□誓いを胸に



 本格的な冬が訪れ、寒い日々が続いていた。
 吐く息も凍ってしまいそうなほどの冷え込み。
 は庭先で、ぼんやりと空を仰ぐ。


「今夜辺り、雪が降るかも知れないね」


 突然、背中越しに声をかけられた。
 は心臓が跳ね上がりそうになるほど驚いた。


「何だ……。山南さんだったんですね……」


 声の主が分かり、彼女はほっと胸を撫で下ろす。


「すまない。驚かしてしまったかい?」


 申し訳なさそうに訊ねる山南に、はゆっくりと首を振った。


「いえ。大丈夫ですから」

「そうか」


 山南はいつものように、柔らかな笑みを零す。
 心の中まで温かくなるような。
 そして、その笑顔は、にだけ向けられる特別なもの。
 これだけで、幸せになれる。


「あ、そうだ」


 笑みを浮かべたまま、山南は彼女に訊ねてきた。


君、今日はこれから予定はあるかい?」

「予定……?いえ。特には何もありませんけど」

「そうか。それならこれから、私の部屋に来てくれないか?」

「え、ええ。構いませんけど……」


 が答えると、山南は嬉しそうに微笑む。


「それじゃあ、行こうか」


 外とは打って変わり、火鉢の置かれた部屋の中はほんのりと温かい。


「少し、待っていてくれ」


 山南はそう言うと、押入れの中から何かを取り出していた。
 はそれを、黙って見つめる。


「すまない。待たせたね」


 よく見ると、山南の手には和紙で包まれた棒状の物が大事そうに載せられていた。


「山南さん、それは……?」


 が訊ねると、彼はにこやかに答える。


「これは、君への贈り物だよ。気に入ってもらえるかどうか、分からないけどね……」

「えっ……!」


 は驚きつつ、山南からそれを受け取った。
 そして、ゆっくりと和紙を剥がしてゆく。
 目にした瞬間、彼女の驚きは更に増していた。
 中から現れたもの。

 それは雪のように白い反物。
 山崎が着ている物のような派手さはないものの、控え目に描かれた桜の花が、何とも可愛らしかった。
 は、暫し呆然と見惚れていた。


「――君……?」


 山南の声に、ははっと我に返り、彼を見つめる。
 心なしか、淋しそうだ。


「もしかして……気に入らなかったかい……?」

「そ、そんな事はありません!」


 山南の言葉に、は何度も首を振った。


「ただ、凄く綺麗だったので。――それに……」

「『それに』?」

「――山南さんに申し訳ない気がして……。だって、これ、とても高かったでしょうに……」

「何だ。そんな事か」


 山南は安心したように、再び笑顔を取り戻した。


「値段の事は気にする必要はない。と言うより、あまり触れて欲しくないというのが本音かな。
 それに、これは私から君への想いそのものだから」

(山南さんから、私への……想い……)


 山南の言葉に、の胸は熱くなった。
 彼がこれを選んだ理由も何となく分かった。


「山南さん、ありがとうございます……」


 は心から、感謝を述べる。
 嬉しさのあまり、涙が止めどなく零れ落ちた。


君……」


 山南は優しく、親指の先で涙を拭う。


「私にとって君は、唯一つの“光”だから。
 君がいなければ、私は自分の生きる意味すら見い出せずに終わっていたかも知れない。
 君、君には感謝しているよ……」


 山南はを抱き締めた。
 息が止まりそうなほど、強く。
 普段はあんなに穏やかでも、やはり、本質は激しいのだろう。
 それは抱き締められている時、いつも感じていた。


「山南さん……」


 彼の腕の中で、は囁いた。


「私、新選組に入って良かったと、心から思っています。
 剣で身を立てられた事はもちろんですが、何より、
 山南敬助という素晴らしい男性と巡り逢い、愛し合う事が出来たのですから……」

「――ありがとう」


 山南は更に、力強く包み込む。


「これからもずっと、君は私だけのものだ。
 君の瞳には、私しか映らないように、命を懸けてでも君を守り、愛し続けるよ……」


 不意に、の唇に、彼の柔らかな口付けが落とされた。
 彼女の存在を確かめるように、何度も唇が触れる。
 甘くて、それでいてどこか切なさを感じる。
 山南は生きている。
 口付けも温かいのに、いつか、すり抜けて行ってしまうのではと考えてしまう。


(幸せ過ぎて、逆に不安になっているのかも知れない……)


 はそう想う事にした。
 想わないと、不安に押し潰されてしまいそになるから。


「山南さん……」


 は腕を伸ばし、山南をそっと抱き返した。


「どんな事があろうとも、私の側を離れないで下さいね……」

「――ああ」


 山南の吐息が、の耳元を掠った。


「絶対に離れたりしない。君は、私の大切な伴侶となるのだから……」


二人を祝福するかのように、外では生まれたての雪が、ゆっくりと舞っている。

 それは、天からのささやかな贈り物――








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「月下に舞う花びら」様でクリスマスとしてフリー配布されていました。
クリスマス記念小説、強奪してきました!(笑)

本当に素敵な聖夜のお話で、良いですね〜クリスマスvって感じです!
すっごく素敵な山南さんと可愛らしい鈴花さんに癒されました!
ありがとうございました!冬佳様!


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