-ホワイトデーは君と-




「ほわいとでー…じゃか?」


近藤さんとの会話中、梅さんがそう尋ねた。


「うん…って何なんだい?」


と言っても、先に尋ねたのは近藤さんの方だったのだが。
ことの始めはこの文…。


『 勇へ

  この度三月の十四日目「ほわいとでー」に当たる日だが、
  残念ながら俺は任務でそっちへは行けなくなった。
  ついては前日に同封した文と包みをに渡してほしい。
  よろしく頼むぜ!勇!
                                      』


「ほ〜、さんの兄上からの文じゃか?」

「ああ、そうなんだけど…」


近藤さんが『ほわいとでー』を知ったのはこの文故。
今し方届いた物で、目を通し終わった所だった。

文の文面、そして『ほわいとでー』と言う名前の響きから、
ふと思いついたのはこの前の『ばれんたいんでー』。
何か関係があるのかと思っていた所に丁度よく梅さんがやって来たので尋ねた。

梅さんもの文に目を通すと、『ほわいとでー』について近藤さんに説明した。


「『ほわいとでー』ちゅうんは、『ばれんたいん』のお返しにあたる日ぜよ。
 『ばれんたいん』に贈り物をされた女子にお返しして、告白の返事をしたりする日じゃき。」

「へ〜そんな日があるんだ?」


近藤さんは感心したようにそう呟くと、少し考え、


「だったら俺たちも、くんや桜庭くんにお返しをするべきなのかな?」


と首を捻った。


「う〜ん。そうじゃね〜。」


梅さんは複雑な表情で唸っている。


「まあ、お返しは必ずする必要はないぜよ。義理ちょこにはお返しせん人もおるせのう。
 好いとう相手じゃないんじゃったらわざとお返しせんで、それを返事とするんも手じゃき。」


梅さんは仕入れてきた話を思い出しながらぶつぶつと話した。
近藤さんもそれを聞いて少し考えていたが、


「…それはつまり好意的な相手にはお返しした方が良いってことだよね?」


と、梅さんの話を総合した結論を口にした。


「…まあ、そうじゃが…」


梅さんは大きく頷き同意しつつも少し複雑な表情をして、


「けど…鈴花さんにはわしがしっかりお返しするき、
 近藤さんたちは気にせんで良いぜよ…。」


と言った。少し躊躇いつつもそう言った梅さんに近藤さんは笑った。
梅さんが何故かお返しについて否定的だったのはこのためのようだ。


「才谷くん、心配しなくても桜庭くんのことはちゃんとみんなわかってるから。」


クククッとまだ笑いを堪えつつ近藤さんは必死に言った。


「そ、そんなら良いんじゃが…///しかしまあ…問題はさんじゃな…;」

「そうだね…;」


梅さんは少し照れたように赤くなったが、誤魔化すように話をすり替え、
そんな梅さんの言葉に近藤さんは苦笑いして返事した。

梅さんと鈴花さんの仲は新撰組内ではすっかり公認。
有名なおしどり夫婦状態なので、問題はない。むしろ問題なのは…もう一人…。

バレンタインも彼女の本命が誰かとすっかり騒ぎになってしまった。
幸い(?)今回は決着は着かず、彼女の兄の出現もあって曖昧なまま終ってしまった。
だか、今度は男性陣からとなると話は別。みんな何とか差をつけたいと思うだろう…。

まだホワイトデーのことはみんなには言っていないのだが、
正直近藤さんは言うべきか迷っていた…。


「才谷君…。」

「なんじゃき?近藤さん?」

「ほわいとでーのこと、誰かに話したかい?」

「いや、まだぜよ。今近藤さんに言われるまでわしも忘れとったぜよ。」

「そうか…皆には…教えるべきだと思う?」

「う〜ん;」


近藤さんの言葉に梅さんも唸った。


「やっぱり…ややこしいことになりそうじゃか?」


梅さんは苦笑いして尋ね、それを受け近藤さんも苦笑いした。


「そうだね…それにあまり大袈裟にやると…君、気を使うと思うんだよ。」

「そうじゃろうな。恐縮させるのは可哀想じゃが…ほわいとでーのことを知ったら
 みんなせっかくの機会じゃちゅーてお返しに気合入れるに違いないぜよ。」

「そうだろうね…どうしようか…本当に…;」

「「う〜ん…;」」


二人は顔を合わせて唸るしかなかった。



***



結局ホワイトデーのことは特に触れないまま十三日になった。
近藤さんは迷いに迷っていたがこうなったら、と鈴花さん二人へ幹部一同から、
という事にしてお返しでも…と、考えていた。

まあ、それはともかくとして、一先ずから預かった文と贈り物をに渡すことにした。


「あ、君!」

「近藤さん、おはようございます。」

「おはよう、これから預かったんだ。君に渡して欲しいって。」

「兄上ですか?」

「そうそう。それじゃ、渡したから。」


近藤さんはに文と包みを渡すとそそくさと部屋に戻って行った。


「兄上?…一体なんでしょう?どうしてわざわざ近藤さんに…?」


は不思議に思いつつ文を開けた。


『 

  元気にしているか?
  今回は俺はそっちへ行けないので勇に文を預けたが、
  お前に直接送らなかったのは前日に渡して驚かそうと思ったからだ。
  ついては同封している包みを見てもらえばわかるが、これは…
                                           』


。」

「!…あ、斎藤さん。」


名前を呼ばれて驚いて顔をあげると、斎藤さんがすぐ傍に立っていた。


「どうした?こんな所で。」


廊下に立ち尽くして文を読んでいたからか、
斎藤さんは怪訝そうな顔で尋ねた。


「あ…すみません通行の邪魔ですね。」

「いや、そう言うわけではないが……文か?」

「あ、はい、兄上からです。」

「……そうか。」


斎藤さんは何故か少しほっとしたような顔をした。
は文にもう一度目をやり、少し考えるような素振りをした後斎藤さんに話し掛けた。


「あの…斎藤さんは舞とかに興味ありますか?」

「ん?…何といった?」

「あ、えっと、『舞』です。舞。」

「いや…特には…。舞がどうかしたのか?」

「兄上が、文に舞の舞台のことを…
 それで案内を同封してくれていて、明日行ってみようかと思ったんですけど…。」


斎藤さんが特に興味はないと返事したので、
は少し躊躇いがちに言ったが、斎藤さんは、


「それなら俺が同行しよう。」


と即答した。


「へ?良いんですか?」

「ああ、構わない。」

「で、でも斎藤さん…あまり興味はないのでは…?」

「…いや、……たまには…悪くない」

「そ、そうですか?」


さっきと打って変わって何故か乗り気の斎藤さんに、
は不思議そうな顔をしたが、


「えっと…じゃあ一緒に行きましょうね?」


笑ってそう言い、


「…ああ」


斎藤さんも優しく笑った。



***



翌日。


「おはよう、桜庭くん。」

「あ、近藤さん!おはようございます。」

「桜庭くん。今日は才谷君とでーとかい?」

「なっ!///べ、別にそんな…」

「ははは、そんな照れなくていいよ。」

「照れてません!」

「ところで…君は?」

さんなら朝早くから出かけたみたいですよ?斎藤さんと二人で。」

「え!?斎藤君と二人で!?」


鈴花さんの言葉に近藤さんが驚いて思わず声を上げると、
鈴花さんもびっくりしたように返事した。


「な、なんですか?斎藤さんと二人だと何か悪いんですか?」

「い、いや…そういうわけじゃないけど…;」


思わず叫んでしまった近藤さん。
慌てて誤魔化すと鈴花さんを見送った。


「……そう…斎藤君と二人でね…;
 今日の『ほわいとでー』のこと…みんなにまだ言っていなくてよかったな…;」


お返しの日に肝心のがいなくて、しかも斎藤さんと二人きりで出かけたとなると…
大事に至らずに済んだのかと…近藤さんはほっと胸を撫で下ろした。



***



、こっちだ。」

「あ、はい…すみません;よかったです…斎藤さんが一緒に来てくれて…」

「ふっ、全くだな。さんがこんなにもわかりやすい地図を用意してくれているのにどうして迷うんだ?」


の持っているのお手製の地図を覗き込んで斎藤さんは笑った。
の地図は非常にわかりやすい。
絵や文字もあって小さい子供でもわかるのではと思う程。
それなのには何故かふらふらと間違った方へ歩いていく。


「す、すみません…///


斎藤さんの指摘には赤くなって謝った。
そんなを斎藤さんは優しい表情で見つめると地図を受け取り、
の手を取ると歩きだした。


「道は俺が見るから、お前は手を離すな。…必ず連れていく。」


斎藤さんの言葉に少し驚き、少し赤くなっただったが嬉しそうに笑うと元気よく返事した。



***



「凄かったですね!」


舞の舞台を見終わった帰り道、舞台を出てすぐに、
は満面の笑顔でそう斎藤さんに話し掛けた。


「…ああ」


斎藤さんもの満足そうな様子に嬉しそうに笑った。


「兄上が結構舞が好きで、昔はよく見に行っていたんですが、久しぶりに見てもやっぱり綺麗です!」

「そうなのか?」

「はい!兄上は、兄上もとても舞が上手なんですよ。」


にっこりと誇らしげに言ったに、
斎藤さんはほうっと感心した表情をした。


「芸達者だな…彼は…。」

「ええ、結構なんでもできるような気がしますね…兄上。」


少し空に目線をやって思案したがまたふっと笑った。
本当に仲の良い兄妹だなと斎藤さんは微笑ましく思い、ふと思いついたように口を開いた。


。」

「なんですか?」

さんが舞が得意だと言うのなら、お前も舞えるのか?」

「……え;」


斎藤さんの言葉に一瞬怯むような顔をしただったが、苦笑いして頷いた。


「す…少し…なら…、兄上の足元にも及ばない実力ですが…;」

「…それは見てみたいな。」


の返事を聞いて、斎藤さんはそれは嬉しそうな顔をした。
そんな笑顔には赤くなったが、斎藤さんは気付いていないのかさらに言葉を続けた。


「お前の舞ならさぞ美しいだろう、さっきの舞手にも負けはしまい…。」

「ええ!?そ、そんな;とんでもないですよ!」


はますます赤くなりぶんぶんと首を振って恐縮しきりだ。


「さっきの方達は本職の方ですよ。にわか仕込みの私の舞なんてとても…;」

「そんなこともないだろう…。少なくとも俺はさっきの舞手の舞よりもお前の舞を見たいと思う。」

「……っ///


顔色一つ変えずそんなことを言う斎藤さんに、
は真っ赤になって言葉に詰まってしまった。
斎藤さんはそっとの手を握ると、


「……どうだ?いつかお前の舞を見せてくれないか?…できるなら…俺だけに…。」


そう低く呟いた。


//////


は真っ赤になり混乱気味だったが、


「……はい。」


小さい声で返事した。
斎藤さんはそれでも聞き逃すこともなく、嬉しそう笑った。


「そうか…ありがとう。いつか、必ず。」



***



「あ!君!よかった帰ってきたんだね!」


屯所に戻ると何故か近藤さんが大慌てで出迎えた。


「え?あ、近藤さん。ただいま戻りました。…どうかしたんですか?」


近藤さんの慌てる様子にと斎藤さんは首を傾げて顔を見合わせた。


「いや〜今日はみんなで花見をしようと思っていたんだけど、
 二人がいなかったからね。帰りが遅かったらどうしようかと思っていたんだ。」


近藤さんは苦笑いしてそう言った。


「あ、そうだったんですか。すみません知らなくて…準備とか…お手伝いできませんで。」


恐縮したようにそう言って頭を下げたの頭を撫でると近藤さんは笑顔で言った。


「いや、いいんだよ。今日の主賓は君と桜庭君だから、準備は男連中でやったよ。」

「え?」

「今日は『ほわいとでー』っての文に書いてなかったかい?
 この前の『ばれんたいんでー』のお返しにあたる日なんだよ。」


近藤さんはにっこり笑ってそう言った。


「だからみんなで準備したんだ。
 まあ、斎藤君はいなかったけど…君を案内してくれたら良いことにしよう…
 悪いけど、二人はここに書いているお酒を買って、この場所へ行ってくれるかい?
 みんなは先に行ってるから…。」

「わかりました…。」


近藤さんが差し出した紙を受け取って斎藤さんは頷いた。


「俺はもうちょっとしてから行くし、
 桜庭君と才谷君もそこに向かっているはずだから。じゃ、頼むね〜♪」


近藤さんは二人を笑顔で見送ると、ホッとため息を吐いた。


「……これなら、君と斎藤君が二人で出かけていたってばれないでしょう…;」



***



「今日、そんな日だったんですね。」

「『ほわいとでー』と言ったか…。」

「皆さんにお渡ししたのが、逆に気を遣わせてしまっみたいですね…。」

「気にするな、皆喜んでいたのだから…。しかし、お返しか…。」


二人はそんな話をしながら買い物を済ませ、目的地へ向かった。
指定の場所へは斎藤さんが案内してくれたので、迷う事無く到着した。


「おう!ハジメ!!やっと来たのか!」

「二人とも遅いよ〜。」


お花見の準備をしていた永倉さんと藤堂さんは二人に気付くと駆け寄ってきた。


「あ、すみません。遅くなってしまって、でもちゃんとお酒も買ってきましたから。」


はぺこりと頭をさげるとにっこり笑ってお酒を見せた。
そんなに永倉さんと藤堂さんは苦笑いしたが、お酒を受け取って二人に席を勧めた。


「あ〜あ、オレもさんを案内したかったのに…。」


むくれたようにそう言って斎藤さんを恨めしい目で見た藤堂さんだったが、
斎藤さんはそ知らぬ顔で準備を手伝っていた。
そうこうしている間に鈴花さんと梅さんも到着し、 近藤さんも土方さん、山南さんと料理を持ってやってきた。


「やあ、みんな集まったかい?じゃあいっちょ盛り上げようか!」

「「お〜!!」」



***



ホワイトデーのお返しと銘打って行われたお花見。
一応、と鈴花さんが主賓と言われていたが、何分お酒の好きな新選組の面々、
ホワイトデーのことも忘れ、すっかり盛り上がっていた。


「おら!もっと飲め、左之!」

「飲酒のしすぎは体調に悪影響を…」

「左之さんもう酔ってるよ!」

「まったく…騒がしい連中だな…。」

「良いじゃないか、土方くん皆楽しそうだし。」

「そうですよ!ほら土方さんも!」

「おい;総司入れすぎだ…;」

「ささ、勇ちゃんも飲んで飲んで!」

「ああ、ありがとう。山崎。」

「鈴花さ〜ん!愛してるぜよ〜vV

「きゃー!!大声で何ですか///梅さん飲み過ぎですよ!」


すっかりにぎやかな面々、お酒の飲めない鈴花さんと以外は
みんなすっかり出来上がってしまい、大騒ぎである。


「……ふふっ。」


はそんな皆を少し離れた場所から微笑ましく眺めていた。


…。」

「あ、斎藤さん。どうしたんですか?斎藤さんは飲まないんですか?」


そんなに声をかけてきたのは斎藤さんだった。
不思議そうに尋ねるに、斎藤さんは少し考えるとの手を取って、


「いや…お前に渡したい物があるんだが…。少しこっちへ来てくれないか?」


と言った。


「え?渡したい物?」


ますます不思議そうな顔をするだったが、
斎藤さんは、そのままみんなから少し離れたところに連れて行き、
そして懐から何か取出しの手に握らせた。


「…これは?」

「近藤さんの言っていた『ほわいとでー』のお返しだ。」

「え?でも…。」

「俺は結局花見の準備を殆ど手伝っていないからな…、
 それにお前にはちゃんと礼をしたい。……受け取ってくれるか?」


真剣な表情で真っすぐそう言った斎藤さんには小さく笑うと笑顔を返した。


「はい!ありがとうございます!斎藤さん!」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ…。」


二人とも嬉しそうに顔を見合わせた。
今年はみんなに贈って、みんなでお返しを…。
大切な仲間たちへ、大切な仲間たちから。

でも来年は自分だけに、そして特別な気持ちを込めて、
そんな細やかな期待と共に、斎藤さんはにお返しを手渡した。




おまけ***


『 兄上へ

  お返しありがとうございました。舞を見には斎藤さんがご一緒してくれました。
  斎藤さんは私の舞を見たいと言ってくれて、少しびっくりしましたけど、嬉しかったです。
  いつかお見せできるようにまた兄上に舞を教えてもらいたいです。
  今度来る時はぜひ兄上の舞を斎藤さんに見せてあげてくださいね!
                                                  』


「………あ〜、やっぱ斎藤君とだったか…。少し複雑だな…;」


からの文を読んでは苦笑いした。


「微妙に予想はしてたけど…兄ちゃん寂しいぜ…。」


ぽつりと愚痴を盛らした兄上でした。




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2007.03.14