「あ〜退屈だな〜…。」





-銀葉樹-




今日は皆の好意で一日お休みを貰った。

昨日は私の誕生日で、皆がいろいろお祝いをしてくれて、
凄く嬉しかったし、凄く楽しかったけど、
騒ぎすぎてしまったせいで、ちょっと疲れちゃって…。

そしたら、今日は一日休んで良い。

と、おこうさんや倫ちゃんが言ってくれて、
その結果部屋で休むことになり今こうしている。

もちろん、遊びつかれたから今日休む。
なんてとんでもないと思ったけど、
二人に誕生日プレゼントだと言われ、半ば強引に押し切られてしまった。

確かに現代人の私と、ここの皆とじゃ体力に差があるんだけどさ…。

嬉しいけど申し訳ないような…そんな複雑な気持ちのまま、
とりあえず午前中は部屋で休んでいた。

でも…。


「退屈…。」


ずっと部屋に居てもやることはないし、段々と暇になってきた。

やっぱりみんなの手伝いをしようかな。
それに、部屋に居る必要はないのだし…出かけようかな…。

そんなことを考えていると…。


「邪魔するよ。」


いきなり部屋の戸が開いて、そんな声が聞こえた。

ダラダラしていたせいで、あまり頭が回らず、
あまり機嫌のよくない声でそんなことを言われ、


「…邪魔するんだったら帰って。」


私はつい反射的にそんな言葉を返してしまった。


「……ああ、そう…じゃあ、邪魔して悪かったね…。」


部屋にやってきた来客は一瞬怯んだ様子だったが、
不機嫌な声がさらに低くなり、むっとした声でそう言い、部屋を出て行った。


「…………って!お、大石さん!?」


しばらく思考が停止していた私は自分で言ったこと、
こんな不機嫌な口調のまま人を尋ねて来る人は他にはいないと、
今更ながら相手が誰か気づいて慌ててしまった。


「ご、ごめん!そんなつもりじゃなくて;ついノリと言うか…;」


私は慌ててその相手、大石さんを追いかけて引き止めた。


「…わざわざ尋ねてやったのに随分な言い草だね…。」


私が着物を掴むと大石さんはそれは不機嫌な顔で振り向いた。


「ご、ごめんね…ホント;あれは冗談と言うか…。」

「冗談…?」

「そうだよ…。ああ言う時は『なんでやねん!』って言ってくれないと…。」

「は?」

「いや;何でもないけど…。」


とりあえず、先の失礼だった態度を誤魔化しつつ謝った。


「それで…」

「何?」

「いや、それは私の台詞なんだけど…;私に何か用?大石さん?」

「………」


わざわざ部屋に尋ねて来るぐらいだから、
何か用事があるだろうと思って尋ねたけど、
私が尋ねると、大石さんは何やら言いにくそうに視線を泳がせた。


「?」


いつも遠慮ない態度なのに…何躊躇ってるんだろう…。

不思議に思いつつも、仕方なく大石さんの方から口を開くまで大人しくしていると、
大石さんは着物の袖からよれよれになった花(?)を取り出して私に押し付けた。


「え?何これ?」

「別に…なんとなくだよ。」

「なんとなくって…;」


わけもわからず困惑している私に大石さんは続ける。


「花が好きな知り合い押し付けられただけ。
 俺はそんなもの興味ないし…いらないからあんたにやるだけだよ。」


(…興味ないならなんで受け取ったの…;)


言うだけ言うと大石さんはすたすたと言ってしまった。

思いがけない大石さんからの贈り物(?)
…と言っても、花なのか葉っぱなのかよくわからない花だけど…。

大石さんは昨日が私の誕生日だって知ってたんだろうか?
知っててこの花を私に…?


何て…都合よく考えて、顔が熱くなったけど、
大石さんの言っていたことを考え直すとそれ以上に気になることがあった。


『花が好きな知り合い押し付けられた』


(花が好きな知り合いって…誰…?)


何だか妙に気になる…。

花が好き、と言うのだから、もしかしたら女性かもしれない。

大石さんに花を贈るような女性が…。

『押し付けられた』と言う言い方をしていたから不本意だろうが、
あの大石さんが断らずに受け取っていることも気になる。


(………)


せっかく貰った花だけど。

何だか素直には喜べなくなってしまった。


「優さん」

「!」


余計な考えが頭に浮かび、考え込んでしまっていた私は、
名前を呼ばれて驚いて振り向いた。


「あ…すまない。驚かせてしまったか…?」

「相馬さん」


立っていたのは相馬さんで、
私が驚いた顔を向けてしまったからなのか、謝られてしまった。


「いえ、すみません。
 私が…こんな所に立ってたら邪魔ですね;」

「いや…」


一先ず、通行の邪魔であったであろうことを謝り、
廊下の端に寄って道を開けようとすると、
何かに気づいた相馬さんの方が話しかけてきた。


「その花…」

「え?」

「あ、いや…先日見た気がしたから…。」


私が持っている大石さんに貰った花を見て、相馬さんはそう呟いた。


「あ、そうなんですか。」

「ああ、名前は忘れてしまったが…」

「はい?」

「沈黙の恋、物言わぬ恋…という意味があると聞いた。」

「…え?」

「閉じた心を開いて…とも…。
 花にそんなに意味があるとは知らなかったな。」

「…………」

「……優さん…?」

「あ、いや!何でもないです!それじゃあ、相馬さん、また!」

「?…ああ…。」


相馬さんの言葉を聞いて、私は大慌てで大石さんを追いかけて行った。

もし、この花が大石さんに宛てたものだったら…。

大石さんに花を渡した相手は花が好きだという話だ。
なら、きっと意味もわかっているに違いない。

大石さんはこの花を私にくれたから、
少なくともその相手のことを好きではないだろうけど…。

大石さんは花に意味があることを知っているんだろうか…?
知っていて受け取った…? 知っていて…私にくれた…?

何が何だかわからなくなりそうだったけど、
どうしても…大石さんと話したくて、私は必死に後を追いかけていた。



***



「大石さん!!」


花柳館を出て、新撰組の屯所へ向かう途中の道で、
大石さんを見つけて、私は思いっきり大声で名前を呼んだ。

大石さんはゆっくりと動作で振り返り、
迷惑そうな顔をしていたけど、私が傍に行くまで待っていてくれた。


「煩いな…そんな大声出さなくても聞こえるよ…。」


私が追いつくと、第一声はそんな言葉。

不機嫌そうに睨まれて、少し怯みそうだったけど、
そんなことで怯んでる場合じゃない。


「ごめん、でも聞きたいことが…。」

「何?」

「この花…!どうして…私にくれたの?」

「……いらないからって言っただろ。」

「そうじゃなくて…!」


まだ聞きたいことが上手く纏まっていなかったけど、
私はとりあえず、大石さんに質問を投げかけた。


「じゃあ、大石さんはどうしてこの花を貰ったの?」

「…え…?」

「これ、花が好きな知り合いに貰ったって言ってたじゃない?」

「ああ…別に俺が貰ったわけじゃない。」

「え?」


私が答えを聞くのが怖かった質問は大石さんにあっさり否定された。


「『俺に』くれたわけじゃない。
 『俺があんたに』あげたらどうかって俺に押し付けたんだ。」

「…?どういう意味?」

「…俺とその花をくれたやつは何でもないってこと。」

「…え?」

「……妬いたんだろ?」

「……!」


私が混乱気味に訪ねたことだったのに、
大石さんは私が聞きたかったことを見抜いたのか、
傍へ寄ってくると耳元で意地悪くそんなことを言った。


「なっ!や、やや妬くわけないでしょ!!」

「へぇ〜そう〜。」

「そんなんじゃないって!///

「ククッ…まあ、良いけど、別に。」

「〜〜〜っ!///


それはもう楽しそうにそんなことを言う大石さんに腹は立ったが、
ほっとしている気持ちがあるのも事実だった。


(じゃあ…これは大石さんが私にくれたってことで良いのね…。)


そう思うと、素直に嬉しいと思えた。
さっきまで不安だったから余計なのかもしれない。


「…大石さん…。」

「何?」

「大石さんこの花の意味わかってるんですか?」

「え?…ああ、何か意味があるとか言ってたね。」

「知らないんですね。」

「まあ…興味ないからね。」

「………」


でも、大石さんは意味はわかってないらしい。
それに正直脱力したけど…。


「アンタが教えてくれるなら聞いてもいいけど、意味。
 どうせアンタだってわからないだろう?」


そう言われ、私の答えは


「………良いです。知らなくて。」


だった。


「あれ?アンタは知ってるの?」

「秘密です。」

「……どういうことだよ…。」

「まあ、まあ良いじゃないですか。いずれわかるかもしれません。」

「………そういわれると気になるけど…。」

「あはは♪」


今は良いや、大石さんは知らなくて。
この意味を持って私にくれたものじゃなくても。

私もまだ少し…早い気がするから。


沈黙の恋、物言わぬ恋。


今はまだってことで…。

でも…いつか…。


閉じた心を開いて


私だけに。


いつか私の手で…。






おまけ。


「そういえば大石さん。」

「はぁ…まだなんかあるの?」

「この花をくれた人ってどんな人ですか?」

「…やっぱ気になるんじゃないか…。」

「べ、別にそういう意味じゃありません!///

「そう…?」

「そうです!…でも、女の人ですよね。」

「まあ…一応ね。」

「……一応?…え、どんな人ですか?」

「……見かけより良い性格してるんじゃないの…。」

「は?」




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2008.07.19