新しく入った新入隊士、「」。
外見は桜庭同様子供っぽい。
むしろボケている所が桜庭よりも幼く感じるぐらいだ。

……でも、そんな所が可愛くてほっとけねぇって思っちまうんだ。





-恋のつぼみ-




「よお!!」


町を歩いていてたまたま目に入った人物に俺は思わず声をかけた。


「あ、永倉さん、こんにちは。」


は俺に気付くとにこっと笑って挨拶した。
本当に可愛い、とこの顔を見るとつくづく思う。


「何やってんだ?」


紙を片手にキョロキョロと辺りを見回している 様子が気になって尋ねると、
は、


「探索です。」


と答えた。


「探索?」

「はい、この間斎藤さんがこの辺を案内してくれたので、
 ちゃんと覚えているか確かめる意味も含めて地図でも作ろうと思いまして。」

「へ〜ハジメのやつが…。」


の返事にに少し複雑な気分だった。
そういや、を屯所に連れてきたのはハジメのやつだったもんな…。

あの時は初対面で何もなかったようだが、あのハジメがわざわざ町を 案内するなんて、
やっぱりハジメのやつもに興味があんのか?


「あの?永倉さん?」

「え?」


ふと名前を呼ばれて我に返ると、が心配そうな顔で俺を見ていた。
あ〜、余計なこと考えて一人百面相でもしてたのかもな…;

俺は慌てて誤魔化すようにが持っていた紙をひったくるように取った。


「あ、」

「なんだ;地図って、…こんなのでわかるのか?」


かなり雑な地図に俺は思わず吹き出した。


「私がわかればいいんです!」


はぷーっと頬を膨らまして怒ると、俺の手から地図をひったくった。


「悪い悪い。」


俺はの頭をポンポンとたたいて謝った。
こういう顔を見ても可愛いと思うあたり、相当やられてるかもしれねぇな…。


「よし、ならお詫びに俺も地図作りに協力してやるよ!」

「え?」

「ハジメが教えてねぇ店とかな。」

「そんなとこあるんですか?」

「ああ、着いてきな。」


俺はそう言うと、返事も聞かずにきびすを返した。
ハジメに負けたくなかったしな。


「待って下さい!永倉さん!」


案の定、はちゃんと着いてきた。
その姿を確認し、俺は案内すべく最初の店へ向かった。



***



「お団子屋さんですか?」

「そうそう。」


最初に案内したのは団子屋。
桜庭や近藤さんから聞いた、美味いと評判の店だ。


「おやじ、団子二本。」

「へい、まいど!」


俺は早速団子を買うと、一本をに渡した。


「あ、すみません…ありがとうございます。」


は団子を受け取ると、代金のことを聞いてきたが、
大した額でもねぇし奢ってやると言うと散々遠慮し、恐縮したが、
ここでこいつに出させたら俺こそ男が廃る!ってんで、結局は俺が奢った。

こういうとこは妙に律儀で真面目だな。
は俺にしっかりお礼を言うと、団子を口にした。


「どうだ?」


大丈夫だとは思うが、口に合わなかったらと少し不安になり尋ねると、


「すごく美味しいです!」


は満面の笑顔でそう答えた。


「そうか…、そうだろ!ここはお薦めだからな!」


嬉しそうに笑うにほっとして、同時に嬉しくて、自慢げにそう言った。


「団子の種類も多いしな!まあ、一押しは今のみたらし団子だ。」

「はい、本当に美味しいです。」


桜庭もそうだが、も本当に嬉しそうに食べるから
見ている方も嬉しいかぎりだ。


「よ〜し!じゃ、次行こうぜ!」

「え?」


が食べ終わったのを確認すると、俺は次を目指して歩き出した。



***



「な、永倉さん…ちょっと…。」

「ん?どうした??」

「あの…、すいません…さすがにお腹いっぱいなんですけど…;」


あれから団子屋、饅頭屋、飴細工、
などいろいろな店を廻りそこそこで買い食いをした。

見た目も綺麗な菓子に大喜びし、どこでも美味いと言って喜ぶ
ちょっと調子に乗っちまった俺はかなりの店をハシゴしていて、
呼び止められて慌てた。


「わりーわりー;さすがにちょっと廻りすぎたな;」

「いえ、どこも知らないところばかりだったので、
 嬉しかったです。美味しかったですし。」


はにこっと笑うとそう言ってお礼を言った。


「でも、食物屋さんばっかりでしたね?しかも甘いものの…。」

「ああ、ハジメが教えてねぇとこったらそこだろう。」


ハジメの奴は真面目だしな、しっかり案内したに違いねぇ。
そのハジメが行ってなくて、が好きそうな店はそういう店だ。


「…確かに、みんな初めてでしたけど…どうしてですか?」

「ハジメは甘いものが苦手だからな。」

「あ、そうなんですか?」

「ああ、で、近藤さんは甘党だ。」

「それは知ってます。」


まあ、近藤さんとは知り合いだもんな、知ってるよな。
は小さく笑ったが、そのあと苦笑いになり、


「それにしても、ちょっと食べ過ぎでしたね;永倉さん大丈夫ですか?」


と言った。


「俺?俺は平気だぜ?」


前半は一緒に食べていたが、甘いものばかりでさすがに
気持ちが悪くなって俺は途中からは食べてねぇしな。
俺がそう答えると、は苦笑いのまま申し訳なさそうに、


「いえ、あの……お金…とか…。」


と言った。


「あ…。」


くっ!…痛いとこつかれたな…;実はそろそろ限界だ。
は各店で必ず申し出るんだが、やっぱ女に出させるなんてかっこわりーだろ!
で、結局全部俺が出した。一つ一つは高くないが、数が数だ、
が食うのが限界だって思うほどの量だしな…。
こりゃ、後で左之にでも金を借りるっきゃねーな。
俺が黙りこくっていると、はすまなそうな顔になり謝った。


「あ、あの…すみません、永倉さん。私…調子に乗ってしまって…お金はお返ししますから…。」

「いや!良いって!良いって!」


財布を取出したを俺は慌てて止めた。


「…でも。」


ここでおめーに出させたら意味ねぇだろ!


「大丈夫だって!これぐれえ!」


本当は結構やべぇけど…こいつ相手にそんなこと言えねぇよ…;


「ま、なんだ…もし、俺が金欠でメシに困るようなことがあったら、
 おめーがなんか作ってくれよ、な?」

「……はい、わかりました。」


俺が苦し紛れにそう言うと、は少し悩んだ後にっこり笑って了解した。
適当に言っちまったが、の手料理が食えるってことになったことに気付くと、
金欠なんてどうでも良くなりそうだった。

の返事と笑顔に満足し、俺が気を抜いた時……。


「きゃー!」


女の叫び声がして、男が突進してきた。


「わっ!」


男はを突き飛ばし、俺たちの間を駆け抜けていった。


「大丈夫か!!」


突き飛ばされて膝をついたに近づくと、
は俺を心配させまいと笑顔を見せたが、


「っ!」


一瞬顔をしかめて足を抑えた。
見ると足が赤くなっていて、痛そうだ。


「くそっ!待ちやがれ!!」


何故だか無性に腹が立った俺は、
を突き飛ばした男を咄嗟に追い掛けていった。


「あ、永倉さん!」


に呼ばれた気はしたが、俺は逃げる男を追うのに必死だった。



***



距離があり、追い付くのは難しいかと思ったが、
今更引き下がるなんてできねぇ!

このままじゃ追い付けねぇかもしれないと思った俺は、
大体の見当をつけて先回りすることにした。

要するに感だ、感。

脇道に入って、男が通りそうな場所に行った。
すると案の定先の男がやって来たので、
俺は塀を飛び越えるとそのまま男の上に飛び降りた。


「追い付いたぜ!!」

「!!?」


男を踏み付け着地すると、
そのまま腕を掴んで捕まえた。


「よ〜っし!」


俺が満足気にそう言った時。


「永倉さん!」


名前を呼ばれた。の声だ。


!捕まえたぜ…!」


自慢げにそう言っての方を向いて、俺は一瞬固まった。


「ハジメ…」

「…お手柄ですね…永倉さん。」


とハジメが一緒にいたからだ。

しかも、なんか近すぎだろ!くっついてんじゃねえかよ!

突然で驚いて少し腹が立ったが、よく見るとハジメがに肩を貸してやっているんだということに気付いた。
は足を痛めてんだよな。だから俺も必死にこいつを追い掛けたわけだし…。


「永倉さん大丈夫ですか?」


が心配そうにそう言ってハジメから離れ、俺のとこへ来ようとした時…。


「ありがとうございました!」


を押し退け、女が俺の前にやってきた。


「あ…;」


よろけたをハジメが支えている。
誰だよ…この女は…。


「おかげで助かりました!
 私の財布を持っていったスリを捕まえて下さって!」


財布?後ろを振り返ると、確かにのびている男の横に赤い財布が転がっていた。


(あ〜、そうか。そういや、あの時なんか女が悲鳴を上げてたな…。)


思い出してみるとそうだ、を突き飛ばし、
怪我をさせたことにばかり気をとられていたが、
こいつはスリだったんだな。

仕方ないので落ちていた財布を拾うと女に渡した。


「ほらよ。」

「ありがとうございます。」


女は財布を受け取ると同時に俺の手を取った。


「!…な、何か?」

「あの…、宜しかったらお礼にお茶でもどうですか?ご馳走しますよ。」


女は媚びるようにそう言って俺を見つめた。
いつもなら受けてもいいんだが…今はな〜、の見ている前で
他の女に言い寄られていることに慌てて俺はを見た。

は俺と目が合うと、困ったように苦笑いした。
こんなことで誤解されたくねぇよ!くそっ!
ますます焦り俺はハジメを見たが、ハジメは俺と目が合うと、


「……お邪魔でしたら俺たちは行きますけど…。」


と言って、を引き寄せると場を離れようとした。


「だ〜!!ちょっと待て!ハジメ!」


俺は慌てて女の手を振り払い、二人の後を追った。



***



「薄情な奴だな、オメーって。」

「そうですか?」

「まあまあ、落ち着いて下さい永倉さん;」


結局あの後は三人で行動することになっちまった。
の怪我は大したことはなく、ハジメが応急処置をした
お陰もあって今はもう平気らしい。それも悔しかった。

まあ、怪我したをほっぽってスリを追っていった俺がわりーんだよな…。
少し凹んでいる俺にが明るく声をかけた。


「でも、永倉さんすごいです。あんなに離れていたのに追い付くなんて。」

「そ、そうか?…///あ〜、けど、悪かったな…置いていって…。」

「いえ、咄嗟のことだったのにスリと見抜くなんてすごいですよ。」

「はは…;」


本気で尊敬!と言うような顔で見るに俺は苦笑いするしかなかった。
スリだって見抜いてたわけじゃねぇ。


ただ、おめーに怪我させたからムカついただけ…。

おめーを傷つけたから許せなかっただけ…。


の顔を見ながらあの男を追っていった理由を思いガラにもなく照れ、
は俺と目が合うとにっこり笑った。ああ、やっぱり…。


(可愛いよな…。)


俺もつられて笑った。この顔を見てると癒される、
嫌なことも忘れられる、疲れも取れる気がする。

俺が幸せに浸っていると、はくるっとハジメに向き直り、


「斎藤さんも、ありがとうございました!」


にっこり笑ってそう言った。


「ああ。」


の言葉にハジメは嬉しそうに笑った。
本当に微かだが、表情が変わった。

いつもは無表情に近いハジメ。
俺たち親しい連中は雰囲気でわかるが、
今の顔を見たらみんなハジメが笑ってると言うだろう。

驚きつつも、ハジメがに好意を持っているのは事実だな…。
と、複雑な気分だった。

の態度は俺もハジメも変わらないだろう。
いや、たぶんは誰にでもこうだ。
にこにこ笑顔で接して別け隔てなく優しい。
まあ、そこが良いとこなんだが…。

誰に対してでもだから、何もないことはわかっているが、
俺はに笑顔を向けられているハジメに嫉妬していた。

もやもやした気持ちのまま、の方を見ていると、
ふいにが振り返った。驚いた俺が思わずあとずさると、


「?どうしたんですか?永倉さん?」


が不思議そうな顔をした。


「あ〜いや;」


突然で驚いて慌てたが、俺は思い出したようにに耳打ちした。


「な、約束忘れんなよ。」

「約束?」

「俺にメシを作るって話だよ。」

「あ、はい。もちろんです。」


はにっこり笑って返事した。
俺も満足して笑うと、ハジメが不機嫌そうにこっちを見ていた。


「なんです?」

「あ、あのですね…。」


ハジメの問いにが答えかけたので、
俺は慌てての口を塞いだ。


「ん!…?」

「内緒だ。内緒。」


俺がふふんと勝ち誇ったようにそう言うと、
ハジメは明らかに不機嫌な顔になった。

は慌てていたが、俺はかなり優越感に浸っていた。
今日は俺と出かけたのに、結局良いとこをハジメに取られたような気がしていたからな。
これぐらいいいだろ?

俺はの手を取ると逃げるように走りだした。




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2006.11.14