ゲームセンターに入ると、入り口付近の休憩所(?) の所で、山南さんと土方さんが話をしていた。 -White Day-後編 「山南さん、土方君。」 「ああ、君、近藤さん、君。」 が声をかけると、二人は顔を上げた。 が、どうも疲れている様子だ。特に土方さんは顔色も悪いような…。 「どうした?トシ?」 「いや…別に…。」 近藤さんが心配そうに声をかけたが、覇気がない。 山南さんは苦笑いすると、代わりに答えた。 「どうやら沖田君に随分連れまわされたみたいでね。」 「総司に?」 「大分お疲れのようだよ。」 「お化け屋敷が怖かったのか?」 「そんなんじゃない…;」 「大丈夫ですか?土方さん?」 「ああ…」 「私も大分疲れてしまってね、少し休ませてもらってるんだよ。 他の皆はまだ遊んでるんだけど…皆、元気で良いね。」 「皆来たのかい?」 「ああ、君達が最後だよ。 皆遊んでると思うから、見てきたらどうだい?」 「そうだな。」 山南さんに進められてと近藤さんは奥に入っていった。 も後をついていこうとしたが、 「あ、君。」 「はい?」 山南さんに呼び止められた。 山南さんは振り返るとにっこり笑って耳打ちした。 「斎藤君が君の事を探していたよ。 渡したいものがあるって言っていたから。」 はそれを聞いて嬉しそうに笑うと、 二人に頭を下げ、たちの後を追って奥に入って行った。 「。」 「あ、お兄ちゃん。何ですか?」 「これ、」 「?」 奥へ入っていくと、がを呼び止めた。 そして、UFOキャッチャーの一つの中を指差した。 中を覗き込むと、そこには可愛らしいうさぎのぬいぐるみ。 「あ、あのうさぎ…。」 「お前欲しいって言ってた奴だよな。」 凄く可愛くて気に入っていて、欲しいと前に話したことがある。 はそれを覚えていてくれたらしい。 「はい。」 UFOキャッチャーの景品としてしか存在していないから、 欲しくても手に入らないとも。 「そっか。」 が頷いたのを見て、は迷うことなく そのUFOキャッチャーにお金を入れた。 「取れるんですか?」 「まあ、やってみないとわからないけど。」 「うん…。」 慣れた手つきで操作する。 はじっとクレーンの動きを見つめていた。 クレーンは上手くぬいぐるみを掴んだかと思われたが、 残念ながら入り口付近で落ちてしまった。 「…あっ…」 思わず声を上げたには笑うと、 大丈夫だと言っての頭を撫で、二回目に挑戦。 もう端に来ていたこともあり、二度目は難なくこなし、 見事白いうさぎのぬいぐるみをGETした。 「凄い…!ありがとうございますお兄ちゃん!」 「いや、」 無事取れたぬいぐるみをに渡すと、 はそれを抱きしめ嬉しそうにお礼を言った。 「向こうでUFOキャッチャーが上手い友達がいて、コツを教えてもらったんだ。 お前が言ってたこれを取れるように練習もしていしたしな。」 「そうなんですか……わざわざ…。」 「お前のその顔が見られれば十分だよ。」 「はい、凄く嬉しいです!」 本当に嬉しそうに笑う最愛の妹に、 も幸せそうに笑った。 「!」 そこへ慌てたようすで名を呼んで走ってきたのは… 「あ、斎藤先輩!」 斎藤先輩だった。 斎藤先輩はやっと見つけたと言いたげな表情で、 が振り返ると、ほっと息をついた。 だが、それはも同じ。 「よかった…。」 思わず呟いたに斎藤先輩もふっと笑う。 「ああ、心配したぞ。」 「すみません。でもお兄ちゃんも近藤さんもいましたから。」 「そうか…。」 だがの返事にまた少し複雑そうな顔をした。 そして、の持っている物に気づくと斎藤先輩の表情が固まった。 「?どうかしました?」 「…それは…?」 「え?あ、これですか? これはお兄ちゃんが取ってくれたんです。」 「そうか…」 「?」 不思議に思い首を傾げるだったが、 斎藤先輩はますます表情が曇る。 そして何かを背中に隠した。 すると様子を見に来た山崎先輩が斎藤先輩の隠したものを ひったくり、の前に突き出した。 「ハジメちゃん!何してんの早く渡しなさい!」 「……!」 「あ…それは…」 「……」 斎藤先輩が隠したもの、山崎先輩が突き出したもの、 それは、の持っているの取ってくれたのと同じうさぎのぬいぐるみ。 ただし、黒いうさぎのぬいるぐみだった。 「ハジメちゃんちゃんのために凄くがんばったのよ。」 「…え?」 驚いて目を丸くしているに山崎先輩が諭すように言った。 「中々上手くいかなくてね。 八っちゃんや平ちゃんにアドバイス貰いながら。 でも、絶対自分で取るって。ちゃんのために…。」 その時の様子を思い浮かべているのか、苦笑いする山崎先輩。 そういえば、このうさぎのことは斎藤先輩にも話していたかもしれないと、 は思い出し、斎藤先輩を見た。 斎藤先輩もまた、が欲しがっていたこと覚えていてくれたのだ。 「斎藤先輩…。」 「二つあっても邪魔なだけだから…」 だが斎藤先輩は複雑そうな顔でそう言った。 苦労して取ったものだが、が既に持っていたのを見て焦ったのだろう。 「そんなことないです!」 それに慌てたのはで、山崎先輩からぬいぐるみを受け取ると、 斎藤先輩に向き直り、必死に言葉を並べた。 「斎藤先輩がわざわざ…私のためにとってくれたなんて…。 前に言ったこと覚えていて下さったんですね…凄く…嬉しいです。」 「そうだよ、斎藤君。それに同じじゃないよ。 色違いだろ?2種類、揃ったじゃないか。なあ、。」 「はい!」 もまたそう言って斎藤先輩に笑顔を見せた。 少し複雑そうにしていた斎藤先輩だったが、 二人の言葉に少し納得が言ったのか、微かに表情が戻った。 「……ありがとうございます…斎藤先輩…。」 「いや…お前が喜んでくれるなら…よかった…。」 そして、がお礼を言うと、ほっとしたように笑ってくれた。 に先を越されてしまったが、斎藤先輩からの贈り物。 が喜ばないはずはない。 二人の様子を見て、山崎先輩はほっと安堵の息を漏らした。 *** その後、各々ゲームセンターで盛り上がり、 夕刻まで、思う存分遊びまくった。 そして、また留学先へ戻るを再び皆で空港へ送る。 「一日あっという間だったね。」 「まあ…仕方ないよ。」 結局自宅へ足を運ぶ暇もなく、 慌しい里帰りになってしまったが、は満足そうだった。 「今日は一日ありがとな。楽しかったよ。」 「いえ、僕らも楽しかったですよ。」 「さん、留学先でもがんばって下さいね。」 「また連絡待っちゅうぜよ!」 「身体に気をつけてね。」 「今度は外国の話を聞かせてくれよな。」 「ああ、ありがとう。」 皆に見送られ、は爽やかな笑顔を見せると手をあげた。 そして、そのまま皆とは空港の入り口で別れ、 最後、中まで送ったを、は抱きしめ髪に口付け別れを惜しんだ。 またしばらくは会えなくなるのだ。 「お兄ちゃん…。」 「またな、。連絡は…必ずするから。」 「…はい。」 寂しそうな顔をしていたも、最後には笑顔を見せた。 がゲートに入ろうとした時、引き止めるような声がした。 「さん!」 駆け寄ってきたのは斎藤先輩。 斎藤先輩はに一瞬目配せし、に向き直ると、 口を開きかけたが、その前にが斎藤先輩に何事か耳打ちした。 「…!」 「じゃあな、斎藤君も元気で。」 はそれだけ言うとすぐ、行ってしまった。 結局斎藤先輩は特に何も言わないまま…。 「斎藤先輩…?」 「………いや、帰ろう。送る。」 「…あ、はい…。」 の背中を少し複雑な表情で眺めていたが、 斎藤先輩はの手を取るとそのまま空港を後にした。 *** 「ありがとうございました、斎藤先輩。」 「いや…。」 その後、斎藤先輩はを家まで送ってくれた。 皆それぞれ帰宅し、も送った後なのでやっと二人きりだ。 …と言っても、家に送ったのだからもうお別れだが…。 はここまで送ってくれた斎藤先輩のお礼を言い、嬉しそうに話を続けた。 「お兄ちゃんも凄く楽しそうでしたし、ホントに今日は楽しかったです。」 終始嬉しそうな様子のに、斎藤先輩は少し複雑だった。 仕方ないこととはいえ、今日はあまり一緒にはいられなかったから。 それなのに嬉しそうな。 もちろんそれは、普段会えない兄と共にいられたからなわけだが…。 彼女にとって、自分は兄には及ばない存在なのではないか…。 そんな気持ちが頭を過ぎった。 だが、そんな斎藤先輩の心中を知ってか知らずか、 は、 「…斎藤先輩とあまり一緒にいられなかったのは…残念でしたけど…。」 と言った。 その言葉に斎藤先輩が顔を上げる。 目が合うと、ふっと微笑んだに、斎藤先輩はほっと息を着いた。 決して自分のことも、気にしていないことはないと…。 「また…今度は二人で行こう。」 「はい!」 安心した斎藤先輩がそう返事をすると、も嬉しそうに頷いた。 そして、大事に持っていたあの黒いうさぎを抱きしめた。 「でも、楽しかったです…。それに、この子。 ありがとうございます。大切にしますね、斎藤先輩だと思って。」 もちろん、に貰った白いうさぎも持っている。 2つも、と斎藤先輩は思ったようだがどっちも気に入っているようだ。 「…………」 大事そうに抱きしめられているうさぎのぬいぐるみを見て、 斎藤先輩は少し複雑そうな顔をした。 自分の贈り物を大切にしてくれると言うのはもちろん嬉しいが…。 「…」 「はい?……わっ!さ、斎藤先輩?;」 「それを俺だと思うぐらいなら、本人に同じことをして欲しいんだが…?」 「……え;…///」 斎藤先輩はを抱きしめ、耳元でささやいた。 途端には真っ赤になり、顔を伏せる。 斎藤先輩の言っている意味はわかるが… 相変わらずとんでもない事をさらりと言う。 「あ、あの…;せ、先輩…///」 「何だ?」 「…っ…;は、放して…くれませんか?///」 「何故だ?」 「な、なな何故って…;///」 「嫌なのか?そのぬいぐるみは良くて俺は駄目なのか?俺だと思うと言っただろう?」 「そ、それはそうですけど;そういう意味じゃ; 嫌なわけじゃないですけど…は、恥ずかしいんです…///」 「…………」 必死になって抵抗するを、斎藤先輩はしぶしぶ解放した。 明らかに不満げな表情をしている。 それにも焦ったが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 「あの…斎藤先輩…?;」 それでも、不機嫌そうな斎藤先輩の雰囲気に、 申し訳ないことを言ってしまったのかと慌てたが顔を上げると… 「………」 「………」 「………………………!!!」 「おやすみ…また明日。」 「………///」 斎藤先輩は満足そうな表情でそれだけ言うと、そのまま帰っていき、 はしばらく真っ赤な顔でその場に立ち尽くしていた…。 *** やっとのことで下宿先に帰宅したは、 荷物を床に置き、ベットに横になると、 携帯の着信を見て、リダイヤルを押した。 もう向こうは夜中だろうが…。 「もしもし?」 「あ、。今ついたのか?」 遅い時間にも関わらず、相手はすぐに電話に出て挨拶もなしにそう言った。 からの連絡、待っていたのだろう。 「ああ、どうした?」 もすぐに用件を尋ねた。 まあ、何を言いたいのか大体予想はついているが。 「あ〜…ちょっと言っておきたいことが…」 電話の相手は近藤さん。 まだ言うべきか少し躊躇っている様子だ。 やはり言いにくいのだろう。 それを察して、仕方なくの方が用件を切り出した。 「…と斎藤君のことか?」 一瞬息を呑む近藤さん。 だが肩の荷が下りたのだろう、その後はいつもの様子に戻った。 「…何だ、気づいてたんだ。」 「当たり前だろ。俺がのことで気づかないと思うのか。」 「あはは…そうだね。」 「それで?」 「え?」 「何か言いたそうだけど?」 「いや…;別に何でもないけど…認めたってことか?」 「ま…良いんじゃないか。…お前よりは。」 「……そう;」 「ああ。けど認めたって言うか……」 「ん?」 「斎藤君に最後に言った言葉が本音だよ。」 「え?何か言ったの?何?」 「…内緒。」 「え〜!気になるじゃないか…;」 「まあまあ。こっちの話だよ。」 「ふ〜ん…。」 「けど、ホントまだ完全には認めてないから。手でも出そうものなら…」 「わ、わかってるよ;ちゃんと『健全な』付き合いであるよう見張っとくから;」 「任せたぞ、勇。」 「…了解;」 最後は脅しをかけるように言っては電話を切った。 「…………」 通話状態から切れた携帯の待ち受けを眺め、しばし沈黙…。 何事か考えているようだった。 実際の所、皆の前では融通の聞かない兄を装っているだが、 の気持ち、ずっと前から知っていたので、 二人の関係に気づいたときは正直少しほっとしていた。 もちろん、のことを大切に思っている気持ちも 本当に大きいのだから、寂しいと感じているのも事実だ。 大切な宝物を取られてしまったような感覚。 だが、今は自分の都合でその宝を放置しているのだ。 それを代わりに護ってくれるのなら、彼には感謝するべきだろう。 「ふーっ…。」 少し複雑な気持ちを吐き出すように、は大きくため息をついた。 まあ、一応は認める。その気持ちは事実。 だが、あくまで『一応』…まだ譲れない…。 『今は一応‘預ける’けど、‘譲る’のはまだ先だよ…。』 帰り際、斎藤先輩にが耳打ちしたのはそんな言葉。 これが何より本心。 自分の一番大切なもの、そう簡単には譲れない…。 もうしばらくは預けるだけで…。 はもう一度その言葉を心の中で反芻すると、 にメールを送信し、静かに瞼を閉じた。 『おやすみ、。良い夢を。』 fin 戻る 2008.03.14
ホワイトデー三部作!これでTHE・ENDです!如何でしたでしょうか!
いや〜もう好き勝手暴走して書いてしまった作品なので…土下座するしかありませんorz ラストは兄上かっこよくかけましたでしょうか?(聞くな!) シスコンだと皆思ってる兄上ですが、まあ本当はそこまで酷くないんですよ〜。 と、一応フォローしたつもりです。でもドリ主のことが大事なのは事実です。 と言うか…兄上のシスコンばっかり強調していますが、 ぶっちゃけドリ主もかなりのブラコンですけどね;(汗) …現段階だと多分ドリ主の中では斎藤さんより兄上の方が上かも…(え;) お初で書いた学園パラレルものでしが、好評ならまた続き書いてみようかと思ったりしています♪ よければ感想下さいませ〜!ここまで読んで下さいました方、ありがとうございました! |