-幸せの音-




「幸せな音?…ってどんな音だよ?」

「だから、それをオレが聞いてるんだよ左之さん;」

「ああ、そうか…;」


なにやら唐突に始まった会話。
よくわからないと原田さんは首を傾げた。


「けど、なんか俺もよくわかんねーけど…平助?」

「そうだよね〜。オレも…;」

「じゃあ何でそんな話になったんだよ?」

「いや、何か聞かれたから…;」

「誰にだよ;」

「あはは…;」


結局わけがわからないと首を傾げる藤堂さんと原田さん。
永倉さんも少し考えていたが、ふと通りかかった斎藤さんが目に付き呼び止めた。


「お〜い、ハジメ!」

「…何ですか?」


呼ばれた斎藤さんは振り返り、三人に気づくと近くまで来てくれたので、
永倉さんは斎藤さんに同じ質問をした。

二人が答えに困っている質問を。

「なあ、“幸せの音”って何だと思う?」

「……は?」


突然の質問に斎藤さんは目を丸くし、少し間の抜けた声を出し首を傾げた。
まあ仕方ないだろう。いくらなんでも唐突過ぎるし意味の分からない質問だ。

だが、やはりそこは真面目な斎藤さん。
真剣な表情でしばらく考えると、


「一概には言えないんじゃないですか?」


と答えた。


「…まあそうだろうな。」


斎藤さんの答えに永倉さんが何となく頷く。
そしてそれを見た斎藤さんは少し視線を横にずらし、
原田さんと藤堂さんに視線を向けると、


「それに…人によって違うと…思いますけど…。」


と続けた。


「う〜ん…。まあな。」


斎藤さんの返事に各々考え込むような表情になる三人。
確かに明確な答えではないが、それが一番一番正しいか…。


「…もう良いですか?」


三人が考えていると斎藤さんがポツリと口を開いた。
用件が済んだのなら…と、目も訴えている。


「ああ、悪りぃな。ハジメ。」

「いえ…では…。」


引き止めて悪かった、と永倉さんが手を上げてお礼を言うと斎藤さんはそのまま行ってしまい、
わいわいと討論している藤堂さんと原田さんをちらりと横目で見た永倉さんは、


「ホント、人それぞれだよな〜。」


と言って笑った。



***



(幸せの音か……。)


自分の部屋に戻った斎藤さんは、刀の手入れをしながらなんとなくさっきのことを考えていた。

さっき永倉さんと話したことで答えは出ていたが、
それなら自分にとっての“幸せの音”が何なのか、ふと気になったからだ…。
と、その時、

ととと・・・、と足音が近づいてきて部屋の前で止まった。


か?」

「え?」


斎藤さんが尋ねると、部屋の外から驚いた声が返って来た。


「入って良いぞ?」


そして、そう返事をすると、今度はゆっくりと障子が開いて…、
斎藤さんの予想通り、顔を覗かせたのはだった。


「あ、あの、失礼します…。」

「ああ。」


はおずおずと遠慮がちに部屋に入り障子を閉めると、
少し躊躇いつつも口を開いて斎藤さんに尋ねた。


「あの…どうして私だってわかったんですか?」

「ん?」

「私…まだ何も言ってませんでしたよね?」


不思議そうに首をかしげて尋ねるに斎藤さんはふっと笑うと、


「なんとなくだ…足音で…。」


と言った。


「足音?そ、そんなにわかりやすい音ですか?;」

「そういうわけじゃないが…俺にはわかる…おまえのは…な。」

「?」


斎藤さんの返事にますます首を傾げただったが、
斎藤さんはそれ以上は言わず、優しい表情のまま今度は話を促した。


「それで…俺に何か用か?」


斎藤さんが尋ねると、あっと思い出したような顔では手を叩いた。


「そうです!近藤さんがちょっと任務を…、
 他藩の藩士が数人町を見回っているようなので様子を見て欲しいと。
 危険かもしれないので、二人一組ぐらいでとのことです。」

「そうか…わかった…。」


の話を聞くと、斎藤さんは真面目な顔になって頷き、
斎藤さんが頷くのを見て安心したはにこっと笑顔になると、


「それじゃあ私は他の方にも話してきますね?」


と言って部屋を出て行こうとした。


。」


ただ、が障子に手をかけた所で再度斎藤さんが口を開いた。


「はい?何か?」


呼ばれてが振り返ると、斎藤さんは少し考え、短くに尋ねた。


「…話をしたのは俺だけか?」


と、


「え?」

「今の話だ。」

「あ、はい、ここには一番最初に来ましたのでまだ…。」

「ならまだ決まっていないのだな?」

「へ?何がですか?」

「二人一組だ。」

「あ、そうですね。」


がそう答えると、心なしか少しほっとしたような嬉しそうな顔になった斎藤さん。


「?」


そんな斎藤さんの様子にが不思議そうな顔をすると、
斎藤さんはすっと立ち上がりの手を取った。


「なら、俺と行かないか?」

「え、私ですか?斎藤さんと?」

「ああ……嫌か?」

「いえ、まさか!斎藤さんと一緒なら心強いです。」


にっこり笑ってそう答えたに斎藤さんはまた嬉しそうに笑って、
の手を取ったまま部屋を出た。



「あの…本当に私で良いんですか?」


少し自信なげに尋ねたに斎藤さんは繋いでいる手をぐっと握り返すと、


「ああ…おまえが良いんだ…。」


と返事した。


斎藤さんの言葉には照れて赤くなったが、すぐに嬉しそうに笑い、
そっと振り向いた斎藤さんは、そんなの表情を見て優しく微笑んだ。

そして、ふと頭を過ぎったのは先程の、永倉さんたちと話したこと。
さっきの足音が自分の部屋の前で止まった時、なんだか妙に嬉しかったこと。
それに自分の所へ最初に来てくれたことも…。


幸せだと感じるのは大切だと思う人と共にいること。
それなら幸せの音と呼べるのは大切な人を感じる音。


……さっきのの足音は“幸せの音”と呼べる物だったのではないか…。
と、斎藤さんはそんなことを思っていた。

この大切な少女が自分の所へ来てくれたこと、幸せが近づいて来ていることを知らせた音、
それこそがきっと“幸せの音”




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2010.03.21