「ほう、節分ね。」

また高館に遊びに来ていたは、
神子様の言葉を反復して納得したように頷いた。





-みんなで節分-




さん知らないんですか?節分。」

「昔からある風習ですよ、厄払いの儀式なんです。」


弁慶さんも補足した。


「そう…だな…。聞いたことはあるような気もするが…実際やったことはない。」


は少し考えるように視線を動かしたが、
やはり覚えはないと首を振った。
は人間ではないし、人間の世界にいられるのも
限られた時間であるため、文献などで名前だけは目にしていても、
実際の詳しいことはほとんど知らないと言っても過言ではない。


「で、何をやるんだ?その節分ってのは。」


となれば折角の機会、
好奇心の塊であるが興味を持たないわけがなく…
期待の籠もった眼差しで神子様を見た。


「えっと…鬼に豆を投げて追い払うんです。」

「鬼?」


神子様の言葉にリズ先生の方を見る


「違います!さんまで先生を鬼だなんて言う気ですか!!」


その行動に神子様は声を荒げた。
それにが驚いた顔をしたので先生が神子を宥めた。


「神子、落ち着きなさい。」

「だって!」

「落ち着きなよ、神子姫。そんなつもりじゃないだろうさ。」

「…………」


ついでにヒノエ君もフォローし、
まだ不満気だったが、神子様は口を閉じた。


「……ごめん;」


不機嫌になってしまった神子様には慌てて謝ったが、
正直神子様が何をそんなに怒っているのかはわからない。


「けど…前にリズヴァーン殿は鬼の一族だって言ってなかったっけ?」


そのため、再度そうやって尋ね、
神子様はまた複雑な顔をしたが、先生は静かに頷いた。


「うむ、」


それを見て密かにほっとする
しかし同時に首を捻ると、


「…じゃあ、何でそんなに怒るんだ?間違えたのかと思ったじゃないか。」


と、のんきな口調で言った。
事もなげなの様子に、今度は逆に神子様や周りの皆が少し怪訝な顔をした。

の物言いには含まれたようなものは何もない。
鬼の一族に対する畏怖や疑念、蔑んだものもない。


「……さん…鬼の一族がどういうもの…とか…知らないんですか…?」


あまりに薄いの反応に神子様がおもわず尋ねると、
は再度首を傾げ、


「いや…髪や瞳の色が普通の人間とは違う、というのは聞いていたが…見たことないしな。
 何か色々凄い技が使えるとかも聞いたことはあるが…見たことないしな。


淡々と言ってのける
おまけに…


「リズヴァーン殿がその『凄い技』とやらが使えるのなら、
 一度お見せ願いたいとこだ。」


にこっと笑ってそんなことを言うに、さすがの皆も言葉を失った。
先の言葉や『鬼の一族』について、は悪気がないと言うよりも
何とも思っておらず、何も知らない…。

その笑顔は言っているようなものだった。


「……ん?何だ?どうかしたのか?」


何だか妙な空気になった周りに気付いたは再度首を傾げたが、
やはり理由はさっぱりわかっていない様子。

神子様たちは何となく互いに顔を見合わせ、誰ともなく苦笑いした。


「その…機会があれば…」

「本当か!」


ただ、鬼の一族の力を見たいと言ったにリズ先生が
躊躇いつつも了解するとはぱっと表情を明るくし、瞳を輝かせた。

その表情は純粋そのもの。
何故だか知らないがが鬼の一族のことを詳しく知らないのは事実のようだ。
世間一般にどういう扱いをうけているのかも。
だから力に対する興味もごく純粋なもの…。

そういえば…もそうだったかもしれない。

の真っすぐな目を見てリズ先生は以前と話した時のことを思い出した。
も同じだった。鬼の一族の力。ただ純粋に凄いと、便利だとさえ言ったこと…。

の笑顔に釣られ、リズ先生がほっとしたように表情を柔らかくすると、
神子様たちも安心したのか場の空気が元に戻った。


「……それで…あれ?何の話だっけ?」

「節分ですよ、節分。」


すっかり話が逸れてしまい、
が本来の話題を忘れて頭を掻いたので弁慶さんが苦笑いし、
慌てて話を本題に戻した。


「あ、そうだったな!で?」

「節分の鬼は便宜上その場で適役を偉ぶんです。
 そして、その鬼に豆を投げ付けて厄を払うんです。」

「同時に福も来るように、『鬼は外!福は内!』と言いながら。」

「ふ〜ん…」


神子様と弁慶さん、二人の説明にとりあえず返事をした
ただ…何となくさっきより生返事なような…。


「…さん?」

「え?ああ、何?」

「どうかしました?」


何となくそれが気になった神子様が尋ねると、はう〜ん、
と腕を組んで何事か考え、くるっと青い目を動かすと神子様を真っすぐ見返して呟いた。


「…何か…鬼が可哀想じゃないか?」

「え?」


突拍子もない意見だった。


「え…と、豆をぶつけられるからですか?」


少し困惑気味にさらに尋ねると、は、


「それもあるが…のけ者にされてるみたいで…どうもな…。」


そう言って、何やら神妙な顔をした。


「「…………」」


思ってもいない意見に沈黙する神子様たち。
今まで普通に行われていた行事。
自分達も何ら疑問を持つことなかったが、
全く知識のない人はそんな考えも浮かぶのか…と、少し衝撃だった。

それに、『のけ者にされてる』と言ったの意見。

さっき、鬼と聞いて先生に視線を向けたを咎めたが、むしろ…。


「「…………」」


神子様を始め、何だか皆思う所があり、また気まずい沈黙になってしまった。


「鬼は災厄とされている。厄払いの行事だ。鬼をのけ者にするのは当然…。」


が、それに見兼ね、言葉を発したのはリズ先生だった。
他の誰にも言うことはできないのだから当然かもしれないが…。


「気にすることはない。」


そして複雑な顔をしている神子様に優しく笑いかけた。


「先生…」


リズ先生の優しい笑顔に神子様はぎゅっと胸が締め付けられるようだった。
さっきを咎めたが、鬼に対し、
偏見や差別的意識を持っていたのはむしろ自分の方だと気付いて…。


「神子…?」

「あ、はい!あ、いえ…;」


黙り込んで返事をしない神子様に先生がもう一度声をかけ、
名前を呼ぶと神子様は慌てた。
考えていたこと、気付かれたくなくて、余計なことを言いそうで。

慌てふためく神子様にフォローなのか、偶然なのか、
言葉を発したのはだった。

それもとんでもなく思いがけないこと。


「お!それならさ!」


それをさも大発見のように。


「鬼は外じゃなくて、」


良いことを思いついたと自慢げに。


「鬼も内って言えば良いんじゃね?」


それはもう満足顔で、言った。

しばし固まる一同。


「……は?」

「いや、やっぱ村八分は良くないし。」

「村八分?」

「仲間外れのことですよ、先輩。」

「けど、それだと厄払いの意味が…」

「何、災厄なんてどんなことをしても来るときは来るさ。
 それにそういうのは何かに頼るより、自身の運気や気合いでなんとかするもんだ。」

「気合い…って;」

「運気ですか…。」

「おうよ、何てったって俺は神に愛されたラッキーボーイだし☆」

「はい?」

「え?」

「幸運な少年と言う意味だ。…あ、いや、俺はもう少年って年じゃないな。青年か。」

「と言うか、何で英語…」


何やら一人納得し、ブツブツと一人大暴走するの話。
ツッコミ所が多すぎて誰も何も言うことができず、
微妙に混乱しそうだったのだが…


「つーわけで!今年の節分は『鬼も内ー!』で決まりな!」

「「「Σえーー!?」」」


鶴の一声か。
何だかわけのわからないうちにそれで確定してしまっ…た?




***



「……と言うわけなんだけど…ちゃんどう思う?」


節分当日、にも節分の説明をし、
さらにの提案を伝えたが、は、


「私も、それで良いと思います。 皆一緒の方が楽しいですし、
 きっと鬼さんも仲間に入りたいですよ。さすが兄様です!」


満面の笑顔でそう答え、結局誰も反論できず…
鬼も福も内に呼ぶ節分大会が行われたのだった…。



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2009.05.01