巡察から帰って、たまたま庭を通ったとき、
視界に入ってきたものに、俺は驚き、……呆れた。




-幼子のように-




…。」


名前を呼んでも返事はない。


(完全に寝てるな…。)


は縁側の布団の上で心地よさそうに寝息をたてていた。
傍らには誠の姿も。


(二人(?)してこんな所で昼寝とは…。)


俺は呆れてため息をついた。

朝、が洗濯していたのは知っている。
出かけに声をかけ、笑顔で送り出してくれたからだ。
だが、戻って結果がこれとは…。

男ばかりの新選組の屯所でこんな無防備に寝ているとは…。
何かあったらどうする気なんだ…。
いつも思うがは警戒心がなさすぎるな…。

まったく起きる気配のないの横に俺は腰を下ろした。
こうして寝顔を見ていると、いつにもまして幼く見える。
愛らしい無邪気な寝顔に心安らぐ気がしたが、
同時にもしかしたら他の奴もこの姿を見たんじゃないかと思うと…、
腹立たしい気がした。


「…俺の前だけに…してほしいものだ。」


ぽつりとそんなことを口にして、
そっと前髪に触れると、が目を覚ました。


「ん……。…っ、あ、あれ?」

「起きたのか?」

「わ!あ、さ、斎藤さん!…あ、えっと…;おはようございます…。」


は慌てて起き上がると苦笑いしてあいさつした。


「おはよう。、こんな所で寝ない方がいい…。」

「す、すみません…///でも、暖かくて…。」


照れ笑いして謝ったは横で寝ている誠に目をやると、


「気持ち良さそうに寝ている誠さんを見ていたら眠くなってしまったんです…。」


と言った。しょうがない奴だ。


「誰か来たらどうするんだ…。」


俺がそう言うと、は「?」と不思議そうな顔をする。


「俺以外の奴だったら…」


そこまで言うとは何かに気付いたような顔になり、


「あ、土方さんとかだと怒られてしまいますね…!」


と言って慌てた。


(そういうことじゃない…。)


俺がため息をつくと、は申し訳なさそうな顔になりまた謝った。


「…すみません。」

「いや…。」

が、

「でも、やっぱり気持ちいいですよ?
 干したての布団はふかふかですし、暖ったかいし、いい匂いだし。
 斎藤さんも寝てみればわかりますよ!」


と、ぐっと握りこぶしを作って言い放った。
の真剣な表情に俺は思わず笑い、少し悪戯心がわいて、


「お前と一緒にか?」


と尋ねた。


「はい?」

「お前と一緒に寝るのか?ここで?」

「え…。」


俺の言葉には一瞬つまったが、


「…別に良いですけど…布団が一つだから狭いんじゃないですか?


と素っ頓狂な返事をした。


(そういう問題なのか?)


の返事に俺が苦笑いすると、は不思議そうに首を傾げた。


(……まあいいか。)


そんな仕草一つも愛らしい。
はまだまだ子供なのかもな…。
俺が手招きすると傍へ寄ってきたので、
俺も縁側に上がると横になりの膝に頭を乗せた。


「さ、斎藤さん!?」

「なんだ?」

「あ、あの……///


は赤くなって狼狽えている。
一緒に寝るのは平気なのに、膝枕するのは恥ずかしいのか?
の反応に不思議に思ったが俺はそのまま目を閉じた。


「ああ、確かに…暖かいし、いい匂いだな。」


俺がそう言うと、


「でしょう!気持ち良いですよね!」


と、が誇らしげに答えた。


「ああ…。」

(布団が、とは言ってないがな…。)


俺が暖かくていい匂いだと言ったのはお前のことだが、
言ったらまた狼狽えるだろうし、
このままゆっくり寝たいから余計なことは言わないことにした。

も俺が同意したことに満足そうだし…
わざわざ水をさすこともないだろう…。


……。」

「はい?なんですか?」

「俺は寝るから…しばらくしたら起こしてくれ…。」

「え!?本当に寝るんですか!?」

「俺も寝てみろと言ったのはお前だろう…?」

「そ、そうですけど……このままですか?」

「ああ。……頼む。」

「斎藤さん?……もう寝ちゃったんですか?」

(いや、まだ起きてるが……。)


せっかくだから寝たふりを決め込んだ。


「………」


返事をしなくなった俺にも諦めたのかふっとため息をつくと、


「しょうがないですね…。」


と言って俺の髪を撫でた。


(しょうがないのはお前だ…。)


さっきの様子を思い出し、俺は心の中でつぶやいた。
それでも、優しく頭を撫でてくれているのが心地よくて、
俺は知らぬうちに眠りに落ちた…。



***



規則正しい寝息が聞こえてきて、はふっと微笑んだ。
いつもの様子からは考えられないような、斎藤さんの無防備な姿と寝顔に幸せなものを感じて。


「斎藤さん可愛い、子供みたいですね。」


さっきは自分が同じことを言われていたなんて
知りもしないはそんなことを言った。


「にゃ〜。」


すると誠が目を覚まし、
傍へやってくると斎藤さんの頭をぺたぺたと叩いた。


「わ!誠さん!ダメですよ。斎藤さん起きちゃいますよ?」

「にゃ〜。」


いつもは自分が寝ている場所を取られたからなのか、
誠は不服そうにを見て鳴いた。


「斎藤さんお疲れですから、今は休ませてあげてください。ね?」


がそう言って頼むと、


「仕方ないな。」


とでも言うような顔をしての傍へ寄ってくると丸くなった。


「ありがとうございます、誠さん。」


がそう言って背中を撫でると、誠は


「まあ、たまにはいいよ。」


と、しっぽを振った。
そんな二人に囲まれて、はもともとの暖かい空気が
さっきよりも暖かくて幸せなものだと思うような気がした。

戦いの中、どうしても殺伐とした気持ちになりがちだけど、
やっぱり心休める時は誰にでも必要だと、誰もが心休めても良いのだと…。
斎藤さんの寝顔を見ながらはそんなことを思っていた。

今眠っている斎藤さんは本当に安らかで気持ち良さそうだ。
自分が言いだしたことで、斎藤さんが休めていると思うとは嬉しくて、
自然と顔が笑っていた。

ふと顔を上げると空は快晴。
雲はなく、真っ青な空が広がっていて晴れやかで幸せな気持ちを引き立てた。
たまにはこんな日も悪くない。一日ゆっくり休むのも。

はうーんと伸びをして、幸せな気持ちのまま目を閉じた。



***



は目を閉じ、しばらくして眠ってしまった。
まあ予想どおりだが、結局二人とも眠ってしまい、
時間も刻々と過ぎていく。

そんな二人を最初に見付け、起こしたのは……。



***



もう大分日も落ち、夕刻になってきた。
今日も一日忙しく仕事に追われ疲労困憊状態。
そんな時ふと目に止まったのは……、


「!!?っ!」


呑気に縁側で寝ている二人。
慌てて駆け寄ると二人を叩き起こした。


!!斎藤!!起きんか!!」

「!!」


突然の怒鳴り声に驚いて目を覚ましたのは
いまいち焦点の定まらない目を擦って確認すると、目の前にはまさに
鬼の形相と言っても過言ではないぐらい怒っている土方さんが立っていた。


「!?!?ひ!土方さん!!あ、あ、あの…お、おはようございます;;」


ビビリつつもなんとか挨拶した
だが、土方さんはには目もくれず、
の膝で寝ている斎藤さんの胸倉を引っ掴んで起こした。


「斎藤!!起きろ!」

「!わっ!ひ、土方さん!お、落ち着いて下さい;;」


が慌てて止めに入ろうとした時、
斎藤さんがゆっくり目を開け、


「……あ、土方さん。…おはようございます。」


土方さんに気付くと普通に挨拶した。

一人オロオロと泣きそうな顔で狼狽えている。

土方さんはまだ怒っている様子だが、
斎藤さんが目を覚ましたので仕方なく手を放した。

何か言いたそうな厳しい表情をしていた土方さんだったが、
一息つくとなんとか普段の平静さを取り戻した。
が、顔はまだ怒っている。


「……こんな所で寝ている場合じゃねぇだろう。
 特に、非番だからって気抜きすぎだぞ。」

「はい…すみません。」


しゅんと落ち込み謝る
そんなに土方さんも少し怯んだ様子。

仕方なく斎藤さんの方に視線を向けた。
普段と変わらずひょうひょうとした様子の斎藤さんに少しムッとし、
土方さんは斎藤さんにも注意した。


「斎藤、おまえも一緒になって寝ている場合か!」

「はあ、すみません。」


一応謝る斎藤さんだが、ふっと笑うと、


「気持ち良かったものですから……。」


と、挑戦的な笑みを浮かべた。


「っ!!」


それを受けてまた顔が険しくなった土方さんに、
は大慌てで二人の間に割って入った。


「あ、あの!すみませんでした!土方さん!
 斎藤さんはもともと寝ていた私を起こしてくれただけなんです!
 斎藤さんも寝るように勧めたのも私ですし、起こすように頼まれていたのに
 私がまた眠ってしまったから…その、本当にすみませんでした。」


は必死に説明し、深々と頭を下げた。
土方さんはの必死な様子にとりあえず落ち着いたが厳しい表情は変わらず、
お説教は続くかと思われたが、顔を上げたの泣きそうな表情に言葉に詰まった。


「…………」

「ごめんなさい、土方さん。」


一生懸命謝るに土方さんも折れ、
二人はもう一度頭を下げて謝ると各自部屋に戻った。


「はぁ〜、まったく……。」


土方さんは大きなため息を吐き、一日忙しかったのに、
今が一番疲れたと思ったのでした。



***



「すみません、斎藤さん…。」

「何がだ?」

「私が起こすのを忘れて寝てしまったから、怒られてしまって…。」


申し訳なさそうに謝るに斎藤さんは笑って返事した。


「いや、気にするな…。」

「はあ、すみません。でも、やっぱり土方さんに怒られちゃいましたね…。」

「まあな……だが、土方さんは別に寝ていたから怒ったわけじゃないがな…。」

「え?」

「俺とお前が一緒に寝ていたからだ…。」

「はあ…。」


いまいち意味がわからないと言うように
首を傾げるを斎藤さんは笑って眺めている。


「…二人もいるのにどっちも注意しなかったからですか?」

「いや、違う。」

「???」

「お前だからだ…。」

「私が悪いんですか…。」

「そうじゃない。…まあ、お前はわからなくていい。」

「どういう意味ですか…;」

「気にするな。」

「気になりますよ!」


何故か楽しそうな斎藤さんをは不思議に思いながらも、
斎藤さんの機嫌が良いならまあ良いかな…。

と思い、追求はしなかった。
斎藤さんは悔しそうな土方さんの様子を思い出し、
機嫌がよかったのだ、今は自分に分があるかと…。

チラッとを振り返ると、の足元に誠が寄ってきた。


「にゃ〜。」

「あ、誠さん。」


は誠を抱き上げると、頬をすり寄せた。


「………」


フッと誠が勝ち誇ったように笑ったように見えて、
気分がよかったはずの斎藤さんも難しい顔をした。

まだまだ恋敵は多そうだ…と。




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2008.04.24