-ドアを蹴破って-
「泰衡さ〜ん!」 屋敷の外から大声で名を呼ばれ、泰衡様は顔をしかめた。 「泰衡様…;」 声の主はすぐにわかった。 は目の前で不機嫌な顔をしている主君に声をかけた。 「放っておけ。」 泰衡様はそれだけ言うと、外の声は無視して黙々と仕事にを続けた。 「泰衡さ〜ん!!」 もう一度名前が呼ばれた。 は苦笑いしたが、泰衡様は顔色一つ変えない。 どうやら本当に無視するつもりらしい。 とは言え、せっかく来てくれたのに…。 と、が躊躇っていると、 「泰衡さん!!!」 バンッ!! と、蹴破られたのかと思うほどの勢いで部屋の戸が開かれた。 「「!?」」 「おはようございますv」 にっこり笑顔で挨拶した突然の来訪者に、 泰衡様とは半ば呆れつつ、その人物の名を口にした。 「「神子殿(様)……;」」 「おはようございます。」 もう一度笑顔で挨拶した神子様に、は笑顔を向けた。 「おはようございます、神子様。」 「ありがとう、ちゃんv」 の返事に神子様は満足したように笑い、泰衡様を見た。 が、泰衡様は返事をするどころかまた机に視線を落とし仕事に取り掛かろうとした。 「泰衡さん…せっかく来た客人を無視ですか…。」 不服そうに呟いた神子様には慌てたが、 泰衡様は一瞬だけ廊下に目をやると、 「銀。」 と、一言。 「はい、泰衡様。」 泰衡様の声に、神子様と共に来ていた銀が返事をし、顔を出した。 泰衡様が無言で銀を睨みつけると、銀は苦笑いし、 「申し訳ありません、泰衡様。」 と、謝った。 泰衡様は何も言っていないが、言いたい事はわかったのだろう。 そんな二人のやり取りを見て、神子様が口を開いた。 「何二人で、目で語ってるんですか! 泰衡さんも!そんなあからさまに嫌な顔しないで下さい! 私はこれでもれっきとした用事で来たんです!」 「……用事?」 「はい。」 力強く言い放った神子様に、泰衡様は盛大なため息をつくと、 仕方ない、とでも言うように神子様に尋ねた。 「……では、何用かな?神子殿?」 泰衡様のその言葉に神子様は『待ってました』と言わんばかりの満面の笑顔になり、 「みんなで紅葉狩りに行きましょう!」 と言った。 「紅葉狩り?」 「はい。」 神子様とは対照的に渋い顔になる泰衡様。 「くだらん、勝手に行けば良いだろう。」 あっさり言い捨て、また机に向かった。 「泰衡さんは行かないんですか?」 「俺は忙しいんだ。銀を連れて行けば良いだろう。」 「じゃあ、銀とちゃんを借りていいですか?」 「………何?」 机に向かって、返事をしながらも仕事を続けていた泰衡様の手が止まった。 「だから、銀とちゃんを借りて良いんですか?」 神子様がもう一度言うと、泰衡様はますます厳しい表情になり顔を上げた。 「……何故、まで?」 厳しい表情のまま神子様を睨みつけ、泰衡様は低く呟いた。 泰衡様の様子には慌て、銀は苦笑いしたが、神子様はまったく怯む様子もなく、 「そりゃ、たまには息抜きさせてあげて下さいよ。」 と言って、泰衡様はますます眉間に皺を寄せた。 「神子殿は私がコイツをこき使っているとでも?」 「はい。」 即答した神子様に、ビシッとその場が凍りつく音がしたような気がした。 「あ、あの…神子様!私は別に…元気ですし、疲れてないですし…その;;」 会話の内容から泰衡様と神子様が言い争い(?)の原因が 自分にあるように感じたは慌てて口を開いたが、 何を言って良いかわからず、しどろもどろになりながらも必死に言葉を続けた。 「その…むしろお疲れなのは、ずっとお仕事をされている泰衡様ですから… 私よりも…泰衡様、せっかくですから息抜きされては如何ですか?」 泰衡様を振り返り、気遣うように言ったに厳しい顔をしていた泰衡様の表情が少し緩んだ。 が、の言葉を聞いて、神子様がに抱きつくと、また怖い顔に戻ってしまった。 「も〜!ちゃんってば、本当に可愛いしいい子だねvv」 「神子殿!」 泰衡様は今までで最高の不機嫌面になったが、 そこへすかさず銀が口を挟んだ。 「泰衡様。」 「何だ!」 「さんもこう言っておられますし…、どうでしょう? 泰衡様も紅葉狩りにご一緒されては?」 「……俺は、」 「泰衡様がご一緒の方が、さんも安心されますよ?」 「……………」 にっこり笑顔でそう言った銀。 泰衡様は複雑な表情になりつつも大きくため息をつき、と神子様を見た。 「神子殿……離して貰えるか?」 「え?何ですか?」 「を離してもらおう。そもそもそんなことをしている場合ではないだろう…。 早く出なければ、時間がなくなるのではないか?」 冷ややかな泰衡様の目に、神子様は不服そうな顔をしたがから離れた。 そして、にこっと笑顔になると、 「あ、じゃあ!ちゃんも行って良いってことですよね!」 と言った。 泰衡様はしぶしぶといった感じではあるが、首を縦に振り短く返事をするとの手を取り、 「行くぞ。」 と言って、部屋を出て行こうとした。 「あれ?泰衡さんも行くんですか?」 驚いている神子様に泰衡様は、振り返るとフッと皮肉な笑みを見せて、 「誘ったのは貴方だろう?」 と言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。 「もう!感じ悪い…。」 泰衡様の言葉に神子様がむくれて文句を言うと、銀が側へ歩み寄り、謝った。 「お許し下さい、神子様。泰衡様も悪気はありません。」 「……そうかな;」 「それより、泰衡様がご同行されるとは、極めて珍しいです。今日は楽しくなりそうですね。」 にっこり笑顔で言った銀に、神子様も笑った。 「そうね。」 ……が、果たしてその笑顔をが微笑ましいものであったかどうかは…定かではない…。 *** を引きつれ屋敷を出た泰衡様を待っていたのは八葉の方々。 神子様は『みんなで』と言ったのだから当然といえば当然だが…。 今更ながら、少し後悔の念に駆られた泰衡様。 気づかれないようにの手を離した。 「おや、泰衡殿。」 「泰衡!」 泰衡様の出現に驚いた顔をしたのは九郎殿。 対する弁慶さんは何故か満足気な笑顔だった。 「御曹司に弁慶殿か…何か?」 二人の反応に不信感を抱いた泰衡様は精一杯不機嫌な顔をして二人に問いかけた。 「いや…お前が来るとは…」 九郎殿が何かを言いかけた時、景時さんが口をふさいだ。 「いや…みんなそろっていけるみたいで、よかったってことですよ…ははは…;」 「ええ、本当に…。」 弁慶さんも笑顔で答えた。 誘いには来てみたものの、銀とはともかく、 泰衡様が来るとはみんな思っていなかったのだろう。 驚いている様子が手に取るようにわかる雰囲気に、 ますます居心地の悪い泰衡様は、やはり来るべきではなかったと後悔し 、屋敷の方へと目を向けた。 戻ろうかとも思ったが、丁度その時、 遅れてやってきた神子様と銀に背中を押されて泰衡様も結局は行くことになった。 *** (ね?来たでしょう、泰衡殿。) (本当ですね。) (絶対断ると思っていたが…。) (私達もいるのに、彼女一人を寄こしませんよ。) (?俺たちがいるんだから、危険はないだろう?) (そういうことじゃないんですよ、九郎さん。) (ええ…本当に九郎はそういうことには鈍いですね。) (何のことだ?) ((いいえ、何も。)) 弁慶さん、神子様、九郎殿の三人が後ろでボソボソと話していた内容は、 前を歩いてる泰衡様には聞こえていなかった…。 *** 「よ!よかったな、来れて。」 しばらく目的目指して歩いていた一行。 少し行った先でに声をかけたのは将臣殿だった。 「将臣様。」 「…だから様は…;」 「あ、すみません;」 「まあ、構わねぇけど…、でもよかったな。」 「はい、お誘い頂いて光栄です。」 「望美の奴がうるさくてな〜、せっかくだからって。」 「いえ、でも嬉しいです。皆様とご一緒できて。」 「そうか。」 「はい。」 楽しそうに話す二人を後ろで眺めている泰衡様。 どんどんと顔は不機嫌になっていき、後ろの二人はますます笑いを堪えていた。 *** 「わ〜!すごいです!」 山頂に到着し、眼下に広がる景色を目にして、 が歓喜の声を上げた。 「いいでしょ、いいでしょ♪」 喜ぶに、神子様も得意げだ。 眼下に眺める景色も美しく、そして山頂の紅葉も見事で、 ここまでの山道の疲れも吹き飛ぶ、絶景の場所だった。 「この前怨霊退治に奮闘してた時に見つけたんだよ。」 「怨霊退治ですか?」 将臣殿の言葉に、が驚いて尋ね返すと、 少しみんなから離れていた泰衡様が口を開いた。 「もう今はいないんだろうな?」 「もちろん、ちゃんと封印しましたよ。」 「なんだよ、泰衡びびってるのか?」 「フン、馬鹿な。人を誘っておいて、危険な場所へ連れてきたのなら、 とんだ無責任な奴だと思っただけだ…。」 からかうように言ったヒノエ殿の言葉に冷たく返事をすると、 泰衡様はまた一人そっぽを向いたが、そんな泰衡様に声をかけたのは弁慶殿。 「心配要りませんよ、泰衡殿。 怨霊は望美さんがちゃんと封印しましたから。」 「別に心配などしていない、怨霊が出たところで始末すればいいだけだろう。」 「いえ、貴方が心配なのはさんのことでしょう?」 「な…!」 「もし怨霊が出た場合、一番危険なのは彼女ですからね。 まあ、大丈夫ですよ。我々もいますし。」 「俺は別に、心配など…」 「それとも…泰衡殿が颯爽と怨霊を退治した方が良いですかね?」 「…何が言いたい、弁慶殿…。」 「その方が、さんの泰衡殿に対する株があがりますよ?」 「………」 「もしここで、将臣くんにでもいい所を取られたらますます泰衡殿が不利に…」 「貴様…」 「おい、何してるんだ二人とも。」 すっかり険悪になってしまった、泰衡様と弁慶殿。 そんな二人をフォローしたのは九郎殿。 「なんでもありませんよ、九郎。」 「?」 「………」 「譲が飯にすると言っているから、お前たちも来いよ。」 「ええ、今行きます。」 九郎殿のおかげで、なんとか惨事は免れた模様…。 九郎殿に即されて、泰衡様もみんなの中へ入っていった。 「泰衡様!」 「か…。」 泰衡様がやってくると、は嬉しそうに駆け寄り、 そんな様子に泰衡様も少し表情を緩めたが、食事を持ってきたが仕切りに料理を褒め、 そして譲殿を褒めるので、泰衡様はまた厳しい表情になってしまった…。 「おいしいですか?」 「……まあな。」 「これみんな譲様が一人でお作りになられたそうですよ。」 「……そうか。」 「すごいですね、こんなにたくさん。」 「…ああ。」 「神子様の世界の料理は見目もお美しいので、 難しいように思うのですが…、器用なのですね譲様。」 「………」 が楽しそうに話せば話すほど、泰衡様の表情は険しくなり、 射るような視線で睨み付けられる譲殿は冷や汗を流しながら耐えていた。 *** 食事を終えて、みんなそれぞれ紅葉を楽しみ、一休みしていた。 泰衡様も手持ち無沙汰に思いながらも紅葉を眺めていて、 隣にはがいて、何か話すわけではなくとも、その一時が心休まると…。 そう感じていたとき、 「お〜い!ちょっとこっち来いよ!」 と、そんな静かな時間も、ひとつの声にあっさり掻き消された。 不機嫌そうに泰衡様が睨み付けた先にいたのは将臣殿で、手招きをしていた。 視線が向いているのはのほうで、を呼んでいる様子。 腹立たしく思いながらも、泰衡様がを見ると、も泰衡様を見ていて、 将臣殿の所へ行っても良いのかと、尋ねているような目だった。 実際良くはないが、無視させるわけにもいかないので、泰衡様が頷くと、 は泰衡様の傍を離れて、将臣殿に駆け寄って行った。 その後姿を険しい表情で見送る泰衡様。 そして、その様子を眺めて笑いを堪えている人物も…。 「なんですか?将臣様?」 「手出して見ろよ?」 「?」 が傍へ行くと、将臣殿はなにやら楽しそうにそう言った。 が不思議に思いつつも手を出すと、手のひらに何かを乗せた。 「わぁ!可愛い…!」 の手に載せられたのはどんぐりで作られた小さな動物。 どんぐりに小枝がさしてあり、顔が描いてある。 「これは…リス?ですか?」 「まあ、そんなようなもんだ。」 喜んで尋ねたに、将臣殿は嬉しそうに答えてくれた。 「やっぱり将臣君は器用だよね、私の分はないの?」 そんな二人に楽しそうに近づいたのは神子様で、そんな風に声をかけた。 「お前は、人形なんて年じゃねぇだろ?」 「む〜、ひどい。将臣君!ちゃんだけ〜。」 将臣殿の言葉にむくれたような返事をした神子様には少し慌てたが、 二人は顔を見合わせると笑ったので、そんなやり取りも二人には普通のことなのだとほっとした。 と、そこへやって来たのはヒノエ殿で、神子様の肩を抱くとそっと耳元に口を寄せた。 「まあまあ、俺の神子姫。花の姫君にはこっちの方が似合うと思うぜ?」 ヒノエ殿はそう言うと、綺麗にまとめた落ち葉をそっと神子様の髪にさした。 「わぁ…綺麗ですね、落ち葉の簪ですか?」 「そう。ま、花のように可憐な神子姫には敵わないけど…。 それが愛しい神子姫の美しさを引き立てているなら満足かな?」 「ヒ、ヒノエ君…///」 「お前もよくやるよな…;」 「美しい花を前に賞賛の言葉が出るのは自然なことさ。」 呆れ気味に苦笑いする将臣殿に、ヒノエ殿はさらっとそう言った。 「はい、とってもお似合いです神子様!」 「ちゃんまで…;」 にこにこと笑顔で賞賛するに神子様は照れて赤くなった。 ヒノエ殿はそんな神子様の様子を満足気に眺めていたが、今度はに声をかけた。 「気に入ったのなら、雪の姫君にも贈ろうか?」 「え?」 が驚いてヒノエ殿を振り返ると、 ヒノエ殿は楽しそうに笑って、の髪をなで、 「雪の姫君の純白の髪なら紅葉の美しさがさぞ映えるだろうね。」 そう言ってウィンクすると、の髪に口付けた。 ヒノエ殿の行為には驚いたが、それよりも…… 「!!!」 不機嫌な怒りのこもった声に名を呼ばれ、慌てて後ろを振り向いた。 「あ〜……ご主人様が呼んでんぜ?」 「まったく…無粋なやつだね。」 「ヒノエ君…わざとでしょ…。」 口々に言った、呆れた様な神子様たちの言葉。 を呼んだのはもちろん泰衡様で、かなりご立腹の様子。 は慌てて泰衡様の下へ駆け寄った。 「あ、あの;お呼びでしょうか?泰衡様。」 「もう戻るぞ。」 「え?」 「いつまでもこんな所で無駄にしている時間はない。」 「で、でも;;」 唐突過ぎる泰衡様の言葉にが困惑していると、すかさずフォローしに現れたのは銀。 「泰衡様。」 「帰るぞ、銀。」 「申し訳ありません、泰衡様。少しお時間を頂けませんか?」 「これ以上付き合う義理はない。」 「少しお見せしたいものが御座いまして…。どうぞ、さんもこちらに。」 「え?は、はい!」 銀はを呼び寄せ、どこかへ向けて歩き始めた。 不服そうにしていた泰衡様だったが、歩みを止めて、 自分の方を振り向く銀とに仕方なく後を付いて行った。 「流石銀殿。手馴れてますね。」 「泰衡の奴は何を怒っていたんだ?」 「……九郎、見ていなかったんですか?」 「いや、…見ていたと思うが…?」 「はあ…やはり鈍いですね。君は。」 「な!お、俺は鈍くなんかないぞ!いつも戦いに備えて俊敏な態度を…」 「はいはい、わかってますよ。そこが鈍いんです。 良いんですよ。君はそこが良い所なんですから。」 「??」 「まあ、いいじゃないですか。 泰衡殿のことはあの二人に任せておけば安心ですし、僕等は僕等でせっかくの休日を楽しみましょう? 君もたまにはゆっくりと命の洗濯でもして下さい。」 「洗濯?」 *** 「おい、どこまで行く気だ、銀」 中々歩みを止めない銀に、痺れを切らせた泰衡様が声をかけた。 それなりの距離を歩いてきたのだ、もう帰ると言っているのに、これ以上遠出するのは遠慮したかった。 「もうすぐです。」 銀は振り返らずにそう返事した。 もとよりあまり機嫌のいい状態ではなかった泰衡様。 また何か言おうとしたが、その前に銀が笑顔で振り返り、 「ここです。」 と言って立ち止まった。 銀が指差した先には紅葉美しい眺めが広がっていた。 「わぁ!素敵ですね!」 が嬉しそうにそう言って、泰衡様を振り返り、 泰衡様も小さくため息をつくと仕方なくといった感じではあったが、 景色の方へ視線を向けた。 「それで……ここに何かあるのか?銀?」 「もちろん、この美しい景色です。 どうでしょう泰衡様。もうしばらくはここでお二人でお休みされては?」 「銀……俺はもう帰ると言ったんだが…?」 「泰衡様。せっかくの息抜き有意義にお過ごし下さい。 大丈夫、ここなら邪魔は入りませんよ。私は神子様方の様子を見ていますので失礼しますし。」 銀はそう言うと、泰衡様との背中を押して、 丁度眺めるにはいい場所まで移動させ腰を下ろさせた。 「では、ごゆっくりお過ごし下さい。帰りがけにはお声をおかけ致します。」 「「………」」 あまりにも手際の良い銀。 いつものことながら反論する隙すら与えぬまま去っていった。 泰衡様とは顔を見合わせ、泰衡様はため息を、は小さく笑いを漏らした。 *** 「……まったく…」 「あの…泰衡様、やはりお忙しかったのですか?」 「ん?」 じっと景色を眺めていたがふと口を開いた。 泰衡様が視線を向けると、は少し沈んだ表情で俯いていた。 「あの…お忙しいのに、私のせいでご無理させてしまったのかと…」 申し訳なさそうにそう口にする。 泰衡様はそっとの頭に手を乗せた。 「別に……お前が気に病むことではない。」 「……はい…でも…」 泰衡様の行為に、も少しほっとした顔をしたが、 それでも申し訳なさそうに顔を伏せたままだった。 少しイライラした気分だったのは事実だが、 それは八葉の方達がにちょっかいをかけていたのを 不快に思ったから……ようは嫉妬していたのだ。 そんな気持ちをに八つ当たりし、悲しい顔をさせてしまった。 今はせっかく銀のはからいで、二人きりだというのに、気の聞いた言葉も出てこない。 こんな状況を作り出した銀と、こんな時何もできない自分。 そんな二人についた悪態を、は自分自身に受け止めたのだ。 もう共にいるようになって短くない時を過ごしてきた。 の性格もよくわかっているのに…。 少なくとも八葉の方達よりは長く一緒にいるのに…。 すっかり自己嫌悪に陥って、泰衡様は深いため息をついた。 それを聞いてがそっと泰衡様の顔を覗き見ると、は 泰衡様どこか辛そうな、悲しそうな顔をしていた。 てっきり、不機嫌な怒った顔をしているとばかり思っていたのに、 傷ついたような泰衡様の表情には驚き、思わず泰衡様の着物を掴んだ。 「!?……な、なんだ?」 「あ、あの…お忙しい中ご無理させてしまったことは申し訳なく思っております…。 ですが!お忙しいからこそ、こうして御心を休める時間を作って頂きたいと思ったんです…。 美しい自然の景色をご覧になれば疲れた心を癒せるかと思いましたし…」 「………」 必死の様子で言葉を続けるに泰衡様は困惑しつつも、 自分のことで一生懸命になってくれていることは嬉しいと思っていた。 「あ、あの…それに…」 は泰衡様から手を離すと、少し言いにくそうに言葉に詰まったが、 照れたように笑うと、顔を上げて泰衡様を見て言葉を続けた。 「以前何度か、泰衡様がいろいろな所へ連れて行って下さった時、 とても嬉しかったんです。とっても楽しくて、嫌な事も不安な事も忘れられて…。 だから、私も泰衡様のために何かしたくて…でも、私…方向音痴ですし、 どこかへご案内することは…そういった場所も、あまり存じ上げませんし…、 それで、その…今回の神子様たちのお誘いは願ってもないことかと。神子様たちがご一緒の方が賑やかですし。」 照れたような笑顔で言った、の前半の言葉に、泰衡様は顔が熱くなるのがわかった。 率直な、素直な言葉。いつもそうだが、聞いている方が照れる。 それでもやっぱり嬉しくて、腹立たしいような気持ちは消えていった。 後半言った言葉に対しては、思わず口を滑らしそうになったがなんとか堪えた。 『神子様たちがご一緒の方が賑やかだから』 はそう言ったが、泰衡様はそんな必要はない、賑やかでなくとも、お前が、お前さえいれば…。 そんなことを思い、おもわず口をつきそうだった。 「?泰衡様?」 慌てたように口元を抑えた泰衡様には不思議そうに首を傾げた。 「いや、なんでもない…;」 「?」 「」 「はい。」 「…今日付き合ったこと…後悔しているわけではない。 ………こういうことも…たまになら…悪くないだろう…。」 上手い言葉はすぐには思いつかず、泰衡様は途切れ途切れながらも、 精一杯、の気持ちに答えるように言葉を選んだ。 そんな想いが通じたのか、は嬉しそうに笑いお礼を言った。 少しでも、泰衡様の疲れが取れるように、心が癒えるように。 その願いはこの美しい景色や自然が叶えてくれるとそうは思っているが、 本当は、そんな気持ちや言葉が何より大切な主の心を癒していた…。 *** 銀が来るまで、しばらく二人は時折会話をしながら眺めを楽しんでいた。 ただ、会話は長く続くものではなく、優しい秋風や木々の声が心地よく、はいつの間にか眠ってしまった。 そのことに初めは困惑していた泰衡様だったが、肩にかかる温もりや、 寝息に誘われて、いつの間にか泰衡様も眠ってしまった。 迎えに来たのが銀だけではなかったため、その後散々からかわれたのは、言うまでもない…。 大変なことも多いが、時には外出も悪くはない。 心も体も、閉じ込めるだけではなく、飛び出すほどの勢いをつけて、 外に出ることも時には必要なこと…。 戻る 2008.08.26
またもの凄く長くなってしまって…;(滝汗)
前後編に分けようかと思ったぐらいなので…ホントすみません; おまけにお題にそってるか、かーなーり微妙だ!! あ〜難しいよ〜(泣) 文面や文法も何だかおかしいですし…。 結構前に書いてたものですんで…ね…(言い訳;) まあ…神子一行も加えてわいわいやりたかったので、そこは…満足です。 でも、登場人物が多すぎてややこしくなってしまいました。 わかりにくいし非似ですみませんorz(土下座) いずれ手直ししなきゃダメかな…。 |