「コホッ、ゴホッ!…っ;」 苦しそうな咳払いが部屋から聞こえた。 -君の声- 「大丈夫か??」 心配になり斎藤さんは部屋の戸を開け、部屋の主に声をかけた。 『さ、斎藤…さん…。』 いつもの元気な声ではない。 聞き取れないほど切れ切れに擦れた声。 「無理に話す必要はない…、。」 『……はい。』 は斎藤さんの言葉に申し訳なさそうに返事をすると頷いた。 数日前から少し体調を崩し、寝込んでいた。 だいぶ元気になってきたものの喉だけまだ治らなくて、咳がひどくて声が出ないでいた。 体自体は元気だから普通に生活したい、とは言ったが、 端から見たらやはり苦しそうなので、結局部屋で絶対安静を言い渡されていた。 みんな心配してお見舞いにも来てくれるので退屈ではないが…申し訳ない。 本当に声が出ないこと以外は大丈夫なのに…。 とは心の中で呟いた。 とはいえ、咳がひどい時はやはり辛くて苦しそうな顔をしているので、 みんな気遣ってくれるのだ。 「薬を持ってきた。桜庭が…俺に渡して、持っていけと…。 桜庭は少し行くところがあるらしい。」 『わざわざすみません…ありがとうございます…。』 「だから、無理に話すな。……ほら、飲め。」 斎藤さんは苦笑いすると水と薬をに手渡し、 はこくりと頷くと薬を飲んだ。 「…………」 「…………」 斎藤さんはそんなの様子をじっと見ていた。 が薬を飲み終えると、斎藤さんは水が入っていた湯呑みを受け取ったが、 腰を下ろしたまま動こうとはしない。 「………?」 は不思議そうな顔で斎藤さんを見返した。 いつもならこういう状態の時はが斎藤さんに何事か話すのだが、 今は声が出ない。 「…………」 「…………」 妙な沈黙が部屋に流れる中、斎藤さんがゆっくり口を開いた。 「……その…俺はさっきまで巡察だったんだが…」 こくり 声の出ないは頷いて相槌をうつ。 「途中原田さんに会って……」 こくり 「饅頭屋に誘われて……」 こくり 「美味い店だと言われたんだが…俺は甘いものは苦手だから……」 こくり 「…………」 「……?」 「…俺は甘いものは苦手だが、良ければ今度食べに行くか?」 『……え?』 「おまえの体調が良くなったら…俺と二人で」 「…………」 あまりに突然の誘いにいまいち飲み込めなかっただったが、 驚いた顔になり斎藤さんを見つめると、 「……嫌か?」 びっくりして固まっているに、 斎藤さんは不安そうな顔になりそう尋ねた。 ふるふる は慌てて首を横に振り、斎藤さんはそれを見て、 「良いのか?」 と尋ねたので、 こくこく と今度は縦に首を振った。 「そうか…。」 斎藤さんは途端に嬉しそうな顔になり、は少し照れ臭かったが、 斎藤さんの誘いは嬉しくて、も嬉しそうに笑った。 斎藤さんはその後もしばらくの部屋でいろいろ話をしてくれた。 何かと躊躇うような、つまりつまりの話だったが、声が出ないを退屈させないようにと、 気遣ってくれているのだということはすぐにわかった。 いつもは自主的に話すことは少ない斎藤さん。 話をするのも得意ではないはずなのに……。 そんな斎藤さんの心遣いが涙が出るほど嬉しくては体調が悪いこと、 声が出ないことも忘れて楽しい時間を過ごした。 *** 翌日。 「斎藤さん!」 すっかり元通り、声も出るようになったは真っ先に斎藤さんに会いに行った。 「、喉はもう良いのか?」 「はい!もうすっかり!斎藤さんのお陰です!」 にこにこと本当に嬉しそうな笑顔で報告するに、斎藤さんも笑った。 「いや、俺は何もしていない…。」 謙遜するように言った斎藤さんに、はずいっと詰め寄ると、 「そんなことないです!」 ときっぱり言い切った。 「?」 「昨日、私すごく嬉しかったんです… 斎藤さんがお見舞いに来てくれて、たくさん話して下さって…。」 「……俺はそんなに話をするのは上手くないが…。」 真っすぐ顔を見つめて嬉しそうな笑顔をされて照れたのか、 斎藤さんは少し視線を外してそう言った。 それでもは笑顔を絶やさず、 「そういうことじゃないんです。」 と言って首を振った。 「むしろそれなのに一生懸命話してくれたこと、とても嬉しいです。」 「…………」 「それに、昨日は斎藤さんの声がたくさん聞けて得した気分です! 喉が治らなくても良いかなって思うぐらいに。」 ふふっと楽しそうに笑って言ったに斎藤さんは苦笑いした。 「大げさだぞ…。……それに…おまえの喉が治らないのは困るな。」 「え?」 「おまえの声が聞けないのは寂しい…。俺はおまえの声…好きだぞ。」 「さ、斎藤さん……///」 斎藤さんの言葉に照れて赤くなった。 今度はが視線を外した。俯いて、真っ赤になっている。 斎藤さんはそんなを満足そうに見つめていた。 「……、体調が戻ったのなら今日は約束通り饅頭屋に行くか?」 しばらく黙っていた斎藤さんだったが、 そっとの手を取るとそう言い、は顔を上げると頷いた。 「あ、はい!是非!」 「……じゃあ行こう。」 斎藤さんに手を引かれ歩いていただが、ふと躊躇いがちに斎藤さんの名前を呼んだ。 「斎藤さん。」 「何だ?」 「その…私も…」 「?」 「私も、斎藤さんの声…好きですよ?」 恐る恐ると言った感じで紡がれた言葉だったが、斎藤さんは驚いたように振り向いた。 はというと照れたように苦笑い。 斎藤さんはそんなの顔を見て、 ふと意地の悪い笑みを浮かべると 「……好きなのは…声だけか?」 と言った。 「へ?」 「声以外はどうなんだ?…俺はおまえの声以外も好きだが?」 「!」 突然何を言いだすのかと驚いた。 余計なことを言ってしまったのかと、少し後悔したが、 「?」 「あ〜え〜っと…;」 再度尋ねてきた斎藤さんに、 返事をしないわけもいかず、 「……その…///好きですよ…さ、斎藤さんのこと…声以外も…///」 と、真っ赤になりながら答えた。 「……ありがとう」 斎藤さんは満足そうに笑うとお礼を言って、の手を握り返した。 今のその会話にそこまでの意味があるわけではないかもしれないが、斎藤さんは満足そうだった。 も、斎藤さんに向けた言葉は紛れもない真実。 まだ重みはなくてもいつかは……。 君の声を一番近くで聞くことができる存在に、 君の声を一番多く聞くことができるように…。 戻る 2009.11.09
久々に更新できました!斎藤さんの甘めの夢!
口数の少ない斎藤さんですが…斎藤さんの声大好きですから…! もっと斎藤さんの声を聴きたい…!という思いからこんな話になりました。 なので最後の方の主人公の台詞は殆ど私の気持ちそのままだったりします!(爆) ちなみにこのお話、 私、管理人が実際風邪をひいた時に思いついたお話だったりします(誕生秘話?) |