「男装」



早朝。


私は理事長である芹沢さんに急な呼び出しをくらい、理事長室へ向かっていた。


いくつも階段を昇りたどり着いた理事長室。
特に何かした訳でもないのに、足の竦む威圧感漂う大きな扉。



ギィィィ―――――



両手で扉を開けるとそこには扇子(鉄扇)を持った理事長、
芹沢鴨さんが堂々と足を組み、椅子に座って待っていた。


「失礼します・・・・・」


本当に悪いことをしたわけでもないのだが、自然と声が震え、小さくなる。


「ああ、。来たか」


逆に芹沢さんは堂々と私に目を向ける。

目つきは悪いが、その目つきも全てが真剣そのものだった。


「あの、どうかしたんですか?こんな早朝から・・・」

「そうだな、俺もこれから用がある。お前ももうすぐ登校時間だ。早急に話を済ませよう」


バッと芹沢さんは鉄扇を開く。


「実は―――」




少し慌しかった朝も終わり、登校時間。私は支度を済ませて学校へと向かった。

玄関で靴を履き、2−Aへ向かう。
その間、何人もの人達に出会ったけど、私が『 』だと気付いた人は1人もいないと思う。


2−Aの教室前。軽く深呼吸をしてから扉を開ける。


「おはようございます」


いつもの日常。いつもの風景。いつもの挨拶。


「おは・・・・・よ?!」


違ったのはいつも返ってくるはずの挨拶と、皆さんの表情。

何かドッキリに合ったような顔をしている。


「え・・・えぇぇぇっと・・・・・君、誰?」


近藤先輩が何とか繋ぐようにして言葉を放つ。


「他のクラスの人?色がオレらと同じだから・・・、2年だよね?それならここはA組だよ」

「転校生か?迷子?」

「この時期に転校生?珍しいモンもあるもんだなァ」


あはは。皆さんすっかり騙されてる。誰も私のこと気付いてないみたい。
山南先輩はなんか気付いてるみたいだけど・・・、悪ノリしてるのかな。
そういうキャラでもないと思うんだけど。


「私ですよ」

「私?ダレ・・・あ!まさか・・・・・!!」


山崎先輩が人差し指をピンと立てる。
その時、皆さんも同時に気付いたみたいだった。



「「「「「「「「(君)(さん)?!」」」」」」」」

「「「さん(ちゃん)?!」」」



皆さん、相当驚いたらしくあの土方先輩や大石先輩に斎藤先輩、
沖田先輩までもが声をあげていた。


「はい」


にっこり笑って答える。

その後暫く沈黙が続き・・・・・。


「おっ、おおおおお君?!な、何でそんな・・・・・!!かっ、こうを・・・・・!!!」


その沈黙を破ったのはお約束通り(?)近藤先輩だった。

大げさに後ろへ後ずさるアクションまでつけて沈黙を破る。


「そうよ!何でちゃんが男の格好なんかしてるの?!
 女の子は女の子のままが一番可愛いのに!」


山崎先輩はずいっと責めてくる。か、顔近い・・・っ!


「えっと・・・、り、理事長命令でして」


「理事長命令?!あんのエロガモ・・・!にこんな格好させて何するつもりだ!」


ギリッ・・・原田先輩が拳を握り締め、歯を喰いしばる音が聞こえた。


(ははっ原田先輩〜・・・???)


「いえいえいえっ!そんな、何かするだなんて、そんなこと!
 ただ、今日は学校見学に学生さんや親御さんがたくさんいらっしゃるそうです。
 勿論担当教師の方もいらっしゃいますし、やっぱり男子校ですから女子がいては不味い・・・ということで今日だけ男装なんです。
 幼稚舎・初等部・中等部・高等部・大学部まで合わせてかなりの人数が来校してくるそうですから、隠れてるのも無駄だろうということで。
 芹沢さんが紹介してくれたプロの変装師さんに今日だけ男にしてもらったんです。どうです?私だって分からないでしょう?」


「へ、変装師・・・?
 (オイ、大丈夫なのかァ?。それ、メチャクチャ怪しそうだぜ・・・?)」


「はいっ。とっても素晴らしいお方で!
 『男の仕草〜傑作集〜』という素晴らしい本も下さったんですよ!
 これを読むと、男の人の仕草というものがよく分かるそうです。今日以外にも重宝しそうですね〜」


私は鞄の中から貰った本を出す。

それを見た瞬間、皆さんの顔色が変わる。
そして、斎藤先輩が目にも止まらぬ速さで私の手からその本をひったくった。



「ナイス!!流石、斎藤君!!」


「こういうのは教育に悪いですからね・・・。燃やしておきますか?」


「あ、ハジメちゃん!それは私にやらせて!
 そんな本が出回っているなんて・・・許せないわ!跡形も残らず燃やしてあげる!



そういうと山崎先輩は斎藤先輩から本を受け取る。


「え・・・えぇぇっ?!燃やすってどういうことですか?!折角、くださったのに・・・!!!」


ちゃんっ!」


驚きを隠せない私に、山崎先輩が渇らしきものを入れた。


「は、はいっ?!」

「これはねぇ、ちゃんみたいな可愛い子には縁のないものなのよッ!
 私たちは、ちゃんにはちゃんのままでいて欲しいのッ!
 だから、これは没収!!私が責任を持って、処分するわ」


ビシィッと山崎先輩は人差し指を私に向けた。それと同時に、他の皆さんが頷く。


「は、あの・・・っ」

「いい?!分かったわね?!」


抵抗(?)虚しく、頂いた本は先輩方に没収されてしまった。
まだ1ページも読んでないんだけど・・・。今度会ったとき、感想聞かれたらどうしよう。


「あ〜ん・・・、ちゃんが男になっちゃうんなんて〜・・・・」

「今日だけですよ、先輩」


午前の授業が終わり、昼休み。いつものメンツでお昼を食べていた。
屋上にいるので、時々吹く風が心地いい。


「それにしても君さぁ・・・」

「はい?」

「そうしてると、ますますそっくりだよね〜」

「そ、そうですか?」


頬が少し熱くなる。
大好きなお兄ちゃんに似てると言われると、少なからず嬉しい。


「やっぱり兄弟は似るんですね。さん、今頃どこにいるかなぁ・・・」


そう言って空を見上げる沖田先輩。
私もつられて見上げる。雲一つない晴天だった。


「今頃・・・どこでしょうね。会いたいなぁ・・・・・」


私の兄、は現在海外に留学している。


『日本以外の国も見てみたいんだ!』


とか言って、私が中学生になったばかりの頃に家を出て行った。

お兄ちゃんはマメでどこかの国へ着くごとに電話をくれるし、手紙も送ってくれる。
でも最近、電話も手紙も来ないのでちょっと心配。

多分、まだ同じ国に留まってるんだと思うけど・・・。やっぱり心配だなぁ。


「あ、

「はい?」

「オメー、6限どうすんだァ?」

「6限?確か・・・体育でしたよね?それがどうかしたんですか?」

「あァ?オメー、聞いてねェのか?」

「え、えっと・・・何がでしょう?」


何か嫌な予感。何が・・・・・・。


「オメーがいつも着替え用に使ってた空き教室。あそこ、今日使えねェらしいぜ?」

「え?!ほ、本当なんですか?!永倉先輩!」


嫌な予感大的中。


「あァ、マジだぜ。
 何でも、学校説明の教室にされるらしいぜ。
 かなりの人数だから空き教室は全部使うんだと」

「な・・・」


くらり。


眩暈がした。空き教室使えないなんて・・・!
じゃあ私、どこで着替えれば・・・?!


「なら、今のうちに着替えちゃえばいいじゃん」


平助君はお弁当に入っているうずらの卵と格闘しながら平然と言った。


「今のうちって・・・、でも、今は昼休みで・・・・・」

「だからいいんじゃん。2−Aにいる人、みんな追い出してさ。
 どうせ5限は自習なんだし、体操着でも大丈夫だよ」


うずらの卵がなかなか掴めず、最後には卵に箸を刺した。
効果音をつけるならブスッだろうか。いやいや平助君。それ以前にマナーが悪すぎるよ。


「あら!それはいい考えね、平ちゃん!」

「でしょ?」


箸に刺した卵を満足気に食べながら満足気に振舞う。


「それなら早く、他のみんなにしらせなくちゃいけないわね!私に任せて!」


山崎先輩は華麗に立つと、屋上から出ようとした。


「頼んだよー、烝ー」



しかし、その時。



キーンコーンカーンコーン



都合良くチャイムが鳴った。


「あ・・・・・」


いつもは色々と感謝しているチャイムだが、今は心底怨みたい。


「で、こうなるんですねー・・・」


私はドアの向こうにいる斎藤先輩に呼びかける。


「ああ・・・。それより、早く着替えないと遅刻するぞ。俺も、おまえも」

「ハッ!そうですね!
 私はともかく、不運にもジャンケンで負けてしまった斎藤先輩に迷惑がかかりますもんね!」

「強調するな」


そう。斎藤先輩は見張り役を決めるジャンケンで負けたのだ。


約50分前―――


「どうするの?!チャイムが鳴ったからには、教室で着替えることは不可能よ!」

「だよなぁ。見学者が回ってくるっつーことも有り得るわけだし・・・、
 もし見学者にの着替えシーンを見られでもしたら・・・・・」

「そんなことになったら、さん、終わりだよ!」


(みんな、真剣に私のことを考えてくれてる・・・。ただ面白がっているようにも見えるけど


山崎先輩たちと色々対策を考えていると、近藤先輩が思いついたように右人差し指をピンと立てた。


「よし!こんなときは、トシに相談してみよう!!」

「・・・とういうワケなんだけどさ、トシ、何かいい考えない?」

「・・・・・・・・・おまえら、馬鹿か」


数秒の沈黙の後、苦虫を噛み潰したような顔で、土方先輩は言った。


「馬鹿?!トシ、馬鹿って酷くない?!」

「酷くねぇ。おまえら、今日、が着替えるのに適切な場所を知ってるだろう」

「・・・・・空き教室?」

「違う。今日は空いてねぇだろ」

「特別教室?」

「馬鹿か」

「屋上?」

「阿保」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「どこ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なぁ、トシ。どこだよ??出し惜しみしないで早く教えてくれよ。
 君の人生に関わることなんだぜ?」

「・・・保健室だ!!

「あっ・・・・・・・」


あの後、近藤先輩は土方先輩にこっぴどく怒られていた。
あの時の土方先輩は怖かった。

とりあえず、私は皆さんと教室で別れ、保健室へ向かった。
授業中なので、廊下は静かだった。私は人に会わないように保健室へと足を進めた。


がしかし・・・・・・。


「本日出張・・・」


保健室のドアには本日出張のプレートがぶら下がっていた。
具合の悪い人や怪我をした人は職員室まで。松本先生の素敵な達筆で書かれていた。


でも、私は具合が悪いわけでもないし、
怪我をしているわけでもないので職員室には行けない。
先生に頼めば、保健室で着替えさせてくれるんだろうけど、
今の時間、説明会や校舎案内で先生達はみんな忙しいはず。


職員室にいる先生は一人か、誰もいないか、だろう。
それにもし、職員室へ見学者が来たら・・・・・・。


「・・・・・・・・っ」


私は体操着の入ったカバンを握り締め、走った。
行き先は勿論、2−A。


「はぁっ・・・はぁっ・・・・・」


全力疾走したために、かなり息が乱れる。
だが、なんとか人に会わずに2−Aまで辿り着けた。そして、静かに扉を開ける。


「こ、こんにちは〜・・・」


他のクラスに聞こえないように、かなり小さな声で入っていく。
が、2−Aはどんちゃん騒ぎだった。案の定、私の声が聞こえるわけがない。


(あ、そっか。近藤先輩が親しい用務員さんの島田さんに頼んで、このクラスだけ防音設備にしたんだっけ・・・・・・)


「・・・じゃなくて!」


私はめいっぱい叫ぶ。
その声は流石に聞こえたらしく、お祭り騒ぎだった2−Aは静まる。



静まるとほぼ同時に、山崎先輩が私の元へ駆け寄ってくる。
多分、私が未だ制服なのを心配したのだろう。


ちゃん?!どうしたのよ、こんなに早く!それに、まだ着替えてないじゃない!!」


山崎先輩に続いて、他の先輩方も私の周りに集まってきた。


「実は・・・・・松本先生が出張中で保健室が空いていなくて・・・・・」


「え?!マジ?!
 松本先生いなかったの?!うわー、どうしようか・・・・・」


「別の手を考える他、ありませんね。何か別の方法は・・・・・・」



沖田先輩の言葉を最後に、全員が静まり返った。
何か策を考えてくださっているのか、もう諦めろといっているのか・・・。

少し、不安になる。最悪の事態が頭をよぎった。


「私・・・・・・、私、皆さんとお別れしたくないです。
 皆さんと、一緒にこの学園を卒業、したいです・・・」


気付いたときには、涙がこぼれていた。
泣くつもりはなかったのだが、自然と、溢れ出てくる。


理由は明解。


このままだと、最悪の事態・・・になりかねない気がして。

このまま、皆さんとここで別れるような気がして。



ハンカチを取り出そうと、ポケットに手を入れた。
が、そこにハンカチはなかった。


(あっ・・・ハンカチ、制服の中だ!
 男子制服に着替えるとき、入れ忘れたんだー・・・!)


どうしようかと迷っていると、
綺麗にアイロンがかけられた黒と深緑のチェック柄のハンカチを差し出された。


「珍しいな。お前が忘れ物をしてくるなんて」

「斎藤先輩・・・」


私は、差し出されたハンカチを受け取る。
本当に綺麗に、丁寧にアイロンがかけられていた。


「大丈夫だよ、君。誰も、君のことを捨てたりはしないさ」

「そうよ、ちゃん!だから泣かないの!
 女の涙は、もっと別のトコで使う最終兵器なんだから!!」

さん、僕たちは全力で貴女を護ります。だから、安心してくださいね」

「皆さん・・・・・」


やっぱり、皆さんは心強い。


(私、2−Aでよかったなぁ・・・)


「さぁってっと♪」


感動に包まれる雰囲気を才谷先輩が軽く破った。


「これからさんの今後を考えないといけないき!どうするぜよ?」

「・・・さいたにさぁん・・・・・」

「お?!さん、その目は反則やき!そんな目で見られると照れるぜよ〜♪」

「・・・・・・・・」

「分かってないわね〜、梅ちゃん」

「ええ・・・、そうですね」



『じゃーんけーん・・・ぽんっ』



「あ」

「ちぇっ、ハジメかよ〜。オレがやってもよかったんだけどなァ」

「駄目だよ、新八さん!ハジメさんにやってもらわないとオレらの計画が!」

「しっ!静かに!静かにしないとちゃんとハジメちゃんに聞こえちゃうでしょう?!」


あは、あははは・・・・・。丸聞こえですよ・・・・・。

色々試行錯誤した末、結局私は保健室で着替えることとなった。


でも、一人で着替えるのは流石に危ない、
という訳でこのクラスの誰かが見張り番をしてくれるらしい。

さっきのじゃんけんの結果、見張りをしてくれるのは斎藤先輩に決まった。


そういえばじゃんけんをする前、山崎先輩たちがコソコソなにかをしてたけど
・・・何だったのかな。


、行くぞ。もう時間がない」

「は、はいっ」


決まったはいいものの、
どうしていいか分からない私の手を斎藤先輩は何の躊躇いもなく引っ張った。

私たちが教室を出て行った後、先輩たちの声が聞こえたけど・・・気のせいかな?


「きゃ〜っ♪ハジメちゃんってばダ・イ・タ・ン♪」

「いや、あれは・・・絶対意識してやってないと思うな」

「そうですね、僕も近藤さんに賛成です。
 斎藤さんの場合、少し天然なところがありますからね」

「うん、それに結構真面目だし。さんの手を引っ張ったのも、
 『急がないと授業に遅れる。遅れたら先生に迷惑だ』とか思った故の行動じゃないの〜?」

「あ〜・・・、言われてみればそうかもしれないわねぇ・・・。
 でもハジメちゃん!今がチャンスよ!
 不安になってる女の子には、手を差し伸べてくれたオトコが王子様に見えるのよっ!」



そして今に至る。

最初は何の躊躇いもなく手を引っ張る斎藤先輩に緊張しちゃったけど・・・、今は大丈夫。


「・・・・・・よしっ。斎藤先輩、終わりましたよー」


一応授業中なので静かにドアを開ける。
ドアの横では斎藤先輩が壁にもたれかかっていて、私が出てくると体を起こし、
また私の手を引っ張る。


いつのまにか、先輩も体操着に着替えていた。


「行くぞ。本鈴まで後わずかだ」

「は、はい」


私はまた、引っ張られるようにして斎藤先輩の後をついて行く。

廊下では誰ともすれ違わず、ラッキーだった。



ダンッ



斎藤先輩は、急に私を壁と壁の隙間に押し込み、
右手で覆うように私の口を塞いだ。


「っ?!」

「静かに・・・黙っていろ」

「せっ・・・・せんぱっ・・・・・?!」

「静かにしろ」

「は、はい・・・」


何が起きたのか分からないが、
先輩はその目で辺りをきょろきょろと確認している。


一体、何があったのだろう。



(ハッ、まさか・・・!!
 斎藤先輩ってこういうのが趣味だったとか?!
 まさかまさか!そんなことはない・・・・・よね?)



私は疑いを含んだ目で斎藤先輩を見つめる。
その視線に気付いたらしく、「そんなことは有り得るはずがない。お前の考えていることは全て的外れだ」と言われてしまった。

いやまあ・・・、そうだよね。斎藤先輩がそんな人の訳ないよ。うん。


「・・・・・・・・っ」

「え?!ちょっ・・・先輩?!」

「大声を出すな」

「いや、それは・・・誰だって出さずにはいられませんって!」


そう。今私はまさに、声を出さなければならない状態にいた。


何と、あの狭い壁と壁の隙間に斎藤先輩が入ってきたのだ。
斎藤先輩は私の顔を自分の胸に押し付けた。
もう少し簡単に言うと、・・・・・・・私を・・・抱いた?

本当に隙間は狭く、超密着状態だ。


(は、恥ずかしい〜・・・・!!マズイ、マズイよこれは・・・!!
 よくドラマとかで心臓の音が聞こえそうとかいうけど、実際にそんなこと、有り得たのね〜・・・・・?!)


本当に密着密着で、心臓の音は勿論のこと、
息づかいまで感じられそうな程、密着状態だった。


「少しの間だけ、我慢しろ。誰かがこっちへ来るんだ」

「え?」


その言葉を聞いた途端、先刻までの恥ずかしさは飛び、逆に不安が押し寄せてきた。

誰かが、来る?



ここは丁度、木の陰だから見えないと思うけど、もしも・・・、
もしものことがあったら・・・・・・。


「・・・・・・・っ・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・え?」

(・・・・・・斎藤、先輩・・・??)


不安で、顔を隠そうとする私の頭を先輩が撫でてくれていた。


「安心しろ。お前は俺が護る」

「せん・・・っ」


思わず、涙が出そうになった。
こんな、優しそうな先輩を見たのは、初めてだったから―――。



「はい、スト〜〜〜ップ!!!!」



斎藤先輩にお礼を言おうと、顔を上げた瞬間、
隙間を隠すように立っていた植木を押しのけ――――――近藤先輩が笛を鳴らした。


ピ――――――――と、笛の音が辺りに響く。
学校説明会の日に、こんなことをしていいのだろうか。


「ストップストップストップだよー、斎藤君?
 今回は君にチャンスをあげたけど、それ以上は認めてないから!
 つーか、その密着も計算外だったんだよねぇ」

「こ、近藤先輩?」


近藤先輩の言っている意味がよく分からず、
聞き返そうとしたとき、右腕を優しく引っ張られる。


「さ〜、ちゃんはこっちよ〜♪
 お姉さんと一緒にお風呂、入りましょうね〜♪」

「山崎先輩?!」

「駄目だよ、山崎さん!山崎さんは男でしょ?!
 さんとお風呂なんて、絶っっっ対駄目だからね!!」

「え〜、平ちゃん冷たぁ〜い」

「冷たいとか冷たくないっつー以前に、オメーは男だろッ!
 どさくさに紛れてのは・・・っ」

「ふふっ、永倉さん?破廉恥ですよ?」

「おー、もっと言ってやれ、総司。新八には遠慮が足りねえ」

「あんたにも足りないと思うけどね・・・・・」


近藤先輩、山崎先輩に続いて先輩たちが次々と現れる。
相変わらず私にはよく分からない会話をしているけど・・・・・。

私の・・・は?・・・ハ?・・・・・歯?!


こうして、1日が終わり、私の男装は解かれた。


芹沢さんから聞いた話だが、見学者は勿論、
2−A以外の生徒まで私の男装に気がつかなかったらしい。



―Fin―



☆オマケ☆


プルルルル・・・・・


「はーい?もしもーし?」


「勇っ!勇かっ?!」


「あ、。久ぶりだねー」


「ああ、久しぶり・・・・・ってそんなことをするために連絡したんじゃない!」


「(おお・・・ノリツッコミ・・・)うん、何?」


「これは何だ!これはっ!!」


、電話越しだからこれとか言われても分かんないよー」


「お前から送られてきた手紙だ!正確に言うと、手紙に同封されていた写真!!」


「ああ、あれかー」


「『あれかー』じゃない!!何で・・・、何で、が男装してるんだっ?!


「あははっ、可愛いでしょー?君。それに超そっくり」


「それは勿論だ!俺の妹だからな!可愛いのもなら当然だ!
 あ、いやっ、違うっ・・・!!だから、何でが男装してるんだっ?!」


「あー、まぁ色々あってね」


「その色々を聞きたいんだ!」


「えー、でも、話すと長くなるしなー・・・。それに国際電話高いし」


「話せ!あぁ、後、お前何で俺のいる所が分かったんだ?!
 俺はまだ、今どこにいる、とか連絡してないぞ?!」


「まぁ、それも色々とね」


「その色々を教えろ!というか、全部色々で片付けるな!」


「怒んない怒んない。その内ねー、その内」


「逃げるな!!!」


「逃げてないってー。あ、君」


何っ?!がいるのかっ?!が!!


「え?夕食?作ってくれるの?!」


の手作りっ?!


「うん、そうだなー・・・、君の好きな物でいいよ。
 え?そうじゃなくて、俺の食べたい物?
 うん、だからさ、君の好きな物が俺の食べたい物。どう?
 あ、OK?ありがとー、君ー。じゃ、よろしくねー」


「・・・・・・・・・・・っ」


「いやー、ごめんごめん。
 あれ?ー?もしもーし?ー??」


「勇にだけは絶っっっっっ対にはやらん!!!!!」



ブチンッ



「あ、あーあ・・・自分で切っちゃった」



―Fin―


----------------------------------------------------------

「たけのこご飯」様キリリクさせて頂きました!
前回頂いた学園物がすっかり気に入ってしまったので、引き続きお願いしました!
今回はALLでドタバタとお願いしたのでこんなに楽しいものに♪
それでも斎藤さんでオチをつけて頂いて、もうとっても嬉しいです!
大感謝です!カガリ様!

そして何気に一番気に入っているのは最後のおまけだったり…(笑)
兄上まで登場して頂いて!近藤さんとの掛け合いがもうツボでした!
カガリ様ありがとうございました〜!


戻る