-二人でお茶を-
「君、ちょっといいかい?」 「はい、なんですか?」 たまたま部屋の前を通りかかった時、近藤さんに呼び止められた。 振り返り、手渡されたのは山積みの書類。 「…あ、あの?これは?」 「悪いけどこれを山南さんに届けてくれるかい?」 「はい、わかりました……でも、こんなにたくさんですか?」 重くは無いが、自分の目線程の高さまである 書類の山には目を丸くした。 「いや〜ちょっと溜まっちゃってて…。」 あはは…、と笑う近藤さん。 どう見ても「ちょっと」ではない。 「じゃあ、悪いけど頼むね。」 「はい。」 近藤さんはそういうと部屋に戻った。 (こんなにたくさん…山南さん…大変ですね;) 少し同情しつつも、は書類を持って山南さんの部屋に向かった。 *** 「山南さん?いらっしゃいますか?」 部屋の前でが呼びかけると、 ボン! 「!?」 部屋の中から何か爆発音のようなものがした。 「山南さん!」 が慌てて戸を開けると、 部屋の中は白い煙で覆われていてまったく中は見えない状態。 「!?…っ!ゴホッ!」 立ち上る煙に、が激しく咳き込むと 慌てた様子の人影が部屋から出てきた。 「すまない、大丈夫かい?君?」 「や、山南さん!……山南さんこそ大丈夫ですか?」 「え?」 慌てて出てきた山南さん。 しかし、その惨澹たる様子には思わず尋ね返した。 着物は汚れて…というか、全身真っ白で、 髪まで白くなっている。 まるで玉手箱を開けた浦島太郎のような風貌だ。 「山南さん、着替えた方が… いえ、お風呂に入った方がいいですよ?」 「え?そ、そうかい?」 一応、自分の現状がわかっているのか山南さんは苦笑いした。 「お部屋のお掃除は私がしておきますから…。」 「それじゃ、お言葉に甘えようかな…。…悪いね。君。」 「いえ。」 山南さんを見送った後、部屋に入ったは一瞬言葉を失った。 部屋中一面真っ白で、天井までもが真っ白だった。 部屋の掃除を引き受けたのは自分だが、これはかなり大変そうだ。 はちょっぴり後悔しそうになりつつも、気合を入れて取り掛かった。 *** なんとか部屋の掃除を終えて、が一息ついたとき、 丁度山南さんが戻ってきた。 「やあ、悪かったね。大変だっただろう?」 「あ、山南さん。大丈夫ですよ、もう終わりましたから。」 「本当かい!?すごいな…ありがとう君。」 「いえ。」 山南さんはすっかり綺麗になった部屋を見て驚き、 感心して、に御礼を言うと、ふっと笑った。 「?」 「ごめんね、僕のせいで今度は君が汚れてしまったね。」 掃除に奮闘したことを物語る、白くなったの髪を山南さんはパッパッとはたいた。 「あ…すみません、山南さん。」 「いや、僕の方こそ。ここはもういいから君も洗っておいで。」 「そう…ですね。」 せっかく部屋を掃除したのに、自分がいることでまた部屋が汚れたら元も子もない。 は山南さんに一礼すると、掃除道具を持って戻ろうとしたが、 「あ、君。」 山南さんが呼び止めた。 「はい?」 「あ〜、えっとね。悪いんだけど、終わったらまたここへ来てくれないかな?」 「え?」 「君が戻ってくるまでに、近藤さんの書類は終わらせておくから。」 「あ!」 山南さんはそう言うと、書類の束を見せた。 掃除に夢中になって、すっかり忘れていたが山南さんは気付いていたらしい。 「すみません、お願いします。」 「それじゃあ、後で。」 が頭を下げると、山南さんは笑顔で見送ってくれた。 愛かは一先ず掃除道具を片付けると、風呂場へ向かった。 *** 「あ、君。ありがとう、来てくれたんだね。」 がもう一度部屋に行くと、山南さんは嬉しそうにを迎えてくれた。 「これ、近藤さんの書類。できてるからね。」 「わ、もうできたんですか?」 自分が戻ってくるまでに終わらせておくとは言っていたが、 膨大な量だったので、少し時間をかけて入浴してきた。 それでも、まだそんなに時間は経っていないのに…。 差し出された書類を受け取りは目を丸くした。 「いや、たいしたことないよ。」 山南さんは照れ笑いを浮かべて、頭を掻いた。 「じゃあ、近藤さんに届けてきますね。」 書類も受け取ったことだし、とそのまま戻ろうとした を山南さんは慌てて引き止めた。 「あ!君!」 「はい?」 「いや、…その、せ、せっかくだからお茶でもどうかな?さっきのお礼もしたいし…」 「お礼だなんて…。」 「ダメかい?」 遠慮がちに尋ねる山南さんに、はふっと噴き出した。 「いえ、ありがとうございます。せっかくだから頂きます。」 そう言って、が笑顔で返事をすると、 山南さんはほっと嬉しそうな顔をし、そそくさとお茶の用意をしに行った。 *** 山南さんがお茶の用意をしてくれて、 お茶菓子も用意してくれので、も慌てて手伝うと、 二人は山南さんの部屋で一服することになった。 「山南さん、一体何をしていたんですか?」 山南さんが用意してくれたお茶を飲みながら、 は気になっていことを尋ねた。 「いや、新しく思いついたことを実験したくてね…。」 山南さんは苦笑いしながら頭を掻いた。 山南さんの発明好きは新撰組内でも有名だし、いろいろと 実験のとばっちりを受けて被害を受けた人もいるし、 実験台にされた人もいるとか…。 普段は温厚だし、落ち着いていて優しい山南さんだが、 発明のこととなると人が変わるらしい…。 いろんな人からその話を聞いていただったが、 実際目の当たりにしたのは初めてで、正直驚いていた。 「新しく思いついたことってなんですか?」 それでも気になったは山南さんに尋ねた。 山南さんは少し困ったような顔をすると、しばらく考えて、 「君は雪が好きなんだそうだね?」 と言った。 「え?ええ。好きです。」 突然の質問。 意図はわからないがはとりあえず返事した。 「まだ時期じゃないし、この辺で雪が降るかわからないからね。 それらしく見えるような物を作ってみようと思ったんだけど…。」 山南さんは照れ臭そうにそう言った。 「あ、じゃああの白いのは雪だったんですか?」 「正確には雪に見せようとしたものだよ。」 山南さんの言葉には嬉しそうに尋ね、 その様子に山南さんも嬉しそうに笑った。 「まあ、失敗してしまったんだけどね。」 申し訳なさそうに最後にそう付け加えた山南さんには優しく笑うと、 「お気持ちだけでも十分嬉しいです。」 と言った。の言葉に山南さんは少し赤くなると、 困ったような照れたような表情で、小さく、 「ありがとう。」 とお礼を言った。 (何か僕の作ったもので、君を喜ばせてあげたかったんだけどね…。) 山南さんは隣でお茶を飲んでいるを見ながらそんなことを考えていた。 さっきのの言葉は嬉しかったけど、やっぱり実験は失敗だったし、 失敗した結果の後始末をにさせてしまったことなど、気持ちは複雑だった。 さっきの雪の実験はかなり無理があったのに強行してしまって、 結果彼女に迷惑をかけてしまった。 雪が好きだと言った彼女。 ぜひ成功させて、喜ぶ顔が見たかったけど、 この実験は諦めたほうがいいのかな…。 山南さんが残念に思いつつも実験は諦めたほうがいいか…と、 考え込んでいると、横でお茶を飲んでいたが何かに気付き、 パァと嬉しそうな顔をした。 「どうかしたかい?君?」 山南さんが声をかけると、は嬉しそうな 顔のまま山南さんの方を向くと、 「山南さん。実験、次は成功すると思いますよ。」 と、何故か自信満々な様子で答えた。 「?どうしてだい?」 山南さんが不思議そうな尋ねると、 は自分の湯呑みを山南さんの前に差し出した。 「?」 よくわからないが、差し出された湯呑みを覗き込むと、 中で茶柱が浮いていた。 「ひょっとして、これかい?」 山南さんが苦笑いで尋ねると、 「はい!」 は笑顔で答えた。 「このお茶も、山南さんが作ってくださったものですから! きっと次は上手くいきますよ!」 にこにこと自信満々な笑顔でそう言ったに山南さんは噴き出した。 「ははは、そうかもしれないね。」 に笑顔でそう言われると、 本当にそんな気がしてくるから不思議だ。 少し落ち込み気味だった気持ちもすっと晴れたような気がするし、 本当に不思議な子だな…。と山南さんは心の中で呟いた。 「山南さん。」 「ん?」 「成功したら、是非見せて下さいね。」 にっこり笑ってそう言ったに山南さんも笑顔になって返事した。 「ああ、もちろん。一番最初に…君に見せるよ…。」 戻る 2006.12.19
う〜ん、山南さん難しい…(^ ^;Δ
タイトルが最初に決定し、このタイトルなら山南さんだな! と、決定したまではよかったんですけど…内容がなかなか浮かばず;; 結局お茶は最後だけだし、実験はわけわかなんないし!(泣) 一体何を使って実験したかは不明です!(笑) その上ちょっと時季がずれた・・・(>_<) ホントは秋頃から考えてたけど間に合わず、今じゃ雪降る季節だよ…(泣) |