-乙女心と秋の空-後編




「あ、くん!ちょっと、ちょっと。」


巡察から戻って、は近藤さんに呼ばれた。
不思議に思いつつも、言われるまま近藤さんの部屋に入ると、
厳しい表情の土方さんと困ったように苦笑いしている山南さんもいた。

なんとなく怒られてしまうのかと身構えただったが、用件は意外なものだった。


「鈴花さんですか?」

「あ〜うん…まだ仲直りできてないのかな?」

「昼間から屯所で大騒ぎしやがって…」

「まあまあ土方くん。」


三者三様の反応とはいえ、みんな鈴花さんのことを心配しているんだと
思ったはなんとなく嬉しくて、ふふっと吹き出した。


「ん?どうしたの君。」

「あ、いえ。みなさん鈴花さんのこと心配なんだと思いまして。
 鈴花さん、みんなに好かれてるんですね。」


にこにこと笑いながらそう言ったに、厳しい表情をしたのは土方さんだった。


「別に心配なんて言ってねぇよ、騒がしいから迷惑だと言ってるんだ。」


怒ったようにそう言ったが、は、


「だから、早く仲直りして欲しいんですよね?」


と笑顔で返した。


「………」


複雑な表情で言葉につまる土方さん。
助け船を出すように口を開いたのは山南さんだった。


「まあ、もちろん僕達みんな桜庭君と才谷さんが
 仲直りしてくれたら良いと思ってるよ。」


笑顔でそう言った山南さんにも嬉しそうに笑うと、


「はい!大丈夫ですよ、鈴花さんも才谷さんもきっと仲直りしますよ。」


と言った。自信あり気なの様子にとりあえず大丈夫なのかな?
と、近藤さんたちは顔を見合わせた。


「まあ、喧嘩する程仲が良いとも言うし。」

「はい。」

「夫婦喧嘩は犬も食わないってのもあるし♪」


最後は明るくなった場の雰囲気に、土方さんが折れたようにため息を吐いた。
苦笑いのような複雑な表情で笑ってくれた土方さんと目が合うと、はにっこり微笑んだ。


***


近藤さんの部屋を出て、は鈴花さんの部屋を目指していた。
みんな心配しているし、やっぱり早く鈴花さんと才谷さんを仲直りさせなければ…。
と思ったからだ。

鈴花さんの部屋を目指す途中、顔を合わせたのは沖田さんだった。


「あ、沖田さん。」


が声をかけると沖田さんは嬉しそうに笑って挨拶してくれた。


「こんにちは、さん。どうしたんですか?慌ててるみたいですけど。」

「あ、いえ、別に、鈴花さんの所へ行こうと思って…。」


がそう言うと、


「ああ、才谷さんのことですか?」


と沖田さんが笑った。
みんな知っているんだとが苦笑いすると、
沖田さんは、


「まあ、あれだけ屯所内で大声で喧嘩していればみんな知ってますよ。」


と言った。確かにそうだが…苦笑いするしかないだった。


「まあ、でも、僕はそんなに心配はしていませんけどね。」


沖田さんがふとそんな風に言ったので、が、


「え?」


と言うと。沖田さんは笑って、


「桜庭さんと才谷さんが喧嘩するのはそんなに珍しくないですし。
 いつもちゃんと仲直りしていますから。喧嘩する程仲が良いって言葉がよくわかります。」


と言った。沖田さんにそう言われると、確かにそうだと思うし、 喧嘩をするのはそれだけ相手を想っているからでもある、
親しいから、 大切だから、意見の違いや気持ちを素直に言えるのであって、それ故喧嘩にもなる。

でも、ちゃんとお互い相手を受けとめ、相手を想う気持ちがあれば仲直りなんて簡単なのだ。

鈴花さんと才谷さんはそのことちゃんとわかってるんだから…。


「…そうですよね。」


なんだか安心して、もふっと微笑んだ。
そんなを見て、沖田さんもふっと笑い、


「まあ、でも、仲直りは早い方が良いですからね。
 行ってあげて下さい。さん。」


と言って、の背中をたたいて送ってくれた。


「はい、それじゃ沖田さん。また。」


が振り返り手を上げると、沖田さんも手を振って見送ってくれた。
沖田さんに見送られ、は鈴花さんの部屋へと向かった。



***



鈴花さんの部屋に行くと、
部屋の前には藤堂さんが、庭には梅さんがいた。


「どうしたんですか?」


が声をかけると、藤堂さんは苦笑いし、
梅さんは半泣きでに訴えた。


「あ〜さん!お願いじゃき!
 鈴花さんにわしと話すように説得して欲しいぜよ!」

「さっきから俺も頼んでるんだけど、なかなか許して貰えなくて…。」


藤堂さんも困ったようにそう言った。
が苦笑いすると、鈴花さんの部屋の戸が開いて、
山崎さんが顔を出した。


「あ、ちゃん!丁度良いわ、こっち来て。」


山崎さんに手招きされ、は鈴花さんの部屋に入った。
が中に入ると、藤堂さんも梅さんも口を挟む隙間もなくピシャ!っと戸が閉められた。


「鈴花さん…;」


が苦笑いで鈴花さんを見ると、山崎さんも苦笑いした。


「ねぇ、鈴花ちゃん?もう許してあげたら?
 梅ちゃんあんなに謝ってるじゃない?」


山崎さんが見兼ねてそう言ったが、鈴花さんは首を横に振ると、


「嫌です!」


と力強く言った。


「だって…梅さん私と約束してたのに…私ずっと楽しみにしてたんですよ!
 ここの所ずっと忙しくて、やっと取れた非番だったのに…!」


泣きそうな顔を堪えてそう言った鈴花さんに、
さすがの山崎さんも言葉に詰まった。


「それに…それに…!」


わなわなと腕を震わせて、続ける鈴花さんに何事かと
山崎さんが聞き返すと、鈴花さんは…、


「それに梅さん!私にくれるって約束していた『かすてえら』を
 その女の人にあげちゃったんですよーーー!!!」


と絶叫した。


ゴンッ!


鈴花さんの部屋の中と外で何かがぶつかる音がした。
部屋の中では山崎さんが鈴花さんの言葉に崩れ落ち、外では藤堂さんがずっこけた。


((そんな理由かーーー!?))


顔を上げた二人はそれぞれ事情を知る人を
救いを求めるように見たが、は苦笑いし、梅さんは、


「悪かったぜよ!鈴花さん!けど、あれは違うぜよ!」


と必死に叫んでいる。


「「はぁ〜;;」」


山崎さんと藤堂さんが大きなため息をついたが、
は鈴花さんの傍へ行って腰を下ろすと、
そっと鈴花さんを抱き締めた。


「ね、鈴花さん。」


そして、鈴花さんの耳元でそっと口を開いた。


「才谷さん、本当に反省していますよ?鈴花さんを悲しませてしまったって…。
 いつまでもこのままじゃ可哀相ですよ、せめて話だけでも聞いてあげてはどうですか?」

「でも……。」


の言葉に鈴花さんも少し落ち着いたが、それでも複雑な表情をした。
はそっと鈴花さんの頭をなで、


「それに…鈴花さんも本当はこんなことしたくないですよね?
 ここ数日鈴花さんががんばっていたのは今日のためだったんじゃないんですか?
 才谷さんとお会いできるからって、楽しそうに話してくれたじゃないですか…。
 かすてえらなんかなくても、才谷さんと会えるのが嬉しいはずですよ。」

「…………」


鈴花さんは黙って顔を上げてを見た。
は鈴花さんと目が合うとにっこり微笑み、
それを見て鈴花さんも苦笑いのような笑いをすると、
そっと立ち上がった。


(さん、ありがとう…。)


小さくそう言って部屋の外に出た。


「あ、鈴花さん。」

「鈴花さん!」


あれだけ頑なだった鈴花さんの突然の出現に、
藤堂さんも梅さんも驚きの声を上げた。

鈴花さんは驚いている梅さんの傍まで行くと、そっと手を取って、


「……ごめんなさい、梅さん。」


と言って謝った。
鈴花さんの突然の謝罪に驚いていた梅さんだったが、
我に返ると鈴花さんを抱き締めた。


「わしこそすまんかったぜよ!鈴花さん!…けど、本当にあれは違うんぜよ!」


梅さんは必死に言葉を続けた。


「あのかすてえらはわしが買ったもんじゃないき。」

「え?」

「わしも今日、鈴花さんのために手に入れられるよう努力はしたんじゃが、無理じゃったんじゃ。
 そしたら石川がくれたんじゃが…。あれはもともと石川くんがあの人のために買ったもんじゃき、
 やっぱり本来の相手に渡すべきだと思ったんぜよ!」

「…そうだったんですか。」

「それに…」

「それに?」

「……おまんに贈るもんはわしがちゃんと自分で用意したかったんじゃき///


少し躊躇い、照れながらそんな風に言った梅さんに 鈴花さんも赤くなった。


「梅さん…///

「鈴花さん…!」



「……もう見てられない;」


呆れたように呟いた藤堂さんに、山崎さんも苦笑いで答えた。


「まあ、いいじゃないの!邪魔者は退散しましょ!」



***



鈴花さんと梅さんが無事仲直りできたのであとは二人で、
と、山崎さんは藤堂さんとを引きずってその場を離れた。


「まったく、結局なんだったんだか…;」


藤堂さんは未だぶつぶつ言っていた。
あれだけ騒いでいたのに、あっさり仲直りして、
振り回されただけのように感じたからだろう。

不服そうな藤堂さんには笑顔で話し掛けた。


「いいじゃないですか、仲直りできましたし。
 結局、鈴花さんと梅さんはお互い大好きだってことですよ!」

「う〜ん、まあね…///


にこにこと嬉しそうな笑顔を向けられ藤堂さんは赤くなった。


「でも、どうして鈴花さんいきなり謝ったんだろ?あれだけ怒ってたのに…。」


藤堂さんが不思議そうにそう言うと、山崎さんが笑顔になった。


「それはちゃんの説得よ〜。本当びっくりだったわv

「そんなことないですよ、私は別に…。」

「謙遜しないの!アタシがどんなに言ってもダメだったのに…すごいわ!」

「はあ…///


ひたすら誉める山崎さんには赤くなると、笑って、


「あれは兄上が…、いつも兄上がしてくれたことなんです、…だから。」


と言った。


「あら、そうなの?」

「はい、ああしてもらうと心が落ち着いて、素直な気持ちになれるんですよ。」


嬉しそうに笑って話す様子に、が兄を慕っていることがよくわかる。
山崎さんは微笑ましく思ってを眺めていた。


「何?何?さん鈴花さんに何かしたの?」


一人状況がわからない藤堂さんがに詰め寄ったが、
山崎さんはを引き寄せると、藤堂さんから隠すように抱き締めた。


「ダメよ〜。あれは内緒ね♪」

「な、なに!どういうことだよ!」

「内緒♪内緒♪」


山崎さんは楽しそうにそのままを連れて、藤堂さんと別れた。


「ちょ!山崎さん!さん!;」


一人残された藤堂さんは唖然と二人を見送るしかなかった…。


「あ、あの;山崎さん?」

ちゃん…。」

「は、はい?」

「誰にでもああいう事をしちゃダメよ?」

「え?」

「鈴花ちゃんだからよかったのよ?」

「え?え?」

「とにかくわかったの?」

「は、はい!」


なぜか威圧感を感じ、は慌てて首を縦に降った。
山崎さんはそんなの様子に、


(しょうのない子ね…。)


と、ため息をついた。






***おまけ


翌日…。


「斎藤さん!」


巡察に出るところだった斎藤さんにが声をかけた。


「…か?どうした?」

「今日の巡察は私が行くことになりました。」

「?おまえは今日は非番じゃなかったのか?」

「そうだったんですけど、鈴花さんと才谷さんが仲直りしましたので、
 昨日結局ゆっくりできなかったですし、鈴花さんと交替したんです。」


が笑ってそう言ったので、斎藤さんも笑った。


「…そうか。」

「はい。」

「よかったな。」

「はい!」


と斎藤さんは笑顔で顔を見合わせると、
二人巡察に出かけていった。




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2007.02.04