□夜空に咲く華 「あ、さん!」 用事を済ませ、自室へ戻ろうとしていたところへ、は鈴花に呼び止められた。 「はい。何でしょうか?」 「急なんですけど、今夜、空いてます?」 「今夜……ですか……?」 は首を傾げて考える仕草をした後、「いいえ」と答えた。 それを確認すると、鈴花は嬉しそうに彼女の両手をがっちりと掴んだ。 「それなら、一緒に花火を見に行きましょう! 斎藤さんにも声をかけたら、喜んで行くって仰ってましたし」 「えっ……!」 の中で、鼓動が早くなるのを感じた。 そんな彼女に構わず、鈴花は続けた。 「それはそうですよ。梅さんも行くんですから。それに、これは良い機会だと思ったので」 「良い機会……?」 「ああ!違うの!それはこっちの話だから気にしないで!」 鈴花は慌てふためいたように両手を何度も振った。 「じゃあ、日が傾き始めたら出発って事で。あ、そうそう。必ず浴衣を着て来て下さいね」 言うだけ言って、鈴花はその場を後にした。 取り残されたは、怪訝な面持ちで、その背中を見送った。 (さて、鈴花さんは、何を仰いたかったんでしょう……?) 太陽が西の方に差しかかった頃、達は連れ立って、花火の見える土手へと出向いた。 鈴花の隣には才谷、そして、と並んで歩いているのは、斎藤だった。 だが、やはりこの二組は明らかに違う。 前を歩く才谷と鈴花は、屯所を出てからずっと、仲睦まじく手を繋いでいるが、斎藤とは、手を握る事はおろか、わずかに間が空いている。 斎藤も、何を考えているのか、ずっと無言だった。 (まあ、斎藤さんは元々、口数が多い方ではないから……) そう思いつつ、やはり心のどこかでは淋しささえ感じてしまう。 少しばかり、前の二人が羨ましく思えた。 土手に着いた頃には、既に花火が始まっていた。 「ああ……ちょっと遅かったみたいね……」 びっしりとした人混みを見るなり、鈴花はぽつりと呟いた。 そんな彼女を慰めるように、才谷は優しく声をかける。 「まあ、仕方ないじゃろ。 ――しかし、こう人が多過ぎると、おまんとまったり出来んのう……。どれ、別の場所を探すか」 才谷の言葉に、鈴花は嬉しそうに頷いた。 「と言うわけですので、斎藤さん、さんの事、よろしくお願いしますね!」 昼間同様、鈴花は言いたい事だけ言い、才谷と二人、夜の中に消えて行った。 斎藤との間には、気まずいような沈黙が流れる。 (ど、どうしたら……) 何か話題をと、必死で考えていたら、人が思いきりぶつかって来た。 「あっ……!」 均衡を崩し、倒れそうになる。 だが、すんでのところで身体を抱き止められた。 「大丈夫か?」 確認するまでもない。 それは、斎藤だった。 あまりに突然の出来事に、は硬直たまま、動けなくなってしまった。 (と、とりあえず、お礼を……!) 頭ではそう思うものの、言葉が出て来ない。 「――全く、お前は本当に危なっかしいな」 呆れたような口調ではあったが、彼女を見つめる瞳は、どこまでも優しさを讃えていた。 「す、すみません……」 は何とか身体を動かし、斎藤から離れた。 だが、胸の鼓動は、相変わらず早いままだった。 「しかし、凄い人だな……」 斎藤はボソッと呟くと、の手を、自らのそれで包み込んだ。 温かくて大きな手。 兄も大きい手をしているが、それとは違う。 斎藤のは、また格別だった。 「こうして見る花火も、決して悪くはないな」 夜空に咲く花火を見上げながら、斎藤は言った。 打ち上げられては、すぐに消えてしまう大輪の華。 それは美しくもあり儚くて、は少し、切ないような気持ちになった。 「私達の命も、あの花火のように散ってしまう時があるんでしょうか……?」 は思わず口にした。 新選組に入隊してからというもの、数多の命が散る瞬間を、幾度となく目にしてきた。 だからだろうか。 素直に綺麗だと称賛出来ずにいるのは。 と、その時―― 斎藤がをそっと抱き締めた。 「大丈夫だ」 耳元に、彼の囁きが聴こえてきた。 「どんな事があっても、俺はお前を離したりしない。死ぬ事は考えるな。、絶対、生き延びると信じろ」 斎藤の言葉に、の瞳から、涙が零れ落ちた。 (そうだ。私はまだ死ねない。やり残している事だってたくさんあるもの。そして……) は顔を上げる。 斎藤は口許に微笑を浮かべながら、指先で彼女の涙を拭った。 それだけで、の心は満たされた。 あなたと共に生き続ける事。 それが、私のただ一つの願いです―― ---------------------------------------------------------- 「月下に舞う花びら」でキリ番踏んでまもやリクエストさせて頂きました! 当サイト主人公と斎藤さんの小説です! いや〜もうなんと言いますか…素敵過ぎますvv 私が書くとオチがどうしても抜けてしまうんですが…;(爆) 最後まで素敵な内容で惚れ惚れですvありがとうございました!冬佳さん! そして何気に斎藤さんが主人公を名前で呼んでいることに、 後で気付いてびっくりしました(笑)
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