「おお!凄い立派なのになったのう!」

「あ、才谷さん。」





- Merry Christmas!-




いつも通り屯所に遊びにやってきた才谷さん。
庭の飾り付けされた木を見て嬉しそうに笑った。

今日は俗に言うクリスマス。

外国の行事だが、才谷さんの発案と話で、
新撰組屯所でも少し盛り上げることになった。

そして、ツリーに見立て、庭にあった木を飾りつけたのだ。


「いざやり始めると、楽しかったみたいで、
 皆さん熱心に飾を作っていたんですよ。」


庭のツリーに感心している才谷さんには笑って答えた。

忙しい土方さんなどは最初は反対していたのだが、
皆の希望や近藤さん、山南さんの説得もあって最後は了解し、
いざ作業に取り掛かると真面目な性格故か、随分熱心だった。

そんなツリーが完成するまでの話をから聞いて、
才谷さんはますます嬉しそうな顔をした。


「そうじゃか〜、それはわしも話をしたかいがあるぜよ!」

「はい、ありがとうございます。」


満面の笑顔で満足そうな才谷さんに、
も笑って御礼を言った。

それからしばらく話は続いていたのだが、
の話が一区切りすると、才谷さんがおずおずと尋ねた。


「…それで…時に、さん。」

「はい?」

「ちと気になったんじゃが…」


ちらりとツリーに目を向けた才谷さんは、
何だか妙に多い飾りに手を伸ばすと、それを取って眺め、
苦笑いするとにそれを見せた。


これ…なんじゃか?」

「ああ…それですか。」


その飾は、飾り…と言うか『紙』で、何事か書いてある。
苦笑いしている才谷さんだが、は笑顔で、


「新選組の皆さんの願い事です。」


と答えた。


「願い…事…?」

「はい。」


思わず言葉に詰まる才谷さん。
それではまるで…。


「…七夕みたいじゃき;」

「ええ、そうですよね。」


思わず口をついてしまい、才谷さんは少し慌てたが、
は気にした風もなく、事も無げに同意した。

何でも、クリスマスに贈り物をもらえるのは子供だけ。
と、伝えた才谷さんの話に不満だと思った永倉さんと原田さんが、
それならせめて…と書いたものらしい。

それが、まあせっかくだから…と、いつの間にか皆に伝わって、
これだけの量になったとか。

実際飾りよりも願い事の短冊(?)の方が多い気さえする。
短冊が色とりどりなので十分飾りの役割も担っているが…。


「やっぱり皆欲しいものや願い事があるんですね。」


才谷さんは苦笑いしていたが、は楽しそうに笑っていった。


「はぁ…まあ…日本らしくていいじゃか…。」

「ええ、良いと思いますよ。」


ちょっぴり呆れていたような才谷さんだったが、
終始楽しそうなに釣られて、なんとなく笑った。

まあ…皆が楽しんでいるのなら良いのかもしれない…と。
それに、


「それに、鈴花さんも書いていましたし。」


がふとそんなことを言うと、才谷さんの目の色が変わった。


「まこつじゃか!?」

「はい。…気になりますか?」


解りやすくムキになる才谷さんに、は微笑ましく思いながら尋ねた。
やはり好きな子の願い事、欲しいものは男としては気になるものなのか…。


「あ…まあ…それは…気になるき…;」


尋ねられ、少し躊躇いつつも素直に頷く才谷さん。
はそれを聞くと悪戯っぽく笑って、才谷さんに向けていた視線をツリーに移した。

そして…


「これは…独り言ですけど…。」

「へ?」

「確か…鈴花さんは橙色の紙に願い事を書いていたような気が…。」


あくまで才谷さんに向けているわけではない、
と言うように、そっぽを向いたままはそんな事を言った。

の意図に気づいた才谷さんは自然とツリーに目を向け、
言われたとおり、橙色の短冊を探す。

橙色と言われても、数が多いが…


「一つは私も見せてもらったんですけど、もう一つは秘密だって言われました。
 きっと…大切な人に宛てた願い事だったのかもしれませんね。
 見つからないように下の方につけるって言っていましたけど…。」


背を向けたまま続いたの言葉に、目的の短冊を見つけることができた。
盗み見するのは気が引けたが…。

幸い、は背を向けていてくれている。
才谷さんが見るのは暗黙してくれるつもりのようだ。


「かたじけないき、さん!」


才谷さんはにお礼を言って、鈴花さんの短冊を開いた。
と、同時にちらりと振り返ったの目に映ったのは、思わず笑みを零した才谷さんだった。

どうやら鈴花さんの願い事は、才谷さんが喜ぶようなものだった様子…。
その笑顔に、も嬉しそうに笑った。


「すまんき、さん。」

「なんのことですか。」

「いや、さんも中々の策士じゃきね。」


鈴花さんが巡察から帰って来たとの報告を受けて、
その場を離れようとした才谷さんは、の返事を聞いて思わず感心したように笑った。


***


「鈴花さ〜んvv

「あ、梅さん来ていたんですか!」


と別れて鈴花さんの元へ行くと、才谷さんはいつも通り、
愛情たっぷりに名前を呼び、鈴花さんも嬉しそうな笑顔を返した…が、


「会いたかったぜよ!鈴花さん!」

「……!」


調子に乗って抱きつき、更にキスまでしようとして、
流石に怒られ、殴られた


「っ〜!!…相変らずぜよ…鈴花さん…;;」

「それは私の台詞です!!」


鈴花さんは真っ赤になって怒鳴ったが、
さっきのツリーの願い事のこともあるし、いつもの照れ隠しに過ぎないとわかっていたので、
才谷さんは改めて鈴花さんを抱きしめた。


「……どうしたんですか…?」

「ん、別にどうもせんがじゃ。」

「そうですか?」

「鈴花さんと一緒にいられて…幸せに浸っとうだけぜよ

「…もう…///


何だかんだ言っても仲の良い二人。

せっかくのクリスマス。
恋人同士が共に過ごす日、だと言うことを鈴花さんに伝えた
才谷さんは二人でツリーとして飾りつけた木の所へやってきた。


「さっきさんに聞いたんじゃか、皆願い事を吊るしとうらしいのう。」

「ええ、そうなんですよ。」

「鈴花さんはわしんこつを願ってくれたんじゃか?」

「…知りません。」


さっきと話していたことを鈴花さんに話し、
真相もわかっていることだが、つい尋ねた才谷さんに鈴花さんは冷たい返事。
それでも、本当のことは知っている、才谷さんは上機嫌だった。


「わしなら当然鈴花さんのことを書くぜよ

「…ありがとうございます…///


そして自分の言葉に照れてくれる鈴花さん。
口では言わなくても、想ってくれているのは明白だった。

そんな幸せ気分に浸っていた才谷さんだったが、
ふと、なんとなく思いついたことがあった。


「…そういえば…」

「はい?」

さんはどんなことを書いたんじゃか?」


さっきまで話をしていて、自分の願いに協力してくれた彼女。
この新撰組内で、鈴花さん以外の唯一の女性であるから、
好意を持っている隊士も多いが、今のところこれといった相手はいない。

せっかくのクリスマス。
できれば彼女も、誰か好きな人と共に幸せな時間を過ごしてくれていたら…。
いつもお世話になっている友人として、才谷さんはのことも気になった。

短冊の願い事。も鈴花さんと同じ女の子。
好きな人のことを書いているんだったら…。


「ああ、私も気になったんですけどね。」


才谷さんの言葉に、鈴花さんは近くにあった水色の短冊を手に取った。
どうやら鈴花さんもの短冊がどれかは知っていた様子。
きっと二人は相談して、一緒につけたのかも。

鈴花さんは手に取った短冊を見ると、苦笑いした。


「もうちょっと…自分のことを書いたら良いって言ったんですけどね。」


そしてそのまま、鈴花さんはその短冊を才谷さんに見せた。
そこには…

『新選組の皆が健康で、無事でありますように。 


「……さんらしいぜよ。」

「私もそう思いますけどね。」


苦笑いしたままの鈴花さんに才谷さんも同じように笑う。
彼女らしいとは思うのだが…確かに、鈴花さんの言葉に同意せざる得ない。


さんは好きな人はおらんがじゃ?」

「私もそう言って、その人と仲良く…みたいに書いたらどうかって言ったんですけどね。
 さん赤くなって笑って誤魔化しただけだったんですよ。」

「赤くなったちゅうことは…おらんわけではないちゅんじゃか?」

「どうでしょう…?」

「他にもあるか探してみるぜよ。」

「あ!ちょっと梅さん!」


の願いに納得できないのか、才谷さんは片っ端から短冊を調べ出した。
流石にそれは…と思った、鈴花さんだったが、


「見つけたぜよ!」

「え!?本当ですか!?」


素早い才谷さんは鈴花さんが止める前に目的の短冊を見つけ出した。
才谷さんが掴んでいるのは青い色の結んである短冊。


「…それ…さんのなんですか?」

「ここにちょっと見えとう字がさんの字ぜよ。」

「…ああ…。」


いそいそと短冊を開く才谷さん。
止めるべきかと思った鈴花さんだったが、やはり気になる気持ちは同じ。
結局一緒になって見てしまった。


「………」

「………」


が、残念なことに…


「何だかこれじゃあまりさっきのと変わらないような…。」

「…さんはつくづく無欲じゃき…。」


短冊に書いてあったのは、


『皆の願い事か叶いますように』


そんな願いだった。


「あ、でも!」


と、そこで何かに気づく鈴花さん。
才谷さんから短冊を奪い取ると裏返した。

そこにも願い事が書いてある。


「………う〜ん…;」

「…今はまださんは恋愛する気はないんですかね…。」


ただ、それを見て二人は苦笑いで顔を見合わせるしかなかった。
まだまだ決着はつきそうにないのか…。


「もう諦めるべきなんじゃかね…皆は…。」

「そんなこと言わないで何とかして下さいよ!」


短冊の裏に書いてあったの願い事は…。


『兄上が無事でありますように』


今年のクリスマス、結局甘い時を過ごしたのは、鈴花さんと才谷さんだけでした…。




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2009.12.25