-きらきら光る眩しき世界-



「泰衡様!泰衡様!見てください!あれ!すごく綺麗ですよ!」

「落ち着かないと転ぶぞ、。」

「大丈夫ですよ!ほら!あそこにも!」

「ああ。……、」

「はい?…わぁ!?」

「っ、……だから行ったんだ…;」

「すみません…;」


はしゃぎ回って転びそうになったを、泰衡様が寸でのところで受けとめた。



***



ここ数日雨が続き、嵐も来ていた。
もともと屋敷内の仕事をしているは外に出ることは少ないが、
庭の世話もできなくて、ずっと屋敷に居るよう言い付けられていたため
すっかり退屈していた。

そして庭の花々も嵐のために悲惨なことになってしまった。
そのためすっかり落ち込んでしまったを元気づけようと、
泰衡様はを連れて外に出た。

嵐による被害の視察。

それを名目として…。

だが、実際はそれ程ひどい嵐ではなかったので、
被害の視察をする程ではないのだが、まあ要は何か理由が必要だったから
泰衡様はそう言ってと二人屋敷を出てとある場所へと向かった。

向かった先は町ではなく、林の方で、は殆ど散歩気分で泰衡様の後をついて歩いていた。
久しぶりに外へ出られたことも嬉しくて、すっかりの機嫌は良くなっていた。



***



「綺麗ですね、林の中…。」


雨上がり、水滴の付いた木々は水浴びをした後のように輝いていて、
普段目にしている時よりも遥かに美しく、は嬉しそうに笑って林の中を眺めていた。


「お庭の花は少し痛んでしまいましたが、手入れをすればきっと元通り綺麗になりますね。
 雨が降ったことは、みんな喜んでいるでしょうから…。」


林の中の花々は、木々に守られていたからか被害は少ない。
それどころか、雨露を受けてきらきらと輝いている姿は嬉しそうに見えて、
はそう言った。


「……まあ、ぼちぼち直していけばいい。」

「はい!」


すっかり元気を取り戻したに泰衡様は安心したような顔をし、そう返事した。


「あ、泰衡様。」

「何だ?」

「あそこに何か光ってますよ。」

「…ん?」

「あの…木の上です。」


は背伸びをし、ずっと上を指差した。


「……ああ、蜘蛛の巣だ。あれは。」

「水が飾り付けされたみたいで綺麗ですね。」

「……そうだな。」

「泰衡様!泰衡様!見てください!あれ!すごく綺麗ですよ!」

「落ち着かないと転ぶぞ、。」


雨上がりの林の中の自然は、の興をそそるものが多いようで、
は楽しそうに林の中を駆け回り、泰衡様はそんなを眺めて、しばらく時は過ぎていた。



***



「満足か?」

「……あ、はい…。すみません泰衡様…随分時間が経ってしまったんですね。」

「構わん。」


久々の外出と美しい緑に、すっかり浮かれたは時間を忘れて
あちこち見ては泰衡様に声をかけた。

なんでもないいつもと変わらない景色のはずなのに、雨上がり、
きらきら光る林は美しかった。

きらきら光る眩しき世界。

それが一層引き立つのは、想う人と共にいるということ…。
雨上がりの輝く雨粒よりももっと世界を輝かせ、世界が眩しく見えるのは愛しい君が傍にいるから…。

も泰衡様もそのことを意識してはいない…。
けれど隣にいる存在が大切で、傍にいることが幸せだと、
心が感じているのなら、今はそれで良いのだろう。
今は未だ……それで…。


「そろそろ戻るか?」

「はい。戻ったら、早速お庭を直しますね。」

「ああ…。」

「がんばってきっと前よりもっと綺麗にします!」

「…楽しみにしている。」

「はい!」




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2007.06.13