「ふぁ……。」

「大きな口だな…。」

「わ!?」


突然声をかけられ、は飛び上がって驚いた。





-陽のあたる場所-




「さ、斎藤さん。お、おはようございます……///


大口あけてあくびをしている所を見られてしまい、
は真っ赤になって挨拶した。


「ああ、おはよう。、今日は非番か?」

「え?あ、えっと…そうです。」


突然の質問にちょっと驚きながらも返事をすると、
斎藤さんは少し嬉しそうな顔になり、


「なら俺と出かけないか?」


と言った。


「へ?」

「以前巡察に行ったときに、時間があったら町を案内してやると約束しただろう?」

「あ。」


そういえば、そうだった。
初めて巡察に行った時のことだ。

突然のお誘いだったが、幸い今日は予定はないし…。
方向音痴ののことを気遣って言ってくれた約束、
斎藤さんは覚えていてくれたのだ。
そう思うと嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。


「これからどうだ?何か用事がなければでいいが…。」


なかなか返事をしなかったに斎藤さんが少し遠慮がちになったので、
は慌てて、


「あ!大丈夫です!行きます!よろしくお願いします!斎藤さん!」


と大きな声を上げてしまった。
斎藤さんは少し驚いた顔をしたが、


「そうか…。」


と、嬉しそうに言った。



***



それから二人で町に出ると、斎藤さんは文字通り町を案内しながら歩いてくれた。
こっちにはこんな店があるとか、ここは入り組んでいて道に迷いやすいとか、
ここの蕎麦は美味いとか…。

は一先ず覚えやすそうな目印やお店をしっかり頭に入れながら斎藤さんの説明を聞いていた。

しばらく行くと、


「少し寄りたいところがあるんだが……。」


と、斎藤さんがを振り向いた。


「どこにですか?」

「鍛冶屋なんだが。」

「鍛冶屋?」

「刀を預けているんだ。」

「あ、そうなんですか。」

「すまない……。」


何故か謝る斎藤さんにが不思議に思って尋ねると、
斎藤さんは誘っておいて自分の用件に付き合わせるのが申し訳ないと言って謝った。
本当に真面目な人だと思わず笑いそうになっただった。


「そんな、気にしないで下さい。
 それより、斎藤さんはいつも刀をそこへ持っていってるんですか?」

「そうだな。」

「それなら私もその場所覚えていた方がいいですかね?」

「そうだな。おまえの刀は変わっているし、手入れも重要だろう。」

「そうですね。じゃあ、私も一緒に行ってもいいですか?」

「もちろんだ。」


斎藤さんがそう言ってくれたので、
鍛冶屋さんにも案内してくれることになった。



***



「お前はいつも刀の手入れをしているのか?」

「はい、一応…。」


鍛冶屋さんに向かう途中、話題は自然と刀の話になった。


「兄上からの預かり物ですし、兄上が大切にしていた刀ですから…。」

「そうか、近藤さんも気に入っているようだったが?」

「あ、そうですね。近藤さんもこの刀をご存じで、気に入っておられたようです。
 ……私が持っていていいのか…ちょっと申し訳なく思ってしまいますが…。」


申し訳なさそうに苦笑いしたに、斎藤さんは、


「別に、構わないだろう。
 近藤さんもその刀はお前に似合うだろうと言っていた。俺もそう思う。」


と言った。


「そうですか?」


斎藤さんの返事には少し考えるような素振りを見せたが、


「ありがとうございます!」


とお礼を言った。


「そういえば、斎藤さんは刀に詳しいんですよね?近藤さんから聞きましたけど…。」

「ああ、まあ……。だが、お前の刀は珍しい。俺も…今まで見たことはない。」

「そうなんですか?」

「ああ。」

「じゃあ、大切にしないといけませんね。」


にっこり笑ってそう言ったに斎藤さんも笑ってくれた。


「ああ、そうしてやれ…。今から行く鍛冶屋も信頼できる店だ。何かあったら持っていくといい。」

「はい。ありがとうございます、斎藤さん!」



***



ついた所は町外れにある小さな鍛冶屋さんだった。
斎藤さんが戸口を開けると気っ風の好いおじさんがいて、 斎藤さんに気付くと笑顔を見せた。


「よお、斎藤くんか。そろそろ来ると思っていたよ。刀はできてる、持ってきな。」

「ありがとうございます。」


斎藤さんがお礼を言って頭を下げたとき、
後ろに立っていたに気付いたおじさんは驚いた顔をした。


「これは珍しいな、斎藤くんが人を連れて来るなんて……それも女の子を…。」


まじまじと見つめられ、は慌てて頭を下げた。


「あ、あの初めまして…です。」

「ほう、なかなか礼儀正しい良い子じゃないか。斎藤くんの大事な子かい?」

「え?」

「ええ、大事です。」

「え゛///!?」

おじさんの言葉にさらっと返事した斎藤さんに
が驚いた声を上げると斎藤さんが不思議そうな顔をした。


「はは、斎藤くんらしいな。けどあんまり簡単に言いすぎるのもな…。」

「?」

「あはは…///


斎藤さんの反応から特に意味はないことはわかっただったが、
返す言葉もなく赤くなっているのを誤魔化すように笑うしかなかった。

斎藤さんはを新選組の新入隊士だと紹介し、も改めて挨拶した。
そして、の刀の話になり一度見てもらうことになり、は刀を外しておじさんに渡した。

刀を鞘から抜いたおじさんは驚いた顔をすると、ほぅとため息をついた。


「こりゃ……確かに見事だ。美しい…こんな美しい刀は私も初めて見る…。」


おじさんは本当に気に入った様子で刀を眺めている。
自身は今まであまり意識したことはなかったが、
やはりこの刀はかなりの代物と言うことか…。


「銘はないな…一体誰の品なんだろうな…。」


いろいろ刀を調べているおじさんに、はたまらず尋ねた。


「あの…その刀、そんなにすごい物何ですか?」

「ん?…ああ、そうだな…。色彩が極めて珍しい。
 それに作りも丁寧で…銘がないのが不思議なぐらいだ。」


に尋ねられ、おじさんはぽつぽつと説明してくれた。
が、刀がすごい物とわかるたびは少し気持ちが沈んだ。


「やっぱり私には…少しいき過ぎたものでしょうか…。」

「……。」


ぽつりとこぼしたの言葉。
兄上や近藤さんも気に入っている刀、自分が持っていていいものなのか…
ましてそれだけの名刀なら、実力のある兄上や近藤さんの方が相応しいのに…。

不安そうなの言葉におじさんは優しく言った。


「そいつは違うな、嬢ちゃん。」

「え?」

「こいつは嬢ちゃんの刀だ。
 刀を見れば嬢ちゃんがこいつを大事にしていることはよくわかるし、
 こいつも嬢ちゃんを守りたいのさ。」

「そうだぞ、。自分の刀を信じてやれ。」


斎藤さんにもそう言われ、は刀を受け取ると、ほっと安心したような顔になり、
にっこり笑うと斎藤さんとおじさんにお礼を言った。


「まあ、なんかあったらいつでも持ってきな!格安で見てやるよ!」

「ありがとうございます。」


おじさんはと斎藤さんを笑顔で送り出し、
最後に、


「斎藤くん!逢引きならもう少し色気のある場所に連れてってやりなよ〜。」


と言った。
おじさんの言葉にがずっこけ、斎藤さんが慌てて助け起こしたのを
おじさんは微笑ましく眺めていた。



***



「どこか行きたい所はあるか?」

「え?」


鍛冶屋さんから出たあと斎藤さんはに尋ねた。


「俺の用事に付き合わせたからな、お前が行きたい所があるなら付き合おう。」


そう言われ、が考えていると、ぐ〜っとお腹が鳴った。


「っ!?///


が真っ赤になると、斎藤さんは笑って、


「腹が減ったな。」


と言った。


「……はい///


は恥ずかしさで真っ赤になって俯いたが斎藤さんは気にしていないのか、


「どこか店に入るか?」


と言って辺りを見回した。
斎藤さんの言葉にはそっと顔を上げると、


「…あの、何か買って外で食べませんか?
 せっかく良い天気ですし…。見晴らしの良い場所とかで……。」


と言った。


「見晴らしの良い場所……か。」


斎藤さんはしばらく考えていたがを待たせ、
さっとどこかへ行くとすぐ戻ってきた。
手には握り飯らしきものが。
そしての手を取ると、


「こっちだ。」


と言って早足に歩きだした。



***



「わ、すごいですね!」


斎藤さんが連れてきてくれたのは小高い丘のような場所。
の『見晴らしの良い場所』と言うリクエスト通り町を見下ろす景色が美しい。
そして暖かい日差しとちょうど良い木陰があって一休みするには最適の場所だ。


「気に入ったか?」

「はい!」


斎藤さんの問いには笑顔で返事をし、
二人は笑って顔を見合わせた。
二人は木陰に腰掛けると、斎藤さんが買ってきてくれた握り飯を食べた。


「斎藤さんはここへはよく来るんですか?」

「たまにな……。」

「特訓ですか?」

「……そういう時もある。」

「そうですか。」


他愛無い会話をしながら食事をし、
食べ終わって一息ついた時、斎藤さんが口を開いた。


。」

「はい?」

「…その、新選組には慣れたか?」

「あ、はい!」

「そうか…。まあ、お前はなかなかよくやっているだろう。」

「本当ですか?」

「ああ。これからも頑張ってほしい。」

「はい。」


嬉しそうに返事したに、斎藤さんは優しく微笑んだ。
二人はしばらく景色を眺めていたが、斎藤さんがぽつりと口を開いた。


「初めて会った時は頼りない印象を受けたからな。
 正直、やっていけるものか危惧したが…余計な心配だったな。
 戦いにおいての腕の問題だけではなく……、覚悟もできているのだと…。」


斎藤さんはゆっくりした口調で話した。
目の前の景色を眺めながら。


「…それでも無理する必要はないぞ、
 辛かったら……いつでも俺に言ってくれ。」


斎藤さんがそう言っての方を向いたとき、
コツッとの頭が斎藤さんの肩にあたった。


?」


肩にもたれかかってきたに斎藤さんは驚いたが、
よく見ると……


「何だ…寝たのか…。」


心地よさそうに寝息をたてているに斎藤さんは苦笑いした。
そういえば出かける前眠そうにしていたな……、
などと思いながらそっとの髪を撫でると自分もゆっくり目を閉じた。

せっかくの暖かい日和り、
そして肩に感じる優しい温もり、
そんな中ゆっくり心休めるのも悪くはない……。



***おまけ

「目が覚めたか?」

「……え?」


きつい日差しにあてられた気がしては目を開けた。
すぐ傍には斎藤さんの顔が…。


「え、え、わ、私…もしかして…眠って…;;」

「ああ。」

「す、すみません!!」


は慌てて謝った。
きつい日差し、それは沈みかけている赤い夕日…。
もう夕方になっていた。


「も、もうこんな時間ですか!?」

「ああ。」

(きゃー!?こんな時間まで私ったら!しかも斎藤さんの肩で寝てたみたいですよ!!)


狼狽えまくるに斎藤さんは笑いを堪えていた。


「随分疲れていたんだな。そろそろ帰らないと遅くなるぞ。」

「すみません!すみません!」


ひたすら謝り、頭を下げるの頭を斎藤さんはぽんと叩いた。


「次出かけるときは起きていて欲しいものだな。」


斎藤さんの言葉には、


「は、はい!もちろん!次は必ず!」


と言った。
の返事に満足そうな顔をした斎藤さんは立ち上がると先を歩きだした。


「あ、待って下さい!斎藤さん!」


は慌てて後を追った。
斎藤さんがちゃっかり次に出かける約束を
取り付けていることには気付かないまま……。




戻る



2006.11.05