方から楽しそうな歌声が聞こえてきて、
はなんとなくそっちへ足を向けた。
今日も銀が不在のため、代理で高館へとやってきたのだ。


「あ、おはようございます。景時様。」

うわ!?……あ…、…ちゃん?」


庭で歌っていたのは景時さんだった。
洗濯物を楽しそうに干していたが、
が声をかけると飛び上がる程驚いて振り向いた。


「は、はい;あ、あの;す、すみません…驚かせてしまいましたか…?」


景時さんのあまりの驚きようにもびっくりして慌てて謝り、
を驚かせてしまったことに景時さんも苦笑いして謝った。


「あ、ごめんね〜;ちょっと不味いとこ見られちゃったかと思ってね〜。」

「え?何か?」

「いや、洗濯が…。」

「?」

「いや、何でもないよ。」


景時さんはばつの悪そうな顔をしていたが、
きょとんとしているの顔を見てふっと笑うと話を変えた。


「ところでどうしたんだい?珍しいね、君が一人で来るなんて…。」


いつもは銀か泰衡様が一緒のの単独の出現に景時さんが尋ねると、は、


「今日は銀さんがご用事でどうしてもこちらに来られませんので、 そのことをお伝えに…。」


と言った。


「あ、そうなんだ。」

「はい。それで、何かありましたら私がお手伝いしますので…
 銀さん程はお役に立てないかもしれませんが…よろしくお願い致します。」


深々と頭を下げるに景時さんは優しく笑いかけた。


「大丈夫だよ、ちゃん。
 別に今は俺たちは客人でもないんだし、そんなに気を遣わないで。」


鎌倉との和議の後、九郎さんを始めとする源氏のみんなや敦盛さんや先生は平泉の高館で生活している。
神子様や将臣殿や譲殿は元の世界へ帰ったが、今も高館へ遊びにも来るので平泉は相変わらず賑やかだ。


「お茶でも入れようか、少し待っててね。」

「あ、私もお手伝いします!」


景時さんは洗濯物を素早く干すと籠を持って屋敷に戻っていき、
は慌てて後を追った。



***



「今日は景時様お一人なんですか?」


お茶を用意してくれた景時さんにすすめられるままには腰を下ろすとそう尋ねた。
屋敷の中が静まり返っていたのを不思議に思ったからだ。


「そうなんだよ、何だかいつのまにかみんないなくなっちゃって…。」


少し拗ねたように答えた景時さんには小さく笑ったが、
ふと目についたものに思い出したように口を開いた。


「そういえば、景時様も陰陽師でいらっしゃいますよね?」

「え?ああ、そうだよ。」


突然で驚いたような顔をした景時さんだったが、首を縦に振ると頷いた。
景時さんの返事を聞くと、は興味深そうに景時さんの後ろを指差した。


「景時様はあれで術を使われるんですよね?」

「ん?」


が指差した先にあったのは景時さんが陰陽術の時に使う銃。


「ああ、そうだよ。」

「あれも景時様がお作りに?」

「うん。」

「凄いですね。」

「いや、そんなことないよ///


感心しているようなの声に景時さんは照れて頬をかいた。


「俺は印を結ぶのとかが苦手だからね。
 大事な時に失敗しないようにあれを作ったんだよ。」

「でも、そんな風にちゃんと考えてそれに備えたものをお作りになられたならやっぱり凄いです。」


照れ隠しに言った言葉も、は真っすぐ受けとめ褒めるので、景時さんは照れる一方。
仕方なく、真っ赤になってきた顔を隠すように慌てて話題を変えるように尋ねた。


「そういえば、泰衡殿も陰陽術を使われるんだよね?」

「はい、泰衡様もとても優れた陰陽師でいらっしゃいます。
 それで、私も少し陰陽術を教わっているんです。」

「え?ちゃんが?」

「はい。」


思いがけないの言葉に、景時さんは少し驚いて聞き返した。


「でも中々上達しなくて…泰衡様にもご迷惑を…。」


尋ねられて少し落ち込んだ様子のに、景時さんは慌ててを励ました。


「それは…そんな一朝一夕で上達するようなものでもないし…大丈夫だよ、ちゃん!」

「はい…。」


景時さんに励まされ、少し笑顔を見せただったが、やっぱりどこか
暗い表情に景時さんは思い出したように懐から何か取り出すとに渡した。


「よし!じゃあちゃんにこれをあげよう!」

「え?」

「一応、陰陽術の勉強になるかもね☆」

「?」


パチッと片目を閉じてウインクした景時さんに、
は不思議そうな顔をしたがそれを受け取った。



***



「泰衡様!」

!報告をしたらすぐに戻れと言っただろう…。」


屋敷に戻って泰衡様の元へ行くと、は早速怒られてしまった。
が高館へ行くと何故か泰衡様は機嫌が悪くなるようだ。


「あ、申し訳ありません…今日は景時様がお一人だったので…。」

「……だったらなんだ?」

「お一人でお留守番は寂しいかと思いまして…」

「……だからと言ってお前が付き合うことはないだろ。それにそれだと……」

「はい?」

「…………いや、何でもない。」

「?」

「それにしても…景時…とはあの、源氏の戦奉行だった男か?」

「え…?えっと、恐らく…。」

「…………」

「あの…?泰衡様?」


もともと不機嫌な表情だった泰衡様だったが、今は表情は更に険しい。
景時さんにあまりいい感情を持っていないと感じ取れるような…。


「あ、あの泰衡様!」


は慌て、思い出したように景時さんに貰ったものを取出し、泰衡様に見せた。


「何だ?」

「今日、景時様に頂きました。
 景時様も陰陽師でいらっしゃいますので、私も泰衡様に教わっていることを言うと、
 参考になるのではとこれを下さったんです。」

「危険はないだろうな?」

「まさか!」


まだ厳しい泰衡様の表情には苦笑いし、


「景時様は気さくで楽しい方でいらっしゃいます。
 これもそんな景時様の性格が表れているような…。」


と言ってくすくすと笑った。
楽しそうにしているに泰衡様は仏頂面で尋ねた。


「それで、何なんだ?それは…。」


三角錐の形の筒で、尖ったほうから紐が出ていた。
はにっこり笑うと袖口から紙を取出し、何事か書くと紙を筒の中にいれた。


「?」


そして泰衡様から少し離れると、


「いきますよ〜泰衡様!」


と言って筒についている紐を引いた。


パァン!!


「!!」


が紐を引くと、大きな音がして筒から何か飛び出した。
色とりどりの紙切れかと思うと、それはふわっと揺れると雪に変わった。


「驚かれましたか?」


にこにこと楽しそうな笑顔では泰衡様に尋ねた。


「今のは…?」

「景時様が陰陽術で作られたそうです。
 神子様曰く、『くらっかー』と言う名前のものだと。」

「くらっかー?」

「はい。」


泰衡様は訝しげな表情のまままじまじと周りに舞っている雪を眺めた。


「これは…幻術か…。」


ふっと手を通り抜けた雪。
泰衡様は幻だと気付いたようだ。


「はい。私が最初に入れた紙に『』と書きましたので…。
 何でも好きなものを書くとそれが現われるそうです。」

「…………」

「景時様の陰陽術…素敵ですね。」


ふっと優しく笑って言ったに泰衡様の機嫌の悪さは最高潮。


「泰衡様も何か…………あ、の…;」


楽しそうに勧めたは恐ろしく不機嫌な泰衡様の表情にびっくりして固まり、
泰衡様は、


「……くだらん!」


と吐き捨てるように言っていってしまいました…。




戻る




2010.08.01