「雨、止みませんね…。」


暗い空に目を向け、銀がぽつりと呟いた。




-空が晴れる頃にはまた笑えるから-




ここ数日続いている雨。
雨量は大したことはないし、水不足の地にとっては恵みの雨。
別段困ることはないが、どんよりと曇った空ばかり眺めているのは気分が滅入る。
と銀は呟いた。

それを聞いて泰衡様は、気分や機嫌を天気に左右されるなど…と、
口にしたが暗い空を厳しい表情で見つめている様子が、少なからず泰衡様も
天気が悪いことで不機嫌になっているのだと銀は気付かれないようにふっと笑った。


「おや、あれは…」


と、同時に空に向けていた視線を庭に下ろしたところで、
目についた者に銀は思わず呟いた。


「何だ?」


銀の声を聞いて、泰衡様が尋ね返したので、
銀は返事をする代わりに庭にいるその人物を呼び止めた。


さん。」

「あ、銀さん。」


銀が呼ぶとは振り返り泰衡様にも気付くとにっこり笑って挨拶した。


「泰衡様、銀さん、お疲れさまです。」

「ああ、」

「ええ、ありがとうございます、さん。
 貴方の笑顔を見ると曇っていた心も晴れるようですね。」

「……いえ;そんな///

「…………」


銀の言葉には赤くなって俯き、
それを見て泰衡様はせっかくよくなりそうだった機嫌がまた悪くなっていたが、
銀は特に気にせずそのままに話し掛けた。


さん庭で何をされていたのですか?」

「え?」

「雨が降っているのにお仕事ですか?」


小雨とはいえ雨が降っている中でわざわざ?
と銀は不思議そうに首を傾げ、そんな銀には笑うと、


「いえ、仕事ではないです。」


と首を振った。


「あのままだと濡れてしまいますから…。」


はさっきまでいた物干し竿を振り返りそう言った。


「「?」」


何のことかと泰衡様と銀が物干し竿に目をやると、
竿の下の方に白い人形がついていて、その人形の上に小さく傘の様にした布がかけてあった。


「何だ、あれは?」


訝るように尋ねる泰衡様に、はにっこり笑うと、


「てるてるぼうずです。」


と答えた。


「「てるてるぼうず?」」

「はい。雨が止むおまじないのお人形です。」


声をそろえて尋ねた泰衡様と銀に、はにこにこと続けた。


「昔、兄様とよく作っていたんです。明日は晴れますようにって。
 私は雨も好きですけど、ここ数日雨が続いていますから、そろそろ青い空が見たいと思いまして…。」


くるっと庭に向き直り、は曇った空を見つめた。


「そうですね。私もそう思っておりました。」


銀も同じように空を見つめ、同意すると、
は笑顔で振り返り、そんなの笑顔にまた笑った。


「あの可愛らしいてるてるぼうずと貴方の笑顔があればきっと空も笑って下さるでしょう。」

「……///

「………銀」


にこにこと言った銀の言葉に泰衡様が低く呟いた。
銀が笑顔なだけに不機嫌な泰衡様の様子は際立つ感じだ。


「あの…泰衡様…?」


泰衡様の仏頂面にが不安そうな顔をしたが、
急に機嫌が戻るわけでもないので、泰衡様はばつが悪そうに顔を背けた。

銀はその様子にくすくすと笑い、
泰衡様に睨まれたが、気にせずを手招きすると、


「どうでしょう?その可愛らしい笑顔のてるてるぼうず、
 泰衡様の為にもう一つ作って頂けませんか?」


と言った。


「え?」

「何?」

「せっかくですから泰衡様の部屋にも飾っておきましょう。
 空と同様、泰衡様のお気持ちも晴れますように…。」

「そんなもの……」

さんが泰衡様の為に作られるのですから効果は期待できますし♪」

「…銀」

「…もっとも、てるてるぼうずより、貴方が笑顔で傍に居て下さるのが一番効果的なんですけどね…。」

「銀!!」

「はい、何でしょう泰衡様?」


たんたんと話を進め、泰衡様をまるっきり無視していた銀だったが、
大声で名を呼ばれてはさすがに返事をしないわけにはいかない。
が、ご機嫌の笑顔で振り返り反論の余地なし、と言う雰囲気丸出しの銀に泰衡様の方が諦めた。


「……好きにしろ;」

「ありがとうございます♪」


銀は上機嫌でお礼を言うと、
そのまま一礼し下がっていった。

後は二人に任せると言うことなのだろうか…。
一応話は伝わっているが微妙に混乱しているは困ったように泰衡様を見つめる。
泰衡様はため息を吐き、仕方がない、と言うように声をかけた。




「はい、泰衡様。」

「その『てるてるぼうず』とか言うまじないの人形だが…」

「はい。」

「効果に自信があるなら部屋に置いてやっても良い。好きにしろ。」

「…あ、はい!ありがとうございます!」


言い方は言い方だが、泰衡様が気に入ってくれているのかと
思ったは嬉しそうにお礼を言った。


「泰衡様もやっぱり明日は晴れて欲しいのですか?」

「……出かけるには、天気が良い方が都合が良いからな。」

「そうですか、なら明日はきっと晴れるようにしっかりお祈りします!」



明日はきっと晴れますように、
明日はきっと笑ってくれますように。


下手な慰めよりも精一杯の気持ちと祈りを。

貴方が笑ってくれたら、きっと私も笑えるから…。



が一生懸命作ったてるてるぼうずはしっかり泰衡様の部屋に飾られましたとさ。




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2007.12.17