丁度屯所に戻って来た時、
何やら上機嫌なを見つけて斎藤さんは声をかけた。





-桜日和-




。」

「あ、斎藤さん!」


気づいて顔を上げたはそれは嬉しそうな顔をしていて、
どうしたのかと尋ねた斎藤さんに桜が咲いていてすごく綺麗だった、
と、嬉しそうに話した。

それなら…と、斎藤さんが口を開こうとした時…。


「一緒にお花見しませんか?」



***



自分が言おうとしたこと、先にに言われ驚いた斎藤さんだったが、
から誘われたのはもちろん嬉しいことで、考えるまもなく返事は決まっていた。
斎藤さんが頷くと、は嬉しそうに笑ったが、


「それなら、皆さんも誘いましょうか?」


と続けるに、斎藤さんは慌てた。

別段特別な意味合いや考えを持っていない、
らしいと言えばらしいが……せっかくなのに。

斎藤さんはなんとかを宥め二人でお花見に行くことになった。



***



「すごい!満開ですね!」

「そうだな…。」

「今が一番良い時だったかもしれませんね!」

「ああ。」


満開の桜を前に大喜びではしゃぎ回るを、
斎藤さんは嬉しそうに眺めていた。

しばらく二人は桜の下を歩いていき、
大きな桜を見つけるとそこで一休みすることにした。


「何を持ってきたんだ?」


腰を落ち着けるといそいそと持っていた手荷物を開ける
に斎藤さんが尋ねると、はにっこり笑って、


「斎藤さんのために良い物を持ってきたんです!」


と、自慢げに答えた。


「俺のため?」

「はい!」


にこにこと何やら自信満々なの様子に斎藤さんは思わず笑ってしまった。
それに、自分のためと言われればやはり嬉しくて、つい頬が緩む。


「はい、これです!」

「……酒?」

「はい。」


意外にもが自信満々に取り出したのはお酒だった。


「酒屋さんのおじさんが下さったんです。お花見するなら良いお酒だそうで!
 私はお酒飲めませんが、新撰組のみなさんはお酒お好きなので是非どうぞと。」

「…そうなのか。」

「はい。斎藤さんお酒お好きですよね?
 私は飲めませんので、おいしいかわからないんですけど、
 酒屋さんの折り紙つきですから、きっとおいしいですよ!さ、どうぞ?」


はそう言うと杯を斎藤さんに手渡しお酒を入れた。


「………」

「?飲まないんですか?」


何故か杯を持ったまま固まっている斎藤さん。
が不思議そうに首を傾げると、斎藤さんは少し躊躇うように口を開いた。


「……いいのか?」

「はい?」

「俺だけ飲んで…。」

「ええ、私お酒飲めませんから。
 その…付き合って上げられなくてすみません。」

「いや、それは構わないんだが…。」

「斎藤さんもいつも甘いものお嫌いなのに、
 私に付き合って下さるじゃないですか、だから気にしないで下さい。」


お酒の飲めない自分を気遣ってくれたのだと思ったは謝ると笑ってそう言った。


「……だがな…。」

「はい?」


何故かまだ飲むのを躊躇う斎藤さん。
「?」を飛ばしながらじっと自分の顔を見ているに苦笑いすると、


「その……もし俺が飲んで酔ってしまったら…今は俺とお前、二人だけなんだぞ?」


と言った。


「大丈夫ですよ!」


そんな斎藤さんの言葉には即答。


「斎藤さんが酔ってしまったら、ちゃんと私が責任を持って、
 屯所まで連れて帰りますから!私は飲まないんですし、
 斎藤さん一人ぐらいならちゃんと連れて帰ります!置いて帰ったりしませんよ。」

「…………」

「だから、安心してください。…ね?」

「…………ああ…そうだな…。」


何故か少しがっくりしている斎藤さん。
半ばやけ気味にお酒を口にした。



***



「おいしいですか?」

「…ああ」

「そうですか、よかった…。」

「…お前は…」

「私はお酒、飲んでも美味しいと思わないんです…。苦いだけで…。」

「そうか…。」

「だから勿体無いですし、美味しいと思う方が飲んだほうが良いですから。」

「…そうだな。」

「あ、でも、斎藤さん無理に飲まなくても良いですよ?
 余ったら持って帰ってみなさんに飲んでもらえば良いんですから。」

「ああ…まあな…。」


しばらくがお酌をし、斎藤さんはお酒を飲んで話をしていたが、
ふとが腰を浮かした。


?」

「お酒だけ飲んでいるのも何ですから、何か買ってきますね?」

「それなら俺が…」


の申し出に斎藤さんは慌てたが、
はひらひらと手を振ると、


「大丈夫ですよ。斎藤さんはゆっくりしていて下さい。
 お酒を飲んで動き回ると酔いが回ってしまいますよ。」


と言って、斎藤さんを置いて行ってしまった。



***



「……遅いな…。」


しばらく手酌でお酒を飲みながらを待っていた斎藤さんだったが、
あまりに帰りが遅いので流石に心配になってきた。
黙々と飲んでいたのでお酒も大分なくなってきている。


「…………」


一度心配になると、不安な気持ちが広がっていき、
良くないことばかりが頭を過ぎる…。


(場所がわからなくて迷っているのかもしれない…は方向音痴だからな…)


斎藤さんが唸りながら考えていると、
少し離れた場所から騒がしい声が聞こえてきた。

斎藤さんのいる辺りは人は少ないが、時間が経ってきて
花見の人が増えたのか、騒がしくなっていた。


(それとも、騒ぎに巻き込まれたり、誰か…酔っ払いに絡まれたりしているのでは…)


騒がしい雑踏にふとそんな考えが頭を過ぎり斎藤さんは青くなった。
そしていてもたってもいられず、立ち上がるとその場を駆け出して行った…。



***



元いた場所を離れると、思った以上に人が多く、
辺りはすっかりお花見ムードだった。

これだけの人ごみから人一人見つけるのは困難だが…。

もう大人しく待っていることなどできなかった斎藤さんは
とにかく動き回り、を探していた。すると…。


「困ります…;私人を待たせていますので…;」


聞き間違うはずもない、困ったようなの声に、
斎藤さんは慌てて声のする方へ走って行った。


「良いじゃねぇか、姉ちゃん。少し付き合いなよ。」

「でも、本当にもう随分遅くなってしまって…」

「だったら、この際あと少しぐらい良いだろう?」

「ダメです!お願いです、離して下さい!」


駆け寄ると予想通りと言うべきか…酔っ払いに腕を掴まれ
困っているの姿が…。


!」


斎藤さんが声をかけると、と男が驚いて振り向いた。


「あ、斎藤さん…。」

「ああ、兄ちゃんがこの姉ちゃんの連れか…。ならアンタも一緒に…」


酔っ払いの男は陽気に声をかけたが、斎藤さんは男の手をから引き離すと、
ひったくるようにの腕を掴んでさっさとその場を離れようとした。
男は文句を言おうとしたが、斎藤さんの鬼気迫る迫力に青くなって下がって行った…。



***



「あ…あの、斎藤さん?」


の手を掴んだまま、ずんずんと歩いていく斎藤さん。
何だか不機嫌な雰囲気には慌てて謝った。


「あの、すみませんでした…。遅くなってしまって…。」


申し訳なさそうに謝るに、少し落ち着いた様子の斎藤さんだったが、
呆れたようにため息をつくと、に尋ねた。


「…どうしてそんなに時間がかかったんだ?」

「あのですね…男の子が…迷子になっていて、その…不安そうだったので…その…;」

「親を探していて遅くなったのか…」

「す、すみません…斎藤さんのこと、忘れていたわけではないんです。
 でも…放って置けなくて……すみません…。」


しどろもどろになりながら必死に弁明するに、
斎藤さんはふと優しい表情をした。


「お前らしいな…」

「うっ…すみません…;
 あ!でも!ちゃんとおつまみは持って来ましたよ!」


はずいっと持っていた袋を斎藤さんに差し出した。


「その子の親御さんが乾物屋さんでして。
 お礼に下さったんです、お酒にはするめとかこういうものが合いますよね?」


にっこりと嬉しそうに言ったを斎藤さんはじっと
見つめていたがおもむろにの肩に手をかけた。


「?斎藤さん?どうかしました?」

…」


ゆっくりの名前を呟いた斎藤さん。
なんだか微妙に目が虚ろで、の頭に一抹の不安が過ぎった。
…と、ほぼ同時に、は斎藤さんに押し倒されていた。


「さささ斎藤さん!?し、しっかりして下さい!!///

「俺は正気だ…。」

「酔ってますよ!」

「酔ってない。」

「酔ってる人はみんなそう言うんです!!」

「いや…酔ってなどいない…。」

「ちゃんと立てない時点ですごく酔ってます!……大丈夫ですか?」


はなんとか斎藤さんを立たせるべく、
体を起こそうとしたが、斎藤さんがの腕を掴んで、
押さえつけたので、身動き取れない状態になってしまった。


「……;」

「………」

「あ…あの…;斎藤さん?」

…俺は……お前が…」

「○▲×□▼!?///


そのまま顔を近づけてきた斎藤さんにが流石に慌て、
真っ赤になった時…。


バシッ!!!


「わ!?さ、斎藤さん!?大丈夫ですか!?」


飛んできた扇が斎藤さんに当たって、
斎藤さんはそのままの上に倒れた…。

慌てて起き上がり、同時に斎藤さんの事も起こした所に、
声をかけて来たのは山崎さんだった。


「大丈夫?ちゃん?」

「あ、山崎さん。」

「まったく…ハジメちゃんったら;
 こんな所で何をやってるのかしらね…。」


気を失ってしまった斎藤さんを呆れたように眺めながら、
山崎さんはため息を吐き呟いた。
どうやら扇を投げつけたのは山崎さんらしい…。


「ちょっと酔ってしまっただけですよ…;
 私がお酒を勧めたのがいけなかったんですね…すみません;」


山崎さんが斎藤さんを責めるような言い方をしたのでは慌てて謝った。
原因を作ったのは自分なのだから…。


「それに私が戻るのが遅くなってしまったりして…
 探させてしまいましたし、動き回ってお酒が回ってしまったんですよ。
 ごめんなさい…あの、だから、斎藤さんを怒らないであげて下さい…」


申し訳なさそうにそう言って、顔を見上げたに山崎さんも折れた。


「はあ…仕方ないわね…。
 でもちゃん、何されそうになったかわかってるの?」

「はい?」

(わかってないわね…;)


きょとんと不思議そうな顔をするに、山崎さんは再度ため息をついた。


「もー!しょうがないわね!
 というか、二人きりの時にお酒なんて飲ませちゃダメよ!」

「は、はい…;
 でも、斎藤さんはお酒、お強いと思っていましたので;
 それにもし酔ってしまったら、ちゃんと私が連れて帰ると約束しましたから!」


ぐっとこぶしを握り締めて言ったに山崎さんは笑った。


「ちょっと無理じゃない?
 酔いつぶれてるハジメちゃんをちゃんが連れて帰るなんて?」

「そんなことありませんよ!
 これでも私は新撰組隊士ですし、普通の人よりは力はあります!
 こうやって…おんぶすれば……」


は斎藤さんの腕を掴むと背中に背負おうとしたが…。


「っ…;」


あえなく撃沈し、潰れてしまった。


「……;」

「大丈夫?」


仕方なく、斎藤さんは山崎さんが連れて帰ってくれることになった。



***



「………」

「そんなに落ち込まないの。」

「うっ……はい…;」

「仕方ないじゃない、ちゃんとハジメちゃんじゃ、
 身長にも差がありすぎるんだから、力の問題だけじゃないのよ。」


落ち込むに山崎さんは優しく言ったが、


「まあでも、ちゃんは意外と力がないわよね。
 どうしたあの重い青龍を扱えるのか不思議だわ。」


と続けた、それを聞いてはまた落ち込んだが、


「…そんなことないです!私結構力持ちですよ?」


流石に不服だったのか、ムーっとむくれて向きになって反論した。
山崎さんはそんなの反応に必死に笑いを堪え、


「いいじゃない、女の子はか弱い方が可愛いかもよ?」


少しからかう様に言ったが、はキリッと真剣な顔をすると、


「私は強くありたいんです!
 斎藤さんやみんなを守れるように!」


そう言い切った。
の言葉に、山崎さんは少し驚いたような顔をしたが、
すぐいつもの笑顔に戻ると、


「も〜ちゃんはホント可愛いんだから〜vv


そう言って、の頭を撫でた。


「??山崎さん?」

「良いから♪良いから♪気にしないで


普段は頼りない感じなのに、真っ直ぐな心はしっかりしている。
真面目で可愛いと、見ていて微笑ましいと感じ、山崎さんは微笑んだ。





おまけ***


翌朝…。


!」

「おはようございます、斎藤さん?どうかしました?そんなに慌てて…。」


珍しく息を切らせて、慌てている斎藤さんには不思議そうに尋ねた。


「昨日のことなんだが…」

「昨日?何です?」

「その…俺は…お前に……何かしたか?」

「へ?…別に…何も?」

「本当か?」

「はい…何かって?」

「いや…別に…山崎さんが…」

「山崎さんが何か?」

「いや…何もないなら良い。…そのすまなかった、昨日は…」


申し訳なさそうに目を伏せた斎藤さんには慌てて謝った。


「いえ!私の方こそ!私、結局斎藤さんを連れて帰れなくて…
 山崎さんが手伝ってくれて…本当にごめんなさい…。」

「気にするな、あんなことになったのは俺の失態だ…。
 お前に見っとも無いところを見せてしまったな…。」

「いえ、元はといえば私のせいで…」


どちらも謝ってばかりで、埒があかず斎藤さんは思わずふっと笑うと、


「なら…埋め合わせに、また二人で花見に行こう。……今度は酒はなしでだ。」

「…はい!」


斎藤さんの提案には嬉しそうに笑うと元気よく返事をした。



「………それにしても…山崎さん…!」




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2007.04.25