新撰組。


俺は局長や副長のお役にたつ、そう決意してここへ来た。

そのことに後悔はないが、一つ不思議に思うことがある。


それは…



§彩雲§



「どうかなさったのですか?」

そう声をかけてきたのは、さん。

局長が知り合いから預かっている、ということなのだが、
俺が不思議なのは彼女と彼女の周りの空気が、この新撰組の中でもかなり特異だということ。

彼女の側では、局長や副長すら空気が柔らかくなる。


それはただ、彼女が女性だから、ということではないようだ。

同じように女性である桜庭さんは、男とは違うが、凛とした色を纏っているのだから。



「どちらかと言えば、寄り添うような…か」


誰に言うわけでもない、独り言。


その言葉が、俺のただの感想でないことに気づいたのはまだ少し先。





「俺が、ですか?」

「君には悪いけど、頼むよ〜」


局長の言葉に反論する気はないのだが、なぜ、俺がなのかはやはりわからなくて。


「なぜ、さんと組むのが俺なのですか?手練なら他にも…」


そう、局長が拝むように頼んできたのは、しばらくさんと共に巡察を組むということ。

腕前は、そこらの新入り隊士にも負けないさんならば足手まといにはならないが…



「桜庭くんは、ススムに連れてかれちゃったし、
幹部を張り付かせるわけにもいかないし、でも相馬くんならって、思ってさ。」



なるほど。


「要は、俺は彼女に近づく虫を追い払う役目、ということですね。」


そう言うと、近藤局長は少しバツの悪そうな顔になって。


「まぁ、それに近いかな。君なら、ちゃんと距離を保ってくれるだろうって信用できるからね。」


そうまで言われて断る理由もない。

俺は、その役目を受けることを告げ、巡察の準備をすることにした。





巡察は何もなく平穏に終わるように思えた。

特に不穏な動きがあるようにも見えなかった。ただ、局長の頼みを除いては、だが。


彼女が声をかけるたび、隊士の気が浮つくのが見なくても感じられて。


「誰でもいいわけでは、ない、というのはわかった気がする。」


虫がつかないように、と共に、彼らの油断が限度を越えることを危惧しているのだろう。



だが、このままなら…そう思いだした頃、



「見ろ、女が刀を帯びてるぞ」

「さすがに“新撰組”さまは余裕ってわけだ」

「だな、治安を守りながら女の機嫌もとれるのだから」


明らかに挑発した口調。

そちらを見ると、浪士とは違う、恐らくどこかの藩士らしき二人。
どうやら少し酔っているようだ。


これはいさかいを起こさない方が賢明だろう、
そう判断した俺は、他の隊士を視線で止めると、先を急ぐよう指示をだす。


その瞬間、また言葉がかかる。


「わざわざ、隊士の扮装までさせて、一体誰のためだか」

「人斬りも女には弱いとみえる」




「…私のことを言っておられるのですか?」


その瞬間、小さく、でも凛とした声が響く。


さん?」


彼女は止める間もなく、彼らへ近づいていく。


「確かに私は女です。でも、仕事をするためここにいます。
あなたがたこそ、刀は飾りのようですね。刀を持つ者とは思えないほど。」


「なんだと!言わせておけば。」


その挑発にすぐさま抜刀する彼らに、確かに侍としての矜持はないかもしれないが、
さすがに危ないかもしれない、彼女を守ることも含め、対応を考え始めた瞬間。


初めて、彼女の気が見えた。


しなやかな絹のような白銀の気。



「ならば、私と勝負されますか?無用な戦いをされてもよいというのであれば。」

彼らの顔が怒りに歪むと同時に、さんの刀は居合のように、
正確に一人の首筋近くを掠めて。


その腕前に、勝ち目などない、そう思ったのか、
彼らは聞くにたえない言葉を残し、去っていく。


俺はといえば、その腕前に、彼女の想い人がわかった気がした。



「緊張しました〜」

戻ってきて微笑むさんに、先ほどの気迫はなかったけど。


「先走ったな。俺は待つように指示したと思うが。」

「すみません。でも、私じゃなく新撰組をおとしめるような言葉は許せなかったんです。」

だって、あんなに素敵な人たちなのに、そう言い切る姿に、
以前ぼんやりと思ったことを不意に思い出す。


寄り添うように側にいる、と。


彼女はきっと、雲のような存在なのだろう。

局長をはじめ、それぞれ強い彩(いろ)をもった人たちの側で自身の白銀の気を淡く染め、
優しく包み込む。

まるで伏龍に寄り添う彩雲のように。


「まあいい。さんが無事でよかった。残りを済ませて戻ろう」


俺にも、彼女の柔らかい気は届いているのだろうか。


近しくなりたい、もっと彼女を知りたいと


そう思ってしまうのだから。






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「掌中の珠」、40000ヒット&5周年記念にリクエストさせて頂きました!

花柳剣士伝は未プレイの管理人ですが、相馬肇さんが大好きなので、
是非にと言うことで、今回は肇さんをリクエストさせて頂きました!
そして、やっぱり肇さんは素敵だなvと改めて♪

そしてそして!相変わらず当サイトヒロインで書いて頂いたのですが、
何だか物凄くヒロインのことを良く言って頂いていて照れました///;(汗)
でも、凄く嬉しかったです!ありがとうございます!

それと、主人公の性格も、何だか私の方が納得してしまいそうな程、
イメージ通りと言いますか、本当に本当に大満足!大感激でした!

高杉沙月様ありがとうございました!サイト運営これからもがんばって下さい!


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