きっかけがなかったわけじゃない きっかけなんて何度もあった。 いつも顔をあわせて、いつも話をしていた。 きっかけなんていくらでもあったのに。 「」 「あ、おはようございます。」 ほら、今もこうして貴方に会えた。 「今日は…お前は巡察の日だろう?」 「はい。」 「なら、行こうか。」 思いがけない言葉。 「え?今日斎藤さん巡察の日でした?」 「ああ、永倉さんが急用でな。」 「…そうですか…。」 会えただけでも十分嬉しかったのに、 こんなに嬉しい出来事も。 「…よろしくお願いします。」 でも私が貴方に言った言葉はいつもと同じ。 「ああ。」 だから貴方の答えもいつもと同じ。 今から一緒に出かけても、きっと何も変わらない。 でも、それは私のせい。 -きっかけがなかったわけじゃない、でも勇気がなかった- いつも何度もそれを繰り返して… |
戻る |
だって何も言えないもの。 ほんの少しの勇気すら持てなかった私には。 どうすることもできない。 貴方が気付いたときから、貴方が気付く前から、 私は…気付いていたような気がする。 貴方が彼女に惹かれていること。 私が貴方を見る時の瞳と似ていたから。 貴方の彼女を見る瞳が。 -貴方がだんだん彼女に惹かれて行くのを、ただ黙って見ていた- 苦しくてたまらなかったけど、それでも勇気は出せなかった。 |
戻る |
今になってそんなことを思うなんて。 「……はぁ…」 思わずため息がもれた。 何を考えているんだろう…私。 「さん!」 ぽんと背中を叩かれて振り返ると、 とても嬉しそうな顔をしている鈴花さんがいた。 「…どうしたんですか?何だか嬉しそうですね。」 楽しそうな鈴花さんに私も笑顔で尋ねる。 「えへへ…これからちょっと出かけるんです、斎藤さんと二人で…///」 鈴花さんは照れ臭そうに、でも幸せそうに笑って言った。 同時に私の胸は一瞬ズキリと痛んだ気がしたけど… 気付かないふりをして私はまた笑った。 「それは楽しみですね、ゆっくりしてきてください。」 「ありがとう!さん!いってきます!」 「いってらっしゃい。」 鈴花さんは私に手を振り、待っていた斎藤さんの所へ駆けていった。 私は二人が見えなくなるまでは何とか笑顔を保てたけど…… 二人が見えなくなったとき、頬に何か伝った気がした。 -好きとひとこと言えていれば、あの場所にいるのは私かもしれなかった?- 幸せそうな鈴花さんを見て、そんなことを思ってしまった自分が哀しかった。 |
戻る |
最近はいつも。 二人の姿を見るたびに。 騒めく気持ちを誤魔化すために。 二人は何も悪くないのに…。 何もできなかった私のせい。 勇気を出せなかった私のせい。 それだけのこと。 それに、それでも貴方との関わりがなくなったわけじゃない。 同じ新選組の同士だから、今だって顔を合わせる事もあるし、 一緒の任務になることもある。 志を同じくするものとして、貴方の役に立てるのなら。 -傍にいられるだけで充分だとか、言い訳探しばかりしている- 言い訳なんかじゃないと思いたいけど…。 |
戻る |
でも同時に、そんなことを思う自分の気持ちを私は否定し、 気付かないふりをしていた。 貴方のことは好きだけど、大切だから、 幸せになるより、幸せでいて欲しかった。 自分に自信が持てなくて、ほんの少しの勇気も持てない私が、 貴方と幸せになりないなんて望むことは許されない気がしたから。 いつか自分に自信が持てたら…そんな気持ちも少しはあったけど… -貴方と幸せになりたかったあの頃、貴方の幸せを祝うだけの今- それでも、貴方が幸せなら、貴方が笑っていられるなら |
戻る |