-山南さん編-



「山南先輩!」

「!!あ…君…;」

「………お疲れさまです…山南先輩…。」


私が半ば苦笑いしてそう言うと、
山南先輩も同じように苦笑いした…。



***



ここは科学室。
山南先輩はここにいることが本当に多い。

いろいろ調べたり、実験したりしているからなのだけれど。
実は、その結果いろいろトラブルも多くて…。

普段は非常に真面目で優しくて、生徒会で一番親しみやすくて、
頼りになるのは実は山南先輩だと一般生徒の評価も高いけど…。

この点だけは生徒会のメンバーも含め、皆少し困っていた。
山南先輩の“実験”に巻き込まれた人は特に…。

私も鈴花さんや先輩たちと何度か山南先輩の“実験”を見ているけど、
特に大変な目にはあっていないので、そこまでは…、
と思っていたんだけど、以前に実際にボロボロになっていた永倉先輩や原田先輩を見て少し考えを改めた。


山南先輩の“実験”“危険”なものであるということを…。


「山南先輩大丈夫ですか…?」


目の前の、割れてしまった器具を片付けながら、私は山南先輩に話しかけた。
山南先輩も同じように後片付けをしている。


「ああ、大丈夫だよ。心配をかけて悪いね、君。」


山南先輩は、そう言っていつもの優しい笑顔を見せてくれた。


「鈴花さんも心配していたんですよ?」

「ああ、そうだね。
 桜庭君にもいつも迷惑をかけてしまって…そういえば、今日は桜庭君は?」

「鈴花さんは今日は委員会で。
 山南先輩にお会いできないこと残念に思ってると思いますよ。」

「そうか…ありがとう…。」


山南先輩が科学室で実験をしているとき、
私と鈴花さんはたまに様子を見に来ていた。

今日も二人で来るつもりだったけど、
鈴花さんは急な委員会で来ることができなかった。

一緒にいけないことを、鈴花さんは残念がっていて、
今、山南先輩も鈴花さんがいなくて残念がっている様子。

どうやら二人はお互い気になる関係らしい。
私がそのことに気づいたのはつい最近だけど…。


(次からは私は遠慮した方が良いですかね…。)


せっかく両思いなんだから、邪魔になっても申し訳ないし。

お互い意識しているのに一歩踏み出せずにいる二人。
ソワソワと落ち着かない様子の二人を微笑ましく思い、できれば協力してあげたいと思ったことだし…。


「ん?君、どうかしたかい?」

「いえ、何でもありません。」


密かにそんなことを考えていると、山南先輩が不思議そうな顔になって私を見た。
考えが表情に出ていたのかと私は慌てて誤魔化したけど、丁度そこに…。


「あ、さん!山南さん!」

「桜庭君!」「鈴花さん。」

「もう委員会終ったんですか?」

「はい、さっき!」


委員会を終えた鈴花さんが駆け込んできた。
慌てて走ってきたのか、肩で息をしていて…。


(よっぽど山南先輩に会いたかったんですね。)


やっぱり微笑ましいな、なんて思ってしまう。


「大丈夫かい桜庭君?そんなに慌てなくても…」

「平気ですよ!思ったより早く終ったんで。
 どうせならさんと…山南さんと一緒に帰りたいな、と思って。」

「………そう…ありがとう桜庭君。」

(…………)


そしてさり気なく良い雰囲気の二人。

何だか聞いているこっちが恥ずかしくなりそうで、やっぱり二人は両思いなんだということを再認識した。
それならやっぱりさっきの考えは実行すべきなのかもしれない。

私は手早くかばんと片付けたゴミを持って科学室を後にすることにした。


「え、あ、さん?」


鈴花さんは気付いて少し慌てたけど、私は構わず笑顔で答える。


「鈴花さん、山南先輩。
 私少し寄りたいところがあるので、お先に失礼します。
 あ、これはちゃんとゴミに出しておきますから。」

「あ、君;」

「それじゃあ、また明日。
 山南先輩、ちゃんと鈴花さんを送ってあげて下さいね♪」

「あ、さん!///


私の突然の行動の意味に気付いたのか鈴花さんは赤くなっていたけど、
私は気づかないふりをして手を振って教室を出た。

最初はぎこちないかもしれないけど、あの二人なら絶対に大丈夫だと思っていたし。

私はとりあえずゴミ出しをすませて裏門から帰ることにした。
正門から帰って二人と鉢合わせしても不味いと思ったので。


「……少し…鈴花さんがうらやましいかもしれませんね…。」


赤くなった夕焼け空を見て私はぽつりと呟いた。

私もいつかあんな風に人を好きになってみたいかな…。

今は無理でもいつか…。

そんな風に想える人を見つけられたら。

自分に自信が持てたら。

私もあんな風に…。


「……今はまだ無理ですけどね…。」


夕焼け空に、小さく光った一番星に、密かに願いをこめて。
私は急いで帰路に着いた。

また明日、鈴花さんのお話を聞かせて貰うのを楽しみにして。




戻る



2009.04.12