〜いつもの日常〜




「…あれは、桜庭とか?」


少し先に見える茶店に二人が座り話をしている。

近藤さんが気を遣ってなのか、最近、はよく桜庭と出かけている。
俺にはあまり馴染みはないが、やはり女同士気安さがあるのだろう、
こうして茶店で甘いものを食べたり、山崎さんも加わって買い物したりしているようだ。
邪魔をせず通り過ぎようと思っていたのだが…


少し近くに来たところで、どうやら何かあったようで桜庭が頭を下げるとどこかへ走っていく。
一人になったはまた座り直すと続きを食べ始めている。


「…どうした?」

「あ、斎藤さん。今日は斎藤さんも非番なんですか?」

「ああ。おまえは、桜庭と一緒だったようだが…」


はくすっと笑うと、


「見ていらしたんですか?桜庭さんはなんでも急用が、ってさっき走って行かれましたよ。」


置いて行かれたのに屈託なく笑うから、


「いいのか、おまえが先約じゃないのか。」

「いいんです。だって、桜庭さんすごく嬉しそうでしたから。
 最近、桜庭さんすごくきれいになったと思うんです。好きな方ができたみたいで…」


桜庭の惹かれた相手…それが誰だか知っている以上、俺は何とも言いようがなかった。
それにを巻き込むようなことはしたくなかったから。


「でも、そういうのもいいですね。」


先ほどまで桜庭のいた隣に座り、茶を頼んだ俺にか、
それとも独り言なのか、少し経っては小さくつぶやく。


「どういうことだ?」

「そうやって、大事な方を見つけられる、そういうのもいいなって、思うんです。」


屈託なく微笑みながら。
それがどれほど人を惹きつけるのか、そんなこと考えもせず。


「お前は、そういう男がいるのか?」

「そうですね、そうやって変わってきているのなら…いいなと思います。
 私は想いが通じているか、まだわかりませんから。」


それは誰だと、喉まで出そうになる言葉を隠して。
“まだ”時期ではないと思うから。俺の中の嫉妬を殺して。


「お前が変わってきているかは俺にはわからんが…お前の笑顔は桜庭と変わらないくらい鮮やかだ。
 それは、あいつも同じだが自身の信じた道を歩んでいるからだと俺は思う。」


俺のその言葉に、はわずかに赤くなり、華のような笑顔を向ける。


「ありがとうございます。斎藤さんにそう言って頂くと、とても嬉しいです。」


茶店を出た後、予定もなかった俺は、につきあいいくつかの店を回った。
ほとんどが細々とした品だったようだが、楽しそうに微笑むあいつに俺もゆっくりとした時間を過ごした。

帰り道、並んで歩きながらの他愛もない話を聞いていると、
袖が少し重いような気がしてちらっと見ると無意識なのか横を歩くが袂を軽く持っていて。
小さな子供がするような仕草に、自然と笑みがこぼれる。


「どうなさったんですか、急に笑ったりして。」

「…いや、何もない。」

「そう、ですか?」


今は、この小さな幸福で、満足するとしよう。
だが、いつかは…






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「掌中の珠」、17171でリクエストさせて頂きました!
斎藤さんドリームです。当サイト主人公を使っていただき!
さらに、鈴花さんと梅さんのことにも触れて頂いて嬉しい限りです♪

最後の何気ない主人公の仕草が可愛くてお気に入りですv
高杉沙月様ありがとうございました!


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