-突撃☆Returns-後編
京香さんはせっかくがそこまで期待しているのならと、 舞を舞ってくれることになった。 『藤娘』を選んだのは、何となくが気に入りそうだと思ったこと。 それと、の主、泰衡様のことを思い出したから。 泰衡様、そして藤原氏は藤の花が象徴物だから…。 京香さんは着替えを済ませ、小道具を用意し、 構えると、唄を歌いながら舞を舞い始めた。 若むらさきに とかえりの 花をあらわす 松の藤浪 人目せき笠 塗笠しゃんと 振かかげたる 一枝は 紫深き 水道の水に 染めて うれしきゆかりの色に いとしと書いて藤の花 エエ しょんがいな 裾もほらほら しどけなく 「……」 いつまでも 変わらぬちぎり かいどりづまで よれつ もつれつ まだ寝がたらぬ 宵寝まくらの まだ寝が足らぬ 藤にまかれて 寝とござる アア何とせうか どせうかいな わしが小まくら お手まくら 空もかすみの夕照りに 名残惜しみて 帰る雁金 (長唄「藤娘」より/中間省略) 京香さんの舞はそれは見事で、は吸い込まれるように熱心に京香さんの舞を眺めていた。 今まで、兄様や兄様の友人の舞を見る機会の多かった。 つまり、女性の舞を見る機会はあまりなかった。 京香さんの舞は兄様たちのとはまた違った美しさだった。 女性らしい軟らかな美しさと、可愛らしさがあるような。 熱心に舞を見ているに、隣で同じように京香さんの舞を見ていた 重衡さんと知盛さんが舞の説明をしてくれた。 「藤娘は藤の花の精が人間の男性に恋をして、 人の姿になって現れ、舞を舞うお話なだそうですよ。」 「藤の花の精?」 「思い通りにならない男の心に嘆いて酒を飲んで踊るそうだ…ククッ…」 「そして、最後には消えてしまうと…」 「…………」 「本来は三味線で楽を奏でるそうですが、可能なものがいないので、 京香殿が唄を…あの唄にその物語が込められているのですよ。」 重衡さんは細かく説明をしてくれたが、 少し複雑な気持ちのの耳には後の方の言葉は入っていなかった。 (藤の花の精霊が人間に…) それがには強く残っていたから…他人事とは思えなかったからだ。 「素晴らしかったですよ、京香殿。流石は私の舞姫ですね。」 「ありがとうございます……重衡さんの舞姫になった覚えはないですけどね。」 京香さんの舞が終るとすぐに、重衡さんが京香さんに駆け寄った。 重衡さんの称賛の言葉に京香さんは苦笑いしたが、嬉しそうに笑い、 そして、に向き直り、照れ臭そうに尋ねた。 「えっと…どうだったかな?ちゃん?」 「あ、はい!とても素敵でした、京香さん。 女性でこんなに美しい舞を見たのは初めてです!」 「いや…それは誉めすぎだから、ちゃん///」 の言葉に京香さんはますます照れたが、嬉しそうに笑ってくれた。 *** そんなわけで、舞を堪能しただったが、 実際はそんなにゆっくりしている場合ではない。 特に京香さんは微妙に焦っていた。 なんせは京香さんの時とは違い、ここへ来た経緯がわからない。 つまり帰り方がわからないのだ。 のことを迷惑だと思っているわけではないし、 早く帰って欲しいのでもない。 ただ…をいつまでも無断で手元に置いておくのはのちのち面倒な気がする…。 何が?と言うのはもちろん… (藤原泰衡にばれたら何を言われるか…。) ということだった。 別に何か言われるのが怖いとかではないのだが、面倒なのが本音。 前に会った時、自分のことをかなり警戒し、信用していなかった。 が突然いなくなり、それが自分の責任(?)だったとなれば呪われるかもしれない…。 (泰衡さんは陰陽師だし…呪詛返しでも覚えた方が良いかしら…。) 「京香さん?」 「ちゃん…帰ってもここでのことは話さないでね…;」 「はい?」 「特に泰衡さんには!知盛や重衡さんの名前も言っちゃダメよ!」 「は、はい!わかりました…?」 それに平家にいたことも知れると不味い。 (藤原氏は一応源氏側) 京香さんはにしっかり口止めをした。 *** 「……ところで、ちゃん本当にどうやって来たの?」 「……わかりません;」 「う〜ん;」 何だかんだと大分時間が経ってしまい、 そろそろ帰らなければ不味い…と、 京香さんももさすがに焦ってきていた。 だが、やはり帰る方法がわからない。 のややこしい現状、そして帰る場所を皆に話すわけにはいかないので、 京香さんとは二人で必死に打開策を考えていた。 「……それじゃあ…ここには来る前何をしてたの?」 「え…ここに来る前ですか?」 「そう、それで何かわかるかもしれないわ!」 「え〜っと…」 京香さんの問いには天を仰ぎ見、思考をフル回転させた。 「ここに来る…前は…泰衡様にお借りしていた陰陽術の本を読んでいて…」 「陰陽術の本?」 「はい。それでその中に確か時空を移動する術と言うのがあって…」 「時空を移動する術!?じゃあそれが…!」 ぽつぽつと思い出しながら話したの話に京香さんが飛び付いた。 原因はそれではないかと。 「でも、私、術を使った覚えはないんですけど …泰衡様にも勝手に使ってはいけないと言われていますし…。」 京香さんの反応に、は慌てて首を振った。 本を読んでいただけだと、それにその術はかなりの高等術。 陰陽術を習ったばかりのがやすやすと使えるようなものではない。 「う〜ん…でもそれっぽい理由は他になさそうだし…何かの拍子で発動しちゃったのかも…。」 「そうでしょうか…。」 「それで…ちゃんが最初に来た場所はどこ?」 「何だか倉庫のような所でした。」 「倉庫?」 「暗くて狭くていろいろ物があった気がします…。」 「それじゃあそこへ行ってみましょ!何かわかるかもしれないわ!」 *** 「あ、ここです。」 元来た廊下を歩き、最初に来た部屋を見付け、と京香さんは中に入った。 部屋は確かに真っ暗で、物が沢山ある。 「この部屋に何か…」 部屋の中を見回し、京香さんが呟くと、は落ち着きなく辺りを見回した。 「ちゃん?どうかした?」 「何か聞こえる気が…」 「え…;怖いこと…」 真っ暗な部屋でそんなことを言われると…と京香さんは苦笑いしたが、 はむしろ明るい顔になり、 「泰衡様…泰衡様の声です!」 と言った。 「え?」 そして、棚を見回し一冊の書物を取り出した。 「あ…これは…私が見ていたのと同じ物…。」 「え!じゃあもしかして、それが原因だったのかな? それで、泰衡さんが呼び戻そうとしてくれてるのかも…」 京香さんには声は聞こえないが、可能性としてはそうではないか…。 と、京香さんに言われ、は本を開いた。 と、同時に本は光を放ち、の姿が薄れた。 は慌てて京香さんを振り返る。 「きょ、京香さん!あの…今日はありがとうございました!」 「ううん!来てくれてありがとう!気を付けて!…あ!それと!」 消えていくの姿に、京香さんは慌ててもう一度言った。 「本当に絶対泰衡さんには内緒よー!」 その言葉がに届いていたのかは定かではないが… 突然の意外な客は無事帰宅できたもよう…京香さんはほっと安堵のため息をついた。 「あの小娘は帰ったのか?」 「わぁ!?と、知盛…。」 を見送り部屋を出ると、部屋の前で知盛さんが京香さん待ち構えていた。 「い、いきなり何?」 「……あの小娘にかまって俺を蔑ろにした責任を取ってもらおうと思ってな……。」 ククッと低く笑いながら知盛さんはそんなことを言った。 が来ていた間、かまって貰えなかったことが不服らしい。 「責任って…もとわと言えば…アンタが遅刻したんでしょうがー!!」 そんな知盛さんの言葉に京香さんはご立腹だが、 知盛さんは楽しそうに笑っていた…。 「クッ……全く……飽きない姫君だ……。」 *** 【所変わって奥州平泉】 「!!」 「!?や、泰衡様……?」 光に包まれ一瞬視界が奪われたが気付くと泰衡様が目の前に立っていて、 が名前を呼ぶと、明らかにほっとしたように息をついた。 「……心配したぞ…。」 「……え?」 「お前がどこにもいないと、お前の友人達が騒いでいて…、気付いたらあの書物が落ちていた…」 ぽつりぽつりと絞りだすように言葉を続ける泰衡様、 相当心配していたのだろう。 もそれを感じ、申し訳なく俯いて謝ろうとしたが、 その時丁度銀が顔を出した。 「あ、さん。見つかりましたか…。」 「…っ!…、あれ程勝手に術を使うなと言っていただろう!!」 銀がやってきたことに慌て、照れ隠しなのか、 心配していたこと、動揺していたことを悟られないためか、 泰衡様はを怒鳴りつけ、銀が慌てて仲裁に入った。 ……突然で、よくわからない状況での再会で、 大変な思いもした、京香さんと。 だけど、別れた後も何やら大変な二人でした…。 終 戻る 2007.09.19
はい!長々とお付き合いありがとうございました!m(__)m
本来なら全く拘ることがない、平家側の方たち。 今回は特に知盛さんにスポットをあてました!(笑) かなり難しかったのですが…どうでしたでしょうか? それと書き終わって焦ったのですが…結局香袋のお礼を言うのを忘れてる…!! もうしわけありません京香殿!!(土下座) さて、最後になりましたが。この小説を書くに当たっていろいろ助言を頂き、 大切な主人公、京香さんをこんなにしてしまってもお許し下さいました碧玉さんに、 心よりお礼申し上げます。機会が御座いましたらまたよろしくお願いします♪(懲りてない;) |