昼間、神子様の使いで高館へ行ったは、
庭に立て掛けられている竹を目にしてあることを思い出した。


「あ…今日は七夕ですか…。」





-たとえ短い逢瀬でも-




ちゃんいらっしゃい♪」

「あ、こんにちは、神子様。」


高館の庭に飾られている竹に見とれていると、神子様が声をかけてくれた。

お使いできたのに、挨拶もせずに油を売っていたことには一瞬慌てたが、
神子様は気にした様子はなく、の隣に並ぶと同じように竹に目を向けた。


「綺麗でしょ?」

「え、あ、はい!とても。」

「昨日皆で用意したんだよ、ほら、皆の願い事もあるし。」


神子様は楽しそうに話すと、飾ってあった短冊をに見せた。


ちゃんは七夕の話知ってる?」

「はい、昔兄様に聞いたことが…。
 でも、随分昔のことなので、お話自体はあまり覚えていないんですが…。」

「そうなんだ。」

「たしか…一年に一度しか逢うことができない恋人同士のお話なんですよね?」

「うん、そうだよ。」


首を傾げつつ答えたに、神子様は笑顔で話してくれた。
七夕の話を。



昔、機織りの上手な娘と、働き者のウシ飼いの青年がいて、
二人は惹かれ合い、結婚した。

けれど、結婚生活が楽しかった二人はだんだん仕事をしなくなり、
それに怒った娘のお父さんが、二人を川を隔てて引き離し逢えないようにしてしまった。

だが、悲しんだ娘さんの姿に、一年に一度だけなら逢っても良い
とお父さんは許してくれて、以降二人は七夕の日だけに再会を許された…。



「ねぇ、ちゃんはこの話どう思う?」


話しを終えた神子様はに問い掛けた。
いつも少し変わった答えをするの感想が気になったのか…。

案の定、は真剣に話を聞いていて、しばらく考えると…、


「お仕事をするのを忘れるほど楽しい生活を送っていたなんて、本当に愛し合っていたんですね。」


そんな答えを返した。


え?

「でも、やっぱりお仕事はちゃんとしないといけませんね…。」

「え、あ、うん…そうだね…;」


しみじみと、何やら納得しているに神子様は少し困惑したような顔をした。
…普通この話で注目すべき場所はもっと別の…。


「あのさ、」

「はい?」

「一年に一回しか会えないことについては…どう思う?」


仕方なく、直接的にそのことを尋ねた。
七夕の話の醍醐味(?)はやはりそこだと思う。

想い合っているのに長い時間会えない。
遠距離恋愛(?)のようなものをがどう思うのか…、興味があったのだ。

じっと真っすぐ瞳を見つめる神子様に、
もまた真っすぐな視線を返すとにっこり笑った。

そして…、


「私は…幸せなことだと思います。」


本当に満足そうに微笑んで言った。


「え?」


その答えに神子様は少し意外な気がして驚いていた。
一年に一度、その少ない逢瀬の時、はそれを幸せだと答えたから。


「…一年に一回しか会えないのって…寂しくない?」


一年はやっぱり長いと思う。
会いたい時に会えないことは、凄く辛いことだと思う。

それが普通の感情だろう。
ましてや、まだ幼いはそう思うと思ったのに…。

笑顔を返したにはそんな思いは感じられなくて、いまいち納得がいかない様な顔をした神子様。

はそれに小さく笑いを漏らすと、その疑問に答えた。


「確かにもっと逢えた方が良いかもしれません。
 寂しいと思うかもしれません。でも…逢えないよりはずっと良いです。
 一年に一度でも大切な人にあえるなら…幸せです。」

「……そっか。」


まだ納得いったわけでは無いが、神子様はそれに頷いた。
は神子様が頷いたのを見ると、視線を竹の方に移し…また言葉を続ける。


「それに…出会えたことが…まず幸せだと。
 こうして沢山の人がいる中で、その人に逢えたことが…。」

「……」

「そして、それが一年に一度だけでも、ずっと逢いたいと思える相手であることが…。」

「…ちゃんらしいね。」


優しい瞳で竹を、短冊を見ているを見て、神子様はほっとしたように呟いた。
子供なのかと思っているのに、こういうところは随分…大人びていると言うか…。

時々、驚くような、はっとさせられるような、そんなことをは言う時があると、何だか再認識した。

好きな人に逢えない事、自分は結構辛いと思うし、
いつも逢いたいと思ってしまうものだが…、
そんな風に考えることも出来るのかと…今も思い知らされて。


「……ちゃんは凄いね。」

「え?」

「時々…思うときがあるの、凄い…立派だなって…。」


何だか心が温かくなるような、ほっとするものを感じて、
神子様はにそう言って笑いかけた…が…、


「…………え!?い、いえそんな!み、神子様に比べたらとても…;;」


すると、途端には慌てだし、さっきの雰囲気は何処へやら。
一気に子供の顔に戻ってしまった。


「ふふ…、そう言うところも可愛いよね〜♪」


こんな所も、さっき見せたような所も…、
きっとそれが、あの堅物なご主人様に気に入られている要因なのだろう。

神子様はそのことを一人納得し、楽しそうに笑った。


「ねぇ、ちゃんにとって、そんな相手は…泰衡さん?」

「え?」

「逢えたことが幸せだと思えるような人。これからもずっと逢いたいと思えるような人。」

「…………はい!」


そして最期に尋ねたこと。
満面の笑顔で返したの返事に神子様も満足そうに笑った。

まだまだ先は長そうだし、進展は難しい気もするけど…。
不可能ではないと…思えた答えだったから。


(まあ…協力してあげますよ…泰衡さん♪)


密かにそんなことを思った神子様。
その頃少し離れた屋敷でくしゃみをした人がいたとかいないとか…。



戻る




2008.09.19