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(はぁ~まいったな~。)

屯所の入り口近くで原田さんは大きなため息をついていた。





-大切な命-




(新八のせいで俺まで金欠でもうメシ代がねぇじゃねーかよ~。)


ここ数日、少し飲み過ぎで現在ピンチの原田さん。
永倉さんのせいにしてぶつぶつ文句を言っていた。


(誰かに金を借りるしかねぇか?土方さんあたりは…まあ頼むのが無理だし…
 サンナンさんは…今日は出かけていなかったな…平助の奴は……)


なんとか金策を立てようとあれこれ思案していると…。


「原田さん?どうしたんですかそんな所で?」

「!?わ!鬼部…;」


屯所の入り口でウロウロしていた原田さんに愛花は不思議そうな顔で声をかけた。


「べ、別になんでもねぇよ;そ、それより鬼部…」

「なんですか?」

「あ……いや、やっぱ、なんでもねぇ…。」

「?」


一瞬愛花にお金を借りようかと思った原田さんだったが、仮にも 好意を持っている女性に
そんな情けないことを頼むわけにもいかないと思い止まった。

まだここに来て日の浅い彼女だが、大分新選組に馴染んできたようだ。
数少ない女性隊士だし、皆比較的親切で、特に幹部のメンバーは彼女に好意を持っている人物が多い。
近藤さんの友人の妹なので近藤さんと親しく、故に幹部の人達とかかわる機会も多いからだ。

おっとりした一見頼りなさげな雰囲気だが、実力はそこそこ。
おとなしい性格かと思いきや意外と頑固なとこもあって決して弱いわけでもない。
最初はみんなこんな奴が新選組でやっていけるのかと危惧したが、いらぬ心配だったようだ。

とはいえ、普段はやっぱりおっとりした少女でふわっとした優しい雰囲気が癒し系だと人気を誇っている。(笑)


「そ、そういや鬼部。おまえ今暇か?」

「え?ええ、特に用事はないですけど…何か?」

「俺はこれから釣りにでも行こうかと思ってんだけどよ、もしよかったら一緒にどうだ?」


とにかくなんとか誤魔化そうと、金欠の時によくやることを思い付き
愛花を誘ってみた原田さんだったが、言ってから後悔した。


(だ~!俺いきなりなに言ってんだよ!)


突然過ぎるし、興味ないとか言われたらどうしようかと焦る原田さん。
それに前に山崎さんに虫を餌にするから女の子は釣りが嫌いだろうと言われたことを思い出した。
だがもう言ってしまったのだ……。

一人百面相し、慌てまくり、がっかりと肩を落とした原田さんだったが、


「え?私も一緒に行ってもいいんですか?」


と言った愛花の言葉に顔を上げた。
見ると愛花はかなり期待の表情で原田さんを見ている。


「え?あ、ああ。おまえがいいなら…。」

「本当ですか!嬉しい!ありがとうございます、原田さん!」


愛花は本当に嬉しそうににっこり笑ってお礼を言った。
そうこの笑顔も人気の理由。鬼の副長土方さんも落とした笑顔だ(笑)
不意打ちの笑顔に原田さんも真っ赤になって照れた。



***



鬼部、おまえ釣りやったことあんのか?」


目的地に到着し、竿の準備をしながら原田さんが尋ねた。


「ありますよ。兄上が好きでしたから。でも、久しぶりなんでちょっと緊張しますね。」


愛花は釣り竿を川に入れるとそう答えた。


「……って、鬼部。おまえ餌付けねぇのか?」

「え?」


いきなり川に竿を入れた愛花に驚いている原田さんに愛花はちょっと慌てて、


「あ、あ~あの、餌を付けていなくても釣れる時もありますから…;」


と苦笑いした。


「けどよ…;それじゃなかなか釣れねぇと思うぜ。」

「そ、それはそうなんですけど……。」

「……もしかして、おまえ自分で付けれないのか?」


ずばっと言った原田さんに愛花がビクリと反応した。
どうやら図星らしい。焦った愛花はしどろもどろになりながらも弁解した。


「そ、その…いつも気晴らしみたいにやることが多くて、
 その時はいつも餌は付けないんです。餌の虫が可哀相ですし…魚も…。」

「……そんなこと言ってたら釣りなんてできねぇじゃねぇか。」

「そうなんですけど、気晴らしの時は魚を釣るのが目的じゃないんで。
 食事に困って釣った魚を食べる時はちゃんと釣りますけど……。」

「けど、今回のは俺のメシだし……。」

「え?」

「あ…。」


つい自分が食うに困っていることを暴露してしまい
慌てて口を閉じた原田さんだったがしっかり聞かれてしまった。


「原田さんのご飯用だったんですか?」

「あ…えっと………ああ。」


情けないことバラしてしまった…とがっくりしながらも
仕方なく答えると、愛花はにこっと笑って、


「じゃあ、私もがんばって釣らないといけませんね!」


と言った。
自分のメシの種のために連れてきたと思われても仕方ない状況なのに、
怒る訳でもなく、馬鹿にした様子もまったくない。
くったくなく笑う愛花に原田さんはほっとして、同時にやっぱり彼女を好きだと思った。


「あ、あの…原田さん。」


そんなことを思っていると愛花が傍へ寄ってきたので
原田さんは慌ててあとずさった。


「な、なんだ?///

「?」


挙動不振な原田さんの行動に愛花が不思議そうな顔をしたが、


「あ、あの…私やっぱりその…餌に触るのはちょっと……。
 申し訳ないんですけど、原田さん付けてくれませんか?」


申し訳なさそうにそう言った愛花に原田さんは我に返り


「ああ、もちろんいいぜ。」


と言って愛花の竿に餌を付けた。
その後自分の竿にも餌をつけ川に投げ込むと
二人は並んで川辺に腰掛け、魚が釣れるのを待った。



***



「そういや鬼部、おまえいつもは餌付けねぇで釣りをするのか?」


さっきの愛花の行動と言っていたことを不思議に思った原田さんは愛花に尋ねた。


「ええ、……まあ…。」


愛花は苦笑いを返したが川の方へ目を向けると、 ゆっくりした口調で話しはじめた。


「その、釣りと言っても魚を釣る目的でやるわけじゃない時なんです。餌をつけないのは。」

「魚を釣る以外の目的ってなんだよ?」


いまいちよくわからない説明にますます不思議そうな顔をする原田さん。
愛花もなんと言っていいのか考えている様子で、唸っている。


「えっと、ちょっとした気晴らしとか…考え事をする時とかです。
 水面を見ていると気持ちが落ち着くような気がするので……。」

「ふ~ん。」

「それに……」


少し言葉に詰まった愛花は小さい声で、


「やっぱりちょっと魚が可哀相ですから……。」


と言った。


「可哀相ね~。」


なんとなく呟いた原田さんを愛花は複雑な表情で振り返った。


「おかしいですよね。戦いの最中、人を殺めているのにそんなこと言うなんて……。」


苦しそうな表情で、痛むような声で、 そう言った愛花に原田さんはズキッと胸が痛んだ。


「おまえ…本当は戦うの嫌なのか?」

「…………」


おもわずそう言った原田さんに愛花は沈黙したが、すっと息をつき、
ゆっくりと目を開くと真っすぐ前を向いて口を開いた。


「今はそれが必要な時だと言うことは…わかっているつもりです…。
 私も一応覚悟は持っているつもりですし、新選組の生き方を否定するつもりはありません。
 自分の信念と未来を…信じて戦っている方達ですし、立派だって思います。」

「…………」

「今この時代で刀を手にしている人たちは…命の重さと覚悟を背負っていますしね…。」


じっと前に、水面に視線を向けたまま、愛花は坦々と話した。
感情を感じさせないような声なのに何故か心には深くしみ込むような気がして、
原田さんは口を挟むことはできず、じっと愛花の話を聞いていた。


「でも……やっぱり命は尊いもので、失ってしまったらもう戻らなくて……
 きっと誰かが悲しむってわかっているのに、刀を振るっている事が時々すごく恐くなるんです……。」


段々と小さくなっていく声、見ると愛花は小さく震えていた。
泣いているのかと思った原田さんはどうしたものかと焦り、
そっと愛花の肩に手を伸ばした……その時、


あ!魚!魚かかりましたよ!原田さん!!」


愛花は竿をつかむと突然立ち上がった。


え゛!?あ、おう!」


原田さんも慌てて立ち上がると、丁度魚を釣り上げた愛花がにっこり笑って振り向いた。


「やりました!釣れましたよ!原田さん!」

「あ、……ああ、やったな鬼部;」

「はい!」


今まで真面目な話をしていて、泣いていたのかとも思ったのに、
無邪気に魚を釣り上げたことを喜ぶ愛花に少し拍子抜けした原田さんだったが、
魚を放しバケツに入れた愛花は一呼吸おくと真っすぐ原田さんの方を見た。


「それでも…この道で生きていくことを決めたのは自分だから、
 強くならなければいけませんね。心も体も。
 そして、失われた命も奪ってしまった命も、自分の心に…
 いつまでも忘れないで…。その分自分が生きるために…。」


強い決意のこもった目だった。
普段の雰囲気からは想像できないがやっぱり愛花は結構大物だと思った原田さんだった。

じっと黙って返事をしない原田さんに少し焦ったのか、
愛花は急にオロオロと不安そうな顔になった。


「あ、その、偉そうなこと言ってしまいましたが…あの、その…;;」


慌てて何か言おうとしている必死な様子に思わず笑った原田さんだったが、


「あ~、いや、俺も難しいことはよくわかんねぇけどよ、
 おまえの言ってることはなんとなくわかる気がするぜ。」


そう言ってにっと笑った。
原田さんの返事にほっとしたのか、愛花も笑顔になりお礼を言うと、


「じゃあこの魚もちゃんと食べて下さいね。
 この子の命をもらうこと、感謝して。」


と言ってバケツを持ち上げた。


「そうだな。」


『感謝して』その言葉に食事の前、手を合わせるのは今から口にするものへの感謝の印なのかな?
と、愛花の竿に新しい餌を付けながら原田さんはふとそんなことを思った。

どんな小さな命も尊ぶ気持ちはこんな戦乱の中、 戦う者が持っているのはおかしいことで、
甘さに繋がり、 刀を振るうことを躊躇わせる。
欠陥にしかならないかと思っていたが、 愛花の言葉を聞いてそれを強さにつなげることもできるのだと驚き、
同時にそんな想いを持っている愛花を失いたくないと思った…。

命はみんな尊いもので大切なもの…と、たった今言った彼女。
だが戦いの最中その考えが刀を鈍らせ、相手を傷つけることを躊躇い
自身が傷つくことにならないかとやはり懸念は残る。

強い口調で語った彼女。覚悟はできてる。だが、この優しさ故に……。
少しの不安が心に過ったが、すぐ自身の決意がそれを打ち消した。

(だったら、こいつのことは俺が守ればいいだけのこと……。絶対死なせねぇ!)

目の前にいる少女を見つめ堅く決意した。
自分にとっての大切な命…それはこの…優しい少女。
原田さんは心の中でそう呟いた。



***おまけ

「沢山釣れましたね~。」


帰り道、愛花は嬉しそうに言った。


「そうだな!」


あれから二人がんばって、今回はかなり大漁だった。


「あ、あのよ~鬼部…。」

「なんですか?」


ちょっとためらいがちに口を開く原田さんを愛花が不思議そうに見上げると、


「釣りに付き合わせたうえにこんなこと頼むの、わりぃかもしんねぇけどよ……
 その…できればでいいんだがよ、おまえが何か作ってくれねぇか?これで…。」


原田さんはそう言ってバケツの魚を指差した。


「いいですよ。」

「本当か!?」


あっさり返事した愛花に原田さんが驚いた顔をしたので、
愛花は慌てて、


「あ、あの、でも、そんな大層なものは作れませんし…原田さんのお口に合うか…。」

「いや!おまえが作ってくれるなら何だって食うぜ!」

「そ、そうですか?が、がんばります…;」


愛花は苦笑いしたが、作ることは了解してくれた。
一緒に釣りに行って、その上愛花の手料理も食べられるなんて、
金欠だけど今日は最高の日だと原田さんが浮かれていると……。


「よお、左之。オメー鬼部と二人でどこ行ってたんだよ?」


いきなり背後からガシッと肩を掴まれた。


「げ!?新八」

「や、愛花さん。おかえりv

「あ、永倉さん、藤堂さん。ただいま帰りました。」


藤堂さんもやってきて、愛花はにっこり挨拶したが、
二人の異様なオーラに原田さんはビビリ気味だ。


「どこに行ってたの?」

「魚釣りです。原田さんのご飯用の。」

「へ~、結構大漁じゃねぇか!」

「そうなんですよ!」

「で、この魚どうするの?」

「今から何か作ります。」

「オメーがか?」

「はい。」


愛花の返事を聞いて二人はフッと原田さんの方を見たが、愛花に視線を戻すと、


「俺らも食ってもいいよな!」

「こんな大漁だしね!」


と笑顔で言った。
二人の言葉に原田さんが驚いていると愛花は、


「もちろん、いいですよ。」


とあっさり返事した。


「こんなに沢山ですからね、せっかくですし。ね?原田さん!」


にこっと笑顔で振り向かれ原田さんは、


「あ、ああ……そだな。」


と答えるしかなかった。
ガックリしている原田さんとは逆に永倉さんと藤堂さんは ぐっとガッツポーズをした。




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2006.10.27