-僕だから気付くこと-




「お〜い、ハジメ〜。」

「何ですか、永倉さん?」

のやつ見なかったか?」


部屋で刀の手入れをしていた斎藤さん。
突然の来訪者は永倉さんで、永倉さんは勢い良く戸を開けるとそう尋ねた。

永倉さんの問いに斎藤さんは首を傾げつつ、しばらく考えたが小さく首を振って答えた。


「いえ、見ていませんけど。」

「そっか〜。」


斎藤さんの返事を聞くと、永倉さんはがっかりした様子でちょっと困った顔をした。


「どうかしたんですか?」


何か事情がありそうな永倉さんの様子に斎藤さんが尋ねると、


「いや、近藤さんが探してたんだよ。ちょっと聞きてぇことがあるって。
 急ぎみてぇだったから俺も探すの手伝ってんだよ。
 けど、部屋にもいなかったし…のやつ今日非番だっけか?」


と言って、永倉さんは頭を掻き考える顔になった。


「……いえ、今日は夕方から巡察のはずですが…。」


斎藤さんは少し考え、永倉さんに返事をすると、
永倉さんは納得し、


「そっか、じゃあ出かけたりはしてねぇのかな…けど、どこに行ったんだ?」


とブツブツ言いながら、斎藤さんの部屋を後にし、
またを探しにトコトコとどこかへ歩いて行った。


「…………」


斎藤さんは永倉さんを見送り、少し考えていたが、
近藤さんが急ぎの用事だと言うならと思い、刀を鞘に収めると自分もを探しに部屋を出た。

永倉さんに言ったとおり、今日は夕方から巡察の
それなら、今の時間で外出していることはないだろう。
つまり、いるなら屯所内。
そして、屯所内なら斎藤さんには少しあてがあった。

他の人は知らない、がよくいる場所。
自分も一緒にいることもあるのお気に入りの場所。

斎藤さんは一先ずそこを探してみることにした。



***



屯所内をぐるりと回り、大体いつものいる所を探すと…。


「あった…。」


壁の所にはしごが立ててあった。
皆には気付かれないように、一応隠すように置いてある所を見ると、おそらく当たりだろう。

斎藤さんは一応辺りを確認してそのはしごを上り、屋根に上がった。


「……やっぱり、ここだったか。」


屋根に上がり、きょろきょろと周りを見回すと予想は的中。
探していた人物を見つけ、斎藤さんは苦笑いした。

以前に月や星を一緒に見ようと誘われて以来、
実は結構二人で屋根の上で過ごす時間があった。

基本的には月や星を見る。
というのが目的なので夜が多かったが、は元々高い所に上るのが好きで、
空を眺めるのも好きだから、昼間もたまに屋根に上っていた。


「昼間は日差しが暖かくて日向ぼっこに最適なんですよ♪」


自信満々に言っていたの笑顔を思い出す。

はしごを隠しているのは、一度土方さんに注意されたことがあり、
一応内緒にしているからで念のためだが、斎藤さんにだけはそんなことをは話していた。

共にお気に入りの場所を共有しているからなわけだが、斎藤さんだけが知っているの秘密だった。

さて、昼間は日向ぼっこが最適と言っていた
現在時刻はお昼を回って少し経った頃、つまり…。


「危ないから…よせと言ったんだがな…。」


すっかり熟睡しているに、斎藤さんは呆れたように呟いた。
ひざに本を抱えているから別に昼寝目的だったわけではないようだが、
それでも、眠ってしまうと屋根から落ちかねないから、
気をつけるようにと何度も注意したがやっぱり眠ってしまったようだ。
仕方なく、斎藤さんは蹲って寝ているの隣に腰を下ろした。


「……?」

「…………」


とりあえず声をかけてみたが返事はない。
やっぱり眠っているようだ。


「おい、起きろ。」


今度は少し大きめの声で起こし、肩を掴んで揺さぶってみた。


「………う…」


流石に今度は気が付いたのか少し目が開いた。
が、まだ意識ははっきりしていない様子…。


「おい、。起きろ。」

「…?さ、斎藤…さん…?」

「ああ、こんな所で寝るのは危ないからよせと言っているだろう…。
 それに近藤さんがお前を探していたそうだが…。」

「……はい…わかりました…。」

「…………わかってないな…。」


なんとか会話にはなっているが、はぼーっとしたままで、
やっぱり寝ていると言った方が良いだろう。

斎藤さんは仕方がない、とため息をつき、
ぎゅっとを抱きしめると、耳元に顔を寄せた。


「……、お前がこのまま起きないなら…。」


そして、そう言うと一度体を離し、今度は顔を寄せた。


「…………」

「…………」

「にゃー!!」

「きゃあ!?」

「!!」


あともう少しで口づけする寸前、
誠がの肩に飛び乗って大声で鳴いた。

それには流石に驚いて、は眼を覚まし、耳を押さえて後ろを振り向いた。


「ま、誠さん…?ど、どうしたんですか?」

「にゃー。」

「え?あ、あれ?斎藤さん? いつからいらしたんですか?」

「……………」


誠はの肩に乗ったまま、に顔を摺り寄せ、
はすっかり混乱しているような顔で首を傾げている。
が、ようやくしっかり意識を取り戻したようで、斎藤さんにも気が付いた。


「?斎藤さん、どうかしました?」

「いや……。」


は斎藤さんを見ると不思議そうな顔をし、
斎藤さんは一応誤魔化したが内心がっくりと息をついた。
そして、少し恨みがましい顔で誠を睨んだが、誠はふんとそっぽを向いた。


(……絶対にわざとだな…。)


猫相手にそんなにムキにならずとも…。
斎藤さんはしばらく無言で誠を睨んでいたが、
が不思議そうに首を傾げたので、用件を思い出し口にした。


、」

「はい?」

「近藤さんがお前のことを探しているそうだ。」

「あ、そうなんですか?」

「ああ、すぐ行った方が良い。」

「はい!わざわざありがとうございます。」


斎藤さんの報告には頷くとにっこり笑ってお礼を言った。
その顔を見て、少し機嫌の直った斎藤さんは、何を思ったか突然を抱きしめると、抱き上げた。


「え!?な、何ですか?斎藤さん?」

「にゃー!!」

「別に、降りるのを手伝うだけだ。」

「て、手伝う?」

「そうだ。」


斎藤さんは平然とした顔のまま屋根の端まで歩いていくと、そのまま屋根から飛び降りた。


「!?」

「にゃーー!!」


は思わず恐怖で思いっきり斎藤さんに抱きついたが、
大した衝撃もなく、すぐに下についたようだ。


「降りたぞ。」

「さ、斎藤さん…こ、怖いですよ!普通に降りられますから!」

「危ないだろう。」

「この方が危ないです!」

「俺はお前を落としたりしない。」

「私だけじゃなくて、斎藤さんも危ないんです!」

「俺は平気だ。」

「にゃー!!」

「ほら、誠さんも怖いって!」

「猫は高い所は平気だ。」

「でも…」


「何…やってんだよ…お前ら…;」


屋根から飛び降りたことを言い争って(?)いると、誰かが二人(+一匹?)に声をかけてきた。
呆れたような、ちょっと固まった様子で…。


「え?」

「あ、永倉さん。見つけましたけど。」

「それはいいけどよ…なんで…;」

「はい?」

「!さ、斎藤さん!お、下ろしてください…!///


永倉さんに言われ、は慌てて斎藤さんに訴えた。
そういえば、今は斎藤さんに抱き上げられたまま…。
斎藤さんは全く気した様子はないが、は大慌てだ。


「斎藤さん!」

「近藤さんの所へ行くんじゃないのか?」

「行きますけど…」

「俺が連れていってやる。」

ええ”!?け、結構です!自分で歩けますから!!

「遠慮するな。」

遠慮じゃないです!!


言い争い(?)は続いているが、斎藤さんは何故か中々を下ろそうとしてくれず、
そのまま近藤さんの部屋へ向かっている。

しばらく呆気に取られていた永倉さんだったが、慌てて二人を追って行った。




戻る



2009.08.06