1.きっかけがなかったわけじゃない


きっかけがなかったわけじゃない

きっかけなんて何度もあった。
いつも顔をあわせて、いつも話をしていた。

きっかけなんていくらでもあったのに。




「あ、おはようございます。」


ほら、今もこうして貴方に会えた。


「今日は…お前は巡察の日だろう?」

「はい。」

「なら、行こうか。」


思いがけない言葉。


「え?今日斎藤さん巡察の日でした?」

「ああ、永倉さんが急用でな。」

「…そうですか…。」


会えただけでも十分嬉しかったのに、
こんなに嬉しい出来事も。


「…よろしくお願いします。」


でも私が貴方に言った言葉はいつもと同じ。


「ああ。」


だから貴方の答えもいつもと同じ。

今から一緒に出かけても、きっと何も変わらない。
でも、それは私のせい。


-きっかけがなかったわけじゃない、でも勇気がなかった-


いつも何度もそれを繰り返して…



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2.ただ黙って見ていた


だって何も言えないもの。
ほんの少しの勇気すら持てなかった私には。

どうすることもできない。

貴方が気付いたときから、貴方が気付く前から、
私は…気付いていたような気がする。

貴方が彼女に惹かれていること。

私が貴方を見る時の瞳と似ていたから。

貴方の彼女を見る瞳が。


-貴方がだんだん彼女に惹かれて行くのを、ただ黙って見ていた-


苦しくてたまらなかったけど、それでも勇気は出せなかった。



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3.好きとひとこと言えていれば、


今になってそんなことを思うなんて。


「……はぁ…」


思わずため息がもれた。
何を考えているんだろう…私。


さん!」


ぽんと背中を叩かれて振り返ると、
とても嬉しそうな顔をしている鈴花さんがいた。


「…どうしたんですか?何だか嬉しそうですね。」


楽しそうな鈴花さんに私も笑顔で尋ねる。


「えへへ…これからちょっと出かけるんです、斎藤さんと二人で…///


鈴花さんは照れ臭そうに、でも幸せそうに笑って言った。
同時に私の胸は一瞬ズキリと痛んだ気がしたけど…
気付かないふりをして私はまた笑った。


「それは楽しみですね、ゆっくりしてきてください。」

「ありがとう!さん!いってきます!」

「いってらっしゃい。」


鈴花さんは私に手を振り、待っていた斎藤さんの所へ駆けていった。
私は二人が見えなくなるまでは何とか笑顔を保てたけど……
二人が見えなくなったとき、頬に何か伝った気がした。


-好きとひとこと言えていれば、あの場所にいるのは私かもしれなかった?-


幸せそうな鈴花さんを見て、そんなことを思ってしまった自分が哀しかった。



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4.言い訳探しばかりしている


最近はいつも。
二人の姿を見るたびに。
騒めく気持ちを誤魔化すために。

二人は何も悪くないのに…。

何もできなかった私のせい。
勇気を出せなかった私のせい。
それだけのこと。

それに、それでも貴方との関わりがなくなったわけじゃない。
同じ新選組の同士だから、今だって顔を合わせる事もあるし、
一緒の任務になることもある。

志を同じくするものとして、貴方の役に立てるのなら。


-傍にいられるだけで充分だとか、言い訳探しばかりしている-


言い訳なんかじゃないと思いたいけど…。



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5.貴方と幸せになりたかったあの頃


でも同時に、そんなことを思う自分の気持ちを私は否定し、
気付かないふりをしていた。

貴方のことは好きだけど、大切だから、
幸せになるより、幸せでいて欲しかった。

自分に自信が持てなくて、ほんの少しの勇気も持てない私が、
貴方と幸せになりないなんて望むことは許されない気がしたから。

いつか自分に自信が持てたら…そんな気持ちも少しはあったけど…


-貴方と幸せになりたかったあの頃、貴方の幸せを祝うだけの今-


それでも、貴方が幸せなら、貴方が笑っていられるなら



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