□知りたい気持ち□



ある秋の日のコト…


私はいつもの隊務が終了し、疲れた体を癒すために自分の部屋と戻った。
夏は部屋の中が暑くて、すぐに部屋に戻る事はしなかったんだけど
ここ最近はすっかり京も秋色に染まってきて…
部屋から京の町を真っ赤に染める夕陽をながめるのも悪くはなかった。

甘い物を食べることしか、自分を癒す手段を持っていなかった私にとって、
これは貴重な癒し法だった。



そして、今日ももちろんそうするつもりだった。



急な来訪者が来るまでは…





閉められた障子の外から低い、静かな声が聞こえてきた。
あの声は斎藤さんだ。

「斎藤さんですか? はい、いますよー。今帰ってきたところなんです」

私は自分から障子を開け、斎藤さんを部屋へと招き入れた。
いつもは一人で見る夕陽だけれど、たまには誰かと見るのもオツなものかもしれない。

「…失礼する…」

斎藤さんは静かにそう呟くと、静かに部屋の中にはいってきた。
私は来客用の座布団を用意し、そこへ座るように促した。
斎藤さんは軽く礼をすると、そこへ静かに座った。

何をするにも静かな人だなぁ…
私はそう思いながら、斎藤さんの対面に腰を下ろした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


しばらく静寂が部屋に流れた。

たずねてきたのは斎藤さんなのだから、斎藤さんが口を開くのを待っていたが、
斎藤さんは私の顔を見つめるだけで何も話そうとしない。

黙って見つめられているとなんだか照れてくる。
けれど、目をそらしてしまうと私が斎藤さんを意識しているのがバレてしまうような気がして
なかなかそらすことが出来ない。

お互いにじっと見つめあいながら、さらに時が過ぎる。

いい加減、もう限界を感じた私は自分から話を切り出すことにした。

「あの…、斎藤さん? 何かあったんですか?」
「…あぁ、いや…」

そういうと斎藤さんはようやく私から目を離してくれた。
私は安堵のため息を小さくつくと、さらに尋ねた。

「斎藤さん? 何か私に用事があって来られたんじゃないんですか?」
「…あぁ、そうだ」

先ほどとは違い、今度はキッパリと答える斎藤さん。
そして、視線をまた私に戻す。

…会話をするのに、相手の顔を見るのはごく普通のコトなんだけど…
斎藤さんの端正な顔・まっすぐな瞳に見つめられると、胸が高鳴ってしまいどうしていいかわからなくなる。

斎藤さんのコトは好きなんだけど…
斎藤さんに見つめられるのは苦手だ。

斎藤さんは息を吸い込むと、きわめて冷静な声で言った。




……………!!!


そ、それって、まさか…!
ま、まだ夜じゃないのに?! っていうか、まだ恋仲でもないのにーっ?!

ま、待って待って!!
そりゃ私だって斎藤さんのことスキだけど… いくらなんでもまだ早すぎると思う…!

私は混乱して、破廉恥なあんな事やこんな事が
頭の中をぐるぐる回る。
斎藤さんの手が私のあんなところやこんなところに触れて………!!!!


きゃーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!



「さ、斎藤さんっ!! なんて破廉恥な…!!」
「破廉恥?」
「それにまだ、早いと…!」
「なぜだ?」

斎藤さんは無表情で問いを返してくる。

「俺はお前を知りたい。そう思うことは破廉恥なのか?」

そういいながら身を乗り出し、徐々に私に近づいてくる。
私は身を引きながらも、拒めないでいる自分を知っていた。


― 斎藤さんが好き。だったら、いいじゃない。このまま捧げても… ―

― だめよ! いくらなんでもまだ早すぎるわ! ―


この二つの考えがぐるぐると頭の中を奔走する。
もう、何も考えられない。
頭が真っ白になって、今自分が何を考えているのかすらもわからなくなってくる…




斎藤さんの手が私の頬に触れた。
反応的にきゅっと目を瞑る。

…もう、もう…


私は体から力が抜けていくのを感じ取っていた。


「問題がないようだったら… 行こうか?」

え? 行く…?

私は目をぱちぱちさせ、斎藤さんの顔を見つめる。
斎藤さんは私の手を取り、私を立たせると、部屋を出ようとする。

「あの、どこへ…?」
「…ここでいいのか?」

その言葉ですべてを悟った。
もしかして、今から行くのって出会い茶……

思い浮かべるだけで顔が熱くなる。

そ、そうよね…
まさか屯所で行為には及べないよね…。
皆にバレちゃうかもしれないし…。

斎藤さん、意外に考えてる人なんだなぁ…
猪突猛進じゃなかったんだ…

私はそんな事を考えながらも黙って斎藤さんについていく事にした。


空を真っ赤に染める夕陽。
あともう少しで私の体もこんなに赤くなるのだろうか…

…!!

わ、私、さっきからなんでこんな破廉恥なことばかり考えて…

顔がどんどん熱を持っていくのがわかる。
こんな自分を悟られてないかと、おそるおそる斎藤さんの様子を伺う。

斎藤さんは無表情のまま、ただただ私の前を歩いている。

どうやら気づかれていないみたいだ。
私は安堵のため息を一つつくと、安心して斎藤さんの後を追った。



私のため息に気づいたのか、斎藤さんは振り返って声をかけてくる。

今からあの行為を行うにしてはいたって冷静な印象を受けた。
もしかしたら斎藤さんは、慣れているのかもしれない。

そう思うと、とたんに不安になってきた。

もしかして私… 遊ばれるのかも…

ま、まさか!! 
近藤さんならともかく、斎藤さんがそんな事をするはずがない。

私はぶんぶんっと頭を振る。
その様子を斎藤さんは訝しげに見つめる。

「…具合が悪いのか?」
「い、いえっ!!」

私は必死で否定した。
…否定しなければ、このまま今日は屯所に帰ろう、となったのかもしれないのに…
どうして私は否定してしまったんだろう?

「そうか… それなら良かった」

斎藤さんは穏やかな微笑みを浮かべると、私の手を取り、また歩き出した。

「…はぐれないようにするためだ…」

こちらをむかず、斎藤さんは黙って私の手を強く握り締める。

斎藤さんの表情は伺えなかったけれど、
緊張をしているのはもしかしたら、斎藤さんも同じなのかもしれない…

そう思うと私は斎藤さんが愛おしくなり、
斎藤さんの思いに答えるかのように、きつく手を握り返した。

心に迷いはもうなかった。
この人になら、捧げられる… なぜかそう思った。


それでも、やはり恥ずかしく、私はずっと下を向きながら歩いていた。

もちろん、出会い茶屋なんて行った事がないし、
ましてやそういう行為もした事がない。

どういう顔でいればいいのか、そして、どういう顔でそういう場所に入ればいいものか、
…どうすればいいのか…
何一つわからないまま、ただ、斎藤さんの手を離さないようにしっかり握ることしか出来なかった。



「…着いたぞ…」


― どくんっ ―


歩が止まり、斎藤さんが静かな声で言った。
私は高鳴る胸をおさえつつ、目の前にあるであろう、
未だかつて入った事がない未知のお店へと視界を移した。

そこにあったのは…


『食処 春木屋』


食処――――――!!!


「さぁ、入るぞ」

斎藤さんはすっと店の中に入っていく。

…えぇぇぇ〜?!

いや、待てよ…?
もしかしたらここは『食処』と書かれているけれど、中は実は出会い茶屋なのかもしれない。
出会い茶屋はその性質から、表にどうどうと看板を出さない…はず!
…いや、知らないけど。行ったことないし…

きっとそうだ。そうに違いない。

私はそう自分を言い聞かせ、斎藤さんの後を追った。


ガヤガヤ… ザワザワ…


中はいたって普通の食処だった。

きょとんとしている私に気づいていないのか、斎藤さんは席に着くと、
品書きを見つめ、注文をし始める。

「何を食うんだ…?」
そういいながら、斎藤さんは私に品書きを渡す。

あまりの状況にあっけにとられている私を見て
何を思ったのか
「…ここは俺がご馳走する。好きな物を食え…」
微笑みを浮かべながら斎藤さんは注文を促した。





「いただきます…」
斎藤さんは丁寧に合掌した後、おかずに箸をつけた。




「…うまいか?」

と、斎藤さんが微笑みを浮かべて話しかけてきた。

「…はい」



お世辞ではなくて本当においしかった。


「…それはよかった。ここは土方さんに聞いた場所だ… あの人の言うことは間違いないと思ってな…」

嬉しそうに微笑むと、斎藤さんは自分の注文した物を口へと運んだ。


楽しい時間が過ぎていた。
何の事はない、楽しいお話。
おいしい物を食べながら、大好きな斎藤さんとすごすこの時間は本当に素敵なものだった。

食べるものも尽き、話も一段落し、フと外を見ると、もう夜の暗闇が町を覆っていた。

「…さて、そろそろ帰るか…」

斎藤さんは立ち上がり、会計を済ませる。
私は先に外へ出て斎藤さんを待つことにした。

しばらくすると斎藤さんが店から出てきた。

「斎藤さん、ご馳走様でした」

斎藤さんは、微笑みを浮かべて頷くと、歩き出した。
私もその後を追う。

道中、また私達は他愛のない話しをしていた。
相手が斎藤さんなので、話が盛り上がる!と言うことはなかったが
私は幸せだった。

「ホント、今日はビックリしました。斎藤さんが『お前の事を知りたい』なんていうから、私てっきり…」
「てっきり…?」

斎藤さんはきょとんとした表情を浮かべ、私の顔を見る。
私は自分の言った破廉恥な事に初めて気がつき、あわてて顔を背ける。



斎藤さんは訝しげに聞く。

「い、いえ、なんでもありません! あの、ほんとご馳走様でした!」

あわてて話を変える。
あまり気にしていなかったのか、斎藤さんはすぐに会話変更に応じてくれた。




斎藤さんは、そうか…と一言呟くと、少し考え、そしてまた口を開いた。


「色…ですか?」
「あぁ…色だ…」

色かぁ… 私は少し考え



と答えた。


「はい、理由は?って聞かれたら難しいんですけど、なんとなくスキなんです」
「…いい色だ。…お前にとてもよく似合うだろうな…」

斎藤さんはふっと微笑み、そう言ってくれた。
なんだか嬉しいのと恥ずかしいのが同時に来て、私は自分が今、どういう顔をしているのかわからなくなった。


そうこうしているうちに、屯所に着いてしまった。

とたんになぜか寂しくなる。
もっと斎藤さんと一緒にいたい…そう思ってしまう。
しかし、それは許されないこと。
ぐっと堪えるしかなかった。

「…今日は楽しかった…」

斎藤さんは振り向き、静かな声で話す。

「お前の好きな食べ物… 好きな色… 知る事が出来た。…また、一緒に飯を食いに行ってくれるか…?」

私は吸い込まれそうな斎藤さんの瞳を見つめながら、こくんと、頷いた。

「ありがとう…」

斎藤さんは微笑み、玄関をくぐろうとする。
そのあとに続こうとすると、斎藤さんは急に立ち止まった。

「斎藤さん、どうしたんですか?」
「…今日はお前の事を知れて…良かった…。…だが…」
「だが?」
「…一番大事な事を知らない…」

一番大事な事?
なんだろう…と思っていると、急に斎藤さんは私を抱きしめてきた。

とたんに心臓が痛いくらいに高鳴りだし、顔がかーっと急速に赤くなり熱を持ち始める。
斎藤さんの息遣いが耳元で聞こえ、斎藤さんの心臓の音が聞こえる。
斎藤さんの男の匂いが鼻をくすぐる。

「さ、斎藤…さん?」

やっとの思いで私は言葉を発した。



私を抱きしめる腕がさらに強まる。

「俺の事… どう思っている…?」
「斎藤さん…の事…?」
「ああ… それが一番知りたい…」

私の気持ち…
そんなの決まってる。
私は斎藤さんの事を…



私はハッキリそう告げた。

斎藤さんはその言葉をきくと、ビクッと体を震わせ、そして徐々に私を解放した。

「そうか…」

私は斎藤さんの顔が見れずに下を向いた。
斎藤さんは私の頬を撫で、

「…また、行こうな… あの店…」

そう言い、優しく口付けた。
私はその優しい唇が心地よく、徐々に目を閉じていく。
そして、静かに斎藤さんの背中に手を回し、いつまでもその感触を味わっていた。



変な勘違いから始まった今日と言う日だったけど
またゴハン、食べに行きましょうね。
そして、私をもっと知ってください。
私に斎藤さんをもっと教えてください。


そしていつか…
いつの日か…


斎藤さんのすべてを… 私に教えてください。
私のすべてを知ってください。


私のすべてを感じ、
そして、斎藤さんのすべてを感じさせてくださいね…




それが、斎藤さんに対する、私の本当の気持ちです。

これからも… よろしくお願いしますね、斎藤さん!





Fin


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「ワン★だふるライフ」 you様 の携帯サイト【ワン★だふる本舗】で、キリリクさせて頂きました小説です。
私には逆立ちしても書けないような甘甘な小説に感謝感激です!(≧∇≦)
入力内容もいろいろあって凝っていますし、ホントに尊敬します〜!
で、その入力内容なのですが未入力の場合は元々設定されていたものになるのですが、名前だけ。
名前だけはちょっと変更させていただきました…私(管理人)の名前を入れてくださっていたのですが、
流石にちょっと恥かしいので・・・(^ ^;Δかなり照れるし・・・///
せっかくなので読まれる方は是非入力してくださいね〜♪

でわでわ!you様!ありがとうございました!


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