-夏祭り-後編




「満足か?」

「はい!とっても楽しかったです!」


しばらくお祭りを見て回った二人。
もう大分遅くなったのか、人もまばらになってきていた。


「何だか人が減りました?」

「ああ……花火が始まるから…浜辺の方へ移動したのかもしれないな…。」

「花火!…ですか?」


人が少なくなったことをが不思議そうに尋ねると、
斎藤さんはそう返事し、それを聞いては目を輝かせて斎藤さんを見た。


「…見たいのか?花火?」


そんなに斎藤さんはふっと笑った。


「見たいです!……あ、…でも…今からじゃもう凄い人ですよね…。」


もすぐに返事をしたが、今の人が減っている状態を見ると、
花火の見える場所は見物客でいっぱいだろう。
残念ですけど、もう無理かな…、と少し残念そうに言った。


「……すまない、
 もう少し早く…教えてやればよかったな…。」


がっかりしているに斎藤さんが申し訳なさそうに謝罪した。
花火のこと、最初は頭にあった斎藤さんだったが、
お祭りで楽しそうにしているを見ているうちに忘れてしまい、
言う機会を逃してしまっていたのだ。

が、斎藤さんの謝罪にも慌てて頭を下げた。


「あ、いえ!そんな!謝らないで下さい、斎藤さん!
 私なんて鈴花さんが教えて下さらなかったらお祭りのことも知りませんでしたし…」

「それは…お前は最近いろいろと忙しかったからな…。」

「それは…そうなんですけど…。
 でも、今日は斎藤さんのお陰でとっても楽しかったですし、十分満足です。」

「……そうか。」


にっこり笑ってそう言ったに、斎藤さんも一先ず笑ってくれた。
とその時、何か思い出したようにが手を叩いた。


「あ!そうです!」

「?」

「斎藤さん、一度屯所に戻っても良いですか?」

「屯所に?」

「はい、お願いします。」

「……わかった。」



***



何があるのかわからないが、の提案で二人は一度屯所に戻った。

正直、まだと居たかったし、屯所に戻れば誰かに会うかもしれないと、
気は進まなかった斎藤さんだったが、の頼みでは仕方ない。
それに「一度」と言うことは、別にこれで終りなわけでもないと…。

は屯所に戻ると真っ直ぐ自分の部屋に向かい、
部屋に入ったがすぐに出てくると自慢げに斎藤さんに何かを差し出した。


「……それは?」

「線香花火です!」

「線香花火?」

「はい!この前兄上がお土産に下さいました、とっておきです!
 花火大会の変わり…というわけではありませんが、斎藤さん一緒にやりませんか?」

「…………くっ」


満面の笑顔と共にそんな言葉。
斎藤さんは思わず噴出した。


「な、ど、どうして笑うんですか…;///

「いや…可愛いと思ってな……」

「へ?」

「良いな……やるか…線香花火?」

「あ!はい!」



***



屯所を出て、近くの川原で花火をやることにした二人は川原にしゃがみこんだ。


「…………」

「……わぁ…」


火を灯すと、線香花火は小さな火花を放ちながら揺れて光っている。
はそんな花火を見て嬉しそうに笑い、斎藤さんはを見て笑った。


「綺麗ですね……。」

「……ああ。」


じっと線香花火を見つめながらポツリと呟いた。


「私、線香花火大好きなんです。
 小さくて可愛いですし…、小さいから儚くて寂しいと感じることもありますが…
 輝いている時は一生懸命だって感じますから……。」

「……そうだな。」


ポトリと火が落ちて消えてしまったのを見て、
一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐ笑顔に戻ってはそう言った。

そして、残りの花火を見てある提案をした。


「あと二つで終わりですね。」

「そうだな。」

「あ!じゃあ、勝負しましょう!斎藤さん!」

「勝負?」

「はい、長く火が残っていた方が勝ちです!」

「……勝ったらどうするんだ?」

「それは……もちろんご褒美を。」

「ご褒美?」

「はい。」

「何だ、そのご褒美は?」

「それは勝ったら決めましょう。」

「俺が決めるのか?」

「いえ、勝った方が決めるんです。」

「……なるほど……何でもいいのか?」

「はい、何でもいいです。」

「……わかった、やろう。」

「じゃあ、勝負です!」


かくして…最後の線香花火で勝負が始まった。
お互いかなり真剣である。
じーっと花火を見つめたままでいたが、少し余裕を感じたが口を開いた。


「斎藤さん……今日はありがとうございました。」

「ん?」

「本当に楽しかったですよ。
 花火は…残念でしたけど、こうして一緒に線香花火できましたし。」


満足そうに花火を見つめているに、
斎藤さんはふっと笑って答えた。


「俺は別に花火を見なくとも十分満足だった…。」

「え、そうですか?……でも、せっかくでしたのに…。」

「……花火よりも美しいものを…ずっと見ていられたからな…。」

「?何ですか?花火より美しいものって?」


斎藤さんの返事に、は花火に向けていた視線を上げて、斎藤さんを見た。
斎藤さんもの方に顔を向けると、


「お前だ、。」


と言った。


「……え?」

「今日のお前は美しすぎて、一時でも目を離すのが勿体無いと思った程だ…。」


「…………………………………………ええ゛!?」


じっと顔を見つめ返したまま、顔色一つ変えずにそんなことを言った
斎藤さんには驚き、真っ赤になって飛び上がった。


「……さ、さ、斎藤さん…………な、何を言って……////



「は、はい?///

「俺の勝ちだな。」

「……え……あ!!


真っ赤になって慌てているを見上げ、
斎藤さんは勝ち誇ったように笑うとそう言った。

驚いて立ち上がった拍子に、の花火の火が落ちてしまったのだ。
そのことに気付き、は恨めしそうに斎藤さんを見た。


「さ、斎藤さん…ずるいですよ……;
 そ、そんなこと言って驚かせるなんて……///

「俺は事実を言っただけだ。驚かせるつもりはなかったが……?」

「………////////


斎藤さんは普段と全く変わりない真顔でそう言う。
本当に悪気はなかったのだろう。
だが……それならそれで恥かしい……。

はまた真っ赤になって黙り込んだが、斎藤さんは上機嫌でに声をかけた。


。」

「……はい?」

「本当に何でも良いんだな?」

「え?」

「俺が勝っただろう?」

「……あ;…………………………はい…………;」


正直何だか素直に負けを認められない気分だが、斎藤さんもわざとではないし、
最初に話しかけたのは自分なのだから…と、は観念したように頷いた。


「そうか!それじゃあ……」


が頷くと、斎藤さんはそれは嬉しそうな顔になりの手を取った。


。」

「は、はい……;」

「その……」

「…………///


何を言われるのかと焦りつつ、真っ直ぐ見つめられ、
近づく斎藤さんには赤くなった。

斎藤さんは少し言いよどんだが、の手を強く握り締め、
意を決したように口を開いた。


「俺と……」

「…………」




「来年も…俺と夏祭りに行こう……。」



「え?」

「来年も…俺と一緒にいて欲しい。他の誰でもなく…俺と…。」


斎藤さんの言葉に少し驚いた顔をしただったが、
すぐに嬉しそうな顔になった。


?」

「……はい、約束ですよ?」

「いいのか?」

「はい…、もちろんです。ふふ…」

?」


の返事に今度は斎藤さんが驚いていたが、
思わず笑ったに、斎藤さんは首を傾げた。


「いえ……すみません…。」

「?」

「私…、私も同じことを…言おうと思っていたので…」

「え?」

「今日斎藤さんと一緒に過ごせて、楽しかったです。幸せでした。
 だから、また来年も一緒に…行けたらいいなって……思っていたので…。」

「…………。」

「きっと……来年も一緒に行きましょうね?」

「……ああ、必ず。」


幸せそうに笑って言ったに、斎藤さんも優しい笑顔を見せた。
できるなら、来年だけではなく…もっとずっと先も……。

二人の心には、そんな思いもあったかもしれない。

だが、今は一先ず来年を共に。

そして来年はその次も、そして次と、ずっと一緒にいられるように思える存在で、
お互いがあるように。

見ることはできなかった遠くの花火の音がかすかに耳に届き、心に響いていた。
来年は、その次は、一緒に見られますように……。






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2007.08.29