-伝えたい気持ちは-



「もー!馬鹿馬鹿!大石!」

「だから、そんなつもりじゃないんだけどねぇ…。」

「大石にそんなつもりじゃなくてもそう聞こえるよ!」

「だから…」

「どうせ私は弱いですよ!お荷物ですよ!もうほっといて!」


まったく話を聞く様子もなく、そう言い放った彼女に
さすがの大石さんもムッとしたらしく、


「ああ、そう。じゃあ勝手にしなよ…。」


と言うとあっさり背を向けて行ってしまった。
突き放すような態度を取ったものの、やっぱりそんなにあっさり退かれると
それはそれで寂しい気がして彼女は去っていく大石さんの背中に再度小さく呟いた。


「……何よ、馬鹿。」


***


ことの始まりはついさっきの巡察。

一緒に行くはずだった人が体調不良で行けなくなって、
一人で出かけようとした大石さんに彼女が声をかけた。

別に同行者など必要ないと言い張る大石さんに彼女は半ば強引に同行し、
運悪く不逞浪士にからまれてしまった。

戦闘になり、二人とも特に苦戦することもなくからんできた不逞浪士を倒したが、
あと残り数人と言う時、彼女は足を取られ転倒してしまった。

慌てて立ち上がろうとしたが、此処ぞとばかりに向かってきた不逞浪士。
さすがに不味いと焦ったが、そんなところを意外にも大石さんが助けてくれたのだ。

少し驚いたものの大石さんが助けてくれたことは嬉しくて、
お礼を言おうとした矢先、大石さんは転倒している彼女を見下ろしぽつりと一言。


「……だからアンタと巡察なんて嫌だったんだよ。」


せっかく嬉しかったのに、せっかくお礼を言おうと思ったのに、
そんな風に言われ、彼女はムッと怒った顔になり反論した。


「なによ!そんな言い方ないじゃない!」


助けてもらったこと、嬉しかったから、余計にその言葉が悲しくて、
つい口を出たのはそんな言葉だった。

彼女のその言葉に大石さんも眉をしかめ不機嫌な顔になった。


「何…、助けてもらったのにそんな言い方しかできないわけ?」

「誰も助けてなんて頼んでないわ!」

「…あ、そう。それは悪かったねぇ…。
 けど、大体アンタがドジなのが悪いんだろ…。」

「なっ!〜〜っ、どうせ私はドジよ!弱いわよ!」


がばっと立ち上がり顔を真っ赤にしている彼女に
大石さんは少し驚いた顔をした。

怒っているはずなのに、彼女の目に悲しそうな
雰囲気があること、感じたのかもしれない。


「もー!馬鹿馬鹿!大石!!」



***



そして冒頭に戻る。

彼女を残し、去って行った大石さんだったが、
やはり少し気になっていた。

彼女のこと、めんどうだと思っているのは事実だが、
それでも少し気になる存在であることもまた事実なのだ。

彼女のこと、気にしている自分の気持ちを認めたくないから避けているのに、
彼女の方から近づいてきて、今日は一緒に巡察にまで行ってしまった。
そして、彼女の危機に考えるより先に体が動いたこと…。

それが自分自身イラついて、あんなことを言ってしまった。
本当は彼女の無事にほっとしていたのに…。


「俺も馬鹿だねぇ…。」


大石さんは自嘲気味に呟くと、踵を返し、
彼女の元へと向かった。



***



「も〜馬鹿…大石………!」


縁側に腰掛け、ブツブツと不平を漏らしていた彼女。
ふと背後に気配を感じて振り返ると大石さんが立っていた。


「げっ…;大石…;」

「人の顔を見て失礼な奴だねぇ…アンタ…。
 しかも、馬鹿馬鹿って…まだ言ってんの?」

「……うっ;」


じとっ…と睨んでいる大石さんの視線に罰の悪くなった彼女は、
あはは…;と乾いた笑いで誤魔化し、逃げようとしたが、
大石さんがそれを許すはずもなく、腕を掴まれたかと思うと、
後ろから抱きしめられた。


「え…?大石?」

「あ〜まったく…アンタが馬鹿馬鹿って言うから、
 本当に馬鹿になったかもしれないよ…。」

「…どういう意味よ。」


突然の大石さんの行動に困惑し、抱きしめられているという状態に
ますます混乱しそうな頭を必死に正常に保ちつつ尋ねたのに、
次の大石さんの言葉に彼女の思考はすっかり吹っ飛んでしまった。


「…アンタのことが好きだってことだよ。」

「……え"?」

「ふっ、やっぱりねぇ…せっかく言ってやったのに、色気のない返事だねぇ…。」


驚いた声を上げてしまった彼女に対し、
大石さんは楽しそうに笑ってそう言った。


「な…なによ…いきなり…///それに…馬鹿って何が…///


あまりに突然のことで頭がついていかない彼女。
真っ赤になって震える声で必死に尋ねた。


「アンタなんか好きになるなんて馬鹿だってことだよ。」

「な!なんかって何よ!失礼ね!」

「文句ばっかりで、可愛げもないしねぇ…。」

「〜〜っ!」

「けど、惚れたものはどうしょうもないしね。」

「…!」

「で、アンタは?」

「……///


文句ばかりの大石さんの言葉。
腹立たしいと思ったのに、不意打ちで言われた言葉に
彼女はすっかり、心動かされていた。

元々、一緒に巡察に行きたかったのも、
助けてもらって嬉しかったことも、あの言葉に傷ついたのも、
大石さんのことが好きだからだということはわかっていたのだから…。

やっぱり今言われた言葉は、告白は嬉しくて…。


「どうなんだよ?」

「……馬鹿大石///


彼女は大石さんの手を振りほどいて振り返ると、
そう言って思いっきり抱きついた。

呟かれた言葉は返事ではない気もするけど、
大石さんは満足そうに笑った。


「はぁ…馬鹿で結構だよ。アンタの言葉ならね…。」





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2007.06.06