-原田さん編-



お昼ごはんを食べ終わったお昼休み。
私は借りていた本を返すために図書室に向かった。

いつも通りまず受付で本を返却。
受け付けて対応してくれたのは、今日は伊東先輩ではなかった。
今日はお休みなのかな…?

少し残念に思いながらも、伊東先輩がいないなら、
今日は久しぶりに自分で借りる本を選ぼうと本棚の所へ歩いていくと、
奥の方から何かうなっているような声が聞こえた。


「……?」


誰かいるのかと思って顔をのぞかせると…。
机に突っ伏してうなっていたのは原田先輩だった。


「原田先輩…?」

「!」


声をかけると、原田先輩は凄い勢いで顔を上げ、
私だと気づくと、地獄に仏にあったような安堵した顔をした。


!!丁度良いところに!!」

「へ?え??な、何ですか?;」

「頼む!ちょっと教えてくれ!」


原田先輩は私の腕を掴むと自分の隣に座らせ、
必死になって読んでいた本を私に見せた。

それは…数学の教科書?


「え?教えるって…?」

「実はよ、土方さんに捕まっちまって…。
 ここのトコの問題が終るまで今日は帰さねぇって言われて…;」

「え…」

「たまには真面目に勉強しろって…さ…。」


青ざめた顔の原田先輩を見て、大体の話は予想できた。
そういえば、この間土方先輩が何やら愚痴をこぼしていて、
その中に原田先輩の名前もあったような…。


「何か最近目ぇ付けられてる気がするんだよなぁ…。
 この間掃除当番をサボったせいか…。
 委員会すっぽかしちまったせいかなぁ…。それとも…」

「…………;」


落ち込んでいる原田先輩の口からは、
ブツブツいろいろと思いつく理由が述べられたけど…先輩。

多分それ…全部のせいだと思います…。

放っておいたらいつまでも続きそうな原田先輩の失敗談(?)を
私は慌てて中断させると、渡された教科書を押し返して言った。


「先輩!それならそんなこと考えるより早く問題説いた方が良いですよ!」

「けど、もうわかんねぇんだよ。頼む!教えてくれよ!!」

「そ、そんなこと言われても…。」


私は必死になって先輩に言ったけど、
必死なのは先輩も同じで、原田先輩は両手を合わせて、私を拝み倒してきた。

本当にかなり根詰まっているんだろう…。
きっと昼休み中真面目に勉強していて、もう限界なんだろう…。

私もできるなら協力してあげたいけど…、
正直私も勉強はあまり得意ではなく、特に数学は苦手だった。

それに…。


「原田先輩すみません…私数学苦手なんです…。
 それに…2年生の数学なんて余計わかりませんし…。」


そう、原田先輩は『先輩』なのだ。
後輩の私が先輩もわからないような問題わかるわけがない…。


「そこを何とか!頼む!!」

「無理なものは無理です!」


しばらく無意味な押し問答が続いていたけど、
必死に頼み込む原田先輩の言葉の中に少し希望が見えた。


「え?どういうことですか?」

「いや、俺だってもちろん後輩のオメーに頼むなんて間違いだって思ってるんだけどよ。
 土方さんが去年習った公式で…とか言ってたからよ。
 その辺のヒントだけでも…何かわかんねぇか?。」

「…………う〜ん…」


と、最終的にそんな風に頼まれてしまったので、
私はしばらく原田先輩の横で一緒に教科書を眺めて考えることにした。


「最近習った公式とか、ちょっと書いてみてくれねぇか?」

「はい…でも、私もあまりわからなくて…」

「……大丈夫だ。俺も思い出せば大体わかる…はず…」


とりあえず、先輩に言われたとおり、私は思いつく限りの公式を書き出し、
先輩がそれを見て問題に当てはめる…と言う方法でとりあえず問題を進めていった。

いざやり始めると、意外にも原田先輩は次々に問題を解いていった。
どうやら公式をど忘れてしてしまっただけで、公式さえわかればわかったらしい。

そして、私がよくわかっていなかった部分や公式の意味を教えてくれた。
先輩の説明は適切で凄くわかりやすくて…実は先輩は頭が良いのかもしれない…。

なんて、少し失礼なことを思ってしまった。
原田先輩は勉強が好きではなく、苦手だと言っていたからつい…。
すみません…原田先輩。


「よっしゃ!これで終わりだ!」


一通り問題を終らせることができ、
原田先輩がそう言ってガッツポーズをした所で丁度予鈴が鳴った。


「よかったです。それじゃあ今日は帰れますよね?」

「ああ、サンキュ、!」


ほっとした私が尋ねると、
原田先輩はそれは嬉しそうな満面の笑顔を返してくれた。
そんな顔を見ると、手伝ってよかったって思えてしまうから不思議だ。


「悪かったな、おめーにまで迷惑かけてよ。」

「いえ、私もいろいろ教えて頂きましたから。
 お陰で午後の授業、当てられてもちょっと大丈夫かなって思いました。」

「……そっか、そんな風に言ってもらえんならよかったぜ。」


教科書を片付け、図書室を後にし、
それぞれ教室に戻る途中そんな会話をした。

かなり強引だった原田先輩だけど、
やっぱりそれは本当に必死だったせいみたいで、
今になって急に申し訳なく思ったのか、
小さくなって謝罪した原田先輩は何だか可愛く思えた。


「よかったらまた勉強教えて下さいね。」

「え!?俺が!?」

「はい。」

「いや、俺よりサンナンさんとか土方さんの方が良いんじゃないか?」

「でも、私原田先輩の教え方わかりやすかったですから。」

「…………そ、そうか…?」

「はい。」

「………ま、まあ…。
 …おめーとだったら勉強するのも悪くねぇかもな。」


原田先輩は少し困った様子だったけど、
最後には納得してくれたみたいで、
照れくさそうに頭をかいて、そんなことを言ってくれた。

今日迷惑をかけたお詫びに…とも。

じゃあまた次の昼休み、ここでお会いしましょうね、原田先輩♪





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2009.12.08