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いつも基本的に、表情はあまり変わらないハジメ。
そんな飄々とした態度を見て、
ちょっと困らせてやろうかと、悪戯心がわいた。




-困らせてみる-




「お~い、ハジメ~!」


縁側に腰掛け、茶を啜っていた俺は、
巡察から戻ってきたハジメを呼び止め、手招きした。


「何ですか?…永倉さん?」


俺が呼ぶと、ハジメは真っ直ぐ俺の所へやって来た。
そこで、俺は自分が食べていた団子をハジメに勧めた。


「よ、お疲れさん。どうだ?おめーも一つ食ってみねェか?」

「……いえ…俺は…」


俺の食べていた団子は、あんこやきな粉がかかっている甘い団子。
甘いものが苦手なハジメは、当然難しい顔をして断ろうとした。
もちろんそれは予想していたこと。
で、俺はハジメが返事をし終える前にすかさず言葉を続けた。


「この団子な、鬼部が作ったんだよ。 で、さっき皆に配ってたんだが…」

「…!」


俺の言葉にハジメの動きが止まる。
拒否していた返事も止まった。


「………」

「………」


さっきよりも更に難しい顔をしている…。

ハジメの『甘いものが苦手』は結構重症で、好き嫌い程度の問題じゃねぇ。
体が受け付けねぇような、体質的なもんだから、「食わねぇ」じゃなくて、「食えねぇ」だ。

それでもハジメは俺の一言で、苦手な団子を食うか迷ったみてぇだ。
本気で葛藤している真剣な顔、困っているハジメの様子に、俺は笑いそうなのを必死に堪えた。

まさかここまでとは。
ハジメが鬼部に好意を持ってるのは見てて明らかだからわかってはいたが、ここまでとはな…。

団子を睨みつけたまま固まっているハジメ。
これはつまり、甘いものは苦手だが、鬼部の作ったものは食いたい。
と言うこと、そして、『甘いものが苦手』以上に『鬼部のことが好き』
だと言うことなんだろう…。

俺も少なからず鬼部に好意を持っているわけだから少し複雑な気もするが、
ここまで必死なハジメを見ていると、応援してやりたい気持ちもあるよな…。


「あれ?斎藤さん?永倉さん?どうしたんですか?」


ハジメが団子と対峙し、葛藤し、
それを眺めながら俺がいろいろ考えていると、その原因が声をかけてきた。


「「鬼部。」」


鬼部の突然の出現にハジメは少し焦っている感じだ。
まあ、結局まだ団子を食べてねぇからな。

鬼部はハジメと俺を見て首を傾げたが、
団子の皿に気がつくと嬉しそうに笑って俺に話かけてきた。


「永倉さん、食べて下さったんですか?如何でした?」


皿の団子が減っていたから俺が食ったと思ったんだろ。
(ハジメが甘いものが駄目なのは鬼部も知ってるからな。)
最後は少し、不安そうな顔になりそう尋ねた。

そんな鬼部に俺はにっと笑いかけると、
ポンポンと頭を撫でてやった。


「もちろん旨かったぜ♪また食わせてくれよな!」


そしてそう言ってやると、鬼部は途端に嬉しそうな顔になり、
ぱっと花が咲いたような明るい笑顔を俺に向けた。

そう…この顔を見ると、やっぱこいつのことが好きだって、
思っちまうんだよな…///

鬼部の笑顔を見て幸せ気分に浸っていると、背後にゾクリと殺気を感じた。

考えるまでもないが…;


「ハジメ……?」


振り返ると案の定、ハジメが殺気だった顔で俺を睨んでいる…;
俺は微妙に焦ったが、鬼部はそれには気づかず、
ハジメの方へ顔を向けた。


「あ、斎藤さん。それは私が…」


鬼部が話しかけると、ハジメはすぐさま殺気を引っ込め、
思い切ったように団子を口にした。


「「!?」」

「さ、斎藤さん!?そ、そのお団子は…」


甘いものが苦手なハジメが、まさか食べると思っていなかった
鬼部は慌ててハジメに駆け寄った。


「あの…;斎藤さんそのお団子は…」


心配そうに顔を覗きこんだ鬼部の顔を真っ直ぐ見返すと、
ハジメは、


「おまえが…」

「え?」

「お前が作ったものなんだろう…?」


と言った。


「そうですけど…;このお団子は永倉さんや皆さん用だから、
 甘いはずですけど…斎藤さん大丈夫ですか…?」


やはり無理をしたんだろう、顔色が悪くなっているハジメを見て、鬼部は泣きそうになっていた。

だが、ハジメはふと柔らかい表情になり、鬼部の耳元で何か言った。
小声過ぎて俺には聞こえなかったが、鬼部が紅くなったのを見ると、
結構なことを言ったんだろう。

俺もいるってのに、見せ付けてくれるな…ハジメ…;
大体その団子は俺のだ…。
(まあ、ハジメに食うように勧めたのも俺だけどよ…;)


「わぁ!?斎藤さん!?」


が、結局、その後ハジメはバタリとその場に倒れた。
やっぱ無理してやがったんだな…。

青くなって倒れているハジメを、オロオロと心配そうにする鬼部。


(仕方ねぇな…)


俺はため息を吐くと、鬼部を連れてハジメの部屋に行き、
ハジメを休ませると、看病を鬼部に任せてハジメの部屋を後にした。

正直二人だけにするのは複雑な気持ちだったが、
鬼部のために、苦手な菓子を口にしたハジメの度胸に免じて、今回はゆずってやるよ。

ハジメと鬼部と、二人ともを困らせた詫びも兼ねてな…。

ハジメも体調が悪りィから、滅多な事にはならねぇだろうし…。

永倉さんは複雑な心境を抱えつつ、二人を残して行った。



***



「う……」

「気がつかれました?斎藤さん…」

鬼部…?」


部屋に来てしばらく、やっと意識を取り戻した斎藤さんに、
愛花は安堵のため息と共に斎藤さんに声をかけた。


「……ここは?」

「斎藤さんの部屋ですよ。永倉さんが連れてきてくれたんです。」

「……そうか」


愛花の顔を見ると、斎藤さんもほっとしたような顔をした。
ただ、次の瞬間、謝罪の言葉と共に申し訳なさそうに顔を伏せた。


「すまない…鬼部…」

「え?」

「お前の…団子が美味くなかったわけじゃないんだが…」


お団子を食べて倒れた、ということは原因は明らかにお団子のせい。
斎藤さんはどういって謝ればいいのか悩んでいるようだった。
そんな斎藤さんに愛花は可笑しそうに笑った。


「いえ、良いんですよ。斎藤さんは甘いものが苦手なんですから。
 それなのに食べられて…驚きましたよ…。」


苦笑いしてそう言った愛花に、斎藤さんも苦笑いした。


「ああ…普通なら食べないんだが…せっかくお前が作ったと聞いたから…。
 それに…永倉さんや他の人は食べたのに、俺だけ食べられないのは悔しいからな……。」

///


さっきも同じようなことを言っていたのだが、
斎藤さんの言葉に愛花は再び赤くなった。

自分が作ったものだから、そう言って食べてくれた、
斎藤さんの気持ちは嬉しくて…。


「…でも…本当は斎藤さんの分もちゃんとあったんですよ?」

「え?」


ぽつりと言った愛花の言葉に斎藤さんは驚いた顔をした。
愛花はにっこり笑うと、手元の包みを開いて斎藤さんに差し出した。


「……これは?」

「これは他の皆さんのとは違う、甘くない斎藤さん用のなんです。」

「…俺用?……これも…お前が?」

「はい、斎藤さんにはこれをお渡ししようと思っていたんですよ?」

「……そうだったのか、俺の分はないのかと…」

「そんなわけないじゃないですか!
 斎藤さんにも食べて欲しいんですから。これで口直しして下さい。」

「……ああ…ありがとう…鬼部…。」


自分の早とちりだったのかと、斎藤さんは可笑しそうに笑った。
そして、同時に愛花の気遣いが嬉しくて…。


「斎藤さん?これは本当に甘くないですから大丈夫ですよ…?」


何故かなかなかお団子に手をつけず、自分をじっと見つめている
斎藤さんに愛花が不思議そうに首を傾げると、斎藤さんは、
愛花の手を握り、顔を近づけてきた。そして…


鬼部…口直しはお前が…」

「…え」




ガラッ!


「おい、ハジメ~具合は……って!?な、何やってんだよ!!」

「あ…永倉さん…;」


もうほんの少し、あと少しで口付けしそうな瞬間、
永倉さんが様子を見にやってきてギリギリの所で愛花を斎藤さんから引き離した。


「永倉さん…」


斎藤さんは不服そうに永倉さんを睨みつけたが、
永倉さんはフイッと顔を背けた。

いくら今回譲歩したとはいえここまでは…。
自分だってまだ愛花を諦めたわけではない、譲る気はないと…。

自分の腕の中で、いまいち状況が理解できず、
困惑している愛花に目をやり、永倉さんはため息を吐いた。

愛花と斎藤さん、二人を困らせた永倉さんだったが、
最後にしっぺ返しをくらい、一番慌て、困ったのは案外永倉さんだったのかも…。




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2009.01.25