-色いろいろ-




朝早くの屯所の入り口。
何やら賑やかな声が聞こえて足を向けると、丁度が入ってきた。
そして永倉さんの顔を見ると笑顔で挨拶した。


「あ、おはようございます永倉さん、今日は早いんですね。」


いつもの、ほっとするような明るい笑顔。
ただ、言われた言葉にちょっと引っかかりを感じて、永倉さんはあえて意地悪く返した。


「今日はって…おめー俺が寝坊してばかりだと思ってんのか?」

「え;そ、そういうわけじゃ…昨日遅かったみたいだったので…その…」


すると予想通りはオロオロと狼狽え、永倉さんは密かに笑いを漏らした。
鈴花さんならきっともっと強気に返事してくるだろうが…、
こういう所は二人の性格の違いが顕著だな。などと思いながら…。


「あ〜…冗談だって!本気にするなよ。」


少し暗くなってしまったに、永倉さんは慌ててガシガシと頭を撫で回して誤魔化すと、
一瞬驚いた顔をして慌てたものの、も直ぐ笑顔を取り戻した。

と、同時にの手元に目がいった永倉さんは、大事そうに持っているものに気づいた。

それは…


「何だ?どうしたんだ?その千羽鶴


が手に持っていたのは不器用ななりの千羽鶴。
話を聞くと、町で仲良くなった子供たちが怪我したを心配して持ってきてくれたとか。

さっきの声は子供たちだったようだ。
それに歪な形の千羽鶴も子供が作ったものだから…。

けど、それを見せて話すの表情は心底嬉しそうで…。


「…そっか、よかったな。」

「はい!」


微笑ましい気持ちになった永倉さんだった。



***



「で、怪我の具合は良いのか?」


お見舞いの千羽鶴を受け取って部屋に戻る途中、
何となく同行した永倉さんがに声をかけた。

先日の巡察の時に怪我をしてしまった
別に大した怪我ではない。
転んだ拍子に肘を打ち付けて痣ができてしまった。

多少は痛いが、自身は然程気にはしていないようだ。
それでも今回子供たちがこうしてお見舞いの品を持ってきてくれたのは、
沖田さんも交えて遊んでいたときに、
沖田さんがポロッとが怪我していることを漏らしてしまったせいらしい。

怪我を押してまで遊んでくれたお礼に…と持ってきてくれたんだとか。


「いろんな人に心配をかけてしまいました…。」


申し訳なさそうに言っただが、表情は嬉しそうで…。
申し訳ないと思いつつも、皆の気持ちは嬉しいようだ。


「ま、それだけオメーがいろんな人に好かれてるってことだな。」


永倉さんはにそんな風に言って、またガシガシと頭を撫でた。


「それにしても…」

「はい?」

「その千羽鶴、妙に青い鶴が多くねぇ?」


の手元、大切に抱えられている千羽鶴に視線を落とし、
永倉さんはそう呟いた。

実際、色とりどりでもあるが、比較すると青い色のものが多かった。
青や空色、水色、瑠璃色、藍色、杜若や浅葱まで、比較的青系統が多い。

端の方を手に取り、眺めている永倉さん。
せっかくなんだから、いろんな色があった方が…などと言っている。

は小さく笑いを漏らすと、青い色の鶴が集まっているところに触れて、


「それは…私が青い色が好きだと言ったからですよ。きっと。」


と答えた。


「そうなのか?」

「はい。」


にっこり笑顔を返したに永倉さんもなんとなく納得。


「そういや、オメーの着物そういう色が多いか…。」

「はい、」


青といっても薄い色の方が多いかもしれないが…。
永倉さんがそう言うと、は薄い色も好きだけど、濃い「青」も好きだと答えた。

空や海、自然の綺麗なもの、好きなものの色だからとも。


「ふ〜ん…。」

「花の名前が付いてるものも好きですよ。桜色とか藤色とか…勿忘草色とか…。」

「オメーらしいな。」

「好きなものを連想させる色はやっぱり好きなんだと思います。」


にこにこと楽しそうな様子の
永倉さんは再度、ふ〜んと答え、少し考えると…。


「じゃあ…オメー『黒』も好きなんじゃねぇか?」


とある考えのもと、そう尋ねると、は躊躇いもなく頷いて同意した。


「そうですね、黒も好きです。白も好きですけど。」


おまけのように白も付け足しただったが、
永倉さんには「黒」が好きと言う答えが欲しかったから、
の答えに満足したように笑い、


「それは…好きなものを連想させる色だからか?」


そう言った。


「え?」

「今言っただろう?好きなものを連想させる色が好きだって。」

「え…ええ、まあ…でも…。」


一体何が言いたいのか…?
永倉さんの真意を測りかねるは、不思議そうに首を捻るばかり…。

そんなに、永倉さんはくいくいっと庭の方を指差した。


「?」

「黒を連想させるオメーの好きなもんって言や…やっぱり…」

「………………」


永倉さんの指差す方に、も目を向ける。
何を言いたいのかいまいち理解ができなかったが…。


「………………!!


気づいた途端、は真っ赤になって永倉さんに抗議した。


な、永倉さん!!///

「はははっ、そんな顔するってことはやっぱそうなんだよな?」

「そ、そんなことないです…!!///

「まあまあ、今更隠すなよ♪」

「ほ、ホントに違いますから〜!!///


はすっかり必死になっていたが、
永倉さんは余裕と言う感じで軽く交わしていた。

予想していた反応。
それが返ってきたのでしてやったりと言うか、満足なのだろう。

いつも見ていて、人目にはわかりやすいのに、本人はどうしてこうも自覚が薄いんだろうか…。


「オメーとハジメ似合いだと思うけどなぁ。」

「なっ…!///永倉さ…」

「俺がなんですか…?」


もうの頭がパンク寸前になった時、
庭に居た斎藤さんがやってきて二人に声をかけた。

庭に居た斎藤さんが。

そう、永倉さんがに向けて言った、
黒い色を連想させるもの…と言うのは…。


「ああ、ハジメ。」

「……」

「ま…別に、何でもねぇよ。」

「?」


思わず口をつきそうだったが、に睨まれて永倉さんは口を閉じた。
泣きそうな顔で、涙目で睨みつけられては流石に余計なことは言えない。

斎藤さんはわけがわからないと不思議そうな顔をしていたが、
真っ赤になっているに気づいて声をかけた。


「どうかしたのか??」

「……っ///な、何でもないです…!!///

「あ…、…??」


が、もうすっかり限界。
そんな状態で散々意識した相手に声をかけられ、
絶えられなくなったはバタバタと早足で部屋に戻って行ってしまった。

結局、斎藤さんは最後までわけのわからないままで…、
永倉さんも流石にやり過ぎたかと、ちょっと反省していた。

できれば手助けしてやりたいと思っていた二人だったが、
どうやら思いの他難解で…前途多難であるようだ…と。




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2009.02.01