『突撃☆姐さん時空どころかサイトまで跳ぶ?』




「困ったわ。何にしたらいいのかしら〜??」


京香は京邸の濡れ縁で、腕組みをしながら悩んでいた。


「喜んでもらえそうな物よねぇ〜。
 一時は、時の権力者になったパパだもの……簡単な物では驚いてはくれないわよね。
 ……何にしよう?うぅ〜ん……。」


いつもお世話になっている清盛に、何かプレゼントをしたいと思った京香は、何にしようか悩んでいる。
福原よりも京の方が何かと物が揃っていそうなので、京に居る間にプレゼント選びをしてしまいたかった。
だが清盛は一時とはいえ、時の権力者にまで上り詰めた男だ。
普通の物を贈るのでは面白くないし、喜んでもらえるかも分からない。
例え喜んでくれたとしても、インパクトに欠けてしまう。
京香は清盛に、ありきたりな物をプレゼントするつもりは無かった。
なので、冒頭のように悩んでいたのだ。


「う〜ん…。難しいわねぇ〜。」

「あっ、京香!ここに居たんだね。」


悩む京香の元へ、白龍がやって来る。


「あら、白龍。どうしたの??走って来て。」

「京香、大変なんだ。京香の事を呼んでいる者が居る。
 …遠くから僅かだけども、私には聞こえてくる。だから助けてあげて!」


白龍は必死になっているが、京香には説明が少なすぎてどうしたらいいか分からなかった。


「えっと……白龍。一先ず私は何処へ行けばいいの?六条にある堀川御所?それとも、六波羅かしら?」

「違うよ、京香。この世界じゃない所……ずっとずっと遠くに居る者が呼んでいるんだ。
 ………だから、私が連れてってあげる。」

「この世界じゃない、遠く?それじゃあ、瑠璃と瑪瑙の所かしら?」

「これを持っていて。何か必要になるかもしれないから。」


白龍は京香に珊瑚を一つ渡した。


「え?珊瑚?………ありがとう。」

「それじゃあ京香、行こう!」


そう言うと白龍は、京香の手をとり時空の狭間への道を開けてしまった。


「え?今すぐになの??ちょっと…待って!!いきなりなんて……心の準備がまだで………


この言葉を残し、京香は白龍にどこかへ連れられて行ってしまう。






【奥州平泉 伽羅御所】



― ドン!! ―



大きな音を立てて、京香は地面へと落ちた。


「痛い…また落とされたぁ。あぁ〜……いったぁい〜。」


地面に座り腰を押さえる京香の元に、一匹の犬が吠えて近寄って来る。


ワンワン!!


「え?どこにワンコ?!」


鳴き声のした方に京香が振り向くと、大きく育った犬が居た。


「ワンコ〜、おいでぇ〜。」


京香が呼ぶと、犬は手の届く範囲にやって来る。


「お前はどこのワンコなの?」


犬に話し掛けながら、首下を撫でたり口の周りを両手で挟みグニグニとマッサージするように撫でていた。
普通犬は、見知らぬ人間に口周りを触られるのは嫌うのだが、この犬は嫌がる素振りを見せなかったのだ。


「お前は人懐っこいのね。ふふふ、可愛い〜。」


犬を撫で回して気が済んだ京香は、やっと自分の居る場所に目をやる事が出来た。


「ここって……どう見てもどこかの屋敷の庭よね?やっば!!不法侵入じゃない!見つかったら捕まる!!」


そう言っている間に犬は京香の元から離、どこかへ行ってしまった。


「あれ?ワンコはどこ行った??」



同じ頃、は屋敷にある自分の部屋で悩んでいた。


「何を差し上げたら泰衡様は喜んでくれるでしょうね?」


日頃お世話になっている泰衡に何かをあげたいと思ったが、
自分の手元にあるお金で泰衡が気に入ってくれそうな物となると中々考え付かず、
ここ数日何をあげようかと悩んでいた。


ワンワン!!


「あっ、金さん。こんにちわ。」


ワンワン、ワンワン。


「どうしたんですか?」


金は庭を走り、少し行った所で振り返る。
は、金が自分をどこかへ連れて行きたいのでは?と思えた。
そして、金の元へ行く為に履物を探す。


「待って下さい、金さん。今そっちへ行きますから。」


は金の進む方向へと一緒に進んで行く。
すると前方に、見知らぬ女性が居た。
どういう訳かその人は、屋敷の塀に背を預け辺りを窺っていた。
見た事も無い着物を着ていて、袴と思われる物には砂埃が付いている。


ワンワン!!


「あっ、さっきのワンコ!!」


金が近寄ると、その人は金の頭を撫でた。


ワンワン、ワンワン!


「しー!!見つかっちゃうから!しー!
 いきなり跳ばされて、ここに居ました…なんて誰も信じてくれないから、捕まる訳にはいかないの!
 だから、お願い!!しー!!」


金が吠えるのを、必死に止めるように話し掛けている。
その時女性は、自らの口元に人差し指を添えて話し掛けていた。
はその光景の一部始終を見ていたのだが、こちらが何か言う前にその人に気が付かれた。


「あ!!…………その、こんな事を言っても怪しい事に拍車をかけるだけかも知れませんが、
 私…決して怪しい者ではありませんので!!」


その人は必死にに弁解していたが、はこの人が思うほど怪しい人間だと思っては居なかった。
それは、金があまりに懐いていたからだ。


「あの、いきなり飛ばされて?ここに来てしまったんですよね??」

「ええ、まぁ〜そうですけど…………私がこんな事言うのも何なんですけど、
 いきなりそんな事を言われたら、少しぐらいは疑いません?」


は本来ならば、とらなくてはならない正当な自分の行動を指摘され、少し焦った。


「え?あの…金さんがあなた様に懐いているので、悪い人じゃないと思って…。」

「あっ、いや……ありがとうございます!」



このまま京香を置いておくことも出来ないので、は京香を自分の部屋まで連れて行く事にした。


「えっと、あなたの名前は?」


京香は、隣を歩く少女の名前すら知らないので聞いてみた。


です。…あなた様のお名前は?」

「小野寺京香って言います。よろしくね、ちゃん。」

「こちらこそ…よろしくお願いします、京香様。」


は京香の方を向き、軽く頭を下げた。


「様?!いやぁ〜、そんな大そうな人間では無いので様付けなんてしないで下さいよぉ〜。
 普通に呼んでねぇ?お願い!!」

「は、はい。分かりました、京香さん。」



「ここが、私のお世話になっている方から頂いたお部屋です。」


が使っている部屋に通されると、京香は部屋を見渡した。


「まぁ〜、カワイイ!ちゃんのイメージ…じゃ無かった、印象にあってて可愛らしいお部屋ね。
 素朴だけど、小物に可愛らしい印象を持てるお部屋で素敵だわ!」

「あ、あの……ありがとうございます。ここの部屋は三人で使っていて…
 大半の物はその方たちと共同で使ってる物や、屋敷の主や仲良くなった方たちが下さった物なんです。」

「へぇ〜、屋敷の主が色々とくれるなんて凄いじゃない!
 ここの主さんは、ちゃんの事を大切に扱って下さってるのね!」

「いえ…その…。」


は必死に返す言葉を探すものの、年上の京香に口で勝てる筈も無く、頬を染めるばかりだった。


「いきなりなんだけど、ちゃん。私の事、呼んだって事は無いわよね?」

「え?京香さんを?………無いですけど、どうしてですか?」


京香は手を口元に持っていき、考え込んだ。


「う〜ん…知り合いからね、誰かが私を呼んでるって言われて、急に跳ばされた先がこの屋敷の庭だったの。
 だからちゃんが呼んでたのかなぁ?っと思ってね。違うのかな??…………それじゃあ、何か悩んでた事とか無い?」

「悩んでいた事ですか?……あの、泰衡様に…あっ!この屋敷の主になんですけど…
 いつもお世話になっているので、何か贈り物をしようと思って……何にしたら喜んで頂けるのかな?って悩んでました。」

「それだぁ!!私も贈り物の事で悩んでたのよ!だから何かの力が働いて、私が呼ばれたのね。
(え?…でも、泰衡様って…まさかアノ、奥州藤原の泰衡?)」

「えぇ?!そうなんですか?何だかよく分からないけど、凄いですね!」

ちゃんは、その泰衡様に何をあげようか決まったの?」

「それが、まだなんです。何をお贈りしたら良いのか…あれもこれもと考えていると、
 段々どうしたら良いのか分からなくなってきてしまって。」


その時の状況を思い出しているのか、の顔が困っている顔つきに変化していった。


「わかるよ〜。お店に行っても、どれも良く見えて目移りしちゃってね。
 探すのは楽しいんだけど、中々決まんないのよねぇ。私も色々考えたわぁ〜。
 着物を作る・食べ物を作る・肩揉みをする…とか。
 着物は即行却下したけどね…作ってたらいつになるか分かんないし。
 食べ物だと形が残んないでしょ?形に残る物が良かったし、肩揉みじゃありきたりだしね。
 う〜ん、何か無いかなぁ?…………………あ!!お香なんてどう?
 持ち運び可能な匂い袋にすれば、身に着けてもらう事も出来るし!!どうかしら?」


京香は首を傾げ、の意見を待つ。


「あっ…良いですね。匂い袋ですか?それ作りましょう!」



そうと決まると二人は市に行き、香を作る材料や道具を買い揃える。
は自分のお金があるから良いけれども、京香はお金を持って来てなど居なかった。
これでは作る事が出来ないと思っていたのだが、こちらに来る際に白龍が持たせてくれた
珊瑚がある事を思い出し、質屋でお金に還元して元手となったお金で材料を揃えたのだった。



「それじゃ、材料も揃った事だし作りましょうか。」

「はい。でも……どうしましょう!私お香の作り方なんて、分からないです!」


は急に困った顔をして、京香の方を向いた。


「それなら大丈夫よ〜!私の知り合いに詳しい人が居てね、結構前に作ってたの見てたから分かるわよ!」

「良かった〜。それでは京香さん、教えて頂けますか??」

「ええ、一緒に作りましょ!」

「はい!」


京香は用意した、鉄臼を取った。


「それじゃあ、コレをこの鉄臼の中に手頃な大きさに削っていってね。
 削れたら…こうしてね…細かくすり潰すの。…あっ!慌てたらダメよ!
 熱をもっちゃうと香りが飛んじゃうらしいから。」

「は〜い。」


京香の説明に合わせ、は手を動かしていく。


さん、よろしいですか?」


作業をしている二人の元に、来客が現れた。


「あ!銀さん、こんにちわ!」

「こんにちわ、さん。………こちらの方は?」

「え?え…えっと、あの……重衡さん!!」


京香は“平重衡に似た人物”の出現に驚いた。


「「…え?」」


だが、呼ばれたであろう人物とは、別の意味で驚いていた。


「…失礼ながら、どなたかとお間違えではありませんか?私の名は、銀と申します。」

「え?違う人??…………そっくりなものだから、本人だと思って…ね。
 ごめんなさい、人違いのようだったわ!(でも、似すぎよね…。)」

「そうでしたか。失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「あぁ、自己紹介が遅れました。私はちゃんとは遠縁の者で、
 ちゃんのお祖父ちゃんのお姉さんの息子さんのお嫁さんの、いとこの母親の孫なんです!」


京香は笑顔で、銀につっこむ隙を与えぬように言った。の方を見ると、目を丸くしている。


「は…はぁ。」

「この子がこちらのお屋敷でお世話になって居ると聞き、こうして会いに来てしまったんです!」

「そうでしたか。それは失礼を致しました。」


万人受けする笑顔で対応しているが、あまり信用してはいないようだ。


「いえ…このように大きなお屋敷ともなると、やはり身元の確かでない者には神経を尖らせますものね。」

「………………そうでした、さん。琴さんと空さんが貴方の事を探していましたよ。」


銀はこの部屋に来た本来の目的を果たすべく、に待っている二人の事を告げた。


「え??あっ…そうなんですか?…………ああ、大変!二人の所へ行って来なきゃ!」


はどうやら京香がついたデタラメな嘘に、かなり驚いていたようだ。


「私はこの部屋で待ってるから、ゆっくり行ってらっしゃ〜い!」

「ごめんなさい!!それじゃあ、行ってきます。」


が部屋から出て行くと、すぐに銀も用があると言って行ってしまった。
この時間を使って、京香は買った袋に細工をする事にした。



京香が袋を作るのを止めた頃、が戻って来た。


「すみません!お待たせしました。」


が部屋に入ると、京香は鉄臼と杵ですり潰す作業をしている。


「お帰り〜。ごめんね〜、ちゃんの分も少しだけ潰させてもらってるの!」

「あっ、すみません!ありがとうございます!」

「いいえ〜。それじゃあ、粉末になるまで混ぜましょう!!


「粉末になりましたね!」

「うん。それじゃあ香りの基礎となる香りに、少しずつ他の香りを足していきましょ。
 それで…『これでいいな』って思える香りが出来たら、えび香の出来上がりよ!」

「それでは、これくらい入れて……もうちょっとかな?……う〜ん。あれ?誰か来る?」


こちらの方に、足音を立てて誰かがやってくる。足音の主はひどく慌てているのか、早足のようだ。


!!無事か?!」

「え?!泰衡様?……どうなさったんですか?」


どうやら足元の主は、の主の泰衡という人だった。


「銀がお前の元に、怪しい奴が来ていると知らせを持ってきてな…。
 気になって様子を見に来たのだが……こいつか?」

「(無理も無いけど、私メッチャ怪しまれてる?)
 ……あの、お言葉ですが…初対面の人間に対して、こいつ呼ばわりはどうなんでしょうか?」

「フッ……………怪しい奴を、こいつ呼ばわりして何が悪い。」

「(抑えろ〜、抑えろ〜…相手はちゃんの主。)…………そうですか。」


京香は笑顔を浮かべるが、口元が引きつっている。だが、これが精一杯努力した結果だった。


「あの…京香さんは怪しい人じゃないですよ!」

「怪しい事、極まりないな。第一そんな遠縁が、わざわざお前を訪ねて来るなどあるのか?」

「あ…え、えっと〜。」


は必死に言い訳を考えるが、丁度良いものが思い浮かばなかった。


「でも京香さんは、泰衡様がその様に心配なさるような怪しい人じゃないです!」

「……………………お前が、そこまで言うならいい。好きにするんだな。」

「はい!ありがとうございます!」

「また暫くしたら、様子を見に来る。」


そう言って、泰衡は部屋から出て行った。


「……(あらあら…心配性ね。……まぁ〜こんなに怪しい人物が居たら、無理も無いか。)……」

「…………えっと、続きですね。基本の香りに他の香りを混ぜていって…………これで良いかなと思うんですけど良いですか?」


が混ぜた香を京香に差し出す。


「どれどれ?…………良いんじゃないかな?コレを紙に包んだら、えび香の出来上がりね!
 これで…作ったえび香を袋に詰めて、中身が出ないようにしたら完成よ!
 はい、これ…ちゃんはこの袋に詰めてね。」

「はい、ありがとうございます。わぁ〜これ、京香さんが刺繍なさったんですか?」

「…時間があったから、針と糸を拝借してやってみちゃったの!」


その袋には、買った時には付いていなかった刺繍がしてあった。
小さな布袋は黒地で、真ん中に下がり藤と隅の方に金の刺繍が施されていた。
重衡似の銀と名乗る青年がを連れて行った間に、京香は部屋にあった針と糸を使って刺繍をしていたのだった。


「……(アノ泰衡に渡るのは不服だけど、このコが喜ぶなら仕方ないわよね!)……」

「すごく素敵です!泰衡様に喜んで頂けると良いです。」

「(こんな可愛いコを前にして、喜ばなかったらどうしてやろうかしら…。)……大丈夫よ!ちゃんがあげるんだもの、喜ぶわよ!」


京香の手元には赤地で、真ん中に一羽の蝶の刺繍が施された小さな袋があった。


「これで、この袋にえび香を入れて落ちないように口を紐で縛ったら……出来上がり!!」

「京香さん、私も出来ました!」

「良いじゃない!香りも素敵だし、ちゃん初めてなんて思えないわ!」



「さてと、こっちでの用事も終わったし。私もコレをパパの元に持って行かなきゃ!」

「京香さん…帰ってしまうんですね…。折角出会えたのに、寂しくなってしまいます。」


が顔を下げるのを見ると、京香は悲しそうな顔になる。


「……私も、折角会えたのに寂しくなってしまうわ……あ!!
 ……白龍は?…………居ないよ!白龍!!どうしよう………白龍〜!!迎えに来て〜」

京香が叫ぶと、部屋が急に光り出し、目の前に白龍が現われた。


「京香……私を呼んだ?」

「ええ!私を…私が居た時空に戻して。」

「わかった。京香、行くよ!」

「……それじゃあ、ちゃん。私、元の場所に帰るね!機会があったら、また会いましょう!」

「はい!京香さん、お元気で!」

ちゃんもね!泰衡様に、しっかりと渡すのよ!」

「はい!」


強い光を放ち、京香と白龍は消えていった。
そこに残ったのは、と二人で使った道具類と作った匂い袋だけだった。






【京 梶原邸】


「ふ〜…着いた。早速パパの元に帰ってコレをプレゼントしなきゃ!!
 白龍、急ぐから!悪いけど、皆によろしく言っといてね!」


京香は白龍にそう言うと、一人平家の元へと急いだ。






おまけ


!!何事だ!!」


血相を変えて、泰衡はの居る部屋へとやって来る。


「あ!泰衡様!」

「何が起こったんだ?奴はどうした?京香とか言う女は、どこへ行った?」

「帰られましたよ!」


あまり落ち着きの無い泰衡に対し、は落ち着いていた。


「……帰っただと?……(二度と来るな!にあのような怪しい奴は、二度と近付けん!)」


そう固く誓う、泰衡様なのでした。





----------------------------------------------------------

「氷重」 副管理人の李碧玉様より頂きました!なんとコラボ小説です!
碧玉様のドリーム主人公『小野寺京香』さんがわざわざ来てくださいました!
(ちなみに京香さんのお名前は変換できませんので、ご了承ください。)

当サイト主人公もとっても可愛く書いて下さって!
平泉メンバーも総登場してくださいまして!もう感謝感激です!
しかもわざわざ誕生日にあわせて頂いて…!本当に嬉しいです!ありがとうございました!
ちなみに京香さんがメインの碧玉さんの素晴らしい小説は「氷重」様のサイトで
読むことが出来ますので是非!お勧めですよ♪

でわでわ!碧玉様!そして京香さん!ありがとうございました!


戻る