〜想い〜




、悪いが俺の部屋まで来てもらえるか」

「はいっ。」


最近よく見かける風景。
一つには、近藤さんがご友人からさんをお預かりしてるから、
あまり外勤に出さないようにという配慮だと思う。

だけど…ねぇ。


「あ、またさん呼ばれてるよ。」

「贔屓か、じゃなきゃ…」


平助くんや永倉さんが、噂してるのはいつものこと。

けどっ…うしろに…



「じゃなきゃ、なんだ?永倉」

「「…土方さん…」」



話に夢中になっているうち、当の本人に見つかって、怒られてる。
さんは…先に行かせたみたい。



「お前ら、そんなに暇なら仕事をやろう。とっておきの、な。」



平助くんは声が出なくなったようにしばらくぱくぱくとしていたけど、
意を決したように、


「えっと今やっと帰ってきた…」

「何か言ったか?」

「いえ…」

「やります…」

「そうか、悪いな」


土方さんの言葉は大きな声ではないけど、やけにはっきりと聞こえて。
それが最大限に怖いことは、しばらくいる者なら誰でも知ってる。
たとえそれが近藤さんだったとしても逆らえないだけの迫力があるから。



でも、実際そんな噂をしてるのは彼らみたいな幹部だけじゃない。
平隊士だって同じように噂してるのは変わらない。


なまじに土方さんがモテるのを知っているだけになおさら噂したくなるのだと思う。



「まったく…」


眉をひそめ、自室に戻ろうとした土方さんと目があって。


「なんだ桜庭。お前も何かあるのか?」


先ほどの永倉さんたちとのやりとりのまま、機嫌悪い態度で声がかかる。


「いえ、たまたま通りすがり、です。」


本当はずっと一部始終をみていたけど、
それを言うと間違いなく私も無事にはすまないだろうから。

それに、私は気づいてしまった。

土方さんの目が彼女を追いかけていること。
そして、その目が哀しくゆらめくのを。


「なら、お前にも頼みがあるんだが。」

「は、はい?私に、ですか?」


うっかり考えに引き込まれていた私を現実に引き戻したのは土方さんの言葉。


「あぁ、悪いが使いにいってもらいたい」

「はい、かまいませんがどちらに…」

「ここにあるものを揃えてきてくれ」


渡されたのは、いくつかの用品が書かれた書付。


「わかりました、じゃあいって参りますね。」


なぜ私がそのことに気づいたか、それは私も同じ想いを抱えているから。

叶わないと思いながら恋い焦がれ、その人の心に入り込めないさびしさと、
その心を占めている人への焦りと、そしてそれを、本人に見せたくない強がり。

私ですらそう思うのだから、土方さんなら…なおさらだろう。


「考えていても仕方ない、か」


私は渡された書付に目を通し、買い物に出た。

頼まれた買い物はそうかからず終わり、
せっかく町へでたのだからとお茶請けを買って帰ることにした。


「桜庭?」


お饅頭を包んでもらう間に声をかけてきたのは斎藤さん。


「斎藤さん、珍しいですね、こんな所にいるなんて。」

「たまたま通りかかったんだ。お前は…非番か?」

「いえ、土方さんに頼まれたものを買い出しに出た帰りです。
 これは、仕事されているからお茶請けにと思って…」


斎藤さんは少し考えていたけど、私の手から荷物を取り上げると、
お饅頭を受け取るのを確認して先に歩き出す。


「あのっ、斎藤さん?」

「…俺も帰りだからな」


振り返ることもなく、淡々と話すだけ。
それでも、私が離れすぎないよう気をつけてくれる。
それが斎藤さんなりの優しさ。


だから、なのだろう。
彼女、さんが意識せず惹かれる相手。

そして…斎藤さんも。


「どうした」

気がつくと、斎藤さんが私の腕をつかみ、顔をのぞきこんでいた。
どうやらいつの間にか斎藤さんも追い越し、まっすぐ歩いて行こうとしていたらしい。


「な、なんでもないです」


まさか、さんの想い人だと考えながら歩いていたとは言えず、慌ててごまかす。


「それならいいが…無防備は隙を生む。」

「そう、ですね。気をつけます。」


だけど、心の中の澱は消えることはなくて。

ただ、深く沈めただけ。



「ありがとうございます、斎藤さん。でもここからは一人で持ちますから。」

「遠慮しなくていい。」

「でも…」

「何かあるのか?」


まさか、そこにさんがいるから、などと子供っぽい理由だとは言えず、
断れないまま斎藤さんに荷物を運んでもらうことになって。

お二人が会ってしまう、と心配しながら斎藤さんの先に立ち、土方さんの部屋へ向かう。


「失礼します。桜庭ですがご指定の用品を買って参りました。」

「入ってくれ」


障子を開け、斎藤さんと荷物を運び入れる。


「悪かったな、二人とも。」

「いえ…」

「では、俺たちは失礼します。」


、お前ももういい。休みにすまなかったな。」

「ですが、まだ途中で…」


土方さんは、首を振ると、


「休みにまで使っちまってすまなかったな。」


少しだけ優しい口調で言い換える。

また、だ。

ほんの一瞬だけの変化。


「…はい。ではお言葉に甘えますね。」


さんは、ぺこりと頭を下げると部屋を出て行く。

残ったのは、土方さんと私。


「どうして、途中なのにさんを解放したんですか?」


半分は冗談めかしてだけど半分は本気。


「…お前を解放するのに、だけ引き続きでは不公平だろう。」


土方さんの声はさっきと同じように、低くなる。
だけど、それに怯むわけにはいかない。


「そうかも、しれませんね。
 でも、せっかく買ってきたお茶請け無駄になっちゃいますから、私手伝いますね。」

「…すまんな」

「じゃあ、とりあえず私お茶いれてきます。」


土方さんからの返事はなかったけど、私はお湯を取りに行くため、部屋をでる。

途中、楽しげに話す斎藤さんとさんを見かけたけど。
見ないふりをして通り過ぎる。


彼らが悪いんじゃない。
ただ…


土方さんより斎藤さんを身近に感じたというだけかもしれない。


「だから、私もまだお側に居られるんだもんね…」


他の人を想うあの人のそばに。






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「掌中の珠」、25000HIT時にフリリク募集されていたのでお願いさせて頂きました!
斎藤さんと土方さんでVSっぽいものなんですが、VSと言うとギャグっぽいイメージしかない
私的にはシリアスなVSものに何だか新発見したような感じで嬉しかったです〜v

おまけに土方さんは私が書くと必ず壊れるので(爆)かっこいい土方さんにドキドキですv
鈴花さん視点と言うのも面白く、でも斎藤さんと仲がいいのに嫉妬してしまいそうな…嫌な奴です私;(汗)
けどこの鈴花さんは土方さんのことがお好きなんだそうで…斎藤さんじゃなくてほっとしました;
鈴花さんが斎藤さんを好きなら主人公勝ち目ありませんものね;

と、ダラダラと変な感想すみません;高杉沙月様ありがとうございました!


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