-脱☆猛暑-




「あ”〜くそ暑い〜!」

「もうダメだ〜…;」


蝉の声も鳴り響く夏の真っ只中…、
あまりの暑さにすっかりだらけ気味の新撰組屯所…。


「…大丈夫ですか?」


縁側でぐったりしている永倉さんと原田さんは
声をかけられ顔を動かした。


「おう、、桜庭。」

「暑い…もう死ぬ…」

「もう!しっかりして下さいよ!
 原田さん!そんなことばっかり言ってるから暑いんです!」


廊下でべったりと寝そべっている原田さんに、
鈴花さんは呆れたように声をかけた。


「んなこと言ったってよ〜あちィもんはあちィんだよ!」

「だらけたいだけでしょ!ほら、起きて下さいよ!」

「離せ〜桜庭〜!動いたって暑いだけだ!!」


ぐぐっ…と、寝そべっている原田さんを起こそうと
鈴花さんは腕を引っ張ったりして、何やら二人は揉めていた。

そんな二人をは微笑ましく、
永倉さんは苦笑いして眺めていた。

と、そんなことをしている所へまた誰かやって来た。


「…何やってるんだ。
 暑いからといってこんなところでサボってるんじゃねぇだろうな。」


暑さも吹っ飛ばすような凛とした声と、
厳しい空気に一瞬周りが固まった。


「ひ……土方さん…;」


その声に飛び上がり、引きつった顔になったのは
もちろん「サボっていた」男性二人。


「原田!お前そんな所でだらけている場合か!」

「わ、わりぃ;土方さん…あんまり暑かったもんでつい…;」

「それに着物ぐらいちゃんと着ろ!」


だらけていた態度、服装に、土方さんはご立腹。
暑さのせいで土方さんも機嫌が悪いのか…お説教が続きそうだったが、


「まあまあ土方君。今日は特に暑いし、
 みんなも疲れているんだから、大目に見てあげてはどうだい?」


助け舟を出したのは一緒に居た山南さんだった。


「サンナンさん…。」


山南さんに言われ、一先ず口を閉じた土方さんに、
原田さんも安堵の息を吐いた。


「それにしても、今日は本当に暑いですね…。
 水浴びでもしたら、気持ち良いかもしれませんね。」


少し周りの空気が収まったところで、
がポツリと口を開いた。


「水浴び…?」

「はい、きっと気持ち良いですよ♪」


にこ〜っと楽しそうな笑顔で言うに、
微妙に照れた男性陣は苦笑いした。


「でも…私達はそんな簡単じゃないですし、男の人は良いですよね〜。」


そんな中鈴花さんは不服そうに呟く。


「それはそうですね。」

「原田さんみたいに、裸で居てもいいわけですから。」


だらけていた原田さんを窘めていた鈴花さんだったが、彼女だって、暑くないわけではない。
と言うよりは、みんな暑いものは暑いのだ。

羨ましげに言った鈴花さんに、
原田さんと永倉さんはニヤニヤと笑うと、


「んじゃあ、おめぇも脱げば良いだろ。」


といった。


「な!?…/// 何言ってんですかーー!!!

 原田さんのスケベーーーーーーーー!!/////



鈴花さんは真っ赤になって怒鳴った。
いつもなら軽く流しそうなものだが、やはり暑さで気が立っているのかもしれない…。


も…、っつかむしろ是非って感じだぜ なんなら手伝ってやっても良いぜ?」


永倉さんはにもそう言って詰め寄ったが、
は赤くなったが、困ったように苦笑いしただけだった。

もちろん、永倉さんも原田さんも冗談で言っているのだし、
軽い気持ちだったが、暑さで機嫌が悪く、平静ではなかったのは、
鈴花さんだけではなく、もう一人…。


「永倉…原田…」

「?」

「土方さ…!?」


ボソリと名前を呼ばれ、二人が振り返ると、
土方さんはそれは恐ろしいオーラを放っていた。


「…………;;;;」


どうやらに向けて言った言葉が感に触ったらしい…。


「そんなに暑いならこの際道場の掃除でもしてもらおうか…?」


「「え”え”!?」」


「そこまで汗だくの状態ならそう変わらないだろう?
 いっそ倒れるまで動いてその後水浴びでもした方が気持ちも良いだろ?」

「ひ…土方さん…;」

「俺ら…別に…;」

「遠慮するな…特別に俺も手伝ってやる。
 桜庭、二人が逃げないように見張りを頼む。」

「任せてください!土方さん!」


「「Σ桜庭!?」」


何故か鈴花さんまでノリノリで、
結局原田さんと永倉さんの二人は、土方さんと鈴花さんに
引きずられる様にして道場に連れて行かれた…。


「………;」

「………;」


「や、やっぱり今日は相当暑いんでしょうか…;」

「そうだね;土方くんも疲れが溜まっているしね…;」


残されたと山南さんは呆気に取られ、
フォローをする暇もなく、みんなの後姿にポツリと呟いた。


「ところで君。」

「はい?」


四人を見送った後、山南さんは思い出したようにに声をかけた。


君は大丈夫かい?
 この間暑さで倒れたことがあっただろう?
 今日も暑いから、無理をしない方が良いよ?」


山南さんは苦笑いしながらそう言った。


「ありがとうございます、山南さん。」


山南さんの言葉に、は笑顔で返事をし、
それをうけて山南さんも笑ってくれた。

そして、山南さんは、日差しの強い空に視線を向けると、
何か考えるような顔をした。


「どうしたんですか?山南さん?」


そんな表情にが不思議そうに尋ねると、
山南さんは思いついたようにに尋ねた。


君…」

「何でしょう?」

「暑さを凌ぐ方法と言えば何があるかな?」

「え?」

君はどんなことをして暑さを凌いでる?」


山南さんは外を見ていた視線をに向けた。
真剣な表情だ。


「……そう…ですね…。」


何やら真剣な山南さんの様子に、
も少し考え口を開いた。


「日陰とか、風通りの良い場所とかで涼んだり…冷たいものを食べたり…とかでしょうか?」

「なるほど……」


の答えに、山南さんは納得したように頷き、
少し黙り込んでいたが、

「なるほど…風…か…」

小声で何事か呟くと、意を決したように立ち上がった。


「山南さん?」

「ありがとう、君。
 君のお陰で良い物ができそうだよ!」

「へ?」

「私がカラクリで、何かみんなの暑さ対策になるような物を作るよ!」

「……え"!?」

「それじゃあ!君!完成したら見せるからね!」

「あ…や、山南さん……;」


すっかりやる気になってしまった様子の山南さん。
颯爽と去って行ったが、残されたは微妙に複雑な思いだった。


「私……余計なことを言ってしまったんでしょうか…;」


自分のせいで山南さんの発明魂に火がついてしまったのかと、
ちょっぴり責任を感じただった。



***



数日後……。


君、桜庭君。」

「あ、山南さん。」

「おはようございます。」


上機嫌の山南さんが話をしていたと鈴花さんに声をかけた。


「どうしたんですか?」


嬉しそうにしている山南さんに鈴花さんが笑顔で尋ねると、
山南さんは、自信有り気にめがねを持ち上げ、
おもむろに鈴花さんとの前に、カラクリ人形を突き出した。


「「……………これは;」」


不気味に笑うカラクリ人形に、二人は焦り、
引きつった笑顔で尋ねたが、山南さんは変わらない笑顔で、


「この猛暑を乗り切るために新しく発明した…、その名も『暑さ吹っ飛ばす君』さ!」


と、自慢げに言い切った。


「「あ…暑さ吹っ飛ばす君…?;」」

「そう、大丈夫!危険はないから!」

「「………;;」」


危険はないと説明する山南さん。
危険そうだと思ったなんて、口が裂けても言えない二人…。

大人しく山南さんが人形を稼働させるのを見ていた。



***



「どうだい?」

「ああ…これなら…」

「そうですね…。」


とりあえず動かしてみると、特に変な動きもなく、
『暑さ吹っ飛ばす君』は大人しく動いていた。

『暑さ吹っ飛ばす君』は扇子を手に持ち、
扇いでくれる人形らしく、確かにこれなら危険はなさそうだ。

『暑さ吹っ飛ばす』と言う名前は少々言いすぎだが、
自分で扇ぐのが面倒だと言う人には楽で良いだろう。


(これでもう少し、人形の顔が可愛かったら良いんですけど…)

(……鈴花さん;)

「ん?なんだい?」

「い、いえ!別に…;」


不気味な笑みを浮かべている、『暑さ吹っ飛ばす君』を見つめ、
鈴花さんはポツリともらしたが、山南さんに気づかれてはと、慌てて話題を変えた。


「ところで、これ、もう少し早くは扇げないんですか?」

「早さも多少は調節できるよ。もう少し早くしてみようか?」

「確かに早く扇いだ方が涼しいですけど…危なくないですか?」


山南さんは大丈夫だと言っているし、今は問題なく動いているが…、
やはり……と、一抹の不安を抱え、がそう言った時。



ヒュルルル……


ガキン!!!



「「「!!?」」」


何かが飛んできて『暑さ吹っ飛ばす君』にぶつかった。


「悪りィ、大丈夫か;」


慌ててやってきたのは原田さん。


「私達は平気ですけど、山南さんのカラクリが…」

「サンナンさんのカラクリ?」


鈴花さんが答え、原田さんが視線を倒れてしまった『暑さ吹っ飛ばす君』に向けた時、
倒れていた『暑さ吹っ飛ばす君』が突然起き上がった。



キラーン


「「!?」」

(今……目が光ったような……;)


そして『暑さ吹っ飛ばす君』は、自分にぶつかった、
原田さんが投げつけた(?)物を拾い上げ、原田さんの方を向いた。

そしてそれを先程と同じように扇ぐように動かし…

原田さんを殴りつけた!!


「!?…は、原田さん…!?」


『暑さ吹っ飛ばす君』が手に持っている物。

それは……


『芹沢さんの鉄扇』


「イテテテテ!!や、やめろ!!」


バシッ!バシッ!


『暑さ吹っ飛ばす君』が怒ってる…!?」

「山南さん!あれは人形でしょう!?」

「いや、でも;物にだって魂が宿ることもあるとか…。」

「怖いこと言わないで下さい!」

「そ、そんなことより原田さんが!!」

「イダダダダ…!」


バシッ!バキッ!!


『暑さ吹っ飛ばす君』はすっかり暴走している。


「は、原田さん!大丈夫ですか!しっかりして下さい!」


は慌てて原田さんに駆け寄り、声をかけたが、
鉄扇でしこたま殴られた原田さんは完全に気を失っていた…。


「原田さん!?」

「どした、……左之!?一体どうしたんだ!?」

「な、永倉さん…」


すっかり慌てているに声をかけたのは、
たまたま通りかかった永倉さん。

永倉さんはボコボコになっている原田さんを見て驚いたが、
それよりも…


「あ!永倉さん危ない!!」

「え?」


バキッ!!


「痛って!?」


鈴花さんが慌てて声をかけたと同時に、
『暑さ吹っ飛ばす君』が今度は永倉さんを殴った。


「な、何だよ…これ…;」

「山南さんの新しいカラクリです…;」

「永倉さん!逃げて下さい!!」

「な……;」


思いっきり鉄扇を構えている『暑さ吹っ飛ばす君』
今度は永倉さんをターゲットに決めた模様…。


「なに〜!?何でだ!!」


と鈴花さんの言葉に逃亡に出た永倉さんだったが、
やはりと言うべきか…『暑さ吹っ飛ばす君』は永倉さんを追いかけて行った。


「な!?勘弁してくれよ!!」


原田さんの成れの果てを目にしている永倉さんは必死。

山南さんの作った『暑さ吹っ飛ばす君』はもはや、
『隊士ぶっ飛ばす君』になっていた…。



***



「山南さん!早く止めないと大変なんじゃないですか!!」


必死に逃げ回っている永倉さんだが、
『隊士ぶっ飛ばす君』……もとい『暑さ吹っ飛ばす君』
負けじと後を追っている。

このままでは疲れた永倉さんが原田さんと、
同じ運命を辿るのも時間の問題…。

流石に慌てた鈴花さんは山南さんに詰め寄った。
山南さんもどうすべきかと悩んでいた…その時…!

『暑さ吹っ飛ばす君』、大きく振りかぶって……



鉄扇を投げた!



永倉さん!すかさず避けた!!



お見事!(笑)



……ただ、永倉さんが避けたおかげで、
鉄扇はその先にいた人物の方へ飛んで行ってしまった。

先にいた人物とは……


「!!」

さん!?」

「げっ!?!危ねぇ!!!」


原田さんを看病していただった。
座り込んでいる体勢のには、永倉さんのように俊敏に避けるのは流石に無理だった。

思わず目を閉じ、頭を押さえたが…


バシッ!!


鉄扇は直撃。


……ただ、には特に痛みはなかった…。


「……?」


恐る恐る目を開けると、の前には庇うように山南さんが立っていた。
鉄扇が直撃したのは山南さんにだったのだ。


「大丈夫かい?君?」


山南さんは痛みに耐えるように顔をしかめたが、
を気遣うように笑顔で尋ねた。


「や、山南さん!?す、すみません!山南さんこそ!大丈夫ですか!!」


自分を庇ったためにと、はオロオロと慌てたが、
山南さんは、そっとを抱きしめると、


「君に怪我がなければ良いんだよ……。」


と言ってくれた。


「山南さん……」

「まあ…もし、君が怪我をしても、私が責任を取るつもりだったけどね…。」

「え…?それは…」


山南さんは少し照れたように笑ってそう言ったが、
の答えは……、



「山南さんは医学の知識もお持ちだと言うことですか!」


「……え;ま、まあ…少しは…;;」



的外れなの答えに、せっかくの山南さんの言葉も、
良い雰囲気も全て吹っ飛び…、


「そ、それじゃあ原田さんを見てあげて下さい!酷い怪我ですよ!」

「そ、そうだね…;」


原田さんと『暑さ吹っ飛ばす君』、 それぞれ治療することになった…。

そして、今回の騒ぎで山南さんは土方さんから
『三ヶ月のカラクリ禁止令』を出されたのだった…。




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2007.08.01