-素直に-
ぼーっと縁側に座っていると、土方さんに声をかけられた。 「どうかしたのか?」 土方さんの表情は特にいつもと変わらなかったけど、声は少し優しかった。 気遣ってくれているのが分かる声。 でも、私は首を振るしか出来なかった。 本当は少し、具合がよくないこと自覚はあったけど余計な気を使わせたくなかったから。 土方さんはそんな私をしばらく見つめていて…、 表情からは何を考えているのかはわからなかったけど、 何か…怒られてしまうような雰囲気を感じて思わず俯いた。 けど、土方さんは黙ったまま、私の前に座り込み、 そっと私の額に手を当て、ポツリと呟いた。 「……熱はないか…。」 「あ…あの…」 「、お前ここ数日具合が悪かったんじゃないのか?」 その言葉に私は思わずギクリと肩を震わせた。 気付かれていた…。 そう思うと同時に気持ちが焦る。 以前暑さで倒れた時にも注意された、体調が悪い時は無理をしないようにと。 皆に迷惑がかかるからと。 何度も何度も言われていること…。 わかってはいるんだけど、大したことはない。 自分だけ休むわけにはいかない。 そう思うと、つい無理をしてしまうのはもはや自分の性格で…。 「すみません…。」 結局いつのまにか、また皆に迷惑をかけていたのかと… 私は謝ることしかできなかった。 土方さんは何も言わなかったけど、空気は重くて、 きっと今度は本当に怒られてしまうだろうと、私は身を固くして身構えた。 怒られてしまうのは私の責任で、土方さんが正しいのだから仕方ない。 それはわかっているけど、威圧的な雰囲気を持っている時の土方さんは 正直恐いので身構えていないと、迫力に負けてしまうから。 私はそんなにキツく怒られたことはないけれど、 前に機嫌が悪い時の土方さんに私が怯えたような態度を取ったことで、 土方さんが傷ついていたと近藤さんから聞いたこともあるから。 その時は申し訳なく思ったものだった。 土方さんが優しい人だと言うことは良くわかっているし、 怒る時は土方さんの理屈は正論だから間違ってなどいない。 機嫌の悪い時だって、誰にでもあること…。 それなのに恐がってしまったこと。 恐がられたら傷つくのも誰だって同じなのに。 「あ、あの、すみませんでした土方さん…。」 何だかその時のことも含めて謝りたくなり、私は再度頭を下げた。 「……別に反省しているなら良いが…」 私が頭を下げると、ポツリと土方さんが言った。 「くれぐれも無理はしないようにしろ。お前が…皆が忙しい時、 自分だけ休むようなことができないやつなのはわかっているがな…。」 ふと重かった空気はなくなり、そんなことを言ってくれた土方さんに私は顔を上げた。 怒られるかと思っていたのに、土方さんがかけてくれた言葉はとても優しいもので、 顔を上げた私が見たのも、凄く優しい表情だった。 …ああ、やっぱり…土方さんは凄く優しい人なんだと、 どうして…怖いと思ってしまったのかと、 そんなことを思うぐらい、今の土方さんの表情や空気は優しかった。 「だがお前が無理をしても誰も喜ばんだろう。 むしろ心配で気が散る。俺もそうだからな。」 「…え?」 優しい土方さんの雰囲気に、私がすっかり安心していると、 土方さんは苦笑いして珍しく饒舌な程言葉を続け、その内容にも私が驚くと、 土方さんも気付いたのか少し動揺して顔を逸らした。 ただ、少し焦ったように動揺したのは私も同じで…。 (心配で気が散る?土方さんも…?) 自分のせいで土方さんにも、 そこまで気を使わせてしまっているのかと胸が痛んだ。 「あ…えっと…本当にすみません、これから気をつけますから…。」 忙しい土方さんに、余計なことで気を使わせるわけにはいかない。 それに何より、こんなに気に掛けてくれる優しい土方さんに要らぬ心配をかけさせるわけにもいかない。 私は何だか慌ててしまって、また頭を下げた。 謝罪の言葉はそう何度も聞いても気持ち良いものではないから、 何度も言いたくはなかったけど、ついだった。 土方さんは常日頃から忙しいし、心配することも沢山あるはず、 私のことまで心労に増やしたくはない。 「失礼します。」 下げた頭を上げると同時に、私は立ち上がってその場を離れようとした。 体調不良が周りにわかる状態なのは不味い。 やはり気は進まなくても少し休むべきかと思ったから。 それに、皆にうつってしまっても大変だ。 「!」 私が立ち上がって場を離れようとすると、突然土方さんが声を荒げた。 「?」 反射的に振り向くと、土方さんが伸ばした手は私の腕を掴んでいて……、 「……ぁ…」 引っ張られた感覚と共に私は体勢を崩した。 土方さんは引っ張ったわけではないと思うけど転びそうになった私を助けるために、 結果的に私を自分の元に引き寄せたため、 私はそのまま土方さんに身体を預ける形になってしまった。 「……っ…///」 微かに土方さんの声が聞こえた。 何だか苦しそうな?痛そうな?声だった気がする…。 「………」 身体を預けてしまったということは即ち、 私の体重は全部土方さんの上に……。 「Σ!?」 私は慌てて凄い勢いで土方さんから離れた。 それは…土方さんは私より大きいし、男の人だから、 そんなに簡単に潰れないとは思うけれど…。 ドン! と鈍い音がして背中に痛みが走った。 あまりに勢いよく飛び退いたせいで後ろの柱に背中をぶつけてしまったらしい。 「……っ…;」 痛かったけれどそれどころではない。 きっと痛かったのは土方さんの方のはず…。 そう思って私は顔をあげたけど…、 「………悪かった…。」 目が合った土方さんは直ぐ様背を向けて行ってしまった。 謝る暇もない程の勢いで…。 「え?…あ…土方さん…」 どうして土方さんが謝るのだろう…? 転んでしまったのは私なのに…それに…。 「…………」 一瞬見えた土方さんの表情がひどく傷ついたものだったような気がする。 私…何か…。 「あ〜あ、ちゃん、あれはないんじゃなぁい?」 「え?」 呆気に取られている私に、呆れているような声がかけられた。 山崎さんだった。 「あの…私何か…」 傍へ来た山崎さんに、私は思わず尋ねた。 何か不味かったような気はするけど…その『何か』が何なのか私にはわからなかったから。 でも、何か…気付かなければいけない気がした。 知らず知らずのうちに、私は土方さんにひどいことをしてしまったのかも…そう思ったから。 「なぁに?わからないの?…しょうがないわねぇ〜。」 そんな私に、山崎さんはさっきより更に呆れた顔になり、きっぱりと言った。 「トシちゃん、ショック受けてると思うわよ。」 「……え?」 「『え?』じゃないわよ!あんな全力で拒否されたら誰でも傷つくわ。せめてもう少し…」 「拒否なんてそんな…!私はただ…」 「トシちゃん、あれでも繊細なのよ。 せっかく勇気出して抱き締めたのにあんな拒絶されたら…」 「……?」 ぶつぶつとまだ続く山崎さんの話だったけど、 私はそこで一瞬思考が止まった。 抱き締めた…? 「ち、違いますよ!///」 気付いた瞬間、かあっと顔が熱くなるのがわかった。 あれはそんなんじゃない。 転んだ私を助けようとしただけ。不可抗力。 何だか激しく誤解している山崎さんに私は必死に事情を説明した。 「あら、そうだったの?」 「そうです!!」 「私てっきり…」 「てっきりじゃないですよ…どうしてそんな風に思うんですか…。」 「どうしてって……」 …何とかわかってもらえたようだけど、山崎さんはまだ何か言いたそうな顔をしている。 すっかり脱力していた私はあまり気にしなかったけど…。 「まあ、それでも一応トシちゃんが傷ついたのは事実だから、 今の話、トシちゃんにもしてあげてくれない? やっぱり…あんな風に拒絶されたら悲しいじゃない…。」 結局、山崎さんはそれだけ言うと行ってしまった。 拒絶。 そんなつもりは全くなかったけど…。 先の土方さんの表情を思い出す。 そう言われると…。 (やっぱり失礼だったかもしれません…。) 土方さんを下敷きにしたから慌てたけど、あんな風に離れたら…。 (……たとえば嫌いな虫がいて、びっくりして逃げた時みたいに?) ……何か違うような。 でも、そんな気もして。 別にあれは本当に何でもない。 土方さんのことは嫌いでもないし、逃げたわけではない。 もし、土方さんがそんな風に思ったんだったら…。 私は慌てて土方さんの所に急いだ。 *** 「土方さんすみません!私です!あの…お話したいことが…。」 土方さんの部屋に行った私はそう言って外から声をかけた。 話したいこと、本当はまとまっていないし、 どう言おうかなんて考えていなかったけど。 少し緊張しつつ待っていると…ゆっくりと障子が開いて、土方さんが出てきてくれた。 「あ…土方さん、あの…」 考えはなかったけれど、私はとりあえず声を出し、 何を言うべきか思考をまさぐりながら話した。 でも、土方さんはふと私から視線を外し、 「……悪いが…後にしてくれないか?今は少し…。」 そう言った。 私とは話したくない…と、避けているのが一目瞭然な態度だった。 「ま、待って下さい…!」 そのまま障子を閉めてしまいそうな土方さんの態度に、私は慌てて障子を押さえた。 少し強引だとは思う。土方さんも驚いて私を見ている。でも…。 「さっきのこと…!私、土方さんのこと拒んだわけじゃないんです!」 必死に言った私の言葉に土方さんが止まった。 「さっきのことは…私の不注意で土方さんに迷惑をかけてしまったから。 それに…お怪我をさせてしまったかと…。」 真っ直ぐ私を見ていた土方さんの瞳に、少し驚いたような感情が宿っていた。 やっぱり土方さんは私の態度を否定的なものと受け取っていたのかもしれない… 交わった土方さんの視線にそう思った。 「私!土方さんのこと…!」 真っすぐ土方さんの瞳を見つめ、私がさらに言葉を続けようとすると、 ふいに体が引き寄せられて、今度は本当に土方さんに抱き締められていた。 「もう…それ以上は言わなくて良い。」 その現状に少し驚いたものの、聞こえた土方さんの声に私の動きも止まる。 今度は別に抵抗するつもりはなかったけど、やっぱり突然で驚いてしまったから…。 「その…さっきは俺も驚いたから、あんな態度を…悪かった…。」 土方さんは私を抱き締めたまま、怖ず怖ずと謝ってくれた。 きっと今私を抱き締めたのは顔を見られたくなかったからなのだろう。 土方さんの声は不安そうに少し震えている。 きっと土方さんにも勇気のいる行為だったのだ。 「……いえ。」 私は無意識に土方さんの背中に手を回した。 瞬間、土方さんの体がびっくりしたように跳ねたけど特に気にはしなかった。 土方さんは私のことを心配してくれたし、大切にしてくれている。 私も…土方さんのことは尊敬しているし、大切だから。 「ありがとうございます。」 いろいろなことを含め、私がお礼を言うと、 土方さんは私を抱き締めていた手を緩めて離してくれた。 もう一度顔を見られるようになって土方さんと目が合うと、 私は土方さんの誤解が解けてホッとした今の気持ちと嬉しい気持ちから、 満面の笑顔でつい言ってしまった。 「大好きですよ、土方さん。」 その言葉を聞いて、土方さんは明らかに動揺した。 抑えていたものがあふれ出るかのように…。 の言葉に深い意味はないこと、きっとわかっているはず。頭では。 たが…。 「……」 「…え?」 感情の方は抑えられなくて、土方さんはの肩に手をかけて、顔を近付けた。 何もわかっていないは抵抗する素振りもなく…このままでは…。 「にゃー!」 触れそうな程二人の顔が近づいた時、 それを阻止するような声が二人の間に響いた。 「「!」」 そして驚いている二人を余所に、声の主はに飛び付いた。 「誠さん?」 「にゃ!」 反射的に手を出したの手に飛び付き、 そのまま肩までよじ登ると、誠は土方さんを威嚇し、毛を逆立てた。 「っ…;」 「誠さん!どうしたんですか?」 誠の態度に驚く。 やはり気付いていなかったのだろう…。 だが、土方さんはそれで我に返ったようだった。 「にゃー!」 非難するような誠の声をうけて、に触れていた手を離した。 「…すまない……。」 「へ?い、いえ…私こそ…。」 気まずい思いの土方さん。 最もが気付いていないなら、気にすることはないのだが…。 むしろそれが気まずいのかもしれない。 やはり自分の気持ちに気付いて欲しい、それが本心だから。 土方さんはを見つめ、柔らかく微笑むと… 躊躇いつつも精一杯の言葉を口にした。 「その…俺もお前のことは…す、好きだし、大事だ。 だから…困った時は遠慮せずに頼ってくれて良い。」 普段は躊躇って口にはできない。 自分の立場やの気持ち…考えることが多いから。 だが、今なら言えた。 の口から素直な気持ちを聞くことができた今なら。 がその中の本心を汲み取ってくれることはなかったけれど…。 「…………はい!」 今は力強く、笑顔で答えてくれた、その返事だけで土方さんは満足だった。 戻る 2010.09.11
久々の更新過ぎて何だかよくわからない話に…(爆)
しかもオチは毎度毎度同じオチで、まったく進展がない。 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいorz おまけに、主人公視点といっているのに、最後の方だけは第三者視点(?)だし。 アイコン『シリアス』にしてるけど、何か微妙だし。 (ぶっちゃけ他のどれにも当て嵌まらな気だったからシリアスになっただけ・爆) …ホントまったく文才が成長しないな、私(泣) いや、もうホントすみません。 何か今回いい訳ばっかりなあとがきに…。 ホントネタもなくなってきて、最近不調なんです…。 ってこれもいい訳だ…! とにかく……精進します!!!; |