ふわふわした温かい空気が傍に。 何だか安心していたのは夢の中だからだと思っていたけど…。 -愛し君へ- 「…ん…。」 またついうたた寝をしてしまっていたは、ようやく意識を取り戻した。 何だか温かい、ほっと安心したような夢を見た気がしたけど…。 「……?」 まだぼんやりとした頭だったけど、は何か違和感を感じた。 うたた寝したのは縁側。 縁側は堅い廊下のはず。 じゃあ…この枕になっている温かい、柔らかいものは…? 「……」 「やあ、おはよう君。」 不思議に思いながら首を動かしたの目に飛び込んできたのは 何か楽しそうな笑顔の新選組局長、近藤勇その人。 「……」 「……」 「ひゃあ!?こ、近藤さん!?」 驚いて飛び起きたに近藤さんは声を上げて笑った。 「あははは!やっぱり驚くと思ったよ!」 「こ、近藤さん!どうしてこんな所に…!」 本当に楽しそうな様子の近藤さん。 は笑い事ではないし、そんな風に笑われて不満もあったが、 現状に混乱していて抗議する余裕もなかった。 近藤さんはひとしきり笑うとの顔を真っすぐ見て、 「おはよう、君。」 にっこりと満面の笑顔を浮かべた。 *** 「いや、君がこんな所で寝ているからどうしようかと思ったんだよ。」 ようやくはっきり目も覚めて、縁側に座り込んでいる二人。 近藤さんはたまたま歩いてきた廊下の先に座ったまま熟睡しているを見付け、 かなり驚いたが、放っておく事もできず、 かといって部屋に連れて行こうと移動させたら起きてしまうかと思い、 傍にいることにしたらしい。 膝枕していたのは不可抗力でが倒れてきたからだとか…。 「そうでしたか…すみません…///」 話を聞いて、すっかり恐縮してしまったは真っ赤になり俯いた。 またとんだ失態を曝したものだ。 近藤さんは気にしていない、と言うかむしろ楽しそうだが、 ふと苦笑いになり、少し躊躇いつつもを諭した。 「いやいや、まあ役得だったから俺は良いんだけど…。」 「?」 「やっぱり気を付けた方がいいよ、ここは…屯所内だし…。」 「……え?」 何やらかなり不安げな様子というか… だが、には近藤さんの言った意味がわからなかった。 外ならいざ知らず、にとって新選組は、屯所は、今は家のようなもの。 何に気を付けろと言うのか…? 「屯所内だから…大丈夫なんじゃないんですか…?」 「……いや、逆に危ないこともあるんだよ?」 「??」 の答えに近藤さんはますます苦笑いしたが、 当のもますます混乱するばかりだった。 「ん〜まあ…やっぱ自分の部屋以外では寝ない方が良いね。頼むよ、君。」 「は、はい…。」 それでも、最後には段々と必死になってきた近藤さんが勝利(?)し、 以後気を付けると約束した。 「それにしても、こんな所で寝るなんて…疲れてる?」 近藤さんはふとを気遣い心配そうな顔をした。 そんな近藤さんには笑顔を返し、首を振る。 「いえ、そんなことはありません。少しウトウトしてしまっただけですから。」 「そう?」 「はい。」 心配かけまいと気遣っているのかと、 近藤さんは探るような顔をしていたが、 はにこにこした笑顔を崩さず、 「そういう近藤さんこそ、お疲れなんじゃないですか?」 逆に近藤さんに尋ねた。 「え?」 「昨夜もお出かけで、お帰りは遅かったのでは?」 の指摘に、近藤さんはギクリと焦った顔をした。 「?」 「いや、まあ…少しはね…;」 そして苦笑いして頬をかき、言葉を濁した。 は不思議そうな顔をしたものの、また柔らかく笑うと、 近藤さんも疲れているなら無理せず休んだ方が良い。 と言って諭した。 「近藤さんは新選組の局長さんなんですから、 近藤さんに何かあったらみんな心配しますよ?」 「…………」 の言葉に少し動揺し、焦ったものの、 はそれについては追求することはなく、ただ笑ってそう言った。 励まそうと気遣ったのは自分の方なのに、 いつのまにか立場が逆転している。 いつも思うが、こういう所はの方が上手だと近藤さんは改めて感じた。 自分の方がずいぶん年上で、立場的にもしっかりしなくてはと思うのに… 何故か気付ば彼女に甘えてしまっている時があると。 の態度が無意識で、何も考えていないからなのかな… と近藤さんはほっとする気持ちの中、そんなことを思った。 自然とそういうことができるのが、凄いことだと…。 最も、近藤さんも新選組の隊士たちに取っては十分そんな存在であるのだが…。 自覚していない所は二人の共通点で、ある意味似たもの同士なのかもしれない。 近藤さんは改めてに笑顔を返し、 さらに何か思いついたのか今度は含むように笑うと、 「じゃあ、お言葉に甘えようかな〜♪」 と言って、の膝に頭を乗せて横になった。 「近藤さん?」 「今まで俺がしてたし、お返しってことでv」 「はあ…まあ別に構いませんけど…。」 は少し驚いたものの、そう言われ納得したのか、 小さく頷いて大人しくした。 それに満足したのか、近藤さんは嬉しそうに笑うと目を閉じた。 このまましばらく眠るのか…。 いつ頃起こせば良いのか…。 目を閉じた近藤さんに、はそんなことを思い。 尋ねるべきか迷っていると…。 「それと…もう一つお願いがあるんだけど…。」 近藤さんがおもむろに目を開け、少し遠慮がちにそう言った。 「え?あ、はい。何ですか?」 少し面食らったが慌てて答えると、 近藤さんはさらに少し迷った様子を見せた。 「?」 何か…そんなに頼みにくい『お願い』なのか…? 「あの…?」 言いにくそうな近藤さんに、 の方が即すとようやく近藤さんが続きを口にした。 「あ〜えっとね…何か唄って欲しいんだけど…。」 「え?」 かなり遠慮した言い方だった。聞き逃しそうになるほど。 近藤さんにしては珍しいが、 それはこのお願いが中々に難しいものだということをわかっているからだろう。 案の定、は明らかに困惑した様子を見せた。 「え……唄…ですか?」 不安そうな顔のに、近藤さんは慌てて手を振った。 「あ、いや!無理にとは言わないけどね! ちょっと聞きたかっただけで…; 君があまり人前で唄うの好きじゃないのはわかってるから!ホント無理なら別に…」 必死の弁解だった。 普段の近藤さんからは考えられない程に…。 「………ふっ…」 それに思わず吹き出す。 「君…?」 「ふふっ、すみません…、でも…っ」 おまけに笑いを堪えているようだった。 「ひどいな〜;そんなに笑わなくても…;」 「だって、近藤さんがあんまり慌てるから…」 「それは君がそんな顔するからだよ。君を泣かせたら各方面から何を言われるか…。」 「ご、ごめんなさい…近藤さん。」 あまりに笑うに、近藤さんは不満そうな顔をしたか、 思えばがこんな風に笑うのを見るのは珍しいかもしれない…。 特に最近は…。 まだ笑いを堪えているに近藤さんは密かにホッとしたものを感じて笑みを盛らした。 「ねえ、君。 そんなに人のことを笑ったんだし…お願い聞いてくれるよね?」 ようやくの笑いが納まった頃、 近藤さんはじとっと悪戯っぽくを見つめて言った。 「……あ…えっと…;」 「君。」 「…………はい、失礼しました…。」 その言葉は効果覿面。 人を笑い者にしたのだから…、と申し訳なく思ったのか、 は苦笑いして頭をたれた。 「…………」 「…………」 そして目が合うと、互いに何かを確認し、 近藤さんは目を閉じ、は顔をあげて少し迷った後静かに唄いはじめた。 澄んだ空を見つめて想う 貴方はいまどうしていますか 遠く離れている愛しい人 無事でいますか 笑っていますか それだけを願い 貴方につづくこの空を 今日も見つめています 貴方も同じこの空を 見上げていると信じ 貴方も同じこの空の 下にいると信じて 静かな声。 静かな空気に溶けていくようだった。 「……何か思い出したかも…。」 近藤さんはゆっくり目を開け、ぼそりと呟いた。 それには悪戯っぽく笑って答える。 「つねさんの…ことですか?」 複雑そうな顔になる近藤さん。 「あ〜……」 遠く離れている愛しい人 「……君…もしかして、謀った?」 「さあ、どうでしょう…。」 複雑そうな近藤さんに対して、は楽しそうだった。 「でも…今、近藤さんが心に想った人はきっと近藤さんにとって大切な人ですよ。 きっと……誰より…。」 真っすぐ瞳を見つめて言った。 近藤さんは目を逸らさずにそれを受けとめ、ゆっくり目を閉じると小さく頷いた。 「そっか…。」 閉じた目蓋に浮かんだのは…。 近藤さんはゆっくり体を起こし、伸びをして大きく息を吸った。 「はぁ〜、それじゃあまあ…久しぶりに手紙でも書こうかな。」 「はい!きっと喜びますよ!」 ぽつりと盛らした近藤さんの台詞に、はぱっと表情を明るくした。 まるで自分のことのように喜ぶ姿に、近藤さんも思わず笑う。 「ありがとう、君。」 忘れていたわけではないけれど、 大切なこと、大切な人のこと、思い出させてくれて…。 「いえ、」 はにこにこした笑顔のまま、お礼を言った近藤さんに返事をした。 近藤さんはの笑顔に救われた気がしたが、本当はそれはも同じだった。 自分のしたことで、唄った唄で近藤さんが元気になったことに安心し、 笑ってくれた近藤さんに釣られて笑ったのだ。 逢えない愛しい人を思い出すのは、時には辛いし寂しい事だから…。 でも、決して忘れたくはないことで…。 近藤さんはそれをよく受けとめてくれた。 それに何よりホッとしていた。 「じゃ、またね。」 近藤さんは手を振ると、手紙を書くため部屋に戻っていった。 それを見送り、も自分の心に問い掛けた。 遠く離れている愛しい人 それはにもいるから。 「……私も…書きましょうか…手紙…。」 きゅっと手を握り締め、もぽつりと呟いた。 近藤さんに習って、愛しい人へ。 離れていても、いつも変わらず想っています…と、伝えるために…。 戻る 2010.12.09
近藤さんのUPが久々すぎることに焦りました;何年越し;(滝汗)
すみませんorz で、本編についてですが…え〜、相変わらず全力ほのぼの路線です。 まあ、この二人に恋愛はありえないので、どうしてもこうなりますが。 今回はあえて言うなら近藤夫婦愛って感じで!(笑) そして、夢兄妹、兄妹愛で! 大切な、愛しい家族へ…ね?☆ ちなみに主人公の歌の部分はあまり気にしない方向でお願いします。 私の好きな歌をイメージした自作ポエム(?)のようなものです;(恥) |